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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生75巻7号

2011年07月発行

雑誌目次

特集 健康危機兆候のモニタリング

フリーアクセス

ページ範囲:P.509 - P.509

 地球温暖化や環境汚染などに伴う環境リスクの増大,およびSARS(重症急性呼吸器症候群)や新型インフルエンザなどの新興感染症の続発に見られるように,豊かな生態系や人々の健康を脅かす様々な危機事象が,最近,顕在化しています.

 地域保健の分野でも,21世紀の幕開けとともに「健康危機管理」という行政用語が登場し,今では保健所の重要な機能に位置付けられています.

健康危機兆候の早期把握の重要性と今後の対応―公衆衛生モニタリング・レポート委員会の活動から

著者: 原田規章

ページ範囲:P.510 - P.514

 社会の変化に伴って発生する様々な健康リスクは早期に把握されることは少なく,健康影響が発生してからも社会的対応は遅れることが多い.既知ではあるが未解決の健康リスク,新たに発生しつつある健康リスク,さらに将来の潜在的な健康リスクをモニタリング,アセスメントし,その対策の方向性を含めて先見的にレポートすることは,人々の健康を維持し向上させるために重要である.

 本稿では,日本公衆衛生学会に設けられた「公衆衛生モニタリング・レポート委員会」の活動と課題を中心に述べる.

危機兆候の早期把握を目指した新たな情報管理システム―空間ドキュメント管理システムSDMSの有用性

著者: 有川正俊 ,   浅見泰司

ページ範囲:P.515 - P.520

はじめに

 健康危機情報を早期に把握するためには,その兆候をいち早く発見し,警告を発することが重要である.このためのシステムを安価,有効に構築するには,大装備のシステムを構築するのではなく,日々の業務において他にも利用でき,ユーザが操作に慣れ親しめるソフトウェアを開発し,それが健康危機分析にも有効である環境を用意する必要がある.われわれはそのために,健康危機情報を全国から自動的に収集し,空間関係を分析・評価して,健康危機事象の早期探知に資するシステムを開発している.

 すでに開発が終わった空間ドキュメント管理システム(SDMS:Spatial Document Management System)は,住所や地名を含むワード,エクセル,ウェブ・コンテンツ,PDFなど一般デジタルドキュメントをドラッグ&ドロップという簡単な操作で地図化ができる.これをさらに,ウェブ版に拡張し,グループシェアが容易になるように開発を続けている.

行政統計リンケージによる健康リスク予測の可能性

著者: 笽島茂

ページ範囲:P.521 - P.524

はじめに

 わが国の国勢調査は周知のように人口センサスであると同時に,社会実態調査でもある1).居住地以外にも就業状況(職業や産業の分類)など社会的属性について調査しているので,地域別のいわば構造を与えることになる.このような構造が将来の住民の健康にどのような影響を及ぼしうるのかを予測することができれば,公衆衛生のみならず,社会の構造に関与する政策を国民の健康増進,健康危機管理の立場から検討することも視野に入る.ここで,公衆衛生活動で第一義的に求められる統計は,本来は要因と健康の変化に関する「リスク」であることに注意しなければならない.このようなリスクを例えば職業や産業部門別に求め比較するのに必要なことは,国民を代表するコホートを確立し,個人情報を用いて,個人ごとに死亡などの発生の有無を追跡することである.国勢調査によるコホートを,個人情報の保護を確保しながら,人口動態調査において個人レベルで追跡し,国勢調査と人口動態統計を個人レベルでリンケージできれば,社会的要因別に死亡や出生に関するリスクの計算が可能になる.

 様々な政府統計や行政調査資料等を個人レベルでリンケージすることにより,国民の健康リスクの予測やリスク回避に向けた対策の立案等に活用できるのではないかと期待されている.健康リスクに関連する統計制度は,大きな変動期にあるわが国においてこそ,将来の羅針盤としての機能をこれまで以上に強めなければならない.そのような機能が具体的にはどのような形態をとるべきか,それは行政や関連機関に蓄えられている個人情報を,濫みだりな使用から保護しつつ,縦断的にリンケージすることによって,どこにどのような危険が潜んでいるのか疫学的に明らかにする「リスク統計」を創設することに依拠する.換言すれば,リスク統計はどこにどのようなチャンスが眠っているのかを明らかにする統計でもある.

