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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生76巻11号

2012年11月発行

雑誌目次

特集 スクリーニング―その進化と課題

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ページ範囲:P.843 - P.843

 疾病・障害の早期発見・早期治療を主な目的としたスクリーニングは,公衆衛生に関わる幅広い分野で活用されています.各種のがん検診やメタボリックシンドロームに着目した特定健康診査,および新生児マススクリーニングなどは,その代表と言えます.

 最近は,科学技術の進歩により新しい検査法や検査機器等が次々と開発され,スクリーニングは日々進化しています.これに伴い,スクリーニング手法が適用される疾病や障害等の種類も増加しています.

進化するスクリーニング検査―その適用をめぐる課題と展望

著者: 祖父江友孝

ページ範囲:P.844 - P.848

はじめに

 スクリーニングは,疾病・障害の早期発見・早期治療を目的として,疾病対策の主要な手段として用いられてきている.1968年にWilson-Jungnerが示したスクリーニングの適用に関する原則(WHO)では,以下の条件が列記されている.
①検診の対象となる状況が重要な健康問題であること
②対象となる状況の自然史がよくわかっていること,発見可能な早期段階があること
③早期に対する治療が,進行期に対するよりも効果が大きいこと
④早期に対する適切な検査が存在すること
⑤検査が許容できるものであること
⑥繰り返し検診の間隔が決定されていること
⑦検診により生じる追加的な臨床業務に対して,適切なヘルスサービスの準備がなされること
⑧身体的,精神的リスクが利益よりも小さいこと
⑨費用が利益とバランスのとれたものであること

 これらの条件は,そのまま現在でも適用可能な,よく吟味されたものであるが,これまでのスクリーニングの適用が,必ずしもこの原則通りに行われてきたわけではない.

NCD対策におけるスクリーニングの限界と展望

著者: 大島明

ページ範囲:P.849 - P.852

NCD対策

 NCD[Non-Communicable Diseases=非感染性疾患:がん,心血管疾患,糖尿病,慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)の4疾患を指す]は,先進国だけでなく途上国においても重大な健康の脅威となっており,NCDの予防とコントロールは,グローバルなレベルにおいて最重要課題の一つである.2011年9月19,20日には,WHO(世界保健機関)の提案を受け,国連においてNCDハイレベル会合が開催された.また,2012年5月に開催された第65回世界保健総会では,NCDによる死亡を2025年までに25%減少させる目標を採択した.このような状況を受けて,2012年7月10日に厚生労働大臣が告示した「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」(「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21〈第二次〉)」の「第一 国民の健康の増進の推進に関する基本的な方向」には,「2.生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底(NCD〈非感染性疾患〉の予防)」の項が設定され,NCDという用語が用いられている.

 NCDは,これまで,成人病や生活習慣病と言われてきたものに相当するが,単に言葉の言い換えをするだけで,NCDの予防とコントロールを実現することはできない.日本におけるNCDによる死亡数は,人口動態統計2010年確定数によると,総死亡数:1,197,012人のうち,がん:353,499人,心疾患:189,360人,脳血管疾患:123,461人,糖尿病:14,422人,慢性閉塞性肺疾患:16,293人となっており,NCDによる死亡数(697,035人)は,総死亡の6割弱を占めている.

新生児マススクリーニングの新たな展開―タンデムマス法の導入

著者: 山口清次

ページ範囲:P.853 - P.857

はじめに

 新生児マススクリーニング(以下,新生児MS)は,知らずに放置すると障害の起こる先天性疾患を発症前に見つけて,障害を予防(または軽減)する事業である.

 1950年代にフェニルケトン尿症の治療ミルクが開発され,1960年代にガスリーテストが発明されて以来,新生児MSによって障害を予防するという考え方が急速に広まった1,2)

 最近,タンデムマス法という新しい検査法を導入して対象疾患を拡大する動き(拡大スクリーニング)が,世界的に普及しつつある3,4).わが国でも2011年に「タンデムマス法の導入の推進」について厚生労働省課長通達が出され,現在全国自治体に広がりつつある.そこで,わが国のタンデムマス法導入による新生児MSの新しい展開と今後の課題について述べたい.

