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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生76巻2号

2012年02月発行

雑誌目次

特集 セルフケアを支援する

貧血,高脂血症と食生活

著者: 丸山千寿子

ページ範囲:P.125 - P.129

はじめに

 栄養素摂取の過不足が原因となる身体的異常は,食生活改善によって正常化することができる.効果的に食生活を改善することができるようになるためには,患者自身が異常に伴うリスクを理解し,不適切な食生活の原因は何かを明確にして対応することが重要である.また食生活は生活の一部であるので,個人の生活を規定する社会・経済的背景,生活時間,食環境,食に関する意識・知識・技術,ストレス,周囲の理解・協力等の様々な要因について把握し,継続的に改善して習慣化させることで再発を防ぎたい.

高尿酸血症・痛風の生活指導

著者: 長瀬満夫

ページ範囲:P.130 - P.132

はじめに

 健康診断で尿酸値が高いと指摘されていて,過去に痛風関節炎を起こしたことがあっても,「今は大酒していないから大丈夫」,と通院治療するのは発作を起こした時だけ,という人々がいる.また,通院していても,「定期的な採血で経過観察しているから大丈夫」と,特に生活習慣を改善するつもりがない人々もいる.本稿では,高尿酸血症の管理とセルフケアについて解説し,効果的と思われる保健指導のポイントについて述べる.

肥満解消に効果的な生活指導

著者: 大野誠

ページ範囲:P.133 - P.137

倹約遺伝子と生活習慣病~省エネ体質のエコ型人間ほどメタボになりやすい

 飢餓との戦いに明け暮れた人類400万年の進化の歴史の中で,食べたものを少しでもたくさん体脂肪に変えて蓄えておけるという能力は,きわめてすぐれたサバイバル能力であり,進化の過程で自然淘汰を繰り返しながら,私たちのからだはエネルギー効率のよい体質(遺伝素因),すなわち「倹約遺伝子:thrifty genotype」を獲得したと考えられている.しかし,飢餓を乗り越えるために不可欠なこの遺伝子も,飢餓から解放されて飽食を謳歌する一部の民族においては,内臓脂肪の過剰蓄積を惹起し,メタボリックシンドロームを構成する生活習慣病の元凶になるという皮肉な現象が世界各地で起きている1)

 その典型例は米国のピマ・インディアンである.この部族の祖先はモンゴル人であるが,中世期に二分され,一群は米国のアリゾナの平原に定着し,もう一群はメキシコの山間部に移住した.米国のピマ族は1970年頃までに保護区に入り,農業をやめ食事も欧米流になり,摂取エネルギーの約40%を超える大量の脂肪を毎日食べるようになった.この結果,成人の9割近くが肥満になり,35歳以上では2人に1人以上が糖尿病になってしまった.しかし,今でも先祖伝来の自給生活をしているメキシコのピマ族には糖尿病はほとんどおらず,米国のピマ族より体重も平均26kgも軽い.彼らが食事からとる脂肪の量は米国のピマ族の半分以下で,週に40時間以上の肉体労働を続けている.すなわち,同じ遺伝子を持つ集団でも,食事や運動を中心とした日常の生活習慣の違いにより,肥満や生活習慣病の発症に大きな差の出ることが確認されたのである.

セルフケアの実際

①頭痛,めまい,しびれ

著者: 根来清

ページ範囲:P.109 - P.113

はじめに

 頭痛,めまい,手足のしびれはごくありふれた症状である.慢性に経過する場合,患者を長期に苦しめる.本稿では,頭痛,頭痛に伴うめまい,手足のしびれに関してどのようなセルフケアが可能であるか,どのような時に医療機関を受診すべきかを概説する.

②聴力低下,耳鳴り,めまい

著者: 小松崎篤

ページ範囲:P.114 - P.119

はじめに

 聴力低下,耳鳴り,めまい等の症状に対しての「セルフケア」を考える場合,これらの症状はどのように発症して,一般的な治療法,予後,対処法はどのようにしたらよいか,さらにこれらの症状で受診する場合,問診をより的確なものにして不必要な検査を避けるためには,どのようなことに注意すべきかについて述べる.なお,聴覚系の障害では,無難聴性耳鳴以外は難聴とともに耳鳴りが随伴することが多いため,聴力低下,耳鳴りを同時に取り上げたほうが実際的であり,以下,難聴,耳鳴りを同一に取り上げる.

