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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生75巻9号

2011年09月発行

文献概要

特集 分権型社会における公衆衛生の課題―現場知と専門知の保証

公衆衛生の現場知と専門知

著者: 高鳥毛敏雄1

所属機関: 1関西大学社会安全学部社会安全研究科

ページ範囲:P.662 - P.667

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公衆衛生の「現場知」「専門知」

 中央集中型社会となり,地方や地域の現場が軽視される傾向が強まってきている.公衆衛生は,地域で生活する人々の健康問題に関わる活動であるので,このような状況は公衆衛生制度の危機と言える.公衆衛生制度の基盤は「現場知」にある.公衆衛生制度を大樹に例えると,地面深く伸びている太く長い根がなければ,大樹を支えられない.わが国の公衆衛生制度も,全国の隅々で行われている,保健所や自治体の仕事により支えられている.対人保健サービスの上では,全国のどの地域においても,地域を担当する保健師が配置されていることにより維持されていると言える.

 公衆衛生が最も輝かしい時代であった19世紀は,疾病の原因は環境要因の占める割合が高く,汚染された給水,不適格で密集した住宅,栄養,職業要因,児童労働が大きな社会問題であった.これらの問題が人々の健康に極めて大きな影響を及ぼしていることは,誰の目にも明らかであった1).これら社会問題に対するためには,中央政府とは別に,現実に軸足を置く地方自治体制度を育てなければならなかった2).さらに現場で行っていることを調査し,その問題解決をはかるためには,専門職を地域に配置する体制づくりが必要となった.つまり,「現場知」と「専門知」の組み合わせにより,公衆衛生制度の形ができたと言える.公衆衛生の「専門知」とは,単に科学的であるというだけで成り立っているわけではない.公衆衛生制度ができた19世紀半ばの時代には,まだ微生物学などの医科学が確立されてはいなかった.チャドウィック,ナイチンゲールの時代はミアズマ説に基づき,清潔に保つこと,特に環境の衛生対策が疾病の制御に重要であることが「現場知」として認識されはじめた1,3,4).重要な点は,法律に基づいて決められたことを行うことから,現実の健康問題を分析し,その解決策を中心に考えて仕事をする専門職が一体となって,問題解決にあたるようになったことである.

参考文献

1) 多田羅浩三,高鳥毛敏雄:健康科学の史的展開.放送大学教育振興会,2010
2) 岡田章宏:近代イギリス地方自治制度の形成.桜井書店,2005
3) 奥地幹雄・西俣総平(訳),B Dixon(著):近代医学の壁―魔弾の効用を超えて.岩波現代選書,岩波書店,1981
4) 多田羅浩三:公衆衛生の思想―歴史からの教訓.医学書院,1999
5) 橋本正己:公衆衛生現代史論.光生館,1981
6) 尾崎浩(訳),イヴァン・イリイチ(著):専門家時代の幻想.新評論,1984
7) 藤垣裕子:専門知と公共性―科学技術社会論の構築へ向けて.東京大学出版会,2003
8) Commission on Social Determinants of Health-final report:Closing the gap in a generation;Health equity through action on the social determinants of health. WHO, 2008
9) Alison Hill, Sian Griffiths, Stephen Gillam:Public Health and Primary Care Partners in Population Health. Oxford University Press, 2007
10) 高鳥毛敏雄:わが国の貧困と医療の課題―英国との比較から.貧困研究2:51-58,明石書店,2009
11) 高野健人:健康の社会的決定要因とそれに対する健康政策の国際動向―健康都市プロジェクト.公衆衛生73(7):101-105,2009
12) 高鳥毛敏雄:米国,イギリス,ドイツにおける結核医療の提供体制.結核85(2):98-101, 2010
13) 林謙治:リーダーシップの養成―英米との対比から.公衆衛生68(1):31-34, 2004
14) 高鳥毛敏雄:ロンドンの公衆衛生体制と結核対策戦略.公衆衛生69(3):203-208, 2005
15) Faculty of Public Health of the Royal Colleges of physicians of the United Kingdom;Public Health Training Curriculum 2010, FPH of RCP, 2010
16) 高鳥毛敏雄:英国における公衆衛生人現任教育の現状―Faculty of Public Healthプログラム.公衆衛生73(3):200-205, 2009
17) DH/Public Health:Review of the Regulation of Public Health Professionals. UK Department of Health, 2010
18) 高鳥毛敏雄:自治体が中心の健康政策への期待と意義.公衆衛生73(7):497-501, 2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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