新生児聴覚スクリーニングの成果と今後の展望

著者: 福島邦博

ページ範囲:P.858 - P.861

はじめに―新生児聴覚スクリーニングとは

 新生児期に存在する難聴は出生1000に対して1人の割合で発生する,非常に頻度の高い先天性疾患の一つである.生直後に引き続く3~5年の間は言語習得に非常に感受性の高い時期(言語習得期)でもあり,この頃に音声による言語的なインプットが乏しい場合には,音声を用いた言語習得に著しい不利益を生じる(言語習得前難聴).小児期に存在する言語発達の遅れは,さらにその後の音声コミュニケーションや,教室内での学習に著しい影響を与え,結果として就学や就労に影響する.すなわち,聴覚障害はその後に言語障害を続発することによって,生活の質により広範な影響を与える.このため従来から,新生児期の難聴はなるべく早期に発見し,早期に対策を実施することによって,言語発達障害を予防・軽減することが重要であるとされていた.加えて近年,①人工内耳や,デジタル補聴器の技術的進歩から,従来は音声言語による言語習得が困難であると考えられていた高度~最重度難聴のケースにも広く対策が行えるようになったこと,②手話が社会的に広く認知されることによって,手話言語による言語習得にも社会的基盤が整備されて来つつあること,などから,早期の介入によって,より良好な言語発達が期待出来る時代となってきた.

 こうした背景と連動しながら,2001年から国のモデル事業として岡山県・秋田県などの地域で新生児聴覚スクリーニングが開始され,さらにモデル事業終了後も,多くの地域で新生児聴覚スクリーニングが実施されるようになってきた.

 本稿では,新生児聴覚スクリーニングの現状とその成果について,岡山県における変化と本邦での状況を報告する.

新しい胃がん検診方式の導入に向けた課題と展望

著者: 濱島ちさと

ページ範囲:P.862 - P.865

 胃がんは,わが国における罹患数が116,911人(2006年推定数),死亡数が50,136人(2010年確定数)であり,罹患数では第1位,死亡数では肺がんに次いで2番目に多いがんである1).このため,現在でもなお,予防対策として胃がん検診は重要な役割を果たしている.しかしながら,新たな方法として内視鏡検診やハイリスク集約型検診が期待されている.

尿マーカーによる骨粗鬆症検診の課題と展望

著者: 新飯田俊平

ページ範囲:P.866 - P.870

はじめに

 「この10年,毎年検診を受けて問題ないと言われてきましたが,尿マーカーの検査で要精査となり,病院で骨粗鬆症を見つけてもらい,治療を開始することになりました」.

 尿マーカーによる骨粗鬆症のスクリーニング調査を実施してから,しばしばこういう手紙や電話がくる.通常骨粗鬆症の行政検診では,前腕の骨か踵の骨密度を測定する.その感度は非常によいということになっている1).この場合の感度とは,骨粗鬆症の診断基準となる腰椎または大腿骨の骨密度を反映するという意味である.ところが今回の調査から,骨密度測定はかなりの有病者を見逃していることがわかった.だから冒頭のような手紙や電話がくる.感度のよい検査法は見逃しが少ないということになっている.骨密度測定法の感度がよいというのがそもそも間違いなのか,使用した測定機器に問題があったのか,それはわからない.

 骨代謝マーカーはスクリーニングには不向きである2).そういう意見がある.通常骨代謝マーカーは治療のモニターなど,臨床上の使用が主で3),行政検診ではほとんど利用されていない.ところが,実際に検診で使ってみたら,骨密度測定のときより二次検診後の有病者スクリーニング数が多かった.この傾向は3年の調査期間を通して変わらなかった.一次スクリーニングが有病者を見逃していては検診の意味がない.それなら尿マーカーを検診で使ってみてもいいのではないか.個人的にはそう思っている.尿マーカーの検診への適応性の議論は専門家に任せるとして,本稿では,今回の調査で見えてきた課題について考えてみた.

