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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生75巻5号

2011年05月発行

雑誌目次

特集 基礎から学ぶ食品衛生

フリーアクセス

ページ範囲:P.357 - P.357

 食品の安全は人の健康にとっての根幹です.過去には食品の安全が守られなかったことで様々な健康被害が起こっています.公害でもある水俣病やイタイイタイ病も食品が原因となった悲惨な例であり,カネミ油症もその1つです.このような大規模な例ではなく,日常的に起こっている微生物や自然毒によるいわゆる食中毒は,食品による健康被害の身近な例と言えます.

 しかし,食品の安全については,巷には誤った情報が流布し,多くの人が信じているように思われます.「着色料や保存料といった食品添加物はからだにとても悪く,無添加が良い」,「添加物は天然のものは安全だが,人工のものは危険」,「農薬を使用した野菜や果物は農薬まみれ」,「遺伝子組換え食品はとても危険」といった類の情報です.これらの情報については,公衆衛生従事者の中にも信じている人が多いのではないでしょうか.しかし,添加物や残留農薬,遺伝子組み換え食品の安全性については科学的に検証が行われている点,自然毒のように天然物にも危険なものが存在する点等を考慮すると,上述した情報が迷信のようなものであることは明らかです.

わが国の食品衛生施策の現状と課題

著者: 萩原竜佑

ページ範囲:P.358 - P.362

はじめに

 食品衛生行政の目的は,食品の安全性の確保を通じて,国民の健康の保護を図ることであり,公衆衛生行政の重要な一部分を担っている.近年では,輸入食品の増加,製造方法や新たな科学技術の向上などによって,食生活を取り巻く環境は大きく変化している.また,昨今ではBSE(Bovine Spongiform Encephalopathy)問題に始まり,中国産冷凍ギョウザ事件など,食の安全を脅かす問題も発生しており,それに伴って食品の安全性についての国民の関心も高まっているところある.

 本稿では,現状の食品衛生行政の内容を簡潔に説明しつつ,課題についても述べていきたい.

保健所の食品衛生対策の現状と課題―埼玉県を例に

著者: 橋本勝弘

ページ範囲:P.363 - P.366

はじめに

 食品の安全に関わる法律として食品衛生法,と畜場法,健康増進法など,それぞれの目的に沿って必要な規定がなされ,各法律に基づく監視指導,食品の検査等を実施してきた.

 BSE問題や輸入食品の残留農薬基準違反,食品の不正表示事件などを契機とする食品の安全に対する国民の不安や不信の高まりを解消し,失った信頼を回復するため,平成15年に食品安全基本法が制定され,これを機に食品衛生法も「食品の安全確保のための施策充実を通じた,国民の健康保護のための予防的観点に立ったより積極的な対応」,「事業者による自主管理の促進」,「農畜水産物の生産段階の規制との連携」等と見直しが行われた.

 保健所の食品衛生監視員は,食品衛生法に基づき,飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,国民の健康保護を図ることを目的に,毎年度,食品衛生監視指導計画を定め,監視指導,食品の収去検査,リスクコミュニケーション等を実施している.

 本稿では,保健所の食品衛生対策について,埼玉県の例をとって紹介する.

食品添加物

著者: 西島基弘

ページ範囲:P.367 - P.370

食品添加物の種類と用途

 “食品添加物”というと意味なく悪者にされている場合が多い.ヒトは病気など特別のことでもない限り,毎日何らかのものを食べて生命を維持している.

 歴史的に見ると千年以上前から食品添加物は使われている.ただし,食品添加物という言葉がなかったので,無理をして言葉を探すと,“食品を造るため,保存をするため,美味しくするために必要なもの”ということになるのだろうか.

残留農薬・残留動物用医薬品

著者: 米谷民雄

ページ範囲:P.371 - P.375

農薬と動物用医薬品の種類と用途

 1.農薬の種類と用途

 農薬とは,農薬取締法第一条の二で,「農作物(樹木及び農林産物を含む.以下「農作物等」という)を害する菌,線虫,だに,昆虫,ねずみその他の動植物又はウイルス(以下「病害虫」と総称する)の防除に用いられる殺菌剤,殺虫剤その他の薬剤(その薬剤を原料又は材料として使用した資材で当該防除に用いられるもののうち政令で定めるものを含む)及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤,発芽抑制剤その他の薬剤をいう」と定義されている.

