icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生76巻4号

2012年04月発行

雑誌目次

特集 地域医療の現状と将来展望

フリーアクセス

ページ範囲:P.261 - P.261

 わが国の医療制度は,医療者にとっても患者にとっても先進国の中で最も自由度が高く,効率的なものであると評価されています.しかしながら,小児科,産科,あるいは救急の各医療の崩壊が問題となっています.不安定生活者が増えるのに伴い無保険者が増え,医療を受けられない人も増えてきており,また医師の地域偏在傾向も改善されていません.豊かな社会となりましたが,すべての人が安心して,いつでも受診し相談できる医療が実現できているのか,現状を見つめ直す必要があります.

 地域医療のあり方については,昭和60年代から医療法改正が繰り返し実施され,誘導がなされてきています.しかし医療サービスは,人が人に対して行う営みでもあり,法改正や保険点数の改定だけでは解決できない部分も沢山あります.

わが国のプライマリ・ケア体制

著者: 尾身茂

ページ範囲:P.262 - P.266

はじめに

 「総合医」の必要性が語られて久しい.最近は一般市民,報道関係者の間でも総合医についての議論が活発になってきている.今回の東日本大震災においても総合医が大いに活躍し,その重要性が再確認されるようになった.しかし,総合医が医療の現場で実際に定着しているかという点では,未だ道半ばと言わざるを得ない.

 本稿ではまず,①総合医がわが国で定着していない理由を議論した後に,②総合医の必要性について再考し(日本の人口動態から見て),最後に,③総合医確立のための必要な国民的合意,について考えてみたい.

わが国の地域医療政策の歩みと将来展望

著者: 信友浩一

ページ範囲:P.267 - P.270

地域医療の現実を誰が見ていた(See)のか

 医療政策の底流を近代化以降から概観したい.

 明治政府は生産年齢層の国民が病死することを恐れ,伝染病を最優先して地域医療の整備を行ってきた.富国強兵が国策であり,当然のごとく生産年齢層の国民・兵隊の数と,健康とを必要としたのである.従来の住民に寄り添う医療を担っていた医師たちから医師免許を取り上げて,明治政府が導入したドイツ医学を学んだ者のみに医師免許が与えられ,国策に寄与させた.その意味で,わが国の地域医療は,国家経営上の視点から整備されていただけで,地域独自の視点で地域医療が整備されることはなかった.この流れは,第二次世界大戦敗戦まで続くことになる.

小児医療体制の現状と将来展望

著者: 森臨太郎

ページ範囲:P.271 - P.275

小児医療体制の現状

 わが国が直面している急激な少子高齢化を示す国は世界のどこにもなく,社会構造の転換の中,子どもたちの地域や家族の中でのあり方は,いやおうなく大きな影響を受ける.少子高齢化の対策は近視眼的には高齢化人口の社会保障であるが,より長期的視点に立つと,健全な次世代育成ということが最重点課題である.

 子どもの健康や安全という側面でのわが国の評価は,OECD諸国の中で平均的ではあるものの,他のOECD諸国から比べると際立った特徴がある.わが国の乳児死亡率はOECD諸国内で最も低率であるものの,出生の中で低出生体重児の占める割合は最も高い.麻疹ワクチンの際立って低いワクチンカバー率はあるものの,総体としてはワクチンのカバー率や事故による死亡は,OECD諸国内では平均的である.10代の妊娠率はOECD諸国中最低ではあるものの,15歳時に「さびしい」と感じている子どもたちの割合は,他のすべてのOECD諸国では5~10%であるが,わが国では30%と際立って高い.

産科・周産期医療の現状と将来展望

著者: 池ノ上克

ページ範囲:P.276 - P.278

はじめに

 約50年前のわが国の妊産婦死亡率や周産期死亡率は高く,先進諸国に比して,産科・周産期医療は決して良好とは言えない状態にあった.しかしこの50年の間,医師,助産師や看護師を始め,母子保健に関わる多くの専門職の努力と,わが国の社会経済や福祉の発展によって,母児の死亡率は大幅に改善され,先進諸国の中でも優れた結果が得られるようになった.