③低血圧,冷え,むくみ

著者: 淺井貴絵 ,   久代登志男

ページ範囲:P.120 - P.124

はじめに

 低血圧,冷え,むくみに対する疫学と治療介入に関する知見は少なく,また臨床的に重要と考える医療職者も少ない.日常診療において,これらの症状は不定愁訴と捉えられ,対症薬を処方されるのみで対応されていることが多い.これらの症状の原因は多岐に亘るが,健診などで見つかる場合,基礎疾患を認めないことが多い.

 本稿では,低血圧を中心に,病態,症状,診断,治療やQOL(Quality of Life)を改善するためのセルフケアについて述べる.

視点

大都市の結核の新たな問題点

著者: 吉田道彦

ページ範囲:P.88 - P.89

はじめに

 わが国の結核罹患率は漸減を続け,2010年全国の結核患者数は23,261人,罹患率(人口10万対)は18.2と,前年に比べ4.2%の減少であり,既に罹患率10を切る地域が出現するなど,低蔓延化への移行が進みつつある1).一方,全国的な問題として高齢者,結核発病危険因子を有する者,社会経済弱者,大都市への偏在化が顕著であり,その程度には地域格差があると言われている2).このうち,高齢者の結核は70歳以上が51.2%を占め,患者数も多く,その対策は多くの自治体で共通の課題となっている1)

 近年,75歳未満の罹患率は急速に減少する一方,85歳以上の低下が緩慢で65~69歳の4倍に達するなど,超高齢化が顕著となっているが,また,典型的な症状を欠くことから,診断の遅れがあり,認知症や身体機能の低下に加え,合併症や同居家族の高齢化などから介護と連携した服薬支援体制の強化が重要とされる3).一方,大都市部では高齢者に加え生活困窮者や外国籍患者が集積し,実際に一部の都市では高い罹患率の理由として社会経済弱者の集積が挙げられている4).さらに東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県からなる東京圏では罹患率の高い自治体が集中しており,これまで生活困窮者や外国籍などの集積が主な原因とされていたが,その実態はよくわかっていなかった.

特別寄稿

東日本大震災における国立病院機構の医療支援活動

著者: 國光文乃 ,   岡田千春 ,   道上幸彦 ,   兼平正彦 ,   梅田珠実

ページ範囲:P.138 - P.142

はじめに

 国立病院機構(以下,「機構」と言う)は,平成16(2004)年に独立行政法人国立病院機構法を根拠法として設立された特定独立行政法人であり,全国144の機構病院において,良質な医療を効率的な運営で行うことを目指し,医療政策の方向性等を踏まえた診療,研究,研修事業等を行っている.災害対応は,国立病院機構法に「厚生労働大臣は,災害の発生等に対処する為に必要があると認めるときは,医療の提供,調査研究の実施を求めることができる」と定められていることからも機構の重要業務の1つであり,独立行政法人化以降も,新型インフルエンザ,新潟県中越地震等の様々な災害や公衆衛生上の危機に対して活動を行ってきた.

 平成23(2011)年3月11日に発生し甚大な被害をもたらした東日本大震災において,機構では,約1,570名(延べ約9,500人/日)の職員が被災地で支援活動を実施し,国立病院機構の全国ネットワークの総力を挙げて,切れ目のない支援活動を行った.11月末日現在での派遣実績は表に示すとおりである.本稿では,次なる危機に向け,関係自治体,団体等との連携強化に資するよう,医療支援活動の概略,活動にあたっての留意点,今後の対応等をご紹介させていただきたい.

港湾にある検疫所の仕事について

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.143 - P.146

はじめに

 「検疫」というと,新型インフルエンザ発生時にテレビ等で映し出された機内検疫や,帰国者の隔離・停留のイメージから,国際空港における水際対策がイメージされやすいが,そもそもは,海外の窓口であった港での検疫が主役であった.感染症は人や物の移動とともに海外から持ち込まれるものであり,リヴァプール(イギリス)やアントワープ(ベルギー),チューレーン(アメリカ)など,海外の主要な熱帯医学校が港近くに設立されたのはそのためであろう.

 保健所が地域保健法により設置されているのと同様,検疫所は検疫法(昭和27年制定)に基づき設置されている.厚生労働省医薬食品局の管轄となっており,平成22(2010)年現在,海港の検疫所は81か所,空港の検疫所は29か所あり,全国に110か所が設置されている(内訳:本所13,支所14,出張所83).

 なお,現在わが国で定められている検疫感染症は,以下の通りである.

・検疫法 第2条1号:感染症予防法(第6条2項)に規定する一類感染症[エボラ出血熱,クリミア・コンゴ出血熱,痘そう(天然痘),南米出血熱,ペスト,マールブルグ病,ラッサ熱].

