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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生75巻12号

2011年12月発行

文献概要

特別寄稿 原発事故による放射線災害から学ぶこと―健康リスクに関する現状の論点整理と科学者・専門家の役割・2

科学者・専門家の役割について

著者: 岸(金堂)玲子1

所属機関: 1北海道大学環境健康科学研究教育センター

ページ範囲:P.956 - P.959

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まず正確な曝露実態の迅速な公表を求めるべきだった(情報公開の要求)

 そもそも東京電力(東電)や政府からの国民への情報伝達には,事故当初から大きな瑕疵があった.3月11日の事故発生直後,特に水素爆発があった3月12日から15,16日については,最も高濃度の放射線物質が放散された.しかし汚染(曝露)レベルに関するデータはほとんど公開されずに,政府も「すぐには健康影響がない」と繰り返すのみであった.5月24日には原発がメルトダウン(炉心溶融)状態であることが漸く発表されたが,当初からメルトダウンしていること,広範囲の汚染は,想像できたことである.

 当時,重要な情報が未公開であることへの政府および東電に対する批判は,殊に海外からは大きかったが,一方国内メデイアや科学者から,その点の指摘は少なかった.放射線は線質により到達する距離や半減期,蓄積臓器などが異なり,また低濃度であっても生涯への累積曝露により発がんリスクなど健康が大きな影響を受けることを考えれば,曝露レベルと曝露の広がりの正確なデータが公表されるよう,科学者・専門家は情報公開の遅れとその改善を責任ある関係者に,もっと厳重に指摘する必要があった.現時点でも毎日,新聞などで報道されている「積算放射線量」は,浪江・飯館で3月23日から,福島で3月24日からである.これでは人々が蒙った正確な放射線曝露量を推定できない.なおこの点については日本学術会議からは,早い時期に(第二次緊急提言として)「福島第一原子力発電所事故後の放射線量調査の必要性について」が出されたことは評価できる.

参考文献

1) 日本学術会議・震災関係の提言HP http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/shinsai/shinsai.html.
2) 日本学術会議・会長談話(2011年6月17日)に対する会員・島薗進氏のブログ http://shimazono.spinavi.net/?p=233
3) 日本学術会議20期には公衆衛生関係の提言は,保健医療分野における政府統計・行政資料データの利活用について――国民の健康と安全確保のための基盤整備としてhttp://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t62-6.pdfが出された.また21期には,①労働・雇用と安全衛生に関わるシステムの再構築を―働く人の健康で安寧な生活を確保するために(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t119-2.pdf)が,2011年4月20日に課題別委員会から出された.また②我が国の健康の社会格差の現状理解とその改善に向けて,③わが国の公衆衛生向上に向けた公衆衛生大学院の活用と機能強化,および④病院勤務医師の長時間過重労働の改善に向けてが,パブリックヘルス科学分科会から2011年9月に発出された.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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