 しかし一方では,世界トップレベルの医療が展開されているにもかかわらず,日本の産科・周産期医療の危機が叫ばれ,社会的な問題となっている.人々が安心して産科・周産期医療を受け,医療者も安心して医療を提供できるようになるためには,社会全体がバランスのとれた成熟したものになる必要があり,併せて,医療体制の改善と医療に関わる人々の職業人としての質を高く保つことが求められる.

低蔓延時代に向けた結核医療体制の課題と展望

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.279 - P.282

低蔓延への移行期を迎えて

 結核予防法が制定された1951年当時,わが国の結核罹患率(人口10万対)は698.4であった.同法に基づく総合的な対策の下で結核患者数は急速に減少し,1975年には罹患率が100を切った.しかし,1980年頃から減少速度が鈍化し,一時は増加傾向を見せたことから,1999年に厚生大臣(当時)が「結核緊急事態」を宣言し,関係機関団体等に対策の徹底を促した.その効あってか,2000年以降は患者数が再び減少に転じている.2007年には結核予防法が廃止され「感染症の予防及び感染症の患者の医療に関する法律(以下,感染症法)」に統合されたが,同年には罹患率が20を下回り,2010年は18.2まで低下した.これでわが国も,結核の低蔓延国(罹患率<10)への移行期を迎えたと言えるだろう.

 しかしながら,この移行期は非常に難しい時期でもある.結核患者数の減少に伴い,結核に対する国民(特に医療従事者)の関心が一層低下し,結核の診断の遅れによる患者の重症化や,集団感染の増加などが懸念されるからである.また,この移行期に結核医療に関する地域資源が,人材(結核の診療経験豊富な医師など)および施設環境(結核病床など)の両面から過度に痩せ細ってしまった場合,罹患率が低蔓延国の水準に達する前に,結核の予防・医療の質的確保が困難になるおそれもある.加えて,わが国では結核の疫学的特徴や医療資源などの都道府県格差が大きく,各地域の課題に応じた効果的な医療体制の再構築が求められているところである.

地方都市の地域医療の現場―現状と将来展望

著者: 濱口實

ページ範囲:P.283 - P.286

はじめに

 地域医療とは,以前はへき地あるいは地方の中山間部の比較的医療過疎の地域で行われる医療を指していた.当時長野県の医療は,その厳しい環境,生活習慣の中で,脳卒中,高血圧に苦しむ住民が多く,今の長寿とはかけ離れた,思いもよらぬ状況であった.

 こういった状況の中で,約40年前から今井澄・鎌田實(元院長)らによる「地域医療研究会」の立ち上げがあり,国民健康保険(国保)の県独自の地域医療学会も,保健師,保健補導員の地道な活動で,全国学会に先立って始められた.一室暖房,減塩運動は,こうした保健師,保健補導員の地道な努力により進められていった.

 現在,地域医療が大都市の中でも注目されるようになってきたのは,近い将来,大都市を中心に高齢化の大きな波が押し寄せてくるからと思われる.急性期に特化している大病院では対応ができなくなり,厚労省などが提唱する地域包括医療・ケアの充実が重要となってくる.

 地域医療とは,この地域包括ケアのシステムの中に取り込まれ,地域の要望,需要の中から生まれてくる医療と定義することとなる.

大都市の地域医療の現場―東京都における救急医療体制の現状と課題

著者: 三浦邦久 ,   石原哲

ページ範囲:P.287 - P.291

はじめに

 東京都は国の救急医療体制整備として,三次救急医療の要の救命センター整備を行ったが,東京都の二次救急医療体制は私的病院の7割が支えているのが現状であり,質の確保,量的偏りなど,多くの問題を抱えている.

 本稿では,東京都の地域医療,特に救急医療を中心に,現状と課題について述べさせて頂く.

地域医療における保健所の役割

著者: 惠上博文

ページ範囲:P.292 - P.297

はじめに

 近年,地域医療においては,平成16(2004)年度からの医師臨床研修制度の見直しを始め,国立大学の法人化,診療報酬の減額改定,公立病院の改革,受療意識の変化等が複合的な要因となって,全国的な医師不足が発生し,診療体制が縮小するなど深刻な状況に直面している.