・検疫法 第2条2号:感染症予防法(第7条)に規定する新型インフルエンザ等感染症.

・検疫法 第2条3号:国内に常在しない感染症のうちその病原体が国内に侵入することを防止するため検査が必要なものとして政令(検疫法施行令第1条)で定めるもの[デング熱,チクングニア熱,鳥インフルエンザ(H5N1),マラリア].

連載 人を癒す自然との絆・31

農場で優しさを学ぶ

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.148 - P.149

 本の取材のために昨年来通っているカリフォルニアの「忘れな草」農場(本誌74巻5号:2010年5月号で紹介).この農場は,虐待を受けた子どもたちに生き物のケアを教え,慈しむ心を育むことによって,虐待や非行の予防をめざすプログラムだ.数回しか農場に来られない子もいれば,何年にもわたって通ってくる子もいる.これまで多くの忘れがたい子どもたちと出会ってきたが,なかでもフェイス(5歳)の成長ぶりはめざましい.

 彼女が姉のアンバーとともにシェルターに保護されたのは,5か月の赤ん坊のとき.薬物依存の両親とトレーラーハウスで暮らしていたが,両親が留守にしている間に,当時4歳の幼児だったアンバーが連れて逃げたのだ.保護されたときの2人は骸骨のようにやせ細り,ほとんど食べ物を与えられていなかったのが明らかだったという.

保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・11

論文執筆の前に(投稿規定を読む)

著者: 中村好一

ページ範囲:P.151 - P.154

 投稿する雑誌が決まったら,論文を書き始める前に,その雑誌の投稿規定に目を通すことを勧める.その理由は,「具体的な目標ができるから」である.

地域づくりのためのメンタルヘルス講座・11

地域からこころの医療のネットワークづくりはどのように進められるのですか?

著者: 岩田和彦

ページ範囲:P.155 - P.158

はじめに

 病院中心から地域ケア中心の精神医療への転換が謳われて久しい.しかし,現在においてもわが国の精神および行動の障害による平均在院日数は305.3日(2008年)と,欧米の先進国に比較して非常に長く,まだ十分にその成果が得られているとは言い難い.疾患別に見ると,神経症性障害が47日であるのに対し,統合失調症圏の疾患では546.7日であり,精神医療の対象疾患が飛躍的に拡大している現在においても,統合失調症が地域移行,地域ケアの面から最重要の精神疾患であることに変わりはない.また,平均在院日数の地域格差もかねてから指摘されているところである.鳥取県171.1日,島根県185.5日と短い県もあれば,宮崎県580.9日,徳島県645.9日と,地域によって3倍以上の在院日数の差が認められている1)

 しかし,日本の医療の中で精神医療が軽んじられているというわけではく,むしろ精神医療の重要性,必要性は時代とともにますます強くなってきている.そのひとつの現われとして,2011年7月の社会保障審議会医療部会において,医療法に基づく医療計画に地域医療連携等の対策を記載することとなっている4疾病(がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病)に精神疾患を加えて5疾病とする提案が,厚生労働省によって示された.これにより今後は,医療計画に精神疾患が加えられることになるであろう.これは,精神疾患の患者数が年々増加し,病院と病院,病院と診療所,さらに在宅へという連携に重点を置く必要性が高くなっていること,認知症やうつ病の増加,自殺や社会的入院の問題も含む精神疾患への対応が喫緊の課題となっていること,さらにわが国に関して算出された障害調整生命年(disability adjusted life years:DALY)によると,疾患区分の中で精神神経疾患はトップであり2),社会的にも十分な医療体制を整える必要があることなどが強く認識されるようになったことを反映していると考えられる.

 このような時代の流れの中で,地域におけるこころの医療のネットワークはなぜ必要で,どのように推進していくべきなのか,本稿で筆者の考えを述べたい.

フィールドに出よう!・2

沈黙は罪なり―ガーナでの寄生虫対策

著者: 野中大輔

ページ範囲:P.159 - P.162

沈黙は罪?

 「あなたはこの会議に何も貢献していない!」と,ガーナ人のプロジェクトリーダーから叱責されたのは,私がガーナに着いてから約1週間が過ぎた日のことであった.その日は,毎月1回開かれるプロジェクトの定例会議に出席していた.プロジェクトメンバーが集まり,活動の進捗や計画を発表する会議である.なぜ叱責されたのか.会議中,私は全く発言しなかったからである.英語で議論されている内容が理解できなかった訳ではない.他の出席者が私と同じ意見を述べていたし,話し合われていた議題は自分が関わっていない活動に関することであったから,私は沈黙していたのである.しかし,叱責されて実感した.ここでは会議は,参加者全員で作っていくものであるということ,自分の存在を積極的にアピールする必要があるということを.