軽度認知症のスクリーニング検査の進化と課題

著者: 本間昭

ページ範囲:P.871 - P.874

はじめに

 2025年,つまりあと13年すると,団塊の世代全員が75歳以上となり,わが国が経験したことのない超高齢社会になる.わが国では65歳以上の人口における認知症者数はおよそ250万人と推定されていたが,最近の65歳以上の高齢者を対象とした疫学調査結果では,従来よりも高い認知症の有病率が示され,その前駆段階と考えられる軽度認知障害者を含めると,その数は数百万人とも考えられるが,適切な診断・治療を受けることができている割合はきわめて少数と予測される.認知症であっても早期診断が好ましいことは言うまでもない.しかし,一部の専門的な医療機関を除き,特に軽度認知症が見逃されている可能性が大きい.

 わが国では,かかりつけ医の認知症診断を検討した報告は筆者の知る限りないが,Bradfordら1)はプライマリーケアの現場における認知症診断を検討した40の原著をレビューし,特に軽度認知症が見逃されやすいことを指摘している.関連する要因として,医師,介護者ともに認知症に関する知識・認識の不足を挙げている.まさにわが国もそのまま当てはまる.また,Iracleousら2)はカナダ家庭医学会の17,000人の会員から一定の条件で無作為に抽出された500人を対象に郵送調査を行い,249人の回答を得,89%の回答者が家庭医による認知機能障害のスクリーニングには賛成していることを報告している.わが国では同様な結果はないが,認知症疾患の中でもっとも多い原因であるアルツハイマー病(Alzheimer's Disease:以下AD)のマネジメントでは,早期発見・診断,適切な抗認知症薬による治療およびケアがもっとも重要であることは明らかであり,早期発見のためには,軽度認知症を含めた認知機能障害のスクリーニングが有用である.

慢性閉塞性肺疾患(COPD)のスクリーニングについて

著者: 小倉剛

ページ範囲:P.875 - P.879

はじめに

 日本呼吸器学会(以下「学会」と略)の「COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のガイドライン(2009年)」1)(以下「ガイドライン」と略)によれば,COPDは主にタバコの煙などの長期吸入による肺の炎症性疾患で,正常に復さない気流閉塞を来たし,中高年に発症する.40歳以上の罹患例は530万人に及ぶが未診断例が多く2),COPDへの関心の低さから,肺機能検査も十分普及していない.海外でも同様な状況で,そのためプライマリーケアでの診断を目的に質問票が考案されている.

 2008年「学会」は,COPDは生活習慣病であり,「特定健康診査・保健指導」において質問票によるスクリーニングと肺機能検査を行う必要性を提言し3),翌年「ガイドライン」に質問票を紹介した.さらに2010年,厚生労働省はCOPDのスクリーニングへの問診票の活用を決めている.

 結核予防会では2007年からCOPDの啓発・早期発見を目的に,全国支部の協力を得て調査研究を続けており,本稿では,まずCOPDについて概説した後,スクリーニングに関してわれわれの成績を紹介したい.

結核感染のスクリーニングの進化と課題

著者: 森亨

ページ範囲:P.880 - P.884

はじめに

 低まん延期の結核対策の中で重要な方策は,確実な治療と化学予防である.前者はDOTS(Directly Observed Treatment, Short-course)という総合的な患者支援戦略として具体化され,後者は「潜在性結核感染症の治療」という新しいコンセプトのもとにその強化が改めて求められている.そのために結核感染を受けた人を「ふるいわけ」することは,対策上重大な意味のあることである.これにはもっぱらツベルクリン反応(以下「ツ反」)検査が用いられてきた.しかしこの検査は,BCG接種を実施してきた日本をはじめ多くの国では,BCGによる非特異的反応のためにその有用性はかなり限定されている.これはツ反に用いる抗原(PPD)が結核菌由来の蛋白とはいえ,成分の大半がBCG(菌)にも共通するものだからである.このツ反検査の低い特異性の問題を克服したのが,インターフェロンガンマ遊離アッセー(Interferon-gamma release assay:以下IGRA)である.これは結核菌特異的な蛋白(実際はペプチド)を用いて感作リンパ球から放出されるサイトカイン(インターフェロンγ)を定量する,あるいはインターフェロンγを放出する細胞を計数する技術で,それぞれクォンティフェロン・ゴールド®(国際的にはQuantiFERON-TB® Gold In-Tubeと呼ばれる.前身はQuntiFERON-TB® Goldで,日本ではクォンティフェロンTB第二世代と呼ばれていた.このため現行のものを第3世代と呼ぶことがある.以下両者の区別を要しない場合にはQFTと記す),T-SPOT®.TBとして商品化されている(日本では前者のみが薬事承認されている).

