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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生76巻1号

2012年01月発行

雑誌目次

特集 生食のリスク

フリーアクセス

ページ範囲:P.5 - P.5

 昨年春に,焼き肉のチェーン店で腸管出血性大腸菌O111による食中毒が発生し死者が出る事件が起こりました.この原因は店で提供されたユッケ(牛生肉)を食べたことでした.また,その直後にドイツなどで腸管出血性大腸菌O104による食中毒と推定される感染症が発生し,多数の死者と重症者が出る事件も起こりました.この原因は意外にも野菜(sprout)でした.さらに,同様に昨年春,従来は寄生虫はいないと考えられていた馬肉と養殖ヒラメから,それぞれ食中毒を引き起こす寄生虫がいることが発見されました.

 現在のわが国では,牛肉の刺身やユッケをはじめとして,牛や豚のレバ刺し,鶏肉の刺身など,いわゆる食肉の生食が一般化しています.さらにシカやクマといった野生動物を生食する地域もあるようです.しかしこれらの肉の生食には,さまざまな感染症や寄生虫症にり患するリスクがあります.

生食はリスクが伴う―日本人の生食文化の歴史と安全性

著者: 奥村彪生

ページ範囲:P.6 - P.10

世界の中で魚を好んで食べている日本人

 日本列島はユーラシア大陸の東端,太平洋北西部に位置する弧状列島で,気候は北は亜寒帯から南は亜熱帯にまで属する.この列島は暖流の黒潮とその分岐流である対馬海流,ならびに寒流の千島海流とリマン海流に囲まれている.そのために地域により気候風土が異なる.したがって地方により獲れる魚介の種類も異なり,豊富である.

 これらの魚介をいさり(漁(いさ)る:「磯刈る」の約転.または「あさる」の転.魚介をとる.あさる),すなどって(漁(すなど)って)食べ始めたのは,1万年ほど前のことだと言う.

肉の生食と感染症・食中毒

著者: 工藤由起子

ページ範囲:P.11 - P.18

はじめに

 日本では刺身など魚介類の生食は以前から親しまれているが,近年では牛,馬,豚,鶏などの食肉を生食することを好む消費者が増えている.また,イノシシ,シカなどの野生動物の肉も,捕獲地域では刺身などとして生食される機会があることが知られている.しかし,それらの動物が人に危害をもたらす微生物を保菌する場合があり,感染例や食中毒が報告されている.

 2007年に行われた肉や卵の生食についての喫食実態調査1)では,鶏肉または牛肉を生食または生に近い状態で食べる機会があると20%以上の人が回答し,内臓肉でも約10%の人が生食の機会があると答えている(表1).また,豚肉と豚内臓肉では,鶏肉と牛肉よりも低くはあるが数%の人が生食する結果であった.加熱不十分な場合にでも,そのまま喫食する人が牛肉で40%以上とかなり多かった.さらに,卵については90%以上の人が生卵と半熟卵を喫食すると回答し,日本では卵の生食または加熱不十分の調理が好まれていることがわかる.鶏卵を使った食品でのサルモネラ食中毒は多数発生しており,その多くは生か加熱不十分であることが言われているため,卵の喫食方法の嗜好が食中毒のリスクを高めているのかもしれない.

 肉や卵の生食によって,食中毒を起こす危害微生物は多数知られているが,微生物によっても関連する食品に特徴が見られる(表2).本稿では,サルモネラ属菌(Salmonella)およびエルシニア属菌(Yersinia)について解説する.

生食と腸管出血性大腸菌

著者: 寺嶋淳

ページ範囲:P.19 - P.23

 1982年に米国でのハンバーガー食中毒の原因菌として見出された腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E. coli:EHEC)O157:H71)は,牛などの反芻類が腸管内に保菌するため,解体時に汚染した牛肉や肉製品が主とした感染源になることが多い.また,EHECを含む糞尿による水や土壌等の汚染により,飲料水や様々な農産物の二次汚染を引き起こすため,野菜,果物,ジュース,牛乳など多様な食材がEHECの感染源として報告されている.EHECは重要な食中毒の原因菌であると同時に,100個程度の少数菌での感染が成立する2,3)ために,ヒトからヒトへの二次感染,動物からの感染等を含め,感染症起因菌としても重要な位置づけがなされている.EHEC感染症の病態は無症状の場合から下痢のみで終わるもの,血便を伴い重篤な合併症を併発し死に至るものまで様々である.特に溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)は,EHEC感染に続いて発生することが多く,EHEC O157:H7に感染した10歳以下の子どもでは約15%が発症する危険性があると言われている4).若齢者や高齢者においては十分に注意すべき感染症であると言える.

