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特集 分権型社会における公衆衛生の課題―現場知と専門知の保証
英国における公衆衛生の人材育成制度―専門知,現場知の観点から
著者: 高野健人1
所属機関: 1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進医学
ページ範囲:P.672 - P.676
文献購入ページに移動英国ロンドンの南,エレファント・アンド・キャッスル交差点近くには,かつて保健所として使われていた建物がある.その正面には,“The health of the people is the highest law”というローマの哲学者キケロ(BC106~BC43)の言葉のレリーフがある(写真1).
“人々の健康こそ最高位におくべき法律である”といった意味だと思うが,筆者は,この言葉を好んで壁に掲げた人々に,公衆衛生に携わる者の矜持を感ずるのである.
ひるがえって日本の保健所で,先日,筆者は珍妙な言葉を職員から聞いた.「いくら住民の健康に資する活動をやりたくても,法律の後ろ盾がないことはやれないんですよ」と言うのである.
キケロの言葉は,人々の健康はかけがえのないもので,住民の健康を,あらゆる法の上にあるとするが,われわれの身の周りでは,人々の健康は“法の下”に位置付けられているのである.
仕方のない面もある.日本はローマ時代にあるわけではない.
住民の健康ニーズ,高齢者の健康ニーズ,障害者の健康ニーズ,様々な困難下にある住民の健康ニーズ,等々.そこには,住民が真剣に求めていることがある.公衆衛生の専門家であれば,難しいニーズを抽出し,エビデンスを集約し,多くの人々のコンセンサスを得る能力を身に付けているものである.
専門的能力を有する人材を育成することは重要である.しかし,一朝一夕にはできない.求められている専門性は,自然発生的にできるのを待つような専門性ではない.やはり,そのための養成プログラムが必要である.
どのような専門技能を身に付ける必要があるのか.なぜそのような専門技能が必要なのか.こうしたことについて,英国の事例には学ぶべきことは多い.
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