 本稿では,リスク統計の構想とその果たすべき機能について,諸外国における事例も交えながら,わが国における課題と今後の展望について概説する.

環境汚染のモニタリングと要因解析―樹氷等の分析から

著者: 柳澤文孝

ページ範囲:P.525 - P.528

はじめに

 日本全国で酸性雨が降り,春季には光化学スモッグが観測されることから,アジア大陸から長距離輸送される大気汚染の影響が懸念される.硫黄同位体は,降水やエアロゾルなどに含まれている汚染物質の起源を特定するトレーサーとして有効である1,2)

 硫黄同位体を測定するには,降水の場合は濾過し,エアロゾル(大気中に浮遊している粒径10nmから1mmの液体あるいは固体の粒子)の場合は水溶性成分を抽出する.濾液および抽出液に10%BaCl2溶液を添加してBaSO4を沈殿させる.BaSO4を10倍量のV2O5とSiO2と混合して真空中で加熱し,生成したSO2ガスで硫黄同位体比を測定する3).硫黄同位体比(δ34S)は32Sに対する34Sの存在比率を,標準物質であるCDT(Canyon Diablo Troilite)に対する千分偏差(‰:パーミル)の形で表す.

子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の意義と今後の展望

著者: 佐藤洋

ページ範囲:P.529 - P.532

はじめに

 一般環境下での胎児期から乳幼児期にかけての化学物質へのばく露の影響が懸念され,鉛1)やメチル水銀2,3),PCB(ポリ塩化ビフェニル)4)について,1980年頃から子どもの発達に及ぼす影響の疫学調査が実施された.その結果,神経行動発達への影響やIQ低下を示す報告もあったが,どの程度のばく露量で影響が見られるのか,閾値があるのか,さらに成長した後にどのように影響が推移するのか等々,不明の点も多い.鉛・メチル水銀・PCB以外にも化学物質は多く存在し,その他の物質の影響,また複合的なばく露の影響,さらには家庭環境・生育環境との交絡や遺伝的に影響を受けやすい集団が存在するのか等の詳細は不明である.

 世界中の子どもが環境中の有害物の脅威に直面していることは国際的にも認識され,小児の環境保健をめぐる問題に対して優先的に取り組む必要があることが宣言された(マイアミ宣言:G8環境大臣会合,1997年).国際化学物質戦略会議(SAICM,2006年,ドバイ)では,「我々は,子供たちや胎児を,彼らの将来の生命を損なう化学物質の曝露から守ることを決意する(環境省仮訳)5)」との考え方が打ち出された.2009年のG8環境大臣会合(シラクサ)では,日本の環境省が“子どもの健康と環境”を議題として取り上げることを要請し,“気候変動”と“生物多様性”に次ぐ,第3の正式な議題として“子どもの健康と環境”が取り上げられ6),各国が協力して取り組むことが合意された.

 このように,20世紀末から“子どもの健康と環境”についての関心は高まり,いくつかの出生コホート調査が既に始まったり,始まろうとしている.わが国でも,2010(平成22)年度に子どもの健康と環境に関する全国調査(いわゆる「エコチル調査」)が立ち上がり,2011(平成23)年1月末から妊婦を対象としたリクルートが始まった.

先天異常モニタリングの有用性と今後の展望

著者: 平原史樹

ページ範囲:P.533 - P.537

はじめに

 ヒトも生物である限り,先天異常はある頻度で必ず発生する.その原因になりうる環境因子・外的因子の関与に対しては,予防医学的立場から回避しうる要因であり,つねに監視,モニタリング体制をとってサーベイランスすることが重要なこととなる.

 本稿では健康リスク評価としての先天異常モニタリングがいかなる位置付けでどのように行われているかを紹介し,その課題を探ることにする.

地球温暖化が感染症に及ぼす影響―変化する感染症の早期探知に向けてのモニタリング

著者: 倉根一郎

ページ範囲:P.538 - P.541

はじめに

 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental panel for climate change:IPCC)第4次報告書において,地球温暖化はすでに疑いのない事実であることが明確に述べられている.最も厳しいCO2削減努力を行っても,今後数十年間は地球温暖化を回避することができないと考えられている.したがって,今後も地球温暖化は長期間にわたり,人間の生活に大きな影響を及ぼし続けることが予想される.