 2005年に承認されて以来,日本ではQFTは接触者健診を中心に利用が拡大していき,図1aに見るように,最近では,保健所の行う接触者健診でのツ反検査はQFTに置き換えられた感がある(わずかに残っているツ反検査は乳幼児の分であろう).それだけにその精度や有用性に関しては重大な責任がある.以下この観点から,QFT検査法について論じたい.

視点

公衆衛生のフィールド

著者: 糸数公

ページ範囲:P.840 - P.842

1本の電話

 職場に電話がかかってきた.

 「東北から避難して来て,今は石垣島に住んでいるのですが,地元に残っている友だちは健康診断も受けられて甲状腺も異常なかったと言われたそうです.私たち家族も被曝してる可能性があると思うのですが,こちらではそういった検査は受けられないのでしょうか?」

連載 保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・20

編集委員会とのやりとり(その1)

著者: 中村好一

ページ範囲:P.885 - P.890

 いよいよ書き上げた論文を雑誌に投稿する.ここから編集委員会とのやりとり(あるいは対話,もしくは対戦?)が始まる.3回にわたって概要を説明する.

災害を支える公衆衛生ネットワーク~東日本大震災からの復旧,復興に学ぶ・8

こころのケアとは―ハイリスクアプローチの視点から

著者: 佐々木亮平 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.891 - P.895

そもそも被災地における

「こころのケア」とは

1.こころのケアのプロは誰?

 「できていたことはできる.できていなかったことはすぐにはできない」

 被災地にいるとこの言葉は常に重くのしかかってくる.

講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ─新しい仕組みをつくろう・8

職場のメンタルヘルスの現状と課題―わが国の課題と国際的動向の分析

著者: 川上憲人

ページ範囲:P.896 - P.899

 職場のメンタルヘルスを取り巻く様々な状況を,国内および国際動向の両面から概観し,わが国の職場のメンタルヘルスの課題を整理した.国内では,経営・組織要因のメンタルヘルスへの影響,不安定雇用労働者のメンタルヘルス,増加するメンタルヘルス不調者の職場復帰の支援が課題として挙げられた.国際動向としては,職業性ストレス対策の欧州枠組みに見られる職場のメンタルヘルスにおけるPDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)の重要性と,英国国立医療技術評価機構のガイドラインが推奨するポジティブなメンタルヘルスを目指した取り組み,オランダの科学的根拠に基づく復職支援プログラムが重要と思われた.国際的動向と調和させながら,わが国における職場のメンタルヘルス対策の新しい枠組みを考えるべき時期にある.

「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・8

笑って認知症予防?―「笑い」と「認知症」との関連について

著者: 大平哲也

ページ範囲:P.900 - P.903

 急速に高齢化が進んでいるわが国において,認知症の急増が指摘されています.厚生労働省の推計によると,2012年現在のわが国の認知症高齢者は300万人を超えるとされており,2002年の149万人から倍増しています.これは,65歳以上人口の10人に1人にあたります.認知症は,活動性の低下,引きこもり,寝たきり,心筋梗塞・脳卒中,生命予後との関連が指摘されており,その予防は現在の高齢化社会の中で,重要な課題と考えられます.

 一方,笑いは,ユーモアを理解し,面白いと思うことで起こってきますので,高次脳機能によりその機能が維持されていると考えられます.したがって,日常生活において笑う頻度が多いことは,高次脳機能を維持していることを一部反映している可能性があります.それでは,実際に笑いは,認知機能や認知症に関連するのでしょうか?

