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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生75巻8号

2011年08月発行

文献概要

視点 公衆衛生のアイデンティティを求めて・1

公衆衛生とは何だろう?

著者: 實成文彦1

所属機関: 1山陽学園大学

ページ範囲:P.578 - P.584

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危機の時ほど公衆衛生が見える

 20世紀半ばからのわが国の公衆衛生は,1946年の日本国憲法の制定,および日本社会への民主主義・民主的手法の導入や全国各地の地域保健活動の発展等とともに,また,1946年のWHO憲章や世界人権宣言などの世界的潮流の中で比較的順調に発展し,わが国が高度経済成長を遂げた後はかってないほどの高い健康水準・公衆衛生水準に達した.その後,世界的にはプライマリヘルスケアやヘルスプロモーションが提唱されその推進が図られたところであるが,わが国においても数々の施策と法・制度の改革・充実,そして各地における保健医療福祉活動がなされた.2000年前後においては,乳児死亡率,平均寿命,健康寿命等の健康水準においては世界一の国であるとされ,わが国の公衆衛生の誇るべき成果と思われた.

 しかしながら,2001年の日本公衆衛生学会評議員に対するアンケートによると,公衆衛生のアイデンティティは,その6割が「今,揺らいでいる」と答えている1).背景には,20世紀末から21世紀初頭にかけての流動化し混迷を極めたわが国の社会状況もあると思われるが,そもそも「公衆衛生」という言葉自体が,日本社会から急速に姿を消していった時代でもあった.マスコミのニュースでも「公衆衛生」という言葉が登場することは極めて稀であり,全国の医科大学・医学部においては,長年の衛生学,公衆衛生学の2講座制が崩れ,1講座となったところもあれば,「公衆衛生」あるいは「衛生」という名を冠した講座が急速に減少した時代でもあった.国立公衆衛生院も国立保健医療科学院へと名称を変更し,公衆浴場が減り,公衆電話が姿を消し,個人の携帯電話が爆発的に普及していった.「公衆衛生」に限らず「公衆」を冠する名称が消えていき,21世紀は“個人の時代”となることを感じさせた.

参考文献

1) 實成文彦:2001年,新世紀の出発点にたって―公衆衛生の過去,現在,未来.日本公衛誌48(10)特別付録:41-46,2001
2) 實成文彦:「健康をまもる社会基盤の再構築」と公衆衛生の課題,学会の役割.車谷典男,實成文彦(編):健康をまもる社会基盤の再構築―その糸口はどこか.日本公衆衛生協会,pp57-76,2010
3) 實成文彦:公衆衛生の新しい潮流と公衆衛生看護学への期待―分析し,統合せよ,そして社会に役立てよ.保健の科学53(6):364-375,2011
4) 福田好治,今井博久:日本における「健康格差」研究の現状.保健医療科学56(2):56-62,2007
5) 日本学術会議社会学委員会・経済学委員会合同包摂的社会政策に関する多角的検討分科会:提言;経済危機に立ち向かう包摂的社会政策のために.2009年6月25日 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/Kohyo-21-t79-1.pdf
6) 阿部彩:特集/反貧困最前線;日本の子どもの貧困―失われた「機会の平等」.学術の動向14(8):66-72,2009
7) 井上智恵子:養護教諭から見た子どもたちの健康と社会格差の現状―千葉県市川市の場合.学校保健研究51(Suppl):66-67,2009
8) 實成文彦:特集/社会格差の広がりと子どもの健康;社会格差の広がりと子どもの健康をめぐって.学術の動向15(4):66-74,2010
9) 小林章雄:特集/社会格差の広がりと子どもの健康;現代社会の子どもの不健康,社会格差,学校保健の課題.学術の動向15(4):75-81,2010
10) 関根道和:特集/社会格差の広がりと子どもの健康;格差社会と子どもの生活習慣・教育機会・健康―社会の絆で格差の連鎖から子どもを守る.学術の動向15(4):82-87,2010
11) 日本公衆衛生学会公衆衛生モニタリング・レポート委員会:公衆衛生モニタリング・レポート(1)経済変動期の自殺対策のあり方について.日本公衛誌57(5):415-418,2010
12) 實成文彦,他:地域保健医療福祉計画における母子の包括的保健医療福祉の確立を指向した保健指標・評価基準の設定について その1 保健医療計画の立案と評価の視点.四国公衆衛生学会雑誌38(1):208-217,1993
13) 實成文彦:特集/子どもの心身の健康を守り,安全・安心を確保するために学校全体としての取組を進めるための方策について(中央教育審議会答申)から学校保健法等の改正と児童生徒の健康問題;日本学校保健学会のパブリックコメントと中教審答申及び法改正への対応.学校保健研究50:340-357,2008
14) 日本学術会議健康・生活科学委員会子どもの健康分科会:報告 日本の子どものヘルスプロモーション(2010年7月12日).日本学術会議ホームページ http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/2010.html
15) 日本学術会議 労働雇用環境と働く人の生活・健康・安全委員会:提言;労働・雇用と安全衛生に関わるシステムの再構築を―働く人の健康で安寧な生活を確保するために.http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo-21-t119-2.pdf
16) 日本学術会議会長談話:放射線防護の対策を正しく理解するために.2011年6月17日 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/Kohyo-21-d11.pdf
17) 日本公衆衛生学会専門職制度検討委員会 相澤好治(委員長):専門職制度検討委員会報告;Ⅲ公衆衛生専門職について.日本公衛誌55(12):859-863,2008
18) 日本公衆衛生学会:公衆衛生学専門能力認定に関する規定;日本公衆衛生学会認定専門家新規認定申請要項.日本公衛誌56(11):776-777,2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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