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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生76巻3号

2012年03月発行

雑誌目次

特集 アルコール関連問題

フリーアクセス

ページ範囲:P.177 - P.177

 アルコール飲料の摂取(飲酒)を原因とする様々な疾患や病態,あるいは飲酒運転やアルコール関連の自殺といった社会問題などは,総称して「アルコール関連問題」と言われています.

 わが国の健康増進計画である「健康日本21」では,アルコール関連問題への対応として,「多量飲酒者の割合を減少させる」,「未成年者の飲酒をなくす」,および「節度ある適度な飲酒の知識の普及」という3つの目標が設定されています.この目標からわかるように,たばこ対策における「禁煙キャンペーン」と違って,アルコール対策では,未成年者を除けば「節度ある適度な飲酒」を基本方針として啓発活動が行われてきました.その結果として,わが国の成人1人当たりのアルコール消費量は,10年以上にわたって漸減しておりますが,多量飲酒者の減少目標の達成は困難な状況となっています.また,最近は飲酒者層の変化や飲酒形態の多様化などが見られ,特に女性の飲酒量の増加が顕著であり,これには女性向けを含めた多種多様なアルコール飲料の販売戦略が影響していると考えられます.

WHOの「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」

著者: 中山寿一

ページ範囲:P.178 - P.182

はじめに

 2010年5月にジュネーブで開催された第63回世界保健総会において,世界保健機関(World Health Organization:WHO)の193の加盟国は,アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略(以下「世界戦略」)1)を採択した.これはWHOにより“歴史的な合意”と表現されている.この世界戦略は,WHO加盟国とWHO事務局の両者に対し,アルコールの有害な使用を低減するための方策についての指針を与えるものである.

わが国のアルコール関連問題の現状と今後の対策

著者: 中山秀紀 ,   樋口進

ページ範囲:P.183 - P.186

はじめに

 古代より世界中で酒はたしなまれているが,同時に種々の酒害にも悩まされ続け,それに対して様々な政策がとられてきた.しかし2004年現在においてもなお,世界全体でアルコールの有害な使用によって毎年250万人が死亡し,これは総死亡のうち3.8%を占め,疾病全体の負担のうち4.5%を占めるとされている.アルコールは健康を害する第3の主要な危険因子であるとされているが,予防可能な因子でもある1)

 本稿では,世界や日本全体のアルコール消費量,飲酒傾向,問題飲酒,WHO(世界保健機関)の世界戦略や,健康日本21のアルコール対策などを中心に述べる.

アルコール関連のうつ・自殺問題への対応―地域の関係機関連携による予防活動

著者: 猪野亜朗

ページ範囲:P.187 - P.190

はじめに

 アルコール医療に従事する者にとっては,自殺はもちろん,アルコールがもたらす外傷,疾患,事故,犯罪等による患者の死は,「無念の死」である.

 「精神科医の心の中にはいくつかの墓がある」と中井1)は患者の自殺に触れて述べている.特に,アルコール患者の「自殺」は私の心に非常に重く響き続けており,多くの墓となっている.

 私はアルコール依存症と気分障害を重複した患者の入院中の自殺を幾つも体験したので,患者の入院中でも気が抜けなかった.

 さらに退院後も,次の場合はとりわけ患者に注意を注ぐようにしていた.孤独と困難な現実生活にシラフで直面する退院直後の時期,再飲酒してしまい酩酊状態にある時期,家族の心を含めて多くのものを喪失した時期,治療者として患者に希望を提示し切れなくなった時期,こんな時には自殺のリスクが高いと経験的に考えていた.

 このような体験を踏まえて,「死のトライアングル―アルコールとウツと自殺2)」について概説したリーフレット3,4)を作成したが,その作成中に,自殺予防のための内閣府による意見交換会5)が開催され,意見を述べる機会を与えられた.自殺予防総合対策センターの精神科医,全日本断酒連盟の役員と共に,アルコール依存症者の自殺の多さ,治療や自助グループが自殺予防に役立つことを懸命に伝えた.

 内閣府担当官は死のトライアングルの重要性を理解し,以降,従来のうつ病中心の対策から,アルコール・薬物への対策も加わった自殺対策加速化プラン6)へと変化して来た.

 一方,四日市市では一般病院,医師会,保健所,消防署,警察署,一般精神科病院,専門機関が連携して,自殺問題を含めたアルコール関連問題へのネットワーク活動を展開している.