 このため,関係省庁・都道府県においては,平成18(2006)年度から総合的・緊急的な医師確保対策に着手するとともに,平成21(2009)年度からは特に解決すべき深刻な課題に直面している二次保健医療圏域(以下「二次圏域」)を対象として,地域医療再生計画1)を推進している.

 こうした中,地域の公衆衛生の専門機関である保健所においては,これまで深刻な状況に直面している診療科・病院・地域を中心にして,地域医療を確保するための関与を求める期待に応えて,企画・調整機能などを発揮し,大きな役割を果たしていると認識している2~5)

 そこで,本稿においては,地域保健総合推進事業(事業者:財団法人日本公衆衛生協会,協力者:全国保健所長会)として,筆者等が分担事業者を務めている実践的な研究事業の成果も活用しながら,地域医療への保健所の関与について,医療計画および医療連携を中心として,経緯,役割,現状,課題,展望等を述べる.

公立病院の歴史と現状,課題

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.298 - P.301

危機に瀕する公立病院

 全国で,公立病院の経営危機,地域医療の崩壊が起きている.その大きな要因となっているのが医師不足である.これまでわが国は,昭和40~50年代の医学部増設ブームの反動などで,医師数を抑制する政策を取ってきた.その結果,人口千人当たりの医師数で比較すると,OECD諸国の平均で3.1人であるが,日本は2.1人になっている(OECDヘルスデータ,2009).その一方,医療の高度・専門化や高齢者の絶対数の増加などの要因により,病院に勤務する医師の仕事自体は増えている.その結果,日本の医師の勤務状況は,非常に過酷なものになっている.

 このような中,2004年に新しい臨床研修制度が導入された.制度の導入を契機に,中堅・若手を含めた医師の勤務先が流動的になり,医師が集まる病院と集まらない病院に「二極化」する動きが起きた.その結果,地方の労働環境の悪い公立病院で,医師が退職する動きが起きた.

視点

医師会活動と公衆衛生

著者: 近藤太郎

ページ範囲:P.258 - P.259

はじめに

 東京都医師会の定款には,「本会は,医道を昂揚し,医学医術の発達普及と公衆衛生の向上を図り,もって社会の福祉を増進することを目的とする」とある.

 私が診療所を開設したのは1997年11月.1999年1月から渋谷区医師会理事として,医師会活動を始めた.地域の住民や患者さんを集団で捉えることを,医師会の先輩方,保健所や行政の方々から,会議や実務を通し,実学としての公衆衛生を教わってきたと実感している.

 本稿を書かせていただくにあたり,私のこれまでの医師会活動を振り返ってみたい.多くの方々からお教えいただいたことを基に,これから必要とされる医師会と保健所,行政との連携について,公衆衛生の視点から考えてみたい.

連載 人を癒す自然との絆・33

動物のメタファーを人との関係に生かす

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.302 - P.303

 前々号,前号と本欄で取り上げてきた,カリフォルニアの「忘れな草」農場.最後にもう1人,農場で出会った少女の話をしたい.

 特別支援校ノースバレー・スクールから来ていた,ナンシー,14歳.

保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・13

「緒言」

著者: 中村好一

ページ範囲:P.305 - P.308

 さて,2年間24回の予定の連載も13回目となり,折り返し点を越えた.今回から4回にわたって,前回説明した論文の4つの主要部分それぞれについて解説していく.まずは,「緒言」から.

災害を支える公衆衛生ネットワーク~東日本大震災からの復旧,復興に学ぶ・1【新連載】

公衆衛生版トリアージの実際

著者: 佐々木亮平 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.309 - P.312

連載のねらい

 2011年3月11日に起こった東日本大震災は,人的なものはもちろんのこと,家屋,財産,職場,行政機能,さらには地域の絆と,生活のあらゆる面に被害が及んだ.発災直後から阪神・淡路大震災を機に発足したDMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)をはじめ多くの医療チームが被災地に入ったが,救急医療へのニーズはそれほど多くない一方で,公衆衛生活動のニーズは発災直後から大きく,1年以上たった今でもむしろ増大し続けている.一方で,被災地では,公衆衛生従事者自身も多く被災したため,マンパワー不足を補う支援もされたが,復興の目途が立たない状況が続いている.

 本連載ではわれわれ筆者らが,震災後,岩手県陸前高田市に継続的に関わってきた経験をもとに,現地スタッフや筆者らの活動を通して,被災地が,発災直後からどのような公衆衛生活動を行ってきて,どのようなネットワークで公衆衛生面での支援を求めてきたのかを,われわれの反省を含めて検証し報告する.

講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ─新しい仕組みをつくろう・1【新連載】

序:働く人の雇用環境と職場の安全衛生が日本で今なぜ最重要なのか?

著者: 岸(金堂)玲子

ページ範囲:P.313 - P.318

 本講座ではこれから2年間24回の予定で,日本の働く人の雇用と職場の安全衛生の問題,課題,解決の方向について取り上げる.本テーマについては日本学術会議(第21期)課題別委員会「労働雇用環境と働く人の生活・健康・安全委員会」から昨年4月20日に“提言”「労働・雇用と安全衛生に関わるシステムの再構築を―働く人の健康で安寧な生活を確保するために」が発表されている.本稿では序章として,これまでのわが国の労働安全衛生の歴史を踏まえて,なぜ日本社会では今,働く人の雇用と健康安全が最も重要な課題となっているのか?上記“提言”の発出に至る背景と論点を紹介する.

「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・1【新連載】

「笑い」とは?―なぜ今,「笑い」が注目されているのか?

著者: 大平哲也

ページ範囲:P.319 - P.321

 昔から「笑う門には福来たる」,「Laughter is the best medicine」と言われているように,洋の東西を問わず,その効果が経験的に知られてきました.しかしながら,実際に笑いと健康・疾病との関連についての研究が盛んになってきたのは,ここ数十年のことです.

 例えば,“Medline”に収載されている世界中の学術情報の中で,最近30年間における論文のタイトルに“Laughter(笑い)”を含む文献がどの位あるのかを5年ごとに調べると(図),1982~1986年には27本であった論文数が,年々増加し,2007~2011年の5年間では121本になっていました.もちろん,その全てが笑いの良い効果を見たものではありませんが,この結果は笑いと健康・疾病との関連が注目されるようになってきたことを反映していると考えられます.

フィールドに出よう!・4

公衆衛生活動の糧はフィールドワーク!―中国・青年海外協力隊で新しい自分と出会う

著者: 齋藤順子

ページ範囲:P.322 - P.325

 私は現在,国際保健を学ぶ博士課程の学生である.修士課程からの3年間,タイとラオスでフィールド調査を行い,卒業後は日本や途上国の公衆衛生に関わる研究者となる夢を持っている.現在の研究および卒業後においても関わり続けるフィールド調査であるが,私の最初のフィールドワークは2005年にまでさかのぼる.

 当時,東京都内で病院看護師として働いていた私は,新しい環境で看護に関わりたいという思いを持ちながらも,今後の進路を決めかねていた.そんなある日,私は山手線の電車に乗り,なんとなしに車内広告を見上げた.そこには充実感に満ちた笑顔の若者たちの写真があり,看護師の姿もあった.青年海外協力隊員の募集広告であった.キャッチコピーは,「今でなきゃ,君でなきゃ」.私の退職への迷いは打ち消され,そのまま応募,そして配属先が中国と決まった.

リレー連載・列島ランナー・37

北海道の真ん中から地域自殺予防対策を叫ぶ

著者: 青野美智代

ページ範囲:P.326 - P.329

 今回,バトンを渡して下さった北海道留寿都(るすつ)診療所の大泉先生とは,東日本大震災における保健活動の派遣業務で宮城県気仙沼市に赴いた時,巡回療養支援隊で共に活動させていただきました.私にバトンが回ってくるとは夢にも思っていませんでしたが,気仙沼では一緒に在宅訪問をさせていただきお世話になった,「どさんこ海外保健協力会」でも大活躍の大泉先生から引き継いだバトンは,大切なご縁ですので,引き受けさせていただきました.

 ご依頼を受け,どのようなテーマにするのか悩みましたが,日常業務の中で重点事業として取り組んでいる「自殺予防事業」の,この数年間の活動について紹介いたします.

