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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生76巻5号

2012年05月発行

文献概要

特集 高齢者の身近な疾患

高齢者の運動器疾患

著者: 石橋英明12

所属機関: 1医療法人一心会伊奈病院整形外科 2高齢者運動器疾患研究所

ページ範囲:P.344 - P.348

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はじめに~超高齢社会と運動器疾患

 2011年9月の総務省の発表では,わが国では総人口1億2,788万人に対し,65歳以上の人口が2,980万人に達しており,高齢化率は23.3%,定義上,超高齢社会(高齢化率21%以上)となっている.今後も高齢化率は上昇を続け,2025年には30%を超えると試算されている1)

 日本人の平均寿命は,男性79.6歳,女性は86.4歳で,毎年徐々に伸びている.また,平均余命から計算すると,たとえば現在65歳の高齢者の「推定寿命」(実年齢+平均余命)は,男性で83.9歳,女性では89.0歳に達している.さらに年齢の高い女性では,推定寿命は90歳を超えている2)

 高齢者人口の増加とともに,介護が必要な高齢者が増えた.介護保険制度が始まった2000年における要介護者は220万人であったが,2010年10月には500万人を超えている3).今後も要介護者数は増加し続け,2025年には700万人を超えるとも試算されている4).今後ますます,介護に関わる財政コスト,マンパワーや施設が不足する懸念が大きいと思われる.

 厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成19年)によると,要介護認定者のうち,運動器の障害が原因となったものが全体の2割を超えている.さらに男女別で見ると,全要介護者の7割に達する女性の場合,「転倒・骨折」と「関節疾患」を合わせると3割近くになる5).したがって要介護者を減らすためには,特に女性の高齢者における運動機能の維持や運動器疾患の予防が重要である.

 こうした視点は,高齢者の運動器疾患を考える上できわめて重要で,生命を脅かす疾患は多くないが,ADL(Activities of Daily Living)やQOL(Quality Of Life),健康寿命,自立や介護といった要素に大きく関係する.それを念頭に置いて,本稿では加齢に伴う運動器の変化,頻度の高い高齢者の運動器疾患,そしてロコモティブシンドロームについて概説する.

参考文献

1) 内閣府 共生社会政策統括官:平成22年度版高齢者社会白書,2010
2) 厚生労働省大臣官房統計情報部:平成21年簡易生命表,2009
3) 厚生労働省:介護保険事業状況報告 平成22年10月分,2010
4) エイジング総合研究センターホームページ:認知症・要介護高齢者の将来推計,2008
5) 厚生労働省:平成16年度国民生活基礎調査の概況
6) 内藤久士:高齢者のバランス能力.体育の科学41(9):719-724, 1991
7) 坂田悍教:地域在住高齢者の歩行能力に関する横断的・縦断的分析.医学のあゆみ236:339-344, 2011
8) 日本医師会総合政策研究機構(編):一般高齢者~軽度要介護者の歩行機能/日常生活活動状況の実態とサービス提供/マネジメント/ハイリスク者抽出方法に関する調査研究.日本医師会総合政策研究機構報告書第70号,2005
9) Rosenberg IH:Summary comments;epidemiological and methodological problems in determining nutritional status of older persons. Am J Clin Nutr 50:1231-1233, 1989
10) Rosenberg IH:Sarcopenia;origins and clinical relevance. J Nutr 127:990S-991S, 1997
11) Alfonso J, et al:Sarcopenia;European consensus on definition and diagnosis. Age and Ageing 39:412-423, 2010
12) Yoshimura N, Muraki S, Oka H, et al:Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women;the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab 27(5):620-628, 2009
13) 岩谷力,他:運動器疾患のEvidence変形性膝関節症に対する大腿四頭筋訓練の効果に関するRCT.リハビリテーション医学43:218-222,2006
14) Sinaki M, Itoi E, Wahner HW, et al:Stronger back muscles reduce the incidence of vertebral fractures;a prospective 10 year follow-up of postmenopausal women. Bone 30:836-841, 2002
15) Sakamoto K, Nakamura T, Hagino H, et al:Effects of unipedal standing balance exercise on the prevention of falls and hip fracture among clinically defined high-risk elderly individuals;a randomized controlled trial. J Orthop Sci 11:467-472, 2006
16) 骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン作成委員会(代表/折茂肇):骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン2011年版.ライフサイエンス出版,2011
17) Nakamura K:A “Super-aged” society and the “Locomotive Syndrome”. J Orthop Sci 13(1):1-2, 2008
18) 日本整形外科学会(編):ロコモティブシンドローム診療ガイド.文光堂,2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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