 地球温暖化によるヒトの健康への影響は多様である(表1).温暖化により直接的に現れる影響としては,呼吸器・循環器疾患等を有する人々の死亡率の増加,熱中症患者の増加や,それによる死亡数の増加が確認されている.一方,温暖化に伴う大規模自然災害(たとえば,大型台風やハリケーン,大雨による洪水,干ばつ等)による直接的な健康への影響,あるいはこれらの災害による生活のインフラ(注:infrastructureの略)の破壊による健康影響が現れることも予想される.このような直接的な影響とともに,ヒトの健康への間接的な影響として,感染症の増加や,地域的拡大,大気汚染との複合的な健康被害,アレルギー患者の増加や,患者発生の地域や時期の変化等,多面的な影響が考えられている1)

感染症・食中毒のdiffuse outbreakの早期探知―最近の事例を踏まえた課題と今後の展望

著者: 砂川富正

ページ範囲:P.542 - P.547

はじめに

 本稿執筆中に衝撃的なニュースが入ってきた.平成23年4月下旬に富山県・福井県・神奈川県などの飲食チェーン店で「ユッケ」などを食した利用客に血便などの発症が相次ぎ,既に60人を上回る患者数となっており,うち多くの入院が報じられている1).一連の事例について,富山県の6歳男児が腸管出血性大腸菌O111に感染・死亡したとされ,福井県においても別の6歳男児が死亡しており,ユッケが原因と報道されている(5月3日現在).自治体などにより調査が進行中であろうが,異なる地域の複数の店舗で発生しているところを見ると,同時期に流通していた食品が汚染されていた可能性が高いと予想される.

 飲食チェーン店における広域の食中毒の発生は,近年顕著になってきた食中毒の形態の一つであり,物流の迅速化・広域化に伴い,このような事例の発生が今後も続くことが予想される.国民に対して生肉を食さないなどの啓発が必要であり,また食品業界・外食産業も安全な食品を,安全な方法で提供することへ,一層努力を傾注してもらわねばならないが,早期の探知と対応についてもシステムの整備が必要である.

 本稿においては,広域に発生する食中毒の事例,diffuse outbreak(広域散発食中毒事例)についてのわが国の現状および課題,取り組みについて述べる.なお,食中毒であっても当初は行政的に感染症としての対応が進む場合が多いことから,「感染症・食中毒のdiffuse outbreak」と称している.

視点

保健所の数だけ保健所のあり方がある

著者: 西岡和男

ページ範囲:P.506 - P.507

 私は26歳で川崎市の保健所に勤務して以来,多くは市町村活動を含んだ政令市型保健所で,40年間公衆衛生活動をやってきた.これから先3度目の定年[初回:福岡市保健福祉局58歳,2回目:九州大学63歳,3回目(予定):大牟田市保健福祉部71歳]を迎えるまで,生涯現役で保健所の日々の仕事を楽しむつもりでいる.

特別記事

放射能の中で暮らす(上)―被災地・福島を訪れて

著者: 船元康子

ページ範囲:P.548 - P.551

 2011年3月11日の東日本大震災から1か月も経たない4月1~4日,私はカメラを手に,被災地・福島を訪れた.

連載 人を癒す自然との絆・24

エイズ患者とペットを支える

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.552 - P.553

 1990年代,私はワシントンDCに住み,HIV/AIDSとともに生きる人々のドキュメンタリーに取り組んでいた.当時はアメリカでもまだエイズに対する怖れや偏見が強く,家族からさえも疎外されるエイズ患者が少なからずいた.

 そのとき強く印象に残ったのは,私が取材していた10人ほどのHIV感染者やエイズ患者のうち,ほとんどの人が犬や猫などのペットと暮らし,その存在を大きな支えと感じていたことである.免疫システムの低下している人たちがごくあたりまえに動物と暮らし,彼らの主治医もそれを支持していたことに,驚き,感心したものだ.

保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・4

発表する学会を選ぶ

著者: 中村好一

ページ範囲:P.555 - P.559

 いよいよ今回から本題に入る.まずは,「学会とは何か」の理解を.

地域づくりのためのメンタルヘルス講座・4

ホームレスとはどのような状態をいうのですか? またホームレスの人たちの抱えるメンタルヘルスの問題の特徴と支援上の注意事項を教えて下さい

著者: 森川すいめい

ページ範囲:P.560 - P.563

ホームレスという状態について

 わが国では,「ホームレス」という言葉が「名詞」として使われることが多く,あたかもそのような特殊な人種があるかのような錯覚に陥る.しかし本来は,ホームレスは状態を表す「形容詞」であり,ホームレスという特殊な個人があるということではない.この理解によって,本稿で示したいことの8割はお伝えできる.