衛生行政キーワード・81

母子健康手帳の改正について

著者: 馬場征一

ページ範囲:P.333 - P.335

母子健康手帳の歴史

 母子健康手帳はその歴史を紐解くと,1942(昭和17)年「妊産婦手帳」まで遡る.当時の「妊産婦手帳規定」(昭和17年7月13日厚生省令第35号)では,「妊娠した者の届出と妊産婦手帳の交付」,「保健所,医師,助産婦又は保健婦による保健指導の勧奨と診察,治療,保健指導又は分娩の介助を受けたときは所定事項の記載」,「妊娠,育児に関し必要な物資の配給」等を定め,流・早産を防止することや,妊娠及び分娩時の母体死亡を軽減することを主な目的としていた1,2)

 戦後の占領下においては,生活物資不足による配給欄の有効性から存続し,1948(昭和23)年には,妊産婦のみならず乳幼児も含め,母子双方の健康管理を行う「母子手帳」(写真)に改正された2).そして,1965(昭和40)年には母子保健法が制定され,「母子健康手帳」と名称が変更となり,社会情勢や保健医療福祉制度の変化,乳幼児身体発育曲線の改訂等を踏まえた様式の改正が10年に一度行われ,今般,今(平成24)年4月からの改正に至っている.

フォーラム

シンデミックとHIV/AIDS

著者: 新ヶ江章友

ページ範囲:P.330 - P.332

はじめに

 2011年8月26~30日まで,大韓民国・釜山において第10回アジア・太平洋地域エイズ国際会議が開催され参加する機会を得た.本稿ではとりわけ,今回の学会の中でしばしば言及されていた「シンデミック(syndemic)」という概念に着目し,HIV/AIDS研究におけるシンデミック・アプローチの重要性について触れてみたい.

映画の時間

―誰もが知りたかった「アンネの日記」の壮絶な最後がここにある.―アンネの追憶

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.266 - P.266

 今月はホロコーストの犠牲となったアンネ・フランクを描いた「アンネの追憶」をご紹介します.戦争は公衆衛生上,最大の災厄である,と言われます.現在も,大きな戦争にはなっていないものの,内乱や武力紛争が世界各地で続いている中,アンネ・フランクの生きた時代,彼女の問いかけるものについて考えるのも意義があると思います.

 アンネ・フランクの生涯については,本誌読者の方であれば,よくご存知のことと思われます.アンネ・フランクの書いた「アンネの日記」を映画化した作品としては,1959年に製作されたジョージ・スティーヴンス監督の「アンネの日記」が有名です.アンネ役のミリー・パーキンスがあまりにも素晴らしく,ラスト近く,逮捕のため隠れ家に向かってくるゲシュタポのサイレンの音を聞き,アンネが覚悟を決めるシーンは今も鮮烈に記憶に残ります.

沈思黙考

災害時の遺体処置に尊厳を

著者: 林謙治

ページ範囲:P.297 - P.297

 震災から10か月経った現在,私の脳裏に浮かぶ情景は,あの津波が来襲したテレビ画面よりもむしろ,自衛隊の隊員が多くの死者を仮埋葬している姿のほうである.遺体を土葬に付したのは,ひとつには火葬場の設備・機能が追いつかなかったこともあっただろうが,遺体の同定ができなかったためだと言われている.現在日本の火葬場での処理は,衛生管理の面から強い火力が用いられており,骨髄まで灰化してしまうので,火葬後の個人同定が不可能になる.数年前に北朝鮮から以前拉致された方のものと称する遺骨が日本側に引き渡されたが,日本側の鑑定結果,別人のものと判明した.完全に灰化しなかった骨髄が残ったからである.

 埋葬に係わった関係者によれば,現場の作業者として自衛隊員のみならず,医師でさえこれほど大量の遺体処置に短期間のうちに立ち会った経験がなく,精神的ストレスは言い知れぬほど大きなものであったと言う.確かに遺体の同定をきちっとできなければ,法的には行方不明者と同じ扱いになり一定期間ののち,推定死亡者としてその後の手続きが行われる.その間遺産相続,生命保険等の処理に手間取ることは間違いない.しかしながら,遺体同定の遅延は単に経済的な問題に止まらず,遺族の精神的な問題にも大きな影響を及ぼす.報道によく見るように,行方不明者の遺体が同定されたとき,家族は「これでホッとした」とか「これで心の区切りがついた」とインタビューに答えているように一応の安堵感を示し,将来の生活への決意を新たにしている.逆に行方不明者を抱えた家族は,中途半端の気持ちで悲しみを引きずることになる.

予防と臨床のはざまで

「さんぽ会」2月月例会「5年目を迎える特定保健指導」報告

著者: 福田洋

ページ範囲:P.304 - P.304

 多職種産業保健スタッフの研究会である「さんぽ会」(http://sanpokai.umin.jp/)ですが,ここ数年,生活習慣病・メタボ対策について継続的に議論を行ってきました.2月の月例会は「5年目を迎える特定保健指導~課題と制度改正の方向性」をテーマに,実際に特定保健指導を行っている健保組合や保健指導機関の方に集まって頂き,現場の視点で「やってよかったことと課題をしっかり議論しよう!」という主旨で開催し,会場の保健同人社には90名を超える様々な職種の方が集まりました.

 まず私から,国の制度改正の方向性と,今までの「さんぽ会」での議論の振り返りを説明しました.制度開始直後の2008年のアンケート調査からは,特定健診の課題として「XMLデータへの移行,被扶養者の受診率の低さ,制度自体の準備不足」,特定保健指導の課題として「保健指導スキルやマンパワーの不足,重症域の受診勧奨やがん・メンタルなどの困難事例への対応,積極的支援の継続率の低さ」を指摘しました.また,2010年秋のNPO日本健康教育士養成機構との合同シンポジウムでは,制度開始後のよかった点について「専門職のスキルアップに役立ち,健保組合へのデータ集積により,喫煙率や未受診の状況が可視化された」などの意見が出されました.このような議論を踏まえ,次に「やってよかったことと課題」と題して,保健指導実施機関や健保組合から5人の方に発表を頂きました.

列島情報

インフルエンザの流行

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.308 - P.308

 2011/2012シーズンは,岐阜県内でもインフルエンザ(A香港型)が大流行となった.感染症発生動向調査週報では,第3週(1月16~22日)および第4週に定点あたり患者数がほぼ50でピークに達した.

 岐阜県リアルタイム感染症サーベイランス(http://infect.gifu.med.or.jp/influ/influcondition)によると,12月中旬に15歳未満を主とした医療機関受診が目立つようになり,次いで12月末から1月中旬までは15歳以上の割合が6~7割と高くなった.3学期が始まった頃からは,15歳未満の割合が再び高くなって5~6割を占めるようになり,1月下旬にピークを迎えた.学級・学年・学校閉鎖の数も3日ほど遅れてピークを迎えた.学校現場からの声の中には,「迅速検査で陰性であったため,登校した児童から広がった感じがする」,「抗インフルエンザ薬で早期に治癒して登校した児童から広がった感じがする」,「欠席する前にすでに他の児童に感染させていた感じがする」といったものがあった.また,保育所においては,「保育所における感染症対策ガイドライン」における「解熱した後,3日を経過するまでは,登園を避けるよう保護者に依頼」することが保育士等に十分周知されておらず,非発症児の保護者から感染のおそれに関する苦情もあった.

--------------------

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.337 - P.337

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.338 - P.338

 イギリスのプライマリ・ケアの担い手は,庶民の医療者であった薬種商にルーツがあり,病院は病人の収容施設であった修道院から発展したものとされています.そのため病院の多くは,貧困者や労働者などの患者が多い地域につくられました.医師は自らの専門職団体(GMC)に登録し,管理・規制される仕組みとなっています.

 一方わが国の場合は,国が中心となり,西洋医学を修める医学校・医学部がつくられ,医師免許は国により与えられ,病院の医師の発想を中心に急速に発展してきました.そしてわが国の医療制度は,西洋医学の病院,医師が全くない中からのスタートであり,また当時は感染症や急性疾患が中心の時代であり,国の強い力をもとにつくり上げられてきたことはやむを得ないことと思われます.その反面,庶民の医療を担っていた漢方医などを徹底的に排除したことに示されるように,地域医療が重要視されてこなかったように思われます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら