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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生75巻2号

2011年02月発行

雑誌目次

特集 医薬品・ワクチン開発をめぐる諸課題

フリーアクセス

ページ範囲:P.85 - P.85

 2009年のパンデミックインフルエンザでは,抗インフルエンザ薬の供給やワクチンの生産が追いつかず,医療現場では混乱を生じました.

 一方,予防接種の副反応,血液製剤によるHIV感染や肝炎の問題など,医薬品やワクチンの安全性に対する国民の関心がかつてない高まりを見せる中,がんや特殊疾病に対する新しい医薬品の開発や新たなワクチン使用に関する議論が,国会のみならず地方議会でも取り上げられるようになっています.

わが国における医薬品供給のしくみ―研究開発から承認審査,市販後,流通まで

著者: 丸山浩

ページ範囲:P.86 - P.89

わが国の薬事規制のあらまし

 わが国の薬事規制は,主として薬事法によって規定されている.薬事法は,

・医薬品等の品質,有効性,安全性の確保のために必要な規制を行うこと

・医療上特に必要性が高い医薬品等の研究開発促進のために必要な措置を講じること

により,保健衛生の向上を図ることを目的としている(第1条).

ドラッグラグとは何か―様々なtradeoffを考える必要がある

著者: 小野俊介

ページ範囲:P.90 - P.93

新薬へのアクセスの遅れの状況

 ドラッグラグを問題視し,解決策を提案しようとする議論の多くで,ドラッグラグが定義されていない.定義不在だと,どんな結果が生じても「我々の対策によってドラッグラグが解決した」と強弁できる.こうした状況に我々がいること自体が,ドラッグラグ問題の深刻さを示している.

 ドラッグラグの定義を例えば「日本と米国(または欧州)の両国で承認された新薬群での販売開始日の遅れ」と定義するならば,2000年から2006年までに承認された新薬では約4年程度である1).医薬品医療機器総合機構(Pharmaceutical and Medical Devices Agency:以下,PMDA)が2010年に公表した試算では,2009年度の承認品目では2.0年とされる.

未承認薬・適応外薬の使用をめぐる課題

著者: 土田尚

ページ範囲:P.94 - P.98

はじめに

 「がん患者さんへの治療の際に,日本国内で適応の取得された抗がん剤はすべて使ったが,効果はいまひとつである.可能性のありそうな薬がまだある.この抗がん剤は欧米では承認されていて標準療法となっているが,日本には薬そのものがない.当該の抗がん剤を使用した」.

 読者にもこのような状況を見聞きされた方が多いと思う.ドラッグラグ問題である.実は抗がん剤については薬事法上の承認申請や補償のあり方など,他の医薬品とは違った特殊なところがあるために,また筆者自身ががん専門医ではないために,本稿ではがん治療についてではなく,小児領域の薬物療法を中心とした話をしたい.小児領域でも成人と同様,あるいはそれ以上に,ドラッグラグ,ワクチンラグ(海外で承認され,使用されているワクチンが日本では承認されていない)や,デバイスラグ(海外で承認され,使用されている医療機器が日本では承認されていない)などが存在する.

 硬い文章ではあるが,喫緊の課題でもあり,ぜひ読者の皆さんにも一緒に考えていただきたい.なお,個人の見解が含まれていることを予めお断りしておく.

 まず,ことばや事項について,正しい理解をいただきたいものを抜粋する.その後,小児領域で未承認薬や適応外薬が使用される現状(相変わらず多い)とその裏返しとなる医薬品開発のしにくさ,そしてこれらの状況を欧米ではどのように克服しようとしているか,について触れる.

 次いで,未承認薬等が使用される場合の具体的問題点として,副作用評価が不十分になることを挙げる.有効性・安全性がきちんと評価された医薬品が臨床現場で使用されることが最重要である.ただし,未承認薬・適応外薬の使用については,保険適用の話などに絡み,医療費の分配のあり方など,より大きな枠組みでの議論も必要であろう.

有効で安全な医薬品開発の支援

著者: 北窓隆子 ,   志田正純 ,   皆葉清美

ページ範囲:P.99 - P.103

医薬品の開発状況

 日本の創薬力は,米国,英国に次いで世界第3位であり,「より良い薬をより早く患者さんに届ける」ことは,産学官を超えた医薬品の開発に関わる総ての人間の使命であり,夢である.