 EHEC感染症に対して様々な予防対策が講じられてきているが,発生動向調査に基づくEHEC感染者の報告数は漸増状態が続いており,EHEC感染症の制御の難しさを物語っている.また,近年の食肉の生食ブームにより,食肉等の生食が原因と考えられるEHEC感染事例が少なからず報告されている.食肉は十分な加熱調理をすることでEHEC感染を予防することが可能であるが,食肉を生食することはEHEC感染リスクを高めることになり,特に若齢者や高齢者は食肉の生食をすべきではない.

生食とカンピロバクター

著者: 伊藤武 ,   和田真太郎

ページ範囲:P.24 - P.29

 カンピロバクターは1950年代には下痢症状がある患者の血液培養から時々検出されていたが,糞便からの分離培養に成功していなかった.1972年になって,ベルギーの内科医Butzlerらは,下痢患者の糞便を濾過することにより,初めて糞便からカンピロバクターを証明し,本菌の下痢原性を明らかにした.その後,カンピロバクターの選択分離培地や簡易な微好気培養法が開発され,カンピロバクターは最も主要な下痢症原因菌であること,食品や飲料水による感染が頻発していることが明らかにされてきた.国内においても1983年,厚生省(当時)はカンピロバクターを食中毒と位置付け,食品衛生からの対策が重要であるとした.

 本稿では,カンピロバクター食中毒の概要と家畜・家禽における分布,食肉汚染について紹介し,カンピロバクター食中毒,特に鶏肉やレバーの生食によるカンピロバクター食中毒とその対策について解説する.

食肉・野生動物の生食と寄生虫症

著者: 山﨑浩 ,   森嶋康之 ,   八木田健司

ページ範囲:P.30 - P.36

はじめに

 豚肉や牛肉などの食肉からヒトが感染する寄生虫は古くから知られているが,最近,豚レバーや馬肉を感染源とする新興寄生虫症による食中毒事例の発生,さらに,狩猟や獣害対策で得られた野生動物肉(ジビエ)を地域振興策の一つとして販売する動きも見られ,これらを感染源とする寄生虫の種類は多様化の傾向がある(表).そこで,食肉に潜む寄生虫とヒトとの関わりについて理解しておくことは,食の安全や感染予防の観点から重要と考えられる.字数に限りがあるので,本稿では,食肉を感染源とする寄生虫の中で公衆衛生学的に重要な寄生虫や,最近話題になっている寄生虫を中心に概説する.

魚介類の生食と感染症・食中毒

著者: 荒川英二

ページ範囲:P.37 - P.39

はじめに

 日本は周りを海に囲まれていることや,暖流寒流が交わり豊富な魚種が生息することから,古くから様々な魚介類を喫食してきた.しかし,わが国の沿岸は腸炎ビブリオなどの微生物の生息域でもあり,その中には人に病原性を示すものも含まれているため,病原菌の付着した魚介類の生食による食中毒も毎年必ず発生している.

魚介類の生食と寄生虫症

著者: 三島伸介 ,   西山利正

ページ範囲:P.40 - P.46

はじめに

 地球上の各国・地域にはそれぞれ固有の食習慣・食文化が存在し,人々の生活と密接な関係を構築している.わが国で見られる特徴的な食習慣の1つが,寿司や刺身に代表されるような魚介類の生食である.魚介類の体内に寄生虫が寄生していることについては広く認識されているものの,そうした寄生虫も種によっては人体に取り込まれて,何らかの健康問題を発生し得るものが存在する.公衆衛生学の発展や衛生教育の普及,生活基盤の整備拡充などによって,例えば回虫の感染率は1949年に全国で73.0%という大きな流行を示していたが1),1995年の厚生省統計では0.02%と大幅に減少している.これは回虫に限ったことではなく,わが国の寄生虫感染率は減少の一途を辿り,1994年には寄生虫病予防法が廃止されるまでに至った.しかしながら,わが国の生鮮魚介類を食材とした食文化を背景として,そうした食材の生食によって感染する寄生虫疾患は,今日でも一般臨床の場において認められ,決して稀な感染症ではないという認識が重要である.

