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特別寄稿 原発事故による放射線災害から学ぶこと―健康リスクに関する現状の論点整理と科学者・専門家の役割・2
科学者・専門家の役割について
著者: 岸(金堂)玲子1
所属機関: 1北海道大学環境健康科学研究教育センター
ページ範囲:P.956 - P.959
文献購入ページに移動そもそも東京電力(東電)や政府からの国民への情報伝達には,事故当初から大きな瑕疵があった.3月11日の事故発生直後,特に水素爆発があった3月12日から15,16日については,最も高濃度の放射線物質が放散された.しかし汚染(曝露)レベルに関するデータはほとんど公開されずに,政府も「すぐには健康影響がない」と繰り返すのみであった.5月24日には原発がメルトダウン(炉心溶融)状態であることが漸く発表されたが,当初からメルトダウンしていること,広範囲の汚染は,想像できたことである.
当時,重要な情報が未公開であることへの政府および東電に対する批判は,殊に海外からは大きかったが,一方国内メデイアや科学者から,その点の指摘は少なかった.放射線は線質により到達する距離や半減期,蓄積臓器などが異なり,また低濃度であっても生涯への累積曝露により発がんリスクなど健康が大きな影響を受けることを考えれば,曝露レベルと曝露の広がりの正確なデータが公表されるよう,科学者・専門家は情報公開の遅れとその改善を責任ある関係者に,もっと厳重に指摘する必要があった.現時点でも毎日,新聞などで報道されている「積算放射線量」は,浪江・飯館で3月23日から,福島で3月24日からである.これでは人々が蒙った正確な放射線曝露量を推定できない.なおこの点については日本学術会議からは,早い時期に(第二次緊急提言として)「福島第一原子力発電所事故後の放射線量調査の必要性について」が出されたことは評価できる.
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