 以降,たとえ相手が分かり切っているであろうことでも,積極的に意見するように努めた.4か月後,ガーナを離れる直前には,相手が話していても割り込み,意見を言えるぐらいまで図々しくなっていた.

リレー連載・列島ランナー・35

東日本大震災を経験して―気仙沼の保健師として

著者: 前田知恵子

ページ範囲:P.163 - P.166

はじめに

 東日本大震災で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます.また,復興のために尽力されている地元関係機関の皆様,各自治体をはじめ,遠方よりご支援いただきました皆様に,深く敬意を表します.

 山梨市立牧丘病院の古屋先生からバトンを受け取りました.古屋先生とは,気仙沼巡回療養支援隊(JRS)のコーディネート医師として活動されている時に初めてお会いしました.と言っても,当時は慌ただしい朝夕のミーティングでお会いするのみで,きちんとご挨拶できたのはJRSの在宅医療チームが活動を終える頃でした.

 当時,支援に来ていた方の中には,様々な分野の第一線で活躍されている方も多く,今思えばその実践を見ることができる貴重な機会はたくさんありましたが,毎日,目の前の課題を何とかすることで精一杯だった私には,残念ながらとてもそんな余裕はありませんでした.

衛生行政キーワード・80

「相双地域医療従事者確保支援センター」の設置について

著者: 町田宗仁

ページ範囲:P.167 - P.169

 東京電力福島第一原発事故の緊急時避難準備区域1)が昨年9月30日に解除をされたことを受け,10月2日(日),細野豪志原発事故担当大臣と佐藤雄平福島県知事が福島県庁で会談しました.その席上で,政府は地域への住民の帰還を促すため,南相馬市内に相双地域の医療従事者の確保等を行うべく小宮山厚生労働大臣が積極的に推進していた「厚生労働省相双地域医療従事者確保支援センター(以下,支援センター)」を設置することについて言及がなされ,同じ週の7日(金)に開所となりました.相双地域とは,福島県の海沿いの地域(浜通り地方)の,いわき市以外の南相馬市,相馬市,相馬郡(新地町,飯舘村),双葉郡(広野町,楢葉町,富岡町,川内村,大熊町,双葉町,浪江町,葛尾村)で構成される2市7町3村が該当します.

 支援センターは厚生労働省の出先機関の位置付けで,南相馬市にある福島県相双保健福祉事務所内に設けられ,厚生労働省職員2名を約6か月間の配置をすることでスタートしました.旧緊急時避難準備区域内の公立,民間病院の医師等医療従事者数や喫緊の課題をきめ細かに把握した上で,「被災者健康支援連絡協議会2)」等関係機関間の連絡調整を行い,最終的には医療従事者確保に向けて,福島県が行っている既存の確保策の更なる推進に寄与することを目的としています.

公衆衛生Books

―公益社団法人地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター(編)―『健康なくに2011―災害が問いかける「公衆衛生とは?」』 フリーアクセス

ページ範囲:P.113 - P.113

 われわれは2010年に健康づくりの主役である住民の方と支援者である専門職や行政の方に読んでもらう本を目指して『健康なくに』を作成しました.本書は「健康」を単に疾病がないといった狭いとらえ方ではなく,国民一人ひとりが幅広い意味での「健康」を享受できるようにするために,今,専門職のみならず,地域に生きる一人ひとりが何に取り組めばいいのかを考え,実践するきっかけとなる,そして日頃の活動を今一度見直すときに手にしたい本を目指しています.そのため,正解や確立された方法論を紹介するのではなく,今,健康づくりを考えるうえで検証しなければならないことや,最新のトピックスを検証した内容にすべく議論を重ね,毎年改訂し,読者の方と一緒に学び,作り上げていく姿勢を持ち続けたいと考えています.

 2010年版では,既存の活動を通して,今求められている公衆衛生活動とは何かを問いかけました.そして,その問いかけどおりの取り組みが,まさしく被災地で求められ,行われていないでしょうか.2011年版は東日本大震災からの復旧・復興,被災地での「健康なまちづくり」に学んだことを,非被災地が日常の活動に生かす内容を目指しました.その一方で,残念ながらMIDORIモデルやタバコ対策などを割愛せざるをえませんでした.ぜひ2010年版も合わせて参考にしていただければ幸いです.