 これらは,全国どこにも普遍化できる取り組みであるので,本稿では,死のトライアングルについての文献考察を述べた後で,具体的な対応について述べていきたい.

アルコール依存症者に対する治療・回復支援体制の現状と課題

著者: 西脇健三郎

ページ範囲:P.191 - P.194

はじめに

 まず,本特集のテーマである「アルコール関連問題」1)について触れてみたい.この「アルコール関連問題」は2つに大別される.

 1つは,アルコールに直接関係する問題である.最近,最も注目を集めているのは飲酒運転であろう.それにドメスティック・バイオレンス(DV),さらには自殺と飲酒の関係が問題になっている.それに従来から医学的に取り組まれているアルコール起因の心身両面の健康問題である.

 そして,もう1つのアルコール関連問題はと言うと,他の物質依存,行為依存,対人依存といった異なる依存対象,つまり薬物,ギャンブル,人間関係とのクロス・アディクション(複合依存)と,今後,大きな社会問題になると想定される「うつ病,強迫性障害,社交不安障害,人格障害」といったその他の精神科疾患との重複障害である.

 本稿では,前者を「結果のアルコール関連問題」,後者を「素面(しらふ)のアルコール関連問題」と表現する.

 1.「結果のアルコール関連問題」について

 ここで言う「結果」とは,アルコール起因の①身体的障害,②精神的障害,③社会的障害のことである.

 まず,①身体的障害だが,それは多彩であり,様々な診療科でその障害に応じて治療が行われる.しかし,その多くはしばらくの禁酒のみでも改善する.次に,②精神的障害であるが,これは精神保健福祉法による処遇が必要となり,概ね入院による医療と保護で,それも薬物療法が主になる.最後に③社会的障害であるが,飲酒運転に対する罰則の強化,飲酒による欠勤の繰り返しは各企業・各機関の就労規則に基づいての処分,そして,家庭の崩壊も家庭裁判所等の判定に委ねられることになる.

 このように「結果のアルコール関連問題」ついては,その各々の障害に対して医療化,司法化されることによって,十全とまではいかないが,各々の障害に応じた対処と対策がなされ,そしてその対処と対策に関しては,関係者の間で周知,かつ実践されている.また,その効果に対しても国民の多くが関心を持ち,注目している,と言っていいだろう.

 2.「素面(しらふ)のアルコール関連問題」について

 素面(しらふ)とは,それこそ家族に言わせれば,「うちのお父ちゃんは,酒を飲まなかったら神様みたいな人なのだ」と.その「素面」はある種,問題でなく,才能として評価されてきた.よって,その対策と対処に関しては,ほとんどの司法・医療の専門家の間で関心を持たれていないのが現状である.いや,それどころか,現在の社会全体にこの素面の状態に対する理解は「一杯くらいなら…」と,概ね寛大である.

 だがここで,私に与えられた執筆テーマ「アルコール依存症者に対する治療・回復支援体制の現状と課題」とは,この後者の「素面(しらふ)のアルコール関連問題」を軸に語らねば何の意味もない,と私は常日頃より考え,現場で実践を積み重ねてきた.これから記す内容が,現場職人の語り草にでもなれば幸いである.

多量飲酒者に対する早期介入の重要性―ブリーフ・インターベンションの実践から

著者: 角南隆史 ,   杠岳文

ページ範囲:P.195 - P.199

はじめに

 「健康日本21」の中では,多量飲酒者を減らし「節度ある適度な飲酒」を普及させることなどを呼びかけているが,これまでアルコール依存症の患者に対する断酒治療以外に,具体的な対策はほとんど取られてきていない.ちなみに「健康日本21」を含めて,通常わが国における多量飲酒者は,純アルコールで1日60グラム以上(具体的には1日に日本酒約3合,あるいはビール中瓶3本以上)の飲酒者を指す.

 このため筆者らは,将来アルコールが健康被害を起こす可能性の高い多量飲酒者,あるいは既に健康被害が及んでいる多量飲酒者に対する早期介入のためのプログラムとツールから成るパッケージ「HAPPYプログラム」を作成した.これは,AUDIT(The Alcohol Use Disorders Identification Test)を用いて飲酒問題の重症度を評価し,教育ビデオや補助教材等を用いる早期介入プログラムである.アルコール問題の早期介入に用いられるブリーフ・インターベンションについては,その有効性を示す数多くの報告が海外でなされているが,わが国ではまだ研究が始まったばかりである.

 本稿では主に,多量飲酒者への早期介入と,その技法としてのブリーフ・インターベンションについて述べる.

わが国の飲酒運転の現状と今後の対策

著者: 尾﨑米厚

ページ範囲:P.200 - P.204

はじめに

 飲酒運転は,被害者,加害者のみならず,社会に大きな影響を及ぼす.近年になり,痛ましい飲酒運転事故被害の報道などが続き,飲酒運転加害の厳罰化に向けての世論が形成され,罰則が強化され続けてきた.これは,交通事故による生命,健康あるいは医療費の損失を防止するための公衆衛生学的介入とも解釈できる.これには,一定程度の効果があったと考えられているが,その傾向を詳細に分析し,対策の効果を客観的に評価し,今後の課題や対策を考察することは重要である.

 わが国の飲酒運転の実態を知るためには,警視庁から公表されている飲酒運転についての統計を見ることになる.詳細な情報は,交通事故総合分析センターから公表されている.交通事故の統計は,統計作成時の情報の分類の問題などが指摘されているが,他の方法による情報収集が困難なため,公表情報を元に分析を行うことになる.

アルコールと生活習慣病予防―分子疫学研究の成果とその応用

著者: 竹下達也

ページ範囲:P.205 - P.209

はじめに

 日本人などアジア人の飲酒行動およびその関連影響に関しては,アルコール代謝酵素の多型により遺伝的に規定されるアルコール感受性の個体差を抜きには語れない.2010年の本誌において,そのうちの1つの多型(ALDH2遺伝型)に関して概説を行った1)が,近年の分子疫学研究の進展に伴い,主に2つの多型(ALDH2およびADH1B遺伝型)によってアルコール感受性および健康影響が大きな影響を受けていることが明らかになってきているので,本稿ではこの2つの多型の組み合わせと健康との関係について最近の知見を紹介し,遺伝子検査により自分の遺伝子タイプを知り,飲酒による健康リスクを予防する個の健康増進の可能性について述べる.

大災害とアルコール関連問題

著者: 野田哲朗

ページ範囲:P.210 - P.214

はじめに

 1995年1月17日発生の阪神・淡路大震災では,それまで日本では関心が持たれることのなかったPTSD(Post traumatic stress disorder)が注目され,こころのケアと称して初めて大々的に被災者のメンタルヘルスケアが行われた.生命の危険に関わるような破局的な体験(トラウマ体験)が原因となって発症するPTSDは,災害が新たに引き起こす精神疾患として理解しやすく,様々な団体によって被災者のメンタルヘルスケアが行われたのであった.

 だが,震災当初のメンタルヘルスの課題は,統合失調症などの治療中断患者への医療継続や,避難所に支援物資として流入した酒類が顕在化させた飲酒問題への対応であった.

 平時,アルコール関連問題は,アルコール使用障害(乱用・依存症),アルコール関連身体疾患,自殺,飲酒運転,虐待,DV(ドメスティック・バイオレンス),犯罪など多岐に亘り,深刻な問題でありながら看過されがちだが,震災後のストレス状況が続く被災地では,平時以上に対応しにくい問題となる.

 本稿では,災害時のアルコール関連問題と,その対策について論じる.

視点

日本も国際保健規則(IHR)の真剣な導入を

著者: 砂川富正

ページ範囲:P.174 - P.175

IHRの現状評価と施行計画策定の期限が2012年6月に迫っている!

 わが国の公衆衛生業務に従事する方で,国際保健規則(International Health Regulations:以下IHRと略)の名称を聞いたことがある方はどの程度いるだろうか?改正後のIHRの実施は2007年6月であり,5年目の節目である2012年6月は,準備猶予期間として規定されたIHRの現状評価と施行計画策定の期限である.そのような状況であるにもかかわらず,IHRに対する周知不足が国内で普遍的に起こっている.

 そもそもわが国においてはIHRへの国としての取り組みが十分に行われておらず,関係する研究者として,筆者自身も深く反省するところである.IHRは,国対WHO(世界保健機関)等のレベルに留まる概念ではなく,自治体や保健所,そして検疫所など公衆衛生の現場が深く関わる,全ての人の健康に関わる国際的な法的枠組みである.途上国を含む各国がIHRに応じた体制の整備を進める中で,わが国が取り残されている感は否めない.本稿では日常の公衆衛生業務において,あるいは国としての戦略として,なぜIHRが重要であるか,について考えていきたい.