 除草剤が明記されていないが,上記条文中で「その他の動植物(雑草も含まれる)の防除に用いられるその他の薬剤」の中で規定されている.防除の目的で使用される微生物を利用した農薬や天敵も農薬扱い(生物農薬)であるが,蚊,ハエ,ゴキブリ等の衛生害虫を防除する薬剤は目的が異なるため,農薬には含まれない.

安全性評価の手法

著者: 小松一裕

ページ範囲:P.376 - P.380

安全性評価の手法としてのリスク分析(リスクアナリシス)

 リスク分析は「どんな食品にもリスクがあるということを前提に,リスクを科学的に評価し,適切な管理をすべき」との考え方がベースになっており,国際食品規格委員会(FAO/WHO/Codex)でもリスクを制御する有効性が認められていて,Codex加盟国で広く採用されている.

 平成15年7月1日に食品安全基本法が施行され,国民の健康の保証を最優先とする食品安全行政の確立をめざすことが目的とされた.これに伴い,わが国でもリスク分析の手法の導入が図られるとともに,内閣府に食品安全委員会が設置され,食を介して人の健康に与える影響について,科学的に客観的かつ中立公正な立場で評価を行っている.

輸入食品と検疫所

著者: 厚生労働省医薬食品局食品安全部企画情報課検疫所業務管理室

ページ範囲:P.381 - P.384

はじめに

 戦後,飛躍的な成長を遂げたわが国では,物資欠乏の時代から世界有数の富める国へと,わずか50年で到達し,食生活においては数多くの食品が豊富に流通し,多種多様な食品が,かつ世界各国の食品が,日本に居ながらにして入手が可能となっている.また,旅行やビジネス等で海外渡航をする人が増え,国際交流が活発な現代において,SARS(重症急性呼吸器症候群),エボラ出血熱等の新たな感染症や,マラリア等の克服されたかと思われた感染症が,新興・再興感染症として人々の前にその姿を現し,新たな脅威となっている.

 検疫所はこれらの諸問題により人々の生命,健康の安全が脅かされる事態を未然に防止するため,全国の主要な海港・空港で各種業務に取り組んでいるところであるが,本稿では,輸入食品に焦点を絞って述べることとしたい.

 食品は,日常生活を支える「衣・食・住」の三要素の一つとして,人間の生活にとって必要不可欠なものであり,安全な食品が安定的に供給されることが国民生活,社会・経済の基盤となっている.われわれの豊かな食生活について食料需給の観点から見ると,その多くを外国に依存しており,輸入食品の関係者は国民生活,社会・経済の基盤に大きな責任を担っていると言っても過言ではないが,一方,輸入食品に依存せざるを得ない食生活の現状で,輸入食品の安全性に対して常に潜在的な不安が取り沙汰されている.

 これは,輸入食品特有の生産から流通までの情報不足,輸出国の法規制や衛生水準の違い,輸出国の突発的事情に振り回される事情等が挙げられる.輸入食品の安全性については,残留農薬,動物用医薬品の残留,食品添加物,食中毒菌,放射線汚染等,様々な問題が指摘されてきたが,新たに発生する問題にも適切に対応するため,検疫所では日々変化する輸入食品の監視を行っていることから,本稿では食品の輸入手続きに係る概要や検査体制,および違反状況等について紹介したい.

食品表示制度の現状と課題

著者: 池戸重信

ページ範囲:P.385 - P.388

食品表示の本来機能

 食品は,本来安全であるべきことは言うまでもないが,消費者のもとに安心・信頼とともに届けられなければならない.また,その食品に関した由来や特徴など,供給サイドとして是非伝えたい情報とともに供給されるべきものである.食品の表示は,こうした必要な情報を供給サイドから消費者へ伝達する重要な手段の一つである.すなわち表示は,本来食品の供給サイドにとって大変「重宝」で積極的に活用したいツールである.

 しかし近年,社会情勢の変化等に伴いルールが複雑化し,供給サイドにとってその的確な対応に関する負担が少なくないことから,取り扱いに苦慮するという皮肉な現象も見受けられる1).一方,当然のことながら,消費者サイドにおいても,食品表示のルールについて正しい知識と理解を有さない限り,有効な利活用は期待できない.こうしたことから,近年安心を伝えようとする供給サイドの努力が十分反映されていない状況も見られる.