 日本では,どのような医薬品の開発が望まれているのであろうか.図1はヒューマンサイエンス振興財団が2005年度に調査1)した60疾患の治療満足度(横軸),治療に対する薬剤貢献度と2010年6月時点の製薬企業が開発中の新薬品目数(円の大きさと数字)の関係について,医薬産業政策研究所が作成2)した図である.治療満足度と治療に対する薬剤貢献度をそれぞれ50%未満・以上に分けた4つの区分で見ると,治療の満足度も低く治療に対する薬剤の貢献度も低い左下の区分に属する疾患の治療薬の開発が待望されていると言えよう.代表例としてはアルツハイマー病が挙げられる.

わが国におけるワクチン開発と生産供給のしくみ

著者: 畑美郁 ,   奥野良信

ページ範囲:P.104 - P.108

はじめに

 2009年5月,神戸市で,新型インフルエンザA型(H1N1)の国内発生が初めて確認され,その後,日本全国に流行が波及することとなった.この新型インフルエンザウイルスに対しては,例年広く接種されている季節性インフルエンザワクチンの予防効果は期待できないとされ,直ちに新型インフルエンザワクチンの開発と製造が世界各国で開始された.わが国でも,4メーカーが従来の季節性インフルエンザワクチンの製造方法を踏襲した製造を開始し,2009年10月19日より,医療従事者を始めとした優先接種対象者に接種が始まった.この時,国内4メーカーの年度内でのワクチン供給可能量は,約2,700万人分(2回接種を想定)と十分な量ではなく,輸入が実施された.

 輸入に当たっては,通常の薬事審査を経た上ではなく,緊急性が重視された「特例承認」による製造販売承認が適用された1).結果的に市場のワクチンは国内産,輸入品問わず過剰となったが,この緊急輸入は,国民をパンデミックから守るための迅速な措置として一定の評価は与えられるべきであると考えられる.しかし一方,世界的にもパンデミックの終息宣言がなされた今,国策としてのワクチン生産体制の問題点が注目されるきっかけともなっている.

ワクチンギャップとこれからの対応

著者: 神谷齊

ページ範囲:P.109 - P.115

はじめに

 21世紀の医学は,治療から予防中心の医学への転換が求められている.ワクチンはその中核的存在であって,ワクチンを利用した免疫力の高揚が求められている.ワクチンは生物製剤で病原体を不活化,または弱毒化したものに安定剤を加えたものである.本来雑種であるヒトにとってワクチンは異物であるし,自己の免疫系を利用して抗体産生をするわけであるから,頻度こそ少ないものの,予想し得ない副反応が起こることも想定の中である.したがってこのワクチンの性質を正しく理解した取り扱いが必要である.

 また,“予防接種によって予防できるすべての疾患(Vaccine Preventable Disease:VPD)は予防しましょう”というのは,予防接種法第2条の精神であるはずであり,それを守れば,ワクチンギャップは本来発生しないはずである1)

国内の新薬開発についての課題―経済学,経営学の視点から

著者: 真野俊樹

ページ範囲:P.116 - P.119

新成長戦略において取り上げられた医療

 2020年度までの平均で,名目3%,実質2%を上回る成長を目指すとして策定された新成長戦略,自民党政権の末期にも同様の施策が打ち出されたが,いずれにせよ日本の今後の方針が示された.そのなかに医療や介護が,

・強みを活かす成長分野(環境・エネルギー,健康)

新ワクチン・新薬の導入・再評価をめぐる課題―健康成人インフルエンザに対するノイラミニダーゼ阻害剤のコクランレビュー改訂の経験を通して

著者: 林敬次

ページ範囲:P.120 - P.124

 私がコクラン共同計画(以下,コクラン)に送った,健康成人でのノイラミニダーゼ阻害剤のレビュー内容に対する批判的意見が発端となって,そのレビューが改訂され大きな反響を呼んだことは,既に本誌74巻8号特集『検証「パンデミックインフルエンザ2009」』の西村論文(680頁)で紹介していただいた.今回はこの改訂を振り返ると共に,その経験から得た視点で,公衆衛生上大きな意味を持つノイラミニダーゼ阻害剤とインフルエンザ・日本脳炎各ワクチンを検討した.

視点

保健所活性化を原点から

著者: 藤岡正信

ページ範囲:P.82 - P.83

 個人的な話で始まり恐縮するが,「保健所たそがれ論」が話題となった時代に愛知県に就職し,30年余を県の保健行政に関わってきた.県の退職を考え始めた頃,「保健所を含む保健の新しい組織と施設を作るので」と誘われた.私にとっては「公衆衛生の原点は何か,保健行政は如何にあるべきか」を考えるチャンスと,引き受けることにした.2009年から出身中核市で保健所長を務めることになり,現在2年目を迎えている.

特別記事

[対談]「研究」について語ろう

著者: 中村好一 ,   辻一郎

ページ範囲:P.125 - P.131

データの質の検証と活用方法

中村 東京での日本公衆衛生学会のメインシンポジウム(2010年10月27日)で「科学的根拠に基づく公衆衛生政策」をテーマに,われわれ二人で座長をつとめました.まず辻先生,感想からいかがですか.

辻 「根拠と疫学データ」という話で言うと,私がこの業界に入って約20年ですが,その頃と比べると格段の差がありますね.5万,10万人規模のコホート研究がどんどん出てきて,それを全国的にプールする動きも進み,日本人のためのがん予防のエビデンスなどが国民向けにも情報発信されてきて,データの質も高くなりました.その反面,大規模なRCT(Randomized Controlled Trial)は,国際的に見てもだいぶ遅れていますね.

連載 人を癒す自然との絆・19

セラピー犬という薬

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.132 - P.133

 看護師帽をかぶった犬が,ちょこちょこと廊下を歩いていく.エレベーターから,首にバンダナを巻いたゴールデンレトリバーが尻尾を振りながら降りてくる.フロリダ州のマイアミ子ども病院では,毎日病棟のあちこちでこんな光景を見かける.

 マイアミ子ども病院だけではない.アメリカの病院では,セラピー犬の訪問活動が大変盛んで,自分の住んでいる地域に1つか2つは犬が訪れる病院がある,というのが普通だ.

保健所のお仕事─健康危機管理事件簿・11

新型インフルエンザへの対応(平成21年度)その4

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.134 - P.137

 世の中,とても便利になりました.

 ネット上には想像を絶するほどの情報量が蓄積されています.「あれ? どうだっけ?」と思ったことも,短時間で調べられます.いい例が思いつきませんが,「『リボンの騎士』でジュラルミン大公を裏切った腹心の部下は誰だったか?」とか,「『スター誕生』決戦大会で石野真子に対して何社のプラカードが挙がったか?」とか,誰もが疑問に思うこと(?)もあっという間に解決してしまいます.きっと,こういう余計なことに思い悩まなければ,もっと心安らかに暮らすことができるのでしょうね.

保健師さんに伝えたい24のエッセンス―親子保健を中心に・23

性教育とその周辺

著者: 平岩幹男

ページ範囲:P.138 - P.141

 医師になり小児科の臨床や小児救急,脳の研究に携わっていた頃には,自分が性教育に関わるとは夢にも思っていませんでした.保健行政を担当する仕事に就いてから,思春期相談を始めました.そこで中学生の妊娠の相談にも乗るようになり,何年か経った頃,1人の少女が相談に訪れました.中学校3年生で妊娠4か月でした.その背景にもさまざまな問題を抱えていたのですが,保護者も交えて話し合った結果,人工妊娠中絶を選択しました.知り合いの産婦人科医に手術をお願いし,術後も定期的に相談に来るよう伝えましたが,実際には相談に訪れることはなく,数か月が過ぎました.そして中学校を卒業してから,人工妊娠中絶の手術から半年も経たないうちに,彼女がまた私の前に現れました.妊娠4か月でした.性交渉の相手は前とは別の男性でしたし,避妊も不完全でした.結局また人工妊娠中絶をすることになりましたが,「自分の相談は何だったのだろう」と考え直すきっかけになりました.