 感染源となり得る魚介類とそれに関連する寄生虫感染症について表にまとめた.表に示す通り,感染源となる魚介類種は稀にしか遭遇しないものも含まれるが,多くは身近に存在するものであることがわかる.すなわち,一般的な居住環境の範囲内にあるような市場で販売されている魚介類の中にも,人の健康に影響を与え得る寄生虫感染症の感染源となるものがあり,普段の生活を営む中で,いつそうした魚介類と遭遇しても不思議ではないのである.これら魚介類は普通に家庭での食卓に並ぶものでもあるし,外食で訪れた食堂や料亭などでもよく見られる食材である.

 ただし,わが国においては日々の生活の中でこうした食材が大量に消費されている状況にあるものの,その多くの人々の中の年間数例から数十例程度,寄生虫感染症が認められているに過ぎないというのもまた事実である.仮に魚介類生食によって寄生虫感染症を発症したとしても,適切な診断と治療さえ行われれば,重篤化して致死的となる可能性は低いと考えられる.したがって,こうした魚介類を過剰なまでに忌避する必要はないであろうし,こうした食習慣・食文化と日常の生活とは切っても切れない関係にあると思われ,そうであるからこそ我々は,魚介類の生食によって起こり得る寄生虫感染症の存在について,正確な認識を持つことが望まれる.

 本稿では,魚介類の生食によって起こり得る寄生虫症について,線虫類,吸虫類,条虫類に分けて,わが国で実際に遭遇する可能性の高いものについて解説する.

生野菜と寄生虫症

著者: 宇賀昭二

ページ範囲:P.47 - P.49

はじめに

 寄生虫は複雑な生活史を有しているが,その約70%は経口感染する.これら経口感染する寄生虫のうち,原虫類は宿主から排泄されたシストやオーシスト注1)が水や土壌中で成熟した後,直接感染する場合が多い.一方,蠕虫類は虫卵が体外で成熟して感染する場合に加えて,中間宿主や保虫宿主を介して感染する場合が多い.

 ヒトが生野菜を介して感染するケースでは,シスト(オーシスト)や虫卵などが外界で発育して感染する,いわゆる土壌媒介性の感染経路を有する寄生虫が中心となるが,それ以外にも中間宿主が野菜などに紛れ込んでいて感染する場合や,被囊したメタセルカリア注2)が水草などに付着し感染する場合もある.

生水と原虫症(生水のリスク)

著者: 泉山信司 ,   八木田健司 ,   永宗喜三郎

ページ範囲:P.50 - P.53

はじめに

 飲料水を介して伝播する病原体は腸管感染性の細菌やウイルスがよく知られるところであるが,寄生虫学分野においてもクリプトスポリジウム,ジアルジア,赤痢アメーバなどの原虫類(真核単細胞生物の寄生虫)が知られている.従来は煮沸消毒により,近年はボトル水の利用が進んで生水の利用は回避されているが,それでもキャンプ場の水道施設や地域の小規模水道を介した感染事故は起きている.腸管感染性の病原体の感染経路は単純で,便に混じって排出された病原体により食品や水が汚染されることによる,いわゆる糞-口感染である.水の糞便汚染は直接的な感染源になるばかりでなく,間接的な食品汚染などにつながり,大きな事故に発展する.一方,山間部に降り注いだ雨が海に達するまでの間,取水・使用・排水が繰り返され,水は容易に糞便汚染を受ける.そのため,安全な飲料水の確保には,消毒やろ過といった水処理が必須となっている.

