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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生75巻6号

2011年06月発行

文献概要

特集 基礎から学ぶ環境衛生

新しい「住まいと健康」問題と公衆衛生技術者のアプローチ

著者: 鈴木晃1

所属機関: 1国立保健医療科学院

ページ範囲:P.443 - P.447

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「住まいと健康」問題の変遷と公的介入の根拠再考

 住居衛生という言葉を使わずに,なぜ「住まいと健康」あるいはHealthy Housingという言葉で今後を展望しようとしているのか.その疑問に答えるためにも,はじめにこの問題の歴史的変遷について簡単に触れておきたい.

 この問題が最初に社会問題化したのは19世紀イギリスで,産業革命にともなう都市への労働者人口の集中によって,劣悪な居住環境がもたらされたことは周知のとおりである.廃棄物や下水の適切な処理手段のない居住地に不良住宅が密集して建てられ,換気設備がなく暖房もない部屋や湿った地下室で,複数世帯が生活を共にすることを余儀なくされていた1,2).この時期の,すなわち古典的な「住まいと健康」問題は,不衛生な住宅あるいは過密居住など不衛生な住み方を原因とする感染症の問題としてとらえることができる.チャドウィックが社会防衛として環境衛生の強力な推進を訴え,公衆衛生法の立法化(1848年)を促すなど,近代公衆衛生の出発点となったことも知られている3).少し遅れて,最初の住居法である「トーレンス・アンド・クロス法(職人・労働者住居法)」(1868年)が法制化されており,公衆衛生と住宅問題が不可分に結びついていたことを示唆している.

参考文献

1) チャドウィックE(著),M.W. フリン(編),橋本正巳(訳):大英帝国における労働者人口集団の衛生状態に関する報告書.日本公衆衛生協会,1990
2) F. エンゲルス(著),全集刊行委員会(訳):イギリスにおける労働者階級の状態1.国民文庫(大月書店),1971
3) 蓑輪眞澄:近代公衆衛生の萌芽と住宅問題―チャドウィック・レポート.日本住宅会議(編):住宅白書1988 住まいと健康,pp20-23,ドメス出版,1998
4) 早川和男:住宅貧乏物語.岩波新書,1979
5) Ranson R:Healthy Housing;A Practical Guide. E & F.N. Spon, London, 1991
6) 鈴木晃:高齢者の「入浴中の急死」に関する地方性―日本固有の住文化の問題に加えて.長寿社会グローバル・インフォメーション・ジャーナル第6号:20-21, 2007
7) 山形県庄内保健所:平成22年度入浴事故実態調査報告書.2010年9月
8) 港区みなと保健所生活衛生課生活衛生相談係:人にやさしい建物をつくるために.2011年(第3版)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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