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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生76巻1号

2012年01月発行

文献概要

特集 生食のリスク

生水と原虫症(生水のリスク)

著者: 泉山信司1 八木田健司1 永宗喜三郎1

所属機関: 1国立感染症研究所寄生動物部

ページ範囲:P.50 - P.53

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はじめに

 飲料水を介して伝播する病原体は腸管感染性の細菌やウイルスがよく知られるところであるが,寄生虫学分野においてもクリプトスポリジウム,ジアルジア,赤痢アメーバなどの原虫類(真核単細胞生物の寄生虫)が知られている.従来は煮沸消毒により,近年はボトル水の利用が進んで生水の利用は回避されているが,それでもキャンプ場の水道施設や地域の小規模水道を介した感染事故は起きている.腸管感染性の病原体の感染経路は単純で,便に混じって排出された病原体により食品や水が汚染されることによる,いわゆる糞-口感染である.水の糞便汚染は直接的な感染源になるばかりでなく,間接的な食品汚染などにつながり,大きな事故に発展する.一方,山間部に降り注いだ雨が海に達するまでの間,取水・使用・排水が繰り返され,水は容易に糞便汚染を受ける.そのため,安全な飲料水の確保には,消毒やろ過といった水処理が必須となっている.

 1848年に始まったロンドンのコレラの大流行においては,3万人が罹患して1万人以上が死亡した1).この事例では後に水道水の汚染が疑われ,1854年の再流行では水道を止めることで流行が収束している.この時の調査がいわゆる疫学の始まりとされる.一方,原虫症においても水の汚染の影響は大きく,1993年のミルウォーキーの水道水を介したクリプトスポリジウム症の水系集団発生では,感染者は40万人に及んだとされる2).わが国も例外ではなく,1996年に埼玉県越生町の水道水を介したクリプトスポリジウム症の水系集団感染で,地域住民の6割強の8,800人が発症したとされる3)

 国内の水系感染に関する統計はないが,原虫に限らず,細菌・ウイルスを含む様々な水系集団感染が報告されている(表1).細菌性水系感染事例の手集計によれば,過去15年間に少なくとも84件の飲料水起因の集団感染が発生し,井戸水がその内の5割,湧水・沢水では1割であった(表2).少数の感染が見落とされて集団感染に偏った可能性は否定できないが,患者数は3万人以上に及び,生水や不適切な管理下の井戸水に感染症のリスクが指摘される.

参考文献

1) 金子光美(編著):水道の病原微生物対策.丸善,2006
2) Mac Kenzie WR, et al:A massive outbreak in Milwaukee of cryptosporidium infection transmitted through the public water supply. N Engl J Med 331:161-167, 1994
3) 埼玉県衛生部:「クリプトスポリジウムによる集団下痢症」―越生町集団下痢症発生事件―報告書(平成9年3月),1997
4) 食中毒予防必携第二版.日本食品衛生協会,2007
5) WHO:Guidelines for Drinking Water Quality. Volume 1, 3rd (ed), 2004
6) 寄生虫症薬物治療の手引き 改訂第7版,ヒューマンサイエンス振興財団政策創薬総合研究事業「輸入熱帯病・寄生虫症に対する稀少疾病治療薬を用いた最適な治療法による医療対応の確立に関する研究」班,2010
7) 八木田健司,他:国内外におけるクリプトスポリジウム症ならびにジアルジア症の発生動向の現状と比較.第68回日本寄生虫学会東日本支部大会,2008
8) 松井佳彦,他:飲料水の水質リスク管理に関する統合的研究―微生物分科会.厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「飲料水の水質リスク管理に関する統合的研究」より平成22年度分担研究報告書,2011

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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