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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生76巻2号

2012年02月発行

文献概要

特集 セルフケアを支援する

肥満解消に効果的な生活指導

著者: 大野誠1

所属機関: 1日本体育大学大学院体育科学研究科 健康科学・スポーツ医科学系

ページ範囲:P.133 - P.137

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倹約遺伝子と生活習慣病~省エネ体質のエコ型人間ほどメタボになりやすい

 飢餓との戦いに明け暮れた人類400万年の進化の歴史の中で,食べたものを少しでもたくさん体脂肪に変えて蓄えておけるという能力は,きわめてすぐれたサバイバル能力であり,進化の過程で自然淘汰を繰り返しながら,私たちのからだはエネルギー効率のよい体質(遺伝素因),すなわち「倹約遺伝子:thrifty genotype」を獲得したと考えられている.しかし,飢餓を乗り越えるために不可欠なこの遺伝子も,飢餓から解放されて飽食を謳歌する一部の民族においては,内臓脂肪の過剰蓄積を惹起し,メタボリックシンドロームを構成する生活習慣病の元凶になるという皮肉な現象が世界各地で起きている1)

 その典型例は米国のピマ・インディアンである.この部族の祖先はモンゴル人であるが,中世期に二分され,一群は米国のアリゾナの平原に定着し,もう一群はメキシコの山間部に移住した.米国のピマ族は1970年頃までに保護区に入り,農業をやめ食事も欧米流になり,摂取エネルギーの約40%を超える大量の脂肪を毎日食べるようになった.この結果,成人の9割近くが肥満になり,35歳以上では2人に1人以上が糖尿病になってしまった.しかし,今でも先祖伝来の自給生活をしているメキシコのピマ族には糖尿病はほとんどおらず,米国のピマ族より体重も平均26kgも軽い.彼らが食事からとる脂肪の量は米国のピマ族の半分以下で,週に40時間以上の肉体労働を続けている.すなわち,同じ遺伝子を持つ集団でも,食事や運動を中心とした日常の生活習慣の違いにより,肥満や生活習慣病の発症に大きな差の出ることが確認されたのである.

参考文献

1) 大野 誠,他:肥満症の生活指導―行動変容のための実践ガイド.医歯薬出版,2011
2) http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou09/dl/01-kekka.pdf
3) 向本敬洋,大野 誠,他:レジスタンストレーニングにおける負荷強度および反復動作速度の差違が高齢女性の下肢筋力および身体組成に及ぼす影響.肥満研究13(2):164-169, 2007
4) 吉松博信:Ⅱ.治療の進歩1.肥満症の行動療法.日内会誌100(4):917-927, 2011
5) 大野 誠:自宅入院ダイエット.集英社新書,2005
6) 大橋信行,大野 誠,他:宅配治療食を併用した保健指導による減量効果と治療食を導入する時期との関係.肥満研究15(2):208-216, 2009
7) 日本体力医学会体力科学編集委員会(監訳):運動処方の指針―運動負荷試験と運動プログラム.原著第8版(American College of Sports Medicine編),南江堂,2011
8) 運動所要量・運動指針の策定検討会:健康づくりのための運動指針2006―生活習慣病予防のために〈エクササイズガイド2006〉.厚生労働省,2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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