トラウマからの回復─患者の声が聞こえますか?・11

私は幸せになってはいけない

著者: 佐々木洋子

ページ範囲:P.142 - P.145

 私が精神科につながったのは,病気とか症状とかいうものがきっかけではありません.ひとつの困った問題を抱えていたからです.それは,大切なものを破壊してしまうことでした.壊すのはいつも大切な人間関係で,一番大切な人を一番傷つけて,失ってしまうことをやめられないのでした.

 最初にそのことに気づいたのは18歳の頃,初めて男性とお付き合いをしたときです.相手を好きになればなるほど,大切にされればされるほど,不安になってしまうのです.そして,いつかこの関係は必ず終わるという恐怖が,幸せの裏側にぺったりと貼り付いていました.その思い込みを実証するためであるかのように,私は相手に対して不条理な言動をとりました.相手がよい人であればあるほど,私への愛が深いほど,これでもか,これでもかと,私は無理なことを要求し,ひどいわがままと,言葉の暴力で振り回し,「こんな私でも,あなたは私を捨てませんか?」と問い続けました.相手は去り,私の思い込みは強固なものになっていきました.

リレー連載・列島ランナー・23

北の大地から保健師活動を思う―保健師同士の連携・協働から

著者: 加倉雅代

ページ範囲:P.146 - P.149

はじめに

 福島県保健福祉部の菊地とも子さんからバトンを受け継ぎました.菊池さんは平成14年度に国立保健医療科学院の公衆衛生看護管理コースで1か月間学びを共にしたことがご縁で,これまで電話やメールでお付き合いさせていただいている保健師仲間です.

 北海道は日本列島の最北に位置していることや,他県と陸続きではなく距離があることもあり,自分にとっては他都府県の保健師やその活動はどちらかというと,身近な存在ではありませんでした.

 その上で,受講した研修は大変有意義な内容であったとともに,全国の保健所,市町村の保健師仲間と出会え,長期間にわたり交流できたこと,その仲間から実に多くの学びや実践に向けたヒントをもらえたことが最大の成果だったと思っています.

 特に,保健師は都道府県や所属が違っても,住民の健康づくりや健康課題解決に向けた支援を行うという共通のミッションを持って全国で活動しているのだと実感でき,さらに,都道府県,所属を越えて保健師同士がつながることで見えてくるものが何と大きいことかと,とても感動しました.

 それは,もしかすると,保健師には日本中が連帯できる誇るべき(恐るべし!)“仲間意識”があるからなのではないかと思えました.

 そのことを思い出しつつ,今回バトンをいただいたこの機会に,日頃の保健師活動を展開する中で,自分自身が大事にしたいと思っている保健師同士の連携・協働について考えてみようと思います.

お国自慢─地方衛生研究所シリーズ・11

京都府保健環境研究所 その1

著者: 井端泰彦

ページ範囲:P.150 - P.154

 本稿は「その1」として,当研究所の沿革,概要,細菌・ウイルス課,理化学課の業務について紹介させていただきます.

 京都は17の世界遺産を有する世界有数の文化学術都市であり,国内外から多数観光客が訪れる観光都市でもあります.それらの観光客の人々も含め,京都の人々の健康危機管理事象に対応し,安心・安全の京都の街づくりを目指し,当研究所は日夜努力しております.また,1997年12月に策定された京都議定書による二酸化炭素,メタン,一酸化二窒素などの温室効果ガスの削減目標の達成に向け,率先して京都の自然環境の保全の推進に努めております.

衛生行政キーワード・73

グローバル・ヘルスについて

著者: 西澤和子

ページ範囲:P.155 - P.157

はじめに

 近年,衛生行政の多くの分野で,国際社会での動きと国内政策が連動するようになってきている1).例えば,国境を越えて伝播し,世界の社会経済に大きな影響を与えることが懸念される,鳥・新型インフルエンザ等の感染症対策や食品安全等がその好例である.