フィールドに出よう!・11

共に暮らし,心通わせ,同じ目標に向かう―スリランカ農村の環境を活かしてマラリア予防

著者: 安岡潤子

ページ範囲:P.904 - P.907

人生の転機はスラム街で

 今から13年前の冬,パキスタンの商都カラチにあるスラム街を訪れた私は,長老の家でハエの浮いたミルクティーをご馳走になっていた.家畜小屋と一体になった,土壁の粗末な家.糞尿の臭いが鼻を衝く.当時私は国際環境NGOの職員として,パキスタンで環境教育を実施していた.汚水やゴミに埋もれて環境汚染が進むこのスラム街の住民のために,身近な自然を守り環境を改善する大切さを理解してもらう教材を何とか作ろうとしていた.「私たち人間の最優先課題は,動植物を守り自然と共生すること」と,いくら熱心に語りかけても,長老はこの企画に全く興味を示してくれない.ショックだった.

 帰り道,落胆しながら迷路のような路地を歩いていると,あちらこちらから視線を感じた.粗末な家の軒先に座っている人々はやせ細り,目は虚ろ.子どもたちは汚れたシャツ1枚に裸足で,ハエにまとわりつかれている.ハッとした.日々の暮らしで精一杯の人たちに,自然保護や環境保全だけを呼びかけても心が通じないのは当然.身近な環境を改善することで1人でも多くの人が健康になり,やがて教育を受け安定した仕事や収入を得ることにつながる.そんな風に説得できたらいいけれど,今の自分は勉強不足.それならば環境と健康のつながりを勉強し,途上国の人々のために真に役立つ仕事がしたい.あの日スラム街で芽生えた気持ちが,国際保健の道を目指す原点になった.

リレー連載・列島ランナー・44

保健所の認知症対策―地域基礎研修会に取り組んで

著者: 布施寿美江

ページ範囲:P.908 - P.910

はじめに

 横浜健康福祉局医療政策課の横森喜久美さんからバトンを受け取りました.

 私は現在,南魚沼地域振興局健康福祉環境部(南魚沼保健所)で認知症対策を担当しています.当所では平成22(2010)年度から,認知症介護研究・研修東京センターケアマネジメント推進室(以下,東京センター)が主催するモデル事業である「認知症ケアマネジメント推進地域人材育成プログラム」に取り組み,平成23(2011)年度には東京センターの支援を受けて,当所主催で地域型基礎研修会を実施しました.認知症の人の利用者本位,自立支援,尊厳の保持を実現するために,効果的な認知症ケアマネジメントを実践するための手法として,「認知症の人のためのケアマネジメントセンター方式」を施設や地域等で普及していけるよう,今年度も継続して研修会を進めています.担当して実施した地域基礎研修会の取り組みを報告したいと思います.

資料

東京都脳卒中救急搬送体制実態調査

著者: 高橋郁美 ,   櫻山豊夫 ,   櫻井幸枝 ,   大久保さつき ,   有賀徹

ページ範囲:P.912 - P.915

はじめに

 脳卒中は日本人の死亡原因の第3位1),要介護状態となる原因の第1位2)を占めており,患者の救命と後遺障害の軽減のため,発症後の迅速かつ適切な治療開始が不可欠である.

 このため東京都は,独自の基準に基づく「東京都脳卒中急性期医療機関」を認定し,2009年3月に「東京都脳卒中救急搬送体制」を都内全域に構築した.

 これは東京消防庁の救急活動基準に,Cincinnati Prehospital Stroke Scale(CPSS)(①顔のゆがみ,②上肢麻痺,③言語障害)3)による「脳卒中疑いの有無判断」を新たに加え,救急隊が脳卒中を疑った患者を速やかに「東京都脳卒中急性期医療機関」へ搬送する制度である.

 本稿では2010年2月に行った「東京都脳卒中救急搬送体制実態調査」により明らかとなった課題等について報告する.

公衆衛生研究における社会階層指標構築の重要性

著者: 本庄かおり ,   堤明純

ページ範囲:P.916 - P.919

背景

 近年,日本における社会的・経済的格差に対する関心の高まりとともに,社会階層間の健康格差に関する知見が蓄積されているところである1).例えば,喫煙などの健康行動や冠動脈疾患危険要因2),生活習慣病による死亡3)や罹患リスク4)などにおいて,社会階層・社会経済状況による格差が存在することが報告されている.疫学研究の多くは教育歴,収入や職業をベースにした指標を用いて社会階層を測定しているが,社会階層指標の妥当性に多くの注意を払ってきたとは言えず,特に女性の社会階層をどのように測定するべきかの議論はなかった.

