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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生76巻1号

2012年01月発行

文献概要

特集 生食のリスク

肉の生食と感染症・食中毒

著者: 工藤由起子1

所属機関: 1国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部第二室

ページ範囲:P.11 - P.18

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はじめに

 日本では刺身など魚介類の生食は以前から親しまれているが,近年では牛,馬,豚,鶏などの食肉を生食することを好む消費者が増えている.また,イノシシ,シカなどの野生動物の肉も,捕獲地域では刺身などとして生食される機会があることが知られている.しかし,それらの動物が人に危害をもたらす微生物を保菌する場合があり,感染例や食中毒が報告されている.

 2007年に行われた肉や卵の生食についての喫食実態調査1)では,鶏肉または牛肉を生食または生に近い状態で食べる機会があると20%以上の人が回答し,内臓肉でも約10%の人が生食の機会があると答えている(表1).また,豚肉と豚内臓肉では,鶏肉と牛肉よりも低くはあるが数%の人が生食する結果であった.加熱不十分な場合にでも,そのまま喫食する人が牛肉で40%以上とかなり多かった.さらに,卵については90%以上の人が生卵と半熟卵を喫食すると回答し,日本では卵の生食または加熱不十分の調理が好まれていることがわかる.鶏卵を使った食品でのサルモネラ食中毒は多数発生しており,その多くは生か加熱不十分であることが言われているため,卵の喫食方法の嗜好が食中毒のリスクを高めているのかもしれない.

 肉や卵の生食によって,食中毒を起こす危害微生物は多数知られているが,微生物によっても関連する食品に特徴が見られる(表2).本稿では,サルモネラ属菌(Salmonella)およびエルシニア属菌(Yersinia)について解説する.

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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