 1990年代の東西冷戦の終結と,グローバリゼイションの進行により,新興・再興感染症が容易に国境を越えて広がるリスクが増大しただけでなく,富の偏在により,国家間または国内の経済的格差の拡大を生み出した.保健医療の分野では,例えば保健人材の偏在に投影され,地域間格差,国家間での頭脳流出などが問題となっている(図1).また,気候変動等により,自然災害が頻発し,地球温暖化に伴う疾病構造の変化等も起こりつつある.一方,かつては歴然と存在していた,先進国と開発途上国の死亡原因の差異も,感染症対策等の進展などにより,今や徐々に似かよりつつあると予測される(図2).その結果,保健システムに関しても,少子・高齢化や経済危機下で,持続可能な社会保障制度の確立と保健財源の確保,医療提供体制整備等にどう取り組んでいくかは,各国共通の課題となっている.

 こうした国境の枠を越えた各国共通の健康課題は,もはやこれまでの「国際保健(International Health)」の枠組み,つまり「富める国が貧しい国を支援する」という国単位の構造では対応できないものになりつつあると言われている.2000年代に入り,こうした変化に対応するための新たなパラダイムとして,「グローバル・ヘルス(Global Health)」が提唱されるようになった2)

世界の健康被害・2

生命力と愛

著者: 鎌仲ひとみ

ページ範囲:P.158 - P.159

イラクの子どもたちに出会った

 1998年初めてイラクを訪れた.NHKの番組を作るためだった.当時イラクはサダム・フセイン政権下にあり,経済制裁を受けていた.1991年の湾岸戦争から7年,戦争から復興する手立ても奪われ,首都バグダッドは暗く沈んでいた.急増する小児白血病のために新設された病棟を訪ねた.子どもたちは,“自分に何が起きたんだろう”というような表情でベッドの上に座っていた.3歳から7歳ぐらいが多かった.衝撃を受けたのは,今日会った子どもが,翌日にはもう死んでいなくなっているということだった.医療は根底から崩壊していた.経済制裁で抗がん剤のみならず,ありとあらゆるものが不足していた.がんや白血病にならなくとも,子どもたちは簡単に死んでいく.WHO(世界保健機関)は湾岸戦争から7年で,経済制裁が原因で60万人の15歳以下の子どもが死んだと推定を発表していた.その当の国連が,イラクへの抗がん剤の輸出を規制していたのだ.無力感をにじませた医師と,悲嘆にくれる親たちが病棟の空気を深く沈ませていた.そんな病棟で私は,14歳のラシャに出会った.

 聡明で明るい女の子・ラシャは,不完全な抗がん剤の治療の末,院内感染で亡くなった.輸血もできなければ抗生物質もなかった.「何も感じない」と,そして「親愛なるカマ(彼女は筆者をそう呼んでいた),私のことを忘れないで」とメモを残して逝ってしまった.ラシャの死は,私の中に今も深く突き刺さり,私を動かし続けている.

資料

デンマークにおける保健医療関連データベースに関する調査研究

著者: 中谷直樹 ,   中谷久美 ,   中村好一 ,   辻一郎

ページ範囲:P.160 - P.163

はじめに

 欧米では国民の保健医療サービス利用(診断名,治療内容,処方薬剤名,医療費など)や生命予後(死亡年月日,死因など)等に関するデータベースを政府が作成して,研究者に提供している国が少なくない.これにより,大規模かつ精度の高い疫学・臨床研究が可能となり,その研究成果は科学的なエビデンスとして人々の健康と福祉に貢献している.一方,保健医療関連データベースでは極めてセンシティブな個人情報が登録されるため,その作成・運用にあたっては,個人情報保護を厳格に行うとともに,国民の理解を求める取り組みも必要となる.

 第一筆者(中谷直樹)は,日本学術振興会海外特別研究員として,デンマークに2年間留学する機会を得た.同国は,政府機関による保健医療データベース構築に関して最も進んだ国の1つである.デンマークは北欧に位置し,人口は約550万人である1).デンマークの社会福祉の特徴は,国民共通番号制度である.デンマークでは1968年より国民共通番号制度が取られており,個人番号が記載されたIDカードに福祉サービスの利用情報や医療機関の利用情報等が蓄積されている.

 そこで本研究では,デンマーク政府の所管のもとで継続・実施されている保健医療データベースの概要,および研究利用について把握することを目的とした.