特別寄稿

東日本大震災から1年―岩手県からの報告―被災者の健康に関する長期追跡研究を実施中

著者: 坂田清美

ページ範囲:P.215 - P.217

はじめに

 東日本大震災による死者・行方不明者数は,12月11日現在19,334人で,戦後最悪の自然災害となった.最大で40万人以上が避難所に避難せざるを得ない状況が発生した.岩手県では12月11日現在で,大槌町が人口の8.6%,陸前高田市の7.9%,山田町の4.2%,釜石市の2.7%,大船渡市の1.1%が犠牲となった.死者・行方不明者数は陸前高田市1,852人,大槌町1,307人,釜石市1,060人,山田町775人,宮古市535人,大船渡市430人で,県全体では6,053人に上り,未だに1,388人が行方不明となっている.

 岩手県では被災状況が最も深刻な大槌町,陸前高田市,山田町を対象として,3市町の約1万人を対象に,厚生労働省特別研究として被災者の健康に関する長期追跡研究を実施することとなった.ベースライン調査では,18歳以上に問診票,診察,血液検査,尿検査とともに呼吸機能検査も実施し,18歳未満については,4階級に分けて問診票による調査を実施しているとことである.メンタルヘルスに問題のある人や生活習慣改善支援が必要な人に対して支援体制を構築しながら,脳卒中,心筋梗塞等の発症調査および死亡小票調査により,被災者のリスク評価を実施する予定である.

 本稿では,3市町の中で最も早く健診を開始した山田町の18歳以上の問診調査の暫定的な解析結果に基づいて報告することとする.

東日本大震災から1年―宮城県からの報告

著者: 辻一郎

ページ範囲:P.218 - P.221

はじめに

 昨年の3月11日以来,すべてが変わった.まずは自宅と職場の再建,そして同時並行的に避難所めぐりも始めた.そのなかで被災地の保健衛生システムが崩壊した現実を知り,地域保健支援センターを5月1日に設置して,被災自治体の保健衛生システムの復興に向けた支援を始めた.厚生労働省から被災者健康調査を依頼され,6月下旬からは県内各地で健診を実施するとともに,事後指導会や運動・栄養教室の開催,心のケアチームとの連携など,さまざまな活動をしてきた.

 正直に言って,それは自分自身の研究路線と必ずしも一致するものでなく,当初は葛藤もあった.しかし,その活動を通じて「公衆衛生の基本」が理解できたことも事実であり,「地域主権」について考える機会にもなった.平成23(2011)年3月11日という日を消すことができない以上,その後に起きたことは全て前向きに捉えるしかない.そう思いながら歩んできた日々を振り返ってみたい.

東日本大震災から1年―福島県からの報告―県民健康管理調査の概要

著者: 安村誠司

ページ範囲:P.222 - P.225

はじめに

 2011(平成23)年3月11日午後2時46分に発生した地震と,それに引き続き起こった津波による東日本大震災(以下,震災と略す)から,間もなく1年になるのを前に,特別寄稿の依頼を頂いた.この1年を振り返ることは,思い出したくない出来事の数々を再び呼び起こすことを意味しており,言語化することは,苦しく,つらい作業であるが,記録に残しておくことの重要さを考え,引き受けることにした.震災により,東京電力福島第一原子力発電所および福島第二発電所が被害を受け,想定外の原発事故により,福島県内を中心に広範囲にわたる放射能汚染が発生した.福島県では原子力災害による放射線の影響を踏まえ,将来にわたる県民の健康管理を目的とした「県民健康管理調査」を実施することになった.本調査に関わっている一人として,その目的・内容等について主に紹介する.

東日本大震災から1年―福島県からの報告―放射線被曝のリスクに揺れて

著者: 福島哲仁

ページ範囲:P.226 - P.229

はじめに

 福島県は昨年,地震,津波,原子力発電所事故と未曾有の被害を受け,今なお原子力発電所の事故収束,県内に降り注いだ放射性物質の除去,また警戒区域や計画的避難区域等の住民の帰還も目途が立たないままであり,風評被害を含め産業界が受けた影響も甚大である1).しかし,これらの状況を網羅して報告するには誌面の制約もあり,またそれぞれに適任者もいらっしゃることだろう.本稿では震災から1年を振り返り,私自身が体験し感じたことを中心に述べさせていただこうと思う.なお編集者からの要望もあり,先般の第70回日本公衆衛生学会総会(秋田)における私の教育講演の内容をもとに執筆したことをお許し願いたい.