食品の安全に関するリスクコミュニケーションとマスメディア

著者: 松永和紀

ページ範囲:P.389 - P.392

はじめに

 一般市民,消費者の多くは,食品の安全性に関する情報をテレビや新聞などマスメディアの報道から得ている.しかし,適切とは言い難い報道が多く誤解を生んでいる.報道の現状を踏まえ,本稿ではリスクをめぐるコミュニケーションの課題,研究者,公衆衛生関係者に求められる取り組みを検討する.

視点

公衆衛生とリスク

著者: 西村周三

ページ範囲:P.354 - P.355

 公衆衛生分野においては「リスク」概念は決定的に重要である.疾病リスク,健康リスクという概念は言うまでもなく,環境リスク,電磁界リスクなどに至るまで,枚挙にいとまがない.リスクの問題は,リスクを客観的に評価してそれを数量的に示すことから始まって,そのリスクをどのようにとらえるかというリスク認識(recognition),さらにリスク認知(perception)からリスク態度(attitude)の問題までの広汎にわたる.簡単に言えば,客観的なリスクを測定するという課題から,それを示されたときに人々がどのように反応するか,までの課題である.おそらくこのような検討が広範囲になされて初めて,リスク分析が意味を持つように思われる.

 しかしながらこれまでは,最初に述べた「リスクの客観的数量化」に研究がやや偏って,人々がリスクにどのように向き合うか,の分析が少ない.それにはそれなりの理由がある.後者の問題を分析するためのツールが,比較的新しく発展してきた「行動経済学」が確立するまで,あまりなかったからである.「行動経済学」というのは経済学の一分野のように見えるが,実は心理学と経済学の共同生産物である.と言うより正確には,心理学からの経済学批判から生まれたとも言える分野である.したがってどちらかと言うと,心理学者たちが確立した分野であると理解すべきであろう.

特別記事

[対談]住民主体のソーシャルキャピタル形成活動とプロセス支援体制

著者: 待鳥美光 ,   福島富士子 ,   みついひろみ

ページ範囲:P.393 - P.398

保護者の防犯活動から始めた地域づくり

待鳥 私は2001年に「和光市地域子ども防犯ネット」という,主に小中学生の保護者の防犯ネットワークを立ち上げました.埼玉県和光市は人口約7万8,000人,非常に転出入が激しく,単身世帯が一般世帯の約4割を占め,自治会,地域の組織,地縁組織率が非常に低い町です.もともとは長閑な環境だったのですが,地下鉄が開通し交通の便が良くなり,いろいろな人が和光市に出入りしてくる中で,駅周辺の環境が急変しました.当時,行政に防犯担当のセクションがなく,PTAが11校のうち5校にしかないという状況の中,保護者がぞれぞれに防犯活動をしていたのです.しかし2001年に大阪教育大附属池田小学校の事件が起きて,一気に危機感が高まり,それで全和光市の小・中学校を網羅する防犯ネットワークになっていくという経過を辿りました.

 和光市地域子ども防犯ネット(以下,防犯ネット)は,完全に住民主体のネットワークです.立ち上げ当初は,「新しくできた団体にどうして協力しなくてはいけないのか」という反応も一部あったのですが,誰しも子どもの安全は守ろうと思っているので,少しずつ協力をしていただけるようになり,現在では自治会,民生児童委員,保護司,地域の関係機関等のネットワークを網羅しています.活動は,年に2回,市内全域で,延べ1,000人ぐらいの人が子どもを守るという目的を共有して行う市内全域一斉パトロール,親の意識を変えるワークショップや学習会等,いろいろなことをやっています.目的は「ふところの深い地域づくり」.地域の中で子どもが安全に育っていくことを目指しています.

連載 人を癒す自然との絆・22

子どものシェルターで活躍するセラピー犬

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.400 - P.401

 私が取材でよく行くカリフォルニア州ソノマ郡には「Valley of the Moon Children's Home」(以下,VOM)という,虐待を受けて保護された子どもたちのための緊急避難用シェルターがある.日本で言うと一時保護所にあたるだろうか.運営しているのはソノマ郡福祉局で,45人の常勤職員と16人のパートタイム職員がいる.また,常時50人前後のボランティアがいて,子どもたちの勉強の手伝いをしたり,アート,園芸,スポーツなどさまざまなプログラムにかかわるほか,寄付された物品の整理,資金集めなど,縁の下の力持ちとしても多くの仕事を担う.

 アメリカで2009年に虐待で命を落とした子どもは1,770人.虐待を受けた子どもの数は70万人以上に上る.ソノマ郡でも,3,400人が被害に遭った.地域住民の積極的な関与からは,このような状況への危機感と,子どもは社会全体で守らなければならないという思いが感じられる.

保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・2

まずは日本語

著者: 中村好一

ページ範囲:P.402 - P.407

 前回,本連載のターゲットとして,①保健活動を念頭に置いて,②コメディカルスタッフを対象に,③日本語での学会発表や論文執筆を目指す,と宣言した.そこで今回は学会発表や論文執筆の入口としての“日本語”について記載する.

地域づくりのためのメンタルヘルス講座・2

精神保健サービスにうまくアクセスできないのはどのような事情によるのですか?

著者: 野口正行

ページ範囲:P.408 - P.411

はじめに

 厚生労働省の新規事業である,未治療・治療中断者に対する「精神障害者アウトリーチ事業」が平成23年度から始まる予定となり,未治療・治療中断者への支援が最近注目を浴びるようになってきた.これまでこのような事例に関わってきた保健所等の職員はすでに知っているように,このタイプの当事者は医療の必要性が低いから医療に関わっていないのではない.本来は医療を含めた支援の必要性があるにもかかわらず,支援が入っていないのである.さらに言うならば,「サービスの必要性が高いほどサービスが届きにくい」という,いわば逆説的な状況にある1).ある意味では,最も精神保健サービスでの重要な問題であるにもかかわらず,保健所等現場での対応に任せられてきた.医療保健福祉のサービス体制全体において,制度上の対応が十分になされてきたとは言いがたい.今までのサービス体制においては,医療機関につながり得た事例を中心に体制が組まれており,支援につながっていない事例がどれくらい支援を要するのか,そもそもそのような事例数はどれくらいなのかなど,基礎的データすらない状態である.

 本稿では,海外の文献なども引用しつつ,精神保健サービスにアクセスできていない事例の疫学的データと,その理由はどのようなものであるのかについて整理してみたい.

保健所のお仕事─健康危機管理事件簿・14

腸管出血性大腸菌感染症の対応(平成8年度)その2

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.412 - P.415

 この原稿も全てパソコンで入力しています.その昔,下書き段階は手書きで考えて,完成したらワープロで清書するという時代もあったようですが,今は構想段階からパソコンを使うのが当たり前になりました.

 学生時代,ひょんなことから学校にあまり行かなくてもいい年があり,週5回の塾講師のアルバイトに加えて,教材テキストの作成にも携わり,相当額の貯えができました.さあ,このお金でパソコンを買おうか,それともビデオデッキを買おうか,まさに贅沢すぎるラビリンス(迷宮)に迷い込んでしまいました.最終的に,ビデオは一方的な情報の受信に過ぎないが,パソコンは(たとえゲームをするだけであっても)能動的な選択を伴う,といういい加減な理屈でパソコンを選びました.その結果,自分自身でもどうかと思うゲーム三昧の日々が始まってしまいました.

トラウマからの回復─患者の声が聞こえますか?・14【最終回】

生存スキルとしての精神障害

著者: 斎藤学

ページ範囲:P.416 - P.418

医療化

 アディクション(嗜癖,依存症)はラテン語に由来する古い言葉で,「ものごとに取り憑かれている」ことを意味する.医学的にはオピウム(阿片)などの物質を摂取することへの執着について用いられてきたが,近年では衝動的な過食(ムチャ食い)や自傷などの自己破壊行動,非合理な窃盗反復や賭博癖など,あらゆる「やめられない,止まらない」問題がこの言葉で包括されるようになった.

 依存症という用語をこのように狭義の医学を超えて用いるようになったのは,時代がそれを必要としたからなのであって,単なる誤用とは言えない.この時代,人々はかつてなら個人の悪徳としていたものを技術用語で呼び,疑似科学的に処理することを好むようになった.以前なら「大酒飲み」と呼ばれていた「意志の弱い人の悪習慣」は,現在では「アルコール依存症」と呼ばれ,診療の対象になっている.これを「医療化」と言う.

リレー連載・列島ランナー・26

市町村・保健所の協働による保健師の育ち合いを目指して―北海道市町村新人保健師等現任教育ガイドラインについて

著者: 菊地みさき

ページ範囲:P.419 - P.422

はじめに

 北海道国民健康保険団体連合会の菊池まち子さんより,バトンを受けました.貴重な機会をいただきましたので,本誌75巻2号から4号にて,北海道内でバトンを受け継ぎあった3名の皆さんにも委員として参画していただいた「北海道市町村新人保健師等現任教育検討会」の取り組みと,作成した「北海道市町村新人保健師等現任教育ガイドライン」(以下,ガイドラインとする)について紹介したいと思います.

世界の健康被害・5

3.11後,「内部被曝」の時代が始まった

著者: 鎌仲ひとみ

ページ範囲:P.424 - P.425

原発震災

 2011年3月11日,14時46分,渋谷の劇場で映画『ミツバチの羽音と地球の回転』を上映していた.突然の揺れに上映を中止し,観客を建物の外まで避難誘導した.揺れはなかなか収まらず震源地もよくわからなかった.30分後,テレビの画面にはとてつもない津波が家々を飲み込んでゆく映像が映し出された.まるでSF映画のようなその有様は現実だとすぐには認めたくない,しかしこれは現実だと,すさまじい葛藤が体内で起きてきた.そして原発はどうなったのか? 無事なのかどうかが頭に浮かんだ.まずい,これでは原発ももたないだろうとも.

 すぐに福島第一原発の電源が喪失し,炉内の温度が上昇中というニュースが入ってきた.原発のことを少しでも勉強した人なら,誰でもこの意味が解る.炉心溶融の危機だ.原発の冷却機能が失われると,燃料が高温で溶けて炉の底を突き抜けて,大量の放射性物質を外部に放出する甚大な事故となる.原発の事故はある程度事態が悪化してしまうと,連鎖反応が加速度的に起きて止めることができなくなる.

海外事情

福祉国家デンマーク視察

著者: 川上ちひろ

ページ範囲:P.426 - P.428

はじめに

 医療技術の進歩により,がん患者,難病患者,高次脳機能障害者,精神障害者等の患者が就労を続けながら,治療を継続することが可能となってきた.しかし現状はこのような患者の就労の受け皿は多くなく,職場離脱を余儀なくされたり,再就職先が見つからない例も多い.このためピンクリボンなどの患者団体も,がん患者の職場復帰や再雇用についての意見や提言を発信している.今回,就労を希望する患者への支援をどのように行っていけばよいかを検討するために,福祉大国であるデンマークへ視察に行ったので報告する.

お知らせ

第11回健康企画・評価研修会/第30回健康学習研修会 フリーアクセス

ページ範囲:P.362 - P.362

第11回健康企画・評価研修会

日時:平成23年7月28日(木)~7月29日(金)

開催場所:自治医科大学地域医療情報研修センター(自治医科大学構内施設)
〠329-0498 栃木県下野市薬師寺3311-160

 

第30回健康学習研修会

日時:平成23年6月9日(木)~6月10日(金)

開催場所:自治医科大学地域医療情報研修センター(自治医科大学構内施設)
〠329-0498 栃木県下野市薬師寺3311-160

公益財団法人かなえ医薬振興財団 平成23年度アジア・オセアニア交流研究助成金募集要項 フリーアクセス

ページ範囲:P.366 - P.366

趣旨:近年の生命科学分野において,研究者間の交流,ネットワーク,および共同研究が急速な発展に寄与しており,これらの交流は革新的な発見から臨床応用まで少なからぬ貢献ができると考え,今年度より新たにアジア・オセアニア地域における共同研究に対する助成を開始します.

助成研究テーマ:生命科学分野におけるアジア・オセアニア諸国との交流による学際的研究,特に老年医学,再生医学,感染症,疫学,医療機器,漢方,その他.