 1848年に始まったロンドンのコレラの大流行においては,3万人が罹患して1万人以上が死亡した1).この事例では後に水道水の汚染が疑われ,1854年の再流行では水道を止めることで流行が収束している.この時の調査がいわゆる疫学の始まりとされる.一方,原虫症においても水の汚染の影響は大きく,1993年のミルウォーキーの水道水を介したクリプトスポリジウム症の水系集団発生では,感染者は40万人に及んだとされる2).わが国も例外ではなく,1996年に埼玉県越生町の水道水を介したクリプトスポリジウム症の水系集団感染で,地域住民の6割強の8,800人が発症したとされる3)

 国内の水系感染に関する統計はないが,原虫に限らず,細菌・ウイルスを含む様々な水系集団感染が報告されている(表1).細菌性水系感染事例の手集計によれば,過去15年間に少なくとも84件の飲料水起因の集団感染が発生し,井戸水がその内の5割,湧水・沢水では1割であった(表2).少数の感染が見落とされて集団感染に偏った可能性は否定できないが,患者数は3万人以上に及び,生水や不適切な管理下の井戸水に感染症のリスクが指摘される.

視点

結核分子疫学体制の今―克服すべき課題と展望について

著者: 和田崇之

ページ範囲:P.2 - P.3

 結核菌の遺伝子型別(菌株ごとに存在する遺伝子レベルでの個性のこと.菌株間の相似性や異同判定に役立つ)は,ヒト-ヒト間の伝搬経路を詳細に分析する上で,示唆に富んだ情報を提供しうる.結核の伝搬経路における唯一の手がかりであった聞き取り調査(実地疫学)に加え,菌株からの遺伝情報を比較,検討することによって「第二の手がかり」を見出すことができる(分子疫学).2011年5月に一部改正された「結核に関する特定感染症予防指針」(厚労省)には,分子疫学的サーベイランスの構築や研究推進の必要性が明記され,各自治体,地方衛生研究所(以下,地衛研)を中心に,普及展開の機運が高まっている.

特別寄稿

被災地における感染症対策

著者: 浦部大策 ,   帖佐徹 ,   岩田欧介

ページ範囲:P.54 - P.59

 われわれの日常を支えている医療というものは,その性質から大きく二種類の活動に分けてとらえることができる.診療と保健である.診療は疾病に罹患した患者を治療することを目的とした活動であり,保健は疾病に罹患する前の早期発見や予防を目的とした医療活動である.大規模災害では建物や施設,人の被災を通して医療活動にも影響が出ることが多く,ダメージに応じた応急的な対応が必要である.

 災害による診療所や病院施設の破壊,医療マンパワーの被災,災害で受傷した救急患者の大量発生といった状況から,治療を求める人たちの混乱は目につきやすく,診療活動は現地に緊急支援の必要な医療として認識されやすい.しかし,保健へのダメージ,とりわけ上・下水道設備など衛生インフラ(infrastructureの略)設備が損傷されることによって,感染症への抵抗力が著しく低下することについては,その重要性が十分認識されていないように感じる.言うまでもなく上水施設は,感染症への対応を施した安全な水を給水する設備であるし,下水施設は汚水・汚物中の病原微生物を処理して外部への拡散を抑える設備である.したがってそれが破壊されるということは,地域社会が備え持つ,感染症に対する予防能力が著しく損なわれることを意味する.さらに被災地においては,被災と避難所での集団生活で受けるストレスにより住民は心身ともに疲弊するが,これは感染症流行の見地から言えば,ホストの抵抗力減弱を意味する.被災地ではこのように感染症が生活に入り込みやすい危険な状況が揃うわけであるから,感染症の大流行の阻止に,危機管理の認識を持って対応することが非常に重要になる.

連載 人を癒す自然との絆・30

食を通じてつくるコミュニティの絆

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.60 - P.61

 成人の66%が体重オーバー,1/4近くがメタボリックシンドローム.カロリー過多の不健康な食生活と運動不足により,これだけ多くの国民が深刻な健康問題を抱える国は,アメリカの他にはそうないだろう.それだけに,この問題に対する危機感も強く,意識の高い市民の間ではさまざまな草の根の取り組みも行われている.

 カリフォルニアのセレス・コミュニティ・プロジェクトもその一つ.10代の少年少女たちが料理人となって,地元の食材を使い,地域に暮らすガンなどの重病患者とその家族のために食事をつくり,届ける,というものだ.設立は2007年とまだ新しいが,地域コミュニティの強い支持を集めている.

保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・10

さて,論文執筆(投稿雑誌を選ぶ)

著者: 中村好一

ページ範囲:P.63 - P.66

 前回までで学会発表の大まかな流れを説明した.本連載の趣旨は学会発表と論文執筆であり,今回からは連載後半1)の論文執筆2)に移る.

地域づくりのためのメンタルヘルス講座・10

支援へのインターネットの活用について教えて下さい

著者: 末木新

ページ範囲:P.67 - P.70

 本稿のテーマは,「(こころの健康問題の)支援へのインターネットの活用について教えて下さい」という質問にお答えすることである.平成10(1998)年には1割程度であったインターネット利用率も,現在では約8割に上っており,こころの健康問題に関する支援にもインターネットを導入していくことは重要な課題であると考えられる.それでは,こうした技術は支援を実施する際にどのように活用可能なのであろうか.この質問に答える前に,まず,現在の地域保健の課題について,筆者の専門である自殺予防の観点から振り返っておきたい.課題を明確にすることによって,インターネットをどのように活用すれば地域保健に効果的に寄与できるかを明らかにすることが可能になるからである.

フィールドに出よう!・1【新連載】

フィールドワークは宝さがし

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.71 - P.74

フィールドに出よう!

 と言ったはいいものの,「フィールドって何?」と,ここで躓くとなかなか先には進めない.単に「現地」とか「現場」と言っても良いのかもしれない.ところが,例えば日本文化人類学会が発行している『フィールドワーカーズ・ハンドブック』1)をその調子で訳すと,『現場労働者の手引書』となってしまう.人類学に限らず,多くの研究者や実践家は,たぶんこの「現場労働者」という響きを嫌う.差別,かもしれない.が,国際保健の分野でも,研究室の外に出て海外で活動をする際は,「フィールド」という言葉の響きのほうがより自然となっている.本連載では「フィールド」という言葉にこだわりたい.

リレー連載・列島ランナー・34

発災直後から重要であった口腔ケア―気仙沼で展開する口腔ケア・摂食嚥下・コミュニケーションサポート

著者: 古屋聡

ページ範囲:P.75 - P.78

 このリレー連載の原稿をふってもらって,自分としては初めて「公衆衛生」の雑誌に東日本大震災関連のお話をさせてもらえることを嬉しく思います.

 本誌には今後も,公衆衛生的視点が非常に大切である被災地活動の現場に具体的に役に立ち,なおかつ想像はしたくないが,次に備えられる知恵と意見を集約し,提供していってくれることを期待します.

資料

新型インフルエンザ流行時のインターネット検索頻度から見た情報の推移

著者: 梶木綾 ,   河合夏実 ,   倉田明奈 ,   垣本和宏

ページ範囲:P.79 - P.82

緒言

 2009年4月にメキシコおよびアメリカ本土で報告された1)豚インフルエンザは,その後,新型インフルエンザとして全世界に広がり,日本では2009年5月9日の成田空港検疫所での感染例の確認後,時期を追うごとに感染者が増加していった.過去のスペイン風邪の世界的な感染拡大の経験などから,新型インフルエンザの拡大は脅威となり,マスコミの連日の報道を通じて様々な情報が発信されていたが,その一方で,新型インフルエンザに関する情報をインターネットの知識検索サービスを通じて収集していた人々も多くいた.リスクコミュニケーションによる住民を交えた情報の共有は,住民の協力と共に,被害を軽減する点において重要であるため,感染時期やマスコミからの報道に対してどのように住民の関心が変化しているかを知ることは,今後,新興感染症が拡大する際のリスクコミュニケーションを考察する上でも有用な情報となる.

 そこでわれわれは,知識検索サービスでの質問件数の変化を分析し,さらに流行の時期やマスコミの報道に応じた質問内容の変化を検討することにより,新型インフルエンザに関する国民の関心の変化を明らかにした.

公衆衛生Books

―門林道子(著)―『生きる力の源に―がん闘病記の社会学』 フリーアクセス

ページ範囲:P.10 - P.10

 闘病記という患者の声に耳を傾けられるようになったのは,なぜか.闘病記は現代社会で,また書き手や読み手にとって,どのような意味をもつのか.医療者と患者・家族がお互いの理解を深めて,より良い医療を協働してつくり上げていく際に,闘病記が架け橋のように重要な役割を果たすという視点から本書を書き上げた.

