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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生76巻1号

2012年01月発行

文献概要

特集 生食のリスク

魚介類の生食と寄生虫症

著者: 三島伸介12 西山利正1

所属機関: 1関西医科大学公衆衛生学講座 2関西医科大学附属滝井病院海外渡航者医療センター

ページ範囲:P.40 - P.46

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はじめに

 地球上の各国・地域にはそれぞれ固有の食習慣・食文化が存在し,人々の生活と密接な関係を構築している.わが国で見られる特徴的な食習慣の1つが,寿司や刺身に代表されるような魚介類の生食である.魚介類の体内に寄生虫が寄生していることについては広く認識されているものの,そうした寄生虫も種によっては人体に取り込まれて,何らかの健康問題を発生し得るものが存在する.公衆衛生学の発展や衛生教育の普及,生活基盤の整備拡充などによって,例えば回虫の感染率は1949年に全国で73.0%という大きな流行を示していたが1),1995年の厚生省統計では0.02%と大幅に減少している.これは回虫に限ったことではなく,わが国の寄生虫感染率は減少の一途を辿り,1994年には寄生虫病予防法が廃止されるまでに至った.しかしながら,わが国の生鮮魚介類を食材とした食文化を背景として,そうした食材の生食によって感染する寄生虫疾患は,今日でも一般臨床の場において認められ,決して稀な感染症ではないという認識が重要である.

 感染源となり得る魚介類とそれに関連する寄生虫感染症について表にまとめた.表に示す通り,感染源となる魚介類種は稀にしか遭遇しないものも含まれるが,多くは身近に存在するものであることがわかる.すなわち,一般的な居住環境の範囲内にあるような市場で販売されている魚介類の中にも,人の健康に影響を与え得る寄生虫感染症の感染源となるものがあり,普段の生活を営む中で,いつそうした魚介類と遭遇しても不思議ではないのである.これら魚介類は普通に家庭での食卓に並ぶものでもあるし,外食で訪れた食堂や料亭などでもよく見られる食材である.

 ただし,わが国においては日々の生活の中でこうした食材が大量に消費されている状況にあるものの,その多くの人々の中の年間数例から数十例程度,寄生虫感染症が認められているに過ぎないというのもまた事実である.仮に魚介類生食によって寄生虫感染症を発症したとしても,適切な診断と治療さえ行われれば,重篤化して致死的となる可能性は低いと考えられる.したがって,こうした魚介類を過剰なまでに忌避する必要はないであろうし,こうした食習慣・食文化と日常の生活とは切っても切れない関係にあると思われ,そうであるからこそ我々は,魚介類の生食によって起こり得る寄生虫感染症の存在について,正確な認識を持つことが望まれる.

 本稿では,魚介類の生食によって起こり得る寄生虫症について,線虫類,吸虫類,条虫類に分けて,わが国で実際に遭遇する可能性の高いものについて解説する.

参考文献

1) 松本克彦:回虫の感染源について.東京女子医科大学雑誌38(5):323-336, 1968
2) 横川定:東京医事新誌1776:1-3,1912
3) 吉田幸雄,有薗直樹:図説人体寄生虫学 第7版.南山堂,2006
4) 山門実:再び増加傾向の寄生虫病.治療80(1):136-137,1998
5) 熱帯病治療薬研究班:寄生虫症薬物治療の手引き 改訂第7.0.1版,ヒューマンサイエンス振興財団政策創薬総合研究事業「輸入熱帯病・寄生虫症に対する稀少疾病治療薬を用いた最適な治療法による医療対応の確立に関する研究」班(略称:熱帯病治療薬研究班),2010年
6) 春間賢:浅田棘口吸虫症の1例.THE GI FOREFRONT 3(2):113-115,2007
7) 高木雄亮,他:在日タイ人女性に集団感染したウエステルマン肺吸虫症の4例.日本呼吸器学会雑誌47(3):249-253,2009
8) 厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課:生食用生鮮食品を共通食とする病因物質不明有症事例を巡る経緯.厚生労働省資料,平成23年4月25日

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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