 国の時限立法である「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成十四年八月七日法律第百五号)」に,ホームレスとは,都市公園,河川,道路,駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし,日常生活を営んでいる者との定義がある.諸外国においても,ホームレスに関する法律があり,それぞれの定義は若干異なる.米国では夜間に住居がない者,ドイツでは賃貸借契約によって保証された住居を持たない者,イギリスでは暴力等によって安心した生活を送る場所が確保できない者(少し広く定義される)が含まれる.このように,各国で定義上の差異は見られるが,共通して言えることは,ホームレスとは“homeがない状態”を意味するという点である.

保健所のお仕事─健康危機管理事件簿・16

集団胃腸炎への対応(平成10年度)その2

著者: 荒田吉彦

ページ範囲:P.564 - P.566

 先日,「連載を読んでいるよ」と言ってくれた人がいました.ただ,「中身は読んでいないけど,最初の部分だけ」とのことでした.ということで,今回も臆面もなく,タイムラグのある話題からいきます.被災地の復興も十分に進まず,原発をめぐる動きも混迷する中,4月21日,田中好子さんが亡くなりました.

 その時々において,岡崎友紀,岩崎宏美,石野真子,薬師丸ひろ子等々,好きだったアイドルはたくさんいます.しかし,キャンディーズは特別な存在でした.そして,私はスーちゃんのファンでした.毎週,「8時だョ!全員集合」や「みごろ!たべごろ!笑いごろ」を楽しみに見ていました.最近はそういう機会も少なくなりましたが,今もキャンディーズのシングル曲は全て歌えます.

リレー連載・列島ランナー・28

国際保健のスキルを故郷へ

著者: 四方啓裕

ページ範囲:P.567 - P.570

はじめに

 このエッセイを執筆中に東日本大震災が発生し,その後全国の公衆衛生職の皆さんが被災地で支援活動に従事されています.震災により被災された方々に心からお見舞い申し上げますとともに,支援活動に当たっておられる皆さまに心から敬意を表します.

 さて,このたび山梨県峡東保健福祉事務所の藤井充先生からバトンを受け継ぎました.藤井先生とは平成22年の夏に(財)日本公衆衛生協会と全国衛生行政研究会が姫路市で共催した保健所技術系職員研修でお目にかかりました.若々しい研修生が多いなかで,初々しい「中年期医師」同士ということで,親しくさせていただいたわけです.

世界の健康被害・7

“風下に生きる”ということ

著者: 鎌仲ひとみ

ページ範囲:P.572 - P.573

原発震災以後

 東京電力福島第一原子力発電所の事故は,2か月をとうに過ぎても収束する気配すらない(5月26日現在).様々な技術的な困難が立ちはだかっており,収束どころか,事態は悪化しているように見える.

 世界で類を見ない原発事故が現在進行形で放射性物質を日々放出し続けているので,これまで私たちが体験したことのない事態が次々と出現している.日本社会はこの原発震災で,今も揺れ続けている.

お知らせ

第32回保健活動研修会 フリーアクセス

ページ範囲:P.524 - P.524

日時:平成23年8月24日(水)~8月26日(金)

開催場所:自治医科大学地域医療情報研修センター(自治医科大学構内施設)

 〠329-0498 栃木県下野市薬師寺3311-160

映画の時間

―このちいさな命を救いたい.大切なことは何かを教えてくれる希望の物語―いのちの子ども

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.537 - P.537

 イスラエルとの紛争下にあるパレスチナのガザ地区で生まれた,生後4か月半になるムハンマドは,先天性免疫不全症候群に罹っています.病状が重くなり,母親ライーダとともに,ガザに隣接するイスラエルのテルハショメール医療センターに搬送されました.映画は,ジャーナリストでもあるエルダール監督が,この医療センターを訪ねる場面から始まります.監督自らが担当するナレーションにより,親子の置かれている状況がわかってきます.