連載 人を癒す自然との絆・32

エンパワーメントの場としての農場

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.230 - P.231

 虐待を受けた子どもたちに生き物のケアを教え,慈しむ心を育むカリフォルニアの「忘れな草」農場(本誌74巻5号の本欄で紹介).1993年に設立されたこの農場は,子どもたちの支援にかかわる多くの組織から引っ張りだこだ.子どもやDV(ドメスティック・バイオレンス)被害者のシェルターの他,いくつもの特別支援学校が,プログラムに空きが出るのを待っている.

 問題行動や情緒障害のある子どもたちのための特別支援校の教師,バレリーもその一人だった.彼女は子どもの緊急シェルターで働いていたときに,「忘れな草」農場の活動を知った.その後特別支援校で教えることになったとき,自分の生徒たちもぜひ,農場のプログラムに参加させたいと考えたのである.

保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・12

論文の構成

著者: 中村好一

ページ範囲:P.233 - P.236

 医学/保健科学系の論文の主要部分は「緒言」,「方法」,「結果」,「考察」の4部構成となることは前回述べた.しかし,論文はこれだけで構成されているわけではない.今回は論文を構成する部分の概略を説明し,次回以降,それぞれの部分の詳細を紹介していく.なお,参考までに表で『日本公衆衛生雑誌』が刊行する,『日本公衆衛生雑誌』の投稿規定に示された論文の構成を示す.

地域づくりのためのメンタルヘルス講座・12【最終回】

公衆衛生の精神保健,精神保健医療のこれから―本連載をもとに

著者: 竹島正

ページ範囲:P.237 - P.241

はじめに

 メンタルヘルスの問題は,ひきこもり,自殺関連行動,虐待,暴力,アルコールや薬物の乱用,ホームレス状態など,一見すると合理的ではない行動として,私たちの前に表れる.本シリーズは,深刻なメンタルヘルスの問題を抱えながら,既存のサービスにうまくアクセスできない人たちがあることに目を向け,2011年4月号(本誌75巻4号)から1年間連載してきた.その最終回として,本稿では公衆衛生の精神保健,そして精神保健医療のこれからに役立てることを目的として,この連載で取り上げたことを企画者の視点から要約・紹介し,考察を行う.

フィールドに出よう!・3

フィールドは辛くて,とても面白い―コロンビアJICA長期専門家としての地雷被災者支援

著者: 高橋競

ページ範囲:P.242 - P.245

なぜフィールドへ行ったのか?

 理学療法士として日本国内で働いていた私が「フィールド」という言葉を意識するようになったのは,国内外の障害者に優しい社会づくりに貢献したいと国際保健の道を志してからだ.メキシコの田舎で地域に根ざしたリハビリテーションを成功させたデビッド・ワーナー氏に憧れていたこともあり,途上国という「フィールド」で,障害者を取り巻く環境のダイナミックな変化を肌で感じることができるのではないかと思っていたのである.将来,国際保健分野の研究者になるにしても実践家として活動するにしても,一度はフィールドに長期滞在し,自分の専門性を深めつつ,責任ある立場で仕事をしたいと考えていたのだ.

 修士課程を修了したタイミングで,国際協力機構(JICA)がコロンビア政府と共に実施している技術協力プロジェクト「地雷被災者を中心とした障害者総合リハビリテーション体制強化」に長期派遣専門家(チーフアドバイザー/総合リハビリテーション)として2年間従事する機会をいただいたのは,本当に幸運だった.もちろん不安はたくさんあったが,2年後の成長した自分を夢見ながら,「行くなら今しかない!」という思いでフィールドに飛び込んでしまった.

リレー連載・列島ランナー・36

地域の健康のためにできることは?―カンボジア,留寿都村,気仙沼

著者: 大泉樹

ページ範囲:P.246 - P.249

はじめに

 昨年気仙沼で「在宅訪問をどう進めていくか」について,気仙沼市高齢介護課,健康増進課の方々とともに毎日のように討議をしました.そのメンバーの1人が,宮城県気仙沼保健所の前田保健師さんでした.このような大災害で,被災された方々には本当に言葉もないくらいですが,私のような小さなNGOの一ボランティアが,被災された住民のために働く,素晴らしい多くの仲間と出会えたことにとても感謝しています.そんな仲間の1人である,前田保健師からの列島ランナーのバトンでしたので,2つ返事でお受けしました.私の経験が,少しでも読者の皆さまの活動の一助になればと,筆をとらせていただきます.