 本稿では,公衆衛生研究における社会階層指標の妥当性を論じ,社会階層指標構築の重要性について考察する.

お知らせ

第1回 日本公衆衛生看護学会学術集会開催および演題募集の御案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.848 - P.848

 公衆衛生の専門職は,国民の健康を守るために,社会の変革に合わせながら,その活動を推進し,歴史を刻んできました.そして,2012年7月に,公衆衛生看護学,保健師活動のさらなる発展と,その教育と研究の推進・開発をめざし,「日本公衆衛生看護学会」を設立しました.行政,学校,産業など公衆衛生の様々な分野で働く看護職が,社会の安寧と国民の健康増進に,より一層寄与することに役立つ学会にしたいと考えています.

 第1回日本公衆衛生看護学会学術集会を下記の通り開催しますので,是非ご参加ください.

 

テーマ:新たな公衆衛生看護の創造~すべての人々の健康と生活を支える保健師活動を語り合おう~

日時:2013年1月14日(月・祝日)

会場:首都大学東京 荒川キャンパス(東京都荒川区東尾久7-2-10)

―日本産業看護学会―学会設立総会・第1回学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.874 - P.874

日時:2012年12月8日(土)

場所:女性就業支援センター 〠108-0014 東京都港区芝5-35-3[JR田町駅三田口(西口)徒歩3分,地下鉄(都営浅草線・都営三田線)A1出口徒歩1分]

映画の時間

―ハンセン病の真実と罹患者を取り巻く実態に迫る―もういいかい~ハンセン病と三つの法律~

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.865 - P.865

 「その国は確かに日本の中にあった」というナレーションで映画は始まります.「その国」とはハンセン病患者の療養所.入所者の外出を制限し,外部からの訪問も少なかった療養所は,ひとつの国のようであったかもしれません.

 冒頭のナレーションに続いて,過去の,おそらくは第二次世界大戦前とおぼしき映像が流されます.細かい説明はありませんが,これらのフィルムは,その国,すなわち療養所の生活のひとコマなのでしょう.今となっては貴重なフィルムです.

列島情報

インフルエンザと小中学校の臨時休業

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.870 - P.870

 2011/2012シーズン,岐阜県内ではインフルエンザA香港型が流行し,2月からはB型も加わって,インフルエンザによると見られる学級閉鎖等の臨時休業が前シーズン同様に多くなった.ここでは小中学校576校(小学校378校,中学校198校)からの臨時休業の報告979件(小学校782件,中学校197件)の状況について紹介する.

 最初の臨時休業は11月22日,ピークは1月24日,最終の休業は5月2日であった.報告のうち60件は同一学級での2回目の休業で,うち18件(1回目の平均実質休業期間2.1日)は休業期間延長,23件(同2.2日)は授業再開翌日からの再休業,13件(同3.1日)は授業再開1か月以上経過後のものであった.報告の62%が月曜日,休業開始の52%が火曜日に集中した.週明けの児童生徒の罹患状況を踏まえて学校医に相談し,家庭に連絡をとり,給食後に授業を打ち切って翌日以降臨時休業とするパターンが多いようである.臨時休業が行われた小中学校の割合を5つの2次医療圏別に見ると,小学校では49~81%(全県63%),中学校で35~49%(同44%)となっており,県南部に位置する岐阜地域の小学校で最も割合が高かった.学校別では商業地で多い傾向であった.臨時休業の情報は地域において,ハイリスク者等に対する予防対策強化への活用が期待される.また学年別では,小学校1年での休業の割合が全小学校の34%と最も高く,中学校3年では全中学校の7%と最も低かった.