沈思黙考

世界の生活習慣病対策

著者: 林謙治

ページ範囲:P.129 - P.129

 21世紀の公衆衛生の強化目標について,世界公衆衛生研究所会議は2004年に「平時の生活習慣病対策,非常時の健康危機管理」を定め世界に発信した.この方向に向けた努力は現在まさに強く意識されるようになったが,内容面においてさらに充実化していかなければならないことは言うまでもない.健康危機管理と対をなすもう一方の生活習慣病対策について,国際的に最近大きな動きがあった.

 昨(2011)年9月国連総会において生活習慣病を重要なGlobal Issueとしてとらえ,国連政策のPriority Areaであることを決議した.健康問題がWHOを超えて国連総会の場で決議されることは珍しい.ここまで持って来られた主な理由は2つある.1つは生活習慣病による死亡は世界レベルにおいてすでに全死亡の60%を超えており,もはや先進国だけの問題でなくなっていることである.これによる平均寿命以前の早期死亡は多大な労働力を喪失させ,経済成長の阻害要因となっていると認識されたからである.第2に,生活習慣病は日常生活行動に起因するが,個人の自覚や保健指導だけでは簡単に予防することはできない.そのためにはヘルス・セクターを超えた全セクターの協調,あらゆる産業の協力(食品,交通,流通等)や官民一体化の努力が求められるため,国連総会としての決議がなされた必然的な理由があったと思われる.

映画の時間

―目を凝らして見れば,この世界はきっと違って見える.―ポエトリー アグネスの詩

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.169 - P.169

 主人公ミジャは,お洒落が好きなおばあさん.言うことを聞かない中学生の孫息子と2人暮らしで,ヘルパーをしながら生計を立てていますが,生活はけっして楽ではありません.孫の母親である娘は,家を離れて出稼ぎに出ているようです.最近は年のせいもあってか,物の名前が思い出せないことが多くなり,近所の医師から紹介されて専門医を受診し,「アルツハイマー型認知症」と診断されます.そんなとき,孫と同じ学校の女子生徒が自殺し,救急車で病院に運び込まれる場面に出会います.孫に聞くとその女の子のことは知らないと言いますが,孫は仲間たちとその女の子に暴行を加えていた疑惑が浮かび上がります.

 本格的な高齢社会に突入したわが国にとって,高齢者の増大に伴い患者数が増えている認知症への対策は,重要な課題となっています.認知症をテーマにした映画では,1973年の「恍惚の人」(有吉佐和子原作・豊田四郎監督)が有名です.高齢化がまだ進展しない時代に,認知症について社会に認・知・させたエポックメイキングな映画で,森繁久彌,高峰秀子の名演が記憶に残ります.

予防と臨床のはざまで

第9回日本ヘルスプロモーション学会に参加して

著者: 福田洋

ページ範囲:P.170 - P.170

 昨年12月9~10日,宮崎で開催されました第9回日本ヘルスプロモーション学会に参加しました.学会長は,鶴田来美先生(宮崎大学医学部看護学科教授)で,メインテーマは「絆―痛みの共有と復興」.未曾有の大災害となった東日本大震災,また一昨年の宮崎県での口蹄疫の流行の経験を踏まえて,災害による様々な痛みについて理解を深め,人と人とのつながりや地域住民の支え合いの大切さ,健康で幸せな社会を構築する仕組みについて考える,という狙いで,活発な報告や議論が行われました.

 島内憲夫先生(順天堂大学スポーツ健康科学部教授)の特別講演では,震災後の現在,すべての国民が「生きること」の意味を痛切に考えさせられる状況になっており,人々が健康で幸せな人生を歩んでいくためには,ソーシャル・キャピタルやソーシャル・ネットワークとして説明されるような「社会的なつながり」がますます重要になっていること,とりわけ健康・医療ニーズに応えるヘルスボランティア活動が「共に生きる社会」「愛が溢れた社会」に極めて重要な意義を持つことが述べられました.一般口演でも震災関連の演題が多く見られ,私自身もボランティア医療従事者による被災者向けメール医療相談「Rescue311」の活動について概要報告を行いました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.171 - P.171

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 品川靖子

ページ範囲:P.172 - P.172

 今月の特集は「セルフケアを支援する」です.

 節分に年齢の数だけ豆を食べると風邪をひかないとか,恵方巻きを無言で食べると1年間無病息災で過ごせるなど,健康や家内安全に関する言い伝えは,家庭や地域に数多く存在します.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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