沈思黙考

DRG(Diagnosis Related Group)へのシフト

著者: 林謙治

ページ範囲:P.384 - P.384

 1年ぶりにWHOマニラの事務局長Dr. Shin(申)が当国立保健医療科学院に訪問して下さった.実は申先生は30年前私がエール大留学時の同級生である.私は周産期疫学を専攻したが,彼は患者分類で有名なFetter教授につき,当時進行中の患者分類研究プロジェクトに参加した唯一の東洋人であった.患者分類のコンセプトは連邦政府の着目するところとなり,後にDRG(Diagnosis Related Group)として発展していった.しばらくして日本でもDRGが話題になった頃,現在東京医科歯科大学教授の川渕孝一先生(当時国立病院管理研究所)のご紹介で,アジアにおいて議論が進んでいる韓国医療経済研究所を訪れた.なんとソウル大教授であり,経済研究所所長を兼務されていた申先生が迎えに出てくれて,再会を喜んだものである.

 当院ではWHOの研修プロジェクトを委託されている関係上,前事務局長の尾身茂先生もたびたびいらっしゃいましたが,その引き継ぎで本院を訪ねてくださったDr. Shinが,昔の同級生の申先生とは思いもしなかった.誠に奇縁である.アメリカで発展したDRGのシステムを日本や韓国のようにすでに社会保険制度を出発させた国でどのような形で構築できるか実験が行われてきたが,申先生も苦労したせいか,他国でできたシステムを導入するのは簡単でないと述懐しておられた.

映画の時間

―核燃の大地に咲く花 ここに私たちのくらしがある.―六ヶ所村ラプソディー

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.388 - P.388

 3月11日に起こった東日本大震災では大きな被害が出ました.被災された方々には心よりお見舞い申し上げます.地震発生時点ではこれほどの被害の広がりを想像できませんでした.なかでも福島第一原子力発電所の被害は深刻で,近隣地域の退避指示などが出され,環境中,飲料水,農作物などからも放射性物質が検出されています.先月号では,祝島での原子力発電所計画をめぐる映画『ミツバチの羽音と地球の回転』をご紹介しましたが,今月は,同じく鎌仲ひとみ監督によるドキュメンタリー映画『六ヶ所村ラプソディー』をご紹介します.

 題名にある六ヶ所村には使用済み核燃料再処理施設が建設され,現在試運転中ですが,本作品が製作された2006年当時はまだ本格稼動はしていませんでした.カメラは,稼動に反対する,あるいは不安を持つ施設周辺の住民を追う一方,施設で働く職員や施設に経営を依存する協力業者の姿を収めます.

予防と臨床のはざまで

東日本大震災

著者: 福田洋

ページ範囲:P.423 - P.423

 この度の東日本大震災で被災された皆さま,被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます.また,救助・復旧・支援作業に関わっている皆さま,本当にお疲れさまです.

 それは突然やってきました.3月11日,私は東京千代田区麹町の企業にいました.確かに大きく,長く揺れ,保健師さんはじめ健康管理室にいた人は立つことができませんでした.その後,屋外退避,避難の指示が発せられ,近くの皇居に周辺企業や官庁などの多くの方が避難しました.私はその後の会議のために赤坂まで歩いて移動しました.この時歩いている人の中には,携帯のワンセグでニュースの最新情報に耳を傾ける人,ヘルメットをかぶっている人もいました.春の陽気を感じる晴天で,その後の日本を襲う数々の災難を,この時点では全く予見できませんでした.しかし,夕方の会議にたどり着けた人はほとんどおらず,交通網が全く機能していないことを知りました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.429 - P.429

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.430 - P.430

 先日,ある研究会で,農産物の残留農薬の検査結果についての発表が行われていました.その中で,農薬の残留基準値の決め方について解説した上で,農産物の一部から残留農薬が検出されているが,いずれも基準値以下であり,流通している農産物は検査結果から見ると安全であるとの報告がされました.この発表を聞いていた公衆衛生従事者のひとりが「安全と言うのではなく,農薬が検出されたのだから農産物をよく洗うようにと注意すべきだ」との感想を述べていたと,後日聞きました.

 特集をお読み頂くとおわかりのとおり,残留基準値以下の農薬は,土埃や汚れを気にしなければ,そのまま食べても,健康に影響しないことが科学的に検証されています.しかも,毎日食べ続けても健康を害しない値です.このことを説明されても,「農薬はからだに悪いから,少しでも残っていたらよく洗わなければいけない」と思い込んでいたようです.残留農薬の危険性に対する思い込みの深さに,考え込んでしまいました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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