 ガザ地区の住民はイスラエルに入国することは原則として許可されず,例外的に,重病のために治療を必要とする場合だけは,イスラエル側の医療センターに入院することが許されています.免疫不全のため陽圧の無菌室に入院しているムハンマドですが,主治医のソメフ医師は早急な骨髄移植が必要と考えています.しかし,貧しいガザ地区の住民であるムハンマドの家族には,医療費を工面することはできません.他に有効な治療法はなく,骨髄移植を行わないのであれば,ムハンマドはガザ地区に帰らなければなりません.それは彼の死を意味します.

沈思黙考

命の大切さを思う

著者: 林謙治

ページ範囲:P.547 - P.547

 震災に襲われてから1か月半経ちました(注:本コラム執筆時).この間被災地区のみなさまは震災当時の恐怖,そして被災の悲しみのためにたいへんな精神的負担を強いられているに違いない.また,これからの生活問題や健康のことなど様々な不安を抱えたまま,日々を重ねなければならない状況は察するに余りある.直接の被災者でなくても,たいへん身近な例として,われわれが一生に一度体験できるかどうかほどの大災害に遭遇して,読者諸氏も各自の人生に照らし合わせて,それぞれ思うところがあったと思います.

 阪神・淡路大震災以降,災害時の入院患者救助についていろいろ検討されてきたが,当国立保健医療科学院では2年前から,特殊な治療を必要とする難病患者に焦点を当てて調査を行ってきた.このなかで気づいたことは,阪神・淡路大震災当時と違って難病患者であっても,かつて特殊な治療技術の多くは,最近在宅でも可能になったということである.つまり脳卒中そのほか一般的な疾患も含めて,近年在宅医療の技術的な進歩および推進により,災害時に救助対象となる病弱者は,過去に比べ地域により多く居住するようになったという事実に注目する必要があることを申し上げたい.

読者の声

老人介護の現場から見た公衆衛生への期待

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.559 - P.559

 筆者は長らく公衆衛生の現場である保健行政に携わってきたが,退職後第二の職場として老人保健施設に10年近く従事している.この10年はめまぐるしい政権交代や経済不況などから,公衆衛生分野も医療や老人福祉分野も振り子のように,現場も対策も振り回されている観がある.そこで,老人介護の現場,またさらに広く外野席から,今後の公衆衛生や保健医療行政への期待を込め,いくつかの課題を提言したい.

予防と臨床のはざまで

Rescue 311の取り組み

著者: 福田洋

ページ範囲:P.571 - P.571

 3月末に突然,山形大学の同級生で,現在群馬県で小児科医をしている椎原隆先生から電話がかかってきました.「ボランティア医療従事者による,被災者向けメール医療相談」のプロジェクトに関わらないか,というお誘いでした.3.11の震災直後から,ツイッターやmixiなどで個別に医療相談を受け付けている医師はいました.しかし多くのボランティア医療従事者がチームとなって,被災地から比較的簡単にアクセスできるメールでの医療相談を受けるサービスは,当時まだありませんでした.チームに内科医が少ないということで,「少しでも自分にできることを……」と思い引き受けました.こうして3月末に10人の発起人の医師が集まり,Rescue 311(http://www.311er.jp/)の取り組みはこぢんまりと始まりました.

 しかし,その後たった2週間で協力してくれる医師,医療従事者は180人を超えました.そのスピードに驚きましたが,「何か力になりたい,でも様々な理由でなかなか現地に行けない」という医師,医療従事者は多かったと思います.そんな人たちの思いが一気に集まったかのようでした.今や内科や小児科にとどまらず,外科,産婦人科,精神科,脳外科,耳鼻科,眼科,皮膚科,整形外科,リハビリ科,形成外科,麻酔科,歯科・口腔外科の先生方が,多忙な日常業務の中,協力して下さっています(4月24日現在).

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.575 - P.575

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.576 - P.576

 「3.11東日本大震災を意識した特集かな?」.本号の表紙を見て,そう思われた読者もいらっしゃったかも知れませんが,今回の特集内容は,昨年12月中旬に企画されました.当時は,その3か月後に未曾有の健康危機が日本に迫っているという兆候など,何もありませんでした.

 健康に影響を及ぼす様々な危機事象の兆候を早期に把握し,危機回避や被害拡大防止を図るための最近の取り組みや,先端研究などを幅広く紹介できたのではと思っていたのですが,一方で今回の大震災を経て,「健康危機」という分野の奥深さを痛感した次第です.震災で犠牲になられた方々のご冥福をお祈りしますとともに,被災された方々に心よりお見舞い申し上げます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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