icon fsr

文献詳細

雑誌文献

公衆衛生76巻3号

2012年03月発行

文献概要

特集 アルコール関連問題

アルコール関連のうつ・自殺問題への対応―地域の関係機関連携による予防活動

著者: 猪野亜朗1

所属機関: 1かすみがうらクリニック

ページ範囲:P.187 - P.190

文献購入ページに移動
はじめに

 アルコール医療に従事する者にとっては,自殺はもちろん,アルコールがもたらす外傷,疾患,事故,犯罪等による患者の死は,「無念の死」である.

 「精神科医の心の中にはいくつかの墓がある」と中井1)は患者の自殺に触れて述べている.特に,アルコール患者の「自殺」は私の心に非常に重く響き続けており,多くの墓となっている.

 私はアルコール依存症と気分障害を重複した患者の入院中の自殺を幾つも体験したので,患者の入院中でも気が抜けなかった.

 さらに退院後も,次の場合はとりわけ患者に注意を注ぐようにしていた.孤独と困難な現実生活にシラフで直面する退院直後の時期,再飲酒してしまい酩酊状態にある時期,家族の心を含めて多くのものを喪失した時期,治療者として患者に希望を提示し切れなくなった時期,こんな時には自殺のリスクが高いと経験的に考えていた.

 このような体験を踏まえて,「死のトライアングル―アルコールとウツと自殺2)」について概説したリーフレット3,4)を作成したが,その作成中に,自殺予防のための内閣府による意見交換会5)が開催され,意見を述べる機会を与えられた.自殺予防総合対策センターの精神科医,全日本断酒連盟の役員と共に,アルコール依存症者の自殺の多さ,治療や自助グループが自殺予防に役立つことを懸命に伝えた.

 内閣府担当官は死のトライアングルの重要性を理解し,以降,従来のうつ病中心の対策から,アルコール・薬物への対策も加わった自殺対策加速化プラン6)へと変化して来た.

 一方,四日市市では一般病院,医師会,保健所,消防署,警察署,一般精神科病院,専門機関が連携して,自殺問題を含めたアルコール関連問題へのネットワーク活動を展開している.

 これらは,全国どこにも普遍化できる取り組みであるので,本稿では,死のトライアングルについての文献考察を述べた後で,具体的な対応について述べていきたい.

参考文献

1) 中井久夫:神谷美恵子さんの「人と読書」をめぐって.樹を見つめて,pp148-201,みすず書房,2006
2) 本橋豊,他:自殺は予防できる.p47,スピカ書房,2005
3) 猪野亜朗:飲酒にはリスクがある.三重県こころの健康センター,2008
4) 猪野亜朗:これは役立つ!「メタボ」「多量飲酒」への対応マニュアル.三重県こころの健康センター,2008
5) 猪野亜朗:臨床から見えること―アルコール依存症と自殺(自殺対策意見交換会記録).全日本断酒連盟,平成20年7月「かがり火」別冊,2008
6) 自殺総合対策会議:自殺対策加速化プラン,2008 http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/taikou/pdf/plan.pdf
7) Goldsmith RJ, Rie RK:Substance-Induced Mental Disorder. Graham AW, Shutz TK(ed):Principles of addiction medicine. 2nd ed, pp969-981, American of Addiction Medicine Inc, Maryland, 1998
8) Hufford MR:Alcohol and Suicide Behavior. Clinical Psychology Review 21(5):797-811, 2001
9) Inaba DS, Cohen WE:Downers;Alcohol. Uppers, Downers, all Arounders. 3rd ed, pp173-214, CNS Publications Inc, Oregon, 1997
10) Brady KB, Myrick H, Sonne S:Comorbid addiction and affective disorders. Graham AW, Shutz TK(ed):Principles of addiction medicine. 2nd ed, pp969-981, American of Addiction Medicine Inc, Maryland, 1998
11) カプランHI,サドックBJ,グレブJA:カプラン臨床精神医学テキスト.DSM-Ⅳ診断基準の臨床展開,p329,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2000
,p820
13) 大西基喜:都道府県別にみた自殺死亡率と成人1人あたりアルコール消費量の相関.厚生労働省科学研究,2005
14) 中村純,内村直尚:抑うつ状態,躁状態を伴うアルコール依存症.林田基(編):アルコール関連障害とアルコール依存症.日本臨床(特別号)712:378-382,1997
15) 松本俊彦,小林桜児,猪野亜朗,他:うつ病性障害患者における問題飲酒の併存率;文献的対照群を用いた検討.精神医学54(1):29-37,2012.
,p149
17) 高橋祥友:自殺予防の基礎知識.平成19年度地域医療における自殺予防研修会,pp8-9,日本医師会,2008
18) Nutt, DJ, King LA, Phillips LD:On behalf of the independent scientific committee on drugs:Drug harms in the UK;a multicriteria decision analysis. Lancet, 2010. www.thelancet.com Published online November 1, 2010. Dol;1016/Sol40-6736(10)61462-6
19) WHO:アルコールの有害使用の低減に関する世界戦略.解説付き和訳要約文 http://www.dansyu-renmei.or.jp/news/pdf/WHOsummary.pdf
20) 猪野亜朗:地域での飲酒をめぐる指導―三重県・四日市の試み.臨床栄養119(6):655-660, 2011

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら