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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生76巻8号

2012年08月発行

雑誌目次

特集 国際感染症対策の現状と課題

フリーアクセス

ページ範囲:P.585 - P.585

 天然痘の根絶がなされたことで,感染症の問題は過去のものになったと受け止められた時期もありました.その後,人類を悩ます新感染症が次から次へと登場してきています.

 1980年代よりHIV/AIDS,近年ではSARS,鳥インフルエンザ,さらに現在はH5N1型の新型インフルエンザへの備えに,社会の総力を挙げて取り組まれています.その他,ウイルス性出血熱,感染性下痢症などもくすぶり続けていますし,結核,マラリアなどの再興感染症の問題も解決していません.ポリオ,はしかについては,効果的なワクチンが存在していますが,根絶に苦労しています.

グローバルヘルスのガバナンス―現状と課題

著者: 中谷比呂樹

ページ範囲:P.586 - P.591

はじめに

 20世紀末に始まったグローバル化の流れは,21世紀になりますます加速し,世界を全体として見た場合,経済的に豊かになり,健康面においても平均寿命をはじめ各種指標の改善を見ている.その一方,繋がり合った世界において,感染症が一気に拡がったり,感染症によってある国,あるいは地域の経済活動が停滞すれば,世界的な工業製品の分業体制に悪影響を与えることは,2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や,2009年の新型インフルエンザの例を見ても容易に理解できる.

 さらに経済的な発展が市民社会の成熟を生み,保健を含む公益増進活動は,政府が独占するのではなく,市民社会や民間財団,産業界も参加して進めるという傾向が進んでいる.また9.11以降,途上国の貧困撲滅や健康改善は,貧困とテロの悪循環を断ち,広い意味での国際的安全保障に資するという発想から,21世紀の最初の10年,保健関係のODA(Official Development Assistance:政府開発援助)は目覚ましい成長を遂げた.

 国際感染症分野,特に,筆者が担当するエイズ・結核・マラリア分野は,このようなトレンドを先駆けてきた分野であるので,本稿ではこれら三大感染症を例として,グローバルヘルスのガバナンスの現状と課題について述べてみたい.

わが国の熱帯医学,国際感染症研究の歩み

著者: 山本太郎

ページ範囲:P.592 - P.595

はじめに

 わが国の熱帯医学の歩みを,わが国で唯一「熱帯医学」の名を冠する長崎大学附置熱帯医学研究所の歴史とその前史を振り返ることによって概観してみたい.日本全体の熱帯医学・国際保健の歩みを概観することにはならないが,一つの研究所の来し方を追うことによって,その時代の「風」が見えてくることがある.本稿もそうした時代の風を追っていくことにする.

国際保健規則(IHR2005)の現状と課題

著者: 谷口清州

ページ範囲:P.596 - P.600

はじめに

 言うまでもないが,世界には多種多様な感染症が存在し,近年の流通と交通のグローバル化によって,わが国に存在しない感染症がいきなり面前に現れることも稀ではない.加えて,2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の世界流行,1997年から断続的に続く鳥インフルエンザA/H5N1の家禽における流行と人への感染,2009年のパンデミックA/H1N1pdm09などの事例は,新たな病原体が生み出されるリスクは常に存在し,いったん出現すれば,即座に世界中の脅威となり得ることを示した.そして,このような世界的な健康危機に対応するためには,世界中がお互いに情報を共有し,グローバルビレッジの一員として協力することがいかに重要であるかを,再認識させたのである.

新興感染症の研究および対策の現状と課題―世界と日本

著者: 押谷仁

ページ範囲:P.601 - P.604

はじめに

 第二次世界大戦後,多くの抗菌薬や抗ウイルス薬が開発され,ほとんどの感染症が治療可能になるとともに,新たなワクチンの開発などにより,感染症の発生そのものもコントロールすることが可能になっていった.その結果,感染症の時代は過去のものになったという楽観的な見方がされた時期もあった.しかし,実際には1980年代以降,新たな感染症の問題が相次いで大きな問題として出現してきた.このような新たな感染症は,新興感染症(英語ではEmerging DiseasesあるいはEmerging Infectious Diseases)と呼ばれている.過去10年の間にも2003年の重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome:以下,SARS),2004年以降世界規模の流行を起こしている高病原性鳥インフルエンザA(H5N1),さらには2009年北米から発生し世界中に広がったインフルエンザパンデミックA(H1N1)などの新興感染症が発生している.