沈思黙考

ソーシャルキャピタル

著者: 林謙治

ページ範囲:P.911 - P.911

 少子高齢化の急速な進展はわが国の社会システムを大きく変えようとしている.健康問題の側面からとらえれば,対策の焦点は健康寿命の延伸である.がん,脳卒中,心疾患などが主要疾患であるので,当然のことながら生活習慣病の予防が鍵となる.生活習慣病の予防対策は,生活全般にわたる過ごし方が問題となる.したがって,行政の対応は健康・衛生部門の取り組みだけでは不十分であり,オール・セクターの協働が求められる.さらに言えば,行政の枠組みを超えて民間団体とのネットワークを含めて活動方針を構築する必要がある.

 経済に目を転じてみれば,政府財政は危機的な状況にあり,地方自治体にも大きな影響を及ぼしている.地方経済自体の停滞とあいまって,多くの事業を縮小せざるを得ない状況にある.実際,全国の保健所数はかつての約半分の500弱までに減少し,定員削減は現在でも続いている.このように長期にわたる経済の停滞から抜け出せないために,政府のガバナンス・システムにも疑問の声が出はじめ,地方分権の流れがますます加速化しているように見える.

予防と臨床のはざまで

さんぽ会夏季セミナー2012

著者: 福田洋

ページ範囲:P.920 - P.920

 9月22~23日,さんぽ会(多職種産業保健スタッフの研究会)夏季セミナーが行われました(http://www.facebook.com/sanpokai).今年のテーマは「産業保健職のキャリアアップ」.困難化する現代の産業保健の業務に関わる医師,保健師,管理栄養士等の産業保健職は,どのようにスキルを高め,社会や企業のニーズに応じたキャリア形成をすれば良いのでしょう?臨床と比べて,ロールモデルやキャリアラダーが明解でないことが多いように感じます.例えば,学生からよく聞かれる「産業看護職に臨床経験は必要か?」という問いに対しても,立場や経験によって異なる答えがあります.今年のセミナーは「産業保健キャリアアップ道場~箱根路から始まる5年後の私」と題して,箱根DNP創発の森に1泊して行われました.

 初日は,「5年後の私」を思い描くグループワークを行った後,日々活躍中の3人の「先輩」から「産業保健職のキャリア経験談とアドバイス」についてお話しして頂きました.まず産業医である岡本隆史先生(東京ガス株式会社)の体験談は,一見バラバラに見える産業医大,麻酔科臨床,米国留学,専属産業医,現在の所属学会等のキャリアが,実は学生時代から現在まで大事にしている「走る」ということで緩やかに繋がっており,その時々の気づきやモチベーションの維持に役立ったという,まさに故スティーブ・ジョブズ氏(アップル社の共同設立者の一人)の“connecting the dots”を彷彿とさせる内容でした.次に,保健師である岡久ジュン氏(東海大学大学院健康科学研究科)からは,人生の岐路となる節目節目で,自分を導いてくれる人との出会いがあったというお話を「人脈わらしべ長者」という図解で説明され,軽快な語り口調のサクセスストーリーに参加者全員が引き込まれました.最後に管理栄養士である野口佐奈絵氏(同友会春日クリニック)からは,専門職としてのスキルアップのみならず,身だしなみやマナー,表情や話し方も非常に重要であるとの説明があり,その不断の努力の姿勢に多くの参加者が感銘を受けました.その後,宮川恵美子氏(東京都鉄二健保組合)から,看護職向けの専門・認定制度などの紹介がありました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.921 - P.921

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.922 - P.922

 わが国における疾病のスクリーニングの先駆けは,結核の集団検診でした.対象者の設定から検査(胸部X線等)の精度管理,および事後管理に至るまで体系化された検診は,とても大きな成果をあげました.この成功体験の影響は大きく,結核検診を雛形にしたスクリーニング手法が,がんや循環器疾患などの非感染性疾患対策にも次々導入され,適用範囲が拡大しました.

 しかし,本号で祖父江先生と大島先生がご指摘のように,疾患によってはスクリーニングの有効性や効果などが証明されていない段階で広く検診(健診)が実施され,混乱を招いたものも少なくありません.メタボに着目した特定健診も,その一例と言えそうです.混乱の原因は,どこにあるのでしょうか.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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