活動レポート

職域における通信による飲酒行動変容プログラムの長期効果

著者: 足達淑子 ,   田中みのり ,   高梨愛子 ,   渡邊ちさと ,   小林和弘 ,   武見ゆかり

ページ範囲:P.250 - P.254

はじめに

 アルコール関連問題は,健康被害と社会・経済への悪影響の両面から,公衆衛生上の重要課題である1).WHO(世界保健機関)は,アルコールの害は早死や種々の障害における世界第3位の危険因子と指摘した2).日本では,多量飲酒者は男性の10~13%,女性の3~6%と,問題飲酒者は654万人,有害使用は218万人,依存症は80万人,死亡は3万5千人と推計されている1).健康日本21の中間評価では,多量飲酒者,適正飲酒の知識保有の比率は改善が認められず3),一般成人に対する一次予防対策は不十分である.

 1980年以降,欧米では飲酒行動修正の介入研究が積極的になされ,短期行動カウンセリング(以下,短期介入)の1年後までの効果が確認されている4,5).本法は15分以内の行動変容面接であるが,禁煙とは異なり,効果が期待できるのは複数回の介入とされる.米国では短期介入はすでに一般医や対象者への普及段階にあるが,日本では本格的な介入研究6)が緒についたばかりで,指導者訓練や臨床現場への導入など課題が多い.一方,情報提供のみでも効果があるとの報告4~6)もあり,節酒希望者も相当数存在すると予想されることから,適正飲酒知識の普及と節酒希望者への効果的な教育法の開発が急がれる.

 本研究ではこれらの背景を踏まえ,これまで減量7)と睡眠改善8)で長期効果が確認されている簡素な行動変容法を,職場の飲酒コントロール希望者に用いて6か月後まで追跡し,飲酒量と飲酒習慣行動の変化を検討した.その方法とは,飲酒関連行動の自己評価と標的行動の特定および行動記録からなる行動療法であった9)

沈思黙考

日本の未来予測

著者: 林謙治

ページ範囲:P.182 - P.182

 少子高齢化がますます進み,社会保障制度の現状維持が困難となっている.税収が41兆であるのに医療費だけでも39兆に達している.思えば国民皆保険が実現できた昭和36(1961)年は東京オリンピックを迎える3年前であった.その12年後の昭和48(1973)年,田中内閣のときに老人医療費無料制度が導入され,「福祉元年」とも呼ばれたことを記憶されている方もおられると思う.当時,日本は経済成長に支えられて,世界に誇れる社会保障制度を築き上げた.

 筆者はこの頃に公衆衛生の道に入り,研究の世界では「公害研究にあらずんば公衆衛生にあらず」という雰囲気があった.こうした時代背景のなかで,当時国立公衆衛生院の某先輩が高齢化の進行について論文を発表し,「やがて医療・年金等社会保障制度がきわめて困難な状況に陥るであろう」と予見した.それから20年も経たないうちに,国保の財政難を社会保険が支えるのと引き替えに,医療費の削減を目指して検診事業を充実化するという財界の暗黙の了解のもとに,老人保健法が成立した.財政問題がこの頃から顕在化していたと言える.公衆衛生院の先輩が論文発表した当時,右肩上がりの経済成長のさなかであり,社会保障制度の構築に細心の注意を払うべきとの論調は歓迎されるはずもなかった.

列島情報

施術所

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.209 - P.209

 近年,県内では施術所の中でも,「接骨院」「整骨院」などと称される柔道整復の施術所が増加傾向にある.全国の状況も同様であり,業務別に2000年と2010年の施術所数(衛生行政報告例)を比較すると,「柔道整復」24,500→37,997(+55.1%),「はり(鍼),きゅう(灸)」14,216→21,065(+48.2%),「あん摩,マッサージ,指圧」21,272→19,983(-2.7%),「あん摩,マッサージ,指圧,鍼,灸」32,024→36,251(+7.9%)となっている.柔道整復および鍼・灸については,特に2004年から2008年にかけての増加が目立っている.