 このように,新興感染症が次々に発生している背景には,グローバル化の影響も大きく関与していると考えられる.本稿では,新興感染症の現状と課題について,グローバルな視点から考えていきたい.

世界の結核の現状と輸入感染症としての課題

著者: 森亨

ページ範囲:P.605 - P.609

はじめに

 エイズ,マラリアと並んで三大感染症の座を占める結核の,世界における状況とそれへの対策の努力,その成果や残された問題点を概観する.この病気の問題は,グローバリゼーションの波の中で,世界の高まん延地域から低まん延地域にあふれ出していることから,日本としても全世界的な視点を持った取り組みが必要であることを指摘したい.

感染性胃腸炎の現状と課題

著者: 小林宣道

ページ範囲:P.610 - P.614

はじめに

 感染性胃腸炎はたいへん広い疾病概念であり,様々な原因微生物により引き起こされる胃腸炎・下痢症の総称である.世界中で普遍的に見られる疾病であるため,国際的に問題となる感染性胃腸炎のみを限定して取り上げることは難しい.しかし,国を越えての人々の移動や食品の流通が日常的となり,一方で,国や地域により感染性微生物の分布や対策が異なるため,国際的に問題となる,あるいは世界的に関心が高まっている疾病は確かに存在する.

 本稿では,感染性胃腸炎の基本的事項とともに,最近世界的に高い関心を集めているアウトブレイクの事例やトピックを取り上げ,対策の現状と課題について概説する.

疾病根絶事業から見た国際感染対策の現状と課題

著者: 髙島義裕

ページ範囲:P.615 - P.621

はじめに

 ワクチンと予防接種事業を用いた感染症対策は,国際公衆衛生事業の中でも中心的な役割を占める.本稿では,ワクチンと予防接種事業を用いた感染症対策としての疾病根絶事業と拡大予防接種事業の歴史,WHO西太平洋地域(Western Pacific Region:以下WPR)と世界のポリオ根絶事業およびWPRの麻疹排除事業の現状を概観し,ワクチンと予防接種事業を用いた国際感染症対策の課題を検討する.

HIV/AIDS制圧に向けた世界の現状と課題

著者: 新井明日奈 ,   玉城英彦

ページ範囲:P.622 - P.627

はじめに

 昨年(2011)は,エイズが初めて報告されてから30周年であった.1995年以降,多剤薬物療法(HAART)が導入され,エイズは「死の病」から「コントロール可能な病気」になり,多くの先進国ではエイズによる死亡者数が激減している.また,2008年にはエイズの原因ウイルスであるHIVの発見に対して,フランスの2人の研究者にノーベル医学生理学賞が授与された1,2).このように,30年という短期間の間に,20世紀以降の最大の感染症であるエイズの対策は大きく変化した.しかし,高所得国と低・中所得国とのギャップはいまだ大きく,それを埋めるためのグローバルな活動が強化されている.

 そのような背景にあって,国際社会は21世紀に突入した機会に,エイズの予防・対策のために新たなコミットメント(公約)を行い,いくつかの政治宣言を採択した.ここではまず,国連でのエイズ対策の調整機関である国連合同エイズ計画(UNAIDS)と国連の活動を中心に,エイズの世界の制圧の現状を概説する.

国際保健における人材養成の現状と課題

著者: 中村安秀

ページ範囲:P.628 - P.632

被災地で役立った国際協力経験

 私自身は,途上国と呼ばれる国々で,住民の健康を守るために予防接種や母子保健活動を行ってきた.20年以上前のインドネシア・北スマトラ州の電気や水道のない村や,パキスタンのアフガン難民キャンプで,予防接種や栄養改善に取り組んできた.そんな経験が,よもや日本で役に立つ日が来るとは,想像もしていなかった.

 津波で市庁舎が流された市町村が予防接種を再開するには,費用と時間がかかる大変な作業である.ワクチンや注射器は支援物資として供給してもらうことは可能であるが,電気も安定しない中で,冷蔵保存のワクチンを保管しなければならない.一方,赤ちゃんのいる家庭からは,「定期の予防接種がいつ始まるのか」という問い合わせの電話が市役所に届く.

視点

世代間交流と地域づくり

著者: 藤原佳典

ページ範囲:P.582 - P.584

はじめに

 近年,人や地域の「絆」の重要性が再認識されている.こうした背景から,福祉や教育,地域づくりなど様々な分野で,ソーシャルキャピタルの醸成・多世代共生社会の有用性が指摘されている.その根幹にあるのが世代間交流と言える.

 しかしながら,核家族化,プライバシー保護・匿名化のもと,コミュニティの崩壊が進むわが国においては,一度疎遠となった世代と世代をつなぐには,自然発生的でインフォーマルな交流のみでは不十分で,熟慮された「仕掛け(プログラム)」を要するとの指摘がある1).本稿ではこのような仕掛けを「世代間交流プログラム」と呼ぶこととする.地域では行政・NPOや住民により,世代間交流をテーマに多様な事業が企画されている.

 ところが,世代間交流は,総論としては万人から推奨されるものの,具体的なプログラムとしては普及しにくいのが現実である2)

 このような世代間交流プログラムの現状と課題を明らかにするために,筆者らは平成16(2004)年より高齢者ボランティアによる子どもへの絵本の読み聞かせを通じた世代間交流によるモデル事業“REPRINTS(Research of productivity by intergenerational sympathy)”を継続してきた3)

 本稿の目的は,この実践研究の経験をもとに,世代間交流が普及しにくい理由について言及し,その課題を解決するための糸口を提示することである.

連載 保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・17

図表の作成

著者: 中村好一

ページ範囲:P.633 - P.639

 今回は図表について,である.

どこで使うか

 結論から書こう.論文の主要4部分のうち,図表を使うのは主として「結果」である.すなわち,研究で得られた結果を図や表でわかりやすく読者に示す,ということである.「方法」において研究の手順を図で示した方が,本文でだらだらと記載するよりも,コンパクトで理解しやすい,ということで使うこともある.「緒言」や「考察」で図表を使うことは,まずないと考えて良い1).初心者は「図表は『結果』で」と理解しても全く問題ない.

災害を支える公衆衛生ネットワーク~東日本大震災からの復旧,復興に学ぶ・5

健康・生活調査(全戸訪問調査)

著者: 佐々木亮平 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.640 - P.644

同時進行中における連載執筆の難しさ

 東日本大震災の被災地に直接かかわりつつも,「被災地での日常業務」に追われていない立場の者が被災地の様々なことを伝え続けていく必要性があるとの考えから本連載が誕生した.被災地での取り組みについて,現状だけではなく,現場で明らかになった課題や,被災地の復旧,復興に必要な視点を報告するつもりでいるものの,その難しさを感じている.被災地の状況,取り組みの視点,かかわる人々,国を含めた支援体制等が日々刻々と変わる,それも時には正反対の方向に変わり続けている.また,気が付けば一つの事象について繰り返し紹介しているのも,被災地では,一つの公衆衛生活動に複数の意味があり,視点を変えると同じ事業に返りつくからだ.

 今回報告する陸前高田市が被災直後に行った全戸訪問による健康・生活調査についても,その意味付けやこの調査に対する思い等々,実は実施して1年近くが経った今でも大きく揺れ動き,様々な葛藤を生んでいる.

講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ─新しい仕組みをつくろう・5

非正規雇用―労働法から見た問題点と今後の解決の方向性

著者: 和田肇

ページ範囲:P.645 - P.648

 今日,全雇用労働者の1/3に達している非正規雇用(有期雇用,パートタイム,派遣労働等)は,概して不安定で,低労働条件の雇用形態である.また,労働保険や社会保険への加入も制限されている.このことが相対的貧困率の上昇や社会的排除の問題を生んでいる.こうした病巣を取り除き,健全・安心な労働環境を再構築することが,今日の労働政策の最重要課題である.

「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・5

笑うと血圧が下がる?―「笑い」と「高血圧・循環器疾患」との関連について

著者: 大平哲也

ページ範囲:P.649 - P.652

 「イライラすると血圧が上がる」と言われるように,血圧は心理的ストレスにより上昇することが知られています.わが国では平成22(2010)年の30歳以上における高血圧の有病者の割合は男性60.0%,女性44.6%であり,平成12(2000)年と比べて女性の頻度は変わっていませんが,男性では増加していることが報告されています.高血圧は脳卒中や虚血性心疾患等の循環器疾患の最も重要な危険因子の一つですので,高血圧を減らすことが,わが国の循環器疾患対策には重要と考えられます.笑いはイライラとは逆の感情と思われますが,果たして笑うことで血圧が下がったり,循環