映画の時間

書くことが,祈りだった―ヤコブへの手紙

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.124 - P.124

 新約聖書に「ヤコブの手紙」という書簡があります.イエスの弟のヤコブが書いたとの説もありますが,異説もあり,著者について詳しいことは判っていません.キリストの12使徒にもヤコブがいますが,それとは別人のようです.今月ご紹介するのは「ヤコブへの手紙」,新約聖書の書簡を描いたものではありませんが,聖書の「ヤコブ」を十分意識しているとも考えられる題名です.

 映画は刑務所に服役中の主人公の女性,レイラの仮釈放が決まるところから始まります.まずは身元引受人のヤコブ牧師の家に身を寄せることになります.レイラは殺人罪で12年間服役しており,なんとなく凶悪そうなイメージです.

お知らせ

第2回日韓地域看護学会共同学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.137 - P.137

日時:2011年7月17日(日)・7月18日(月)

会場:神戸市看護大学 神戸市西区学園西町3-4(市営地下鉄学園都市駅徒歩10分)

沈思黙考

「公衆衛生」(Public Health)ということば

著者: 林謙治

ページ範囲:P.149 - P.149

 「公衆衛生」(Public Health)と「地域保健」(Community Health)の意味する内容が,日本では長い間判然としなかったような気がする.アメリカの成書では,それぞれを明確に定義している.すなわち政府・自治体など公的セクターが健康に関して行う事業を「Public Health」と言い,地域においてプライベート・セクターも含めて行う健康事業を「Community Health」と言っている.後者は公私を問わない活動である.

 ところで中国はじめ台湾,香港,韓国などの漢字圏では,以前から「公衆衛生」ではなく「公共衛生」と称している.厚労省の行政に携わってきたかつての私の上司にこのことを話したところ,彼は“公共政策や公共事業の語感からすれば,国のやるべき仕事として「公共衛生」が位置づけられるのはわかりやすい”との感想をもらしていた.確かに公衆衛生であればむしろ「人」を強く意識しているので,「Public Health」と言うよりは「the public's health」と言うべきであろう(the+形容詞=…の人々,という文法規則を思い出していただきたい).

予防と臨床のはざまで

さんぽ会×NPO健康教育士養成機構共催,特定保健指導シンポジウム

著者: 福田洋

ページ範囲:P.164 - P.164

 2010年11月12日に順天堂大学にて,「働く人の健康支援~健保,事業所,医療専門職ができること~特定保健指導がもたらしたものから考える」と題したシンポジウムを開催しました.多職種産業保健スタッフの会「さんぽ会」(http://sanpokai.iza-yoi.net/)とNPO健康教育士養成機構が共催で行ったもので,日本健康教育学会の後援も頂き,健保関係者,産業保健スタッフ,アウトソーシング先など,特定保健指導に関わるあらゆる人々117名が参加しました.

 まず主題総説として飯島美世子氏(東京工科大学産業保健実践研究センター)が,特定保健指導の光と影について解説されました.制度の周知不足やデータのXML化に伴う混乱,受診率・実施率・継続率の伸び悩み,重症域・メンタル・がんの合併などの困難事例の存在,40歳では予防施策として遅すぎる点など課題(影)を列挙するとキリがありませんが,一方で「メタボ」という言葉が広まった点,保健指導技術が浸透した点,喫煙率をはじめとする様々なデータが健保に集積した点など,職域にもたらされたメリット(光)も感じられています.10月に公表された日本公衆衛生学会の「特定健診・特定保健指導に対する要望書案」も踏まえ,今後は従業員・事業所・健保の3者にメリットある取り組みが求められる,とまとめて頂きました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.165 - P.165

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.166 - P.166

 昨年の夏に公開された映画『小さな命が呼ぶとき』を観に行く予定にしていた私は,時を同じくして行われていた本号の特集企画会議の過程で,偶然,この映画の原作本であるジータ・アナンド著『小さな命が呼ぶとき(原題:THE CURE)』の存在を知り,映画鑑賞より先に原作本を読む機会を得ました.

 3人のわが子のうち2人もがポンぺ病という治療薬のない病に侵され,「余命わずか」と宣告された父親は,仕事を辞め,ポンペ病の治療薬開発のために資金の調達に奔走します.そして彼は,自らバイオテクノロジー会社を設立し,ついには治療薬を作ってその臨床試験にこぎつけるという実話です.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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