 都道府県別に2010年における人口10万あたりの施術所数を比較すると,柔道整復では7.9(鳥取県)から69.5(大阪府)(全国30.3),鍼・灸(「あん摩,マッサージ,指圧,鍼,灸」の施術所を含む)では21.3(岩手県)から91.8(大阪府)(全国45.7)と開きがある.岐阜県における人口10万対柔道整復の施術所数は34.4で,全国で8番目に多かった.

映画の時間

―温かい涙,溢れ出す愛.この感動に世界が喝采―.―アーティスト

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.229 - P.229

 動物愛護法の改正が予定されていますが,伴侶動物として大事に育てられるペットがいる一方で,捨てられる可哀想な犬や猫もいます.「アーティスト」で名演を見せるアギーはそんな捨て犬だったと言います.本作品で見事カンヌ国際映画祭パルムドッグを受賞しました(カンヌでは最高賞をパルムドールと言います.それにひっかけた特別賞です).動物好きには見逃せない映画ですが,映画好きにもたまらない映画です.なんとこの映画は白黒サイレント映画です(厳密に言うと,台詞はありませんが,音響と音楽を入れたトーキーで,サウンド版と言われるものです.トーキー移行期にはサウンド版も製作されていました).

 舞台は1927年のハリウッド,映画はまだサイレントの時代です.大スターのジョージ(ジャン・デュジャルダン)は,ひょんなことから駆け出し女優ペピー(ベレニス・ベジョ)を見初めます.ジョージの引きもあって,ペピーは人気女優への道を歩みはじめます.しかし映画は徐々にトーキーの時代へ突入し,ジョージの人気には翳りが見え,ペピーはスターへの道を駆け上がって行きます.この映画は,そんな二人のロマンチックな恋をテーマにしたハートウォーミングコメディです.

予防と臨床のはざまで

東京都がん検診推進サポーター講演会

著者: 福田洋

ページ範囲:P.232 - P.232

 1月27日に行われた「東京都がん検診推進サポーター講演会」に,演者として参加しました.2人に1人ががんに罹患する時代,働き盛りの従業員のがんを予防するために「職場におけるがん検診受診率向上対策」をテーマに,講演とパネルディスカッションが行われ,160名以上の企業の人事総務スタッフ,健保組合の保健事業担当者,自治体関係者らが参加しました.

 まず私から「働き盛りの5大がん予防:企業と健保ができること」と題して,①5大がんの動向,②5大がん検診の概要,③がんと生活習慣についてお話しし,Premature death(早すぎる働き盛りの死)を防ぐために,健保と企業が従業員や被保険者の健康を守るためにどのように連携できるか,という話題提供をしました.乳がん検診の受診率が検診バスの導入で劇的に変わる事例や,事業所の分煙・全面禁煙化の取り組みの事例などを紹介し,健康な社員と職場を作るために,職場のヘルスプロモーション活動を通じて,働く人のヘルスリテラシー(Health Literacy)を高めることが重要とお話ししました.

お知らせ

日本地域看護学会第15回学術集会のご案内―メインテーマ:地域看護のフィロソフィー フリーアクセス

ページ範囲:P.245 - P.245

会期:2012年6月23日(土)~24日(日)

会場:聖路加看護大学(〠104-0044 東京都中央区明石町10-1)

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.255 - P.255

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.256 - P.256

 意外なことですが,本誌で「アルコール関連問題」についての特集を組むのは,2000年以降初めてです.保健所等の公衆衛生の現場にとっては,昔も今も重要な問題ですが,わが国全体としても,地方の取り組みとしても,たばこ(喫煙)対策に比べて“気合い”が入っていなかったように感じます.

 たばこ(喫煙)問題では,受動喫煙防止のための法的規制(健康増進法など),およびWHOの「たばこ規制枠組条約」の発効などが,期待した以上(?)の強い追い風となって,対策の厚みが増しました.公共の場所の禁煙化や喫煙率の低下などで,成果も上がっています.アルコール(飲酒)対策においても,法律に基づく社会的規制や国際条約などが必要と言われておりましたが,本号の中で繰り返し紹介されたように,WHOの「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」が2010年5月に採択されました.これは“歴史的な合意”と表現されるほどの戦略です.身近にいる保健所の保健師さんに聞いても,その周知度は極めて低かったのですが,本号を通じて,世界戦略の幅広い標的領域や,政策などへの関心が高まることを期待しております.それとともに,多岐にわたるアルコール関連問題への具体的な介入方法や,関係機関連携による予防活動などに拍車がかかることを願っております.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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