映画の時間

―この愛だけは,死なせない.―運命の子

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.36 - P.36

 原題の「趙氏孤児」は,中国の歴史書「史記」の中で描かれているエピソードです.その物語をベースに,中国映画界の巨匠チェン・カイコー監督がメガホンをとった作品「運命の子」をご紹介します.

 今から2600年前,春秋時代の中国,晋の国.国王の側近・屠岸賈(とがんこ)は,国王を暗殺し,その罪を宰相・趙盾(ちょうじゅん)と,その息子・趙朔(ちょうさく)にきせ,趙家の一族300人を皆殺しにします.趙朔の妻は国王の姉・荘姫(そうき)でしたが,このクーデターのさなかに男子を出産します.荘姫はその男子を,出産に立ち会った医師・程嬰(ていえい)に託し,自らは自害します.程嬰は孤児となった男の子を連れて,命からがら自宅に戻りますが,彼の妻も男子を出産した直後でした.

列島情報

日本農村医学会

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.49 - P.49

 第60回日本農村医学会学術総会が岐阜市で開催された.メインテーマは「地域医療を守るための意識改革―限りある医療資源の活用に向けて」である.日本農村医学会は厚生連の病院が中心となった日本医学会の一分科会であり,学術総会では様々な職種・診療科からの話題が紹介され,公衆衛生および福祉に関連した報告も含まれる.

 今回は,東日本大震災を受け,「災害医療」についてのワークショップが行われた他,一般演題435題のうち,災害医療や災害対策に関する発表が15題あった.

沈思黙考

今回の災害から行政は何を学ぶか

著者: 林謙治

ページ範囲:P.62 - P.62

 震災が発生してから7か月が過ぎ(原稿執筆時),私自身初期の興奮状態からある程度冷静にものを考えられるようになった気がする.もちろんこれから解決しなければならないことはなお山積しており,そして本格的な復興はむしろこれからである.この間政府は縦割りであるとか対応が遅いなどと批判されてきたが,当国立保健医療科学院は行政権限がないとは言え,筆者も公務員の一人として批判を謙虚に受け止めたい.

 今回の震災の一つの特徴として,被災規模が大きいために多くの自治体で行政機能が麻痺してしまったことがある.そのために住民が市町村に救済を求めても対応が困難であった事例が少なくなかったようであった.また,市町村が県に対応を求めても,県側はやはり思うに任せない場面がしばしばあったと聞く.そこで反省点として,今回の災害対応から行政は何を学ぶべきかについて考えてみたい.

お知らせ

第42回 健康フォーラムin新橋(東京) フリーアクセス

ページ範囲:P.78 - P.78

日時:平成24(2012)年3月3日(土)10時~16時20分

場所:交通ビル・地下ホール(JR新橋駅[浜松町寄り]烏森口改札を右へ出て,駅前[新橋西口通り]に入り,3,4,5丁目角[そば作]を直進.「喫茶ニューカリフォルニア]前・交通ビル.徒歩6~9分)

予防と臨床のはざまで

ミシガンでの減量

著者: 福田洋

ページ範囲:P.84 - P.84

 昨年夏の目標が3つありました.1つは5年越し3回目の渡米で,ミシガン大学夏季疫学セミナーのCertificationを修了させること.2つ目は同セミナーで社会疫学について学ぶこと.そして最後の1つは減量です(笑).特定保健指導,メタボ対策に関わっていながら,普段の生活の中では,自分自身の健康のための時間をしっかり取れていなかったことも事実でした.健診の受診者や企業の社員に指導していることを,そのまま自分で行ってみることにしました.

 減量のために行ったのは,3つのシンプルなことです.1つ目は,現地で体重計を購入し2週間毎日体重を測定すること.2つ目は,野菜中心の食事をすること.3つ目は,出来る限り運動の時間を作ることです.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.85 - P.85

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.86 - P.86

 今回は食品の生食による感染症や寄生虫症の問題を取り上げて特集を企画しました.

 現在の食を巡る問題では,数多くの人々が様々なことに注意を払っています.代表的な例としては,残留農薬を心配して,無農薬や有機農法で栽培された野菜や果物しか買わない人がいます.また,保存料などの食品添加物を心配して,食品添加物が使用されている加工食品を避け無添加のものだけを購入する人々がいます.このような行動をとる人々の背景には,残留農薬や食品添加物についての誤った知識を伝えている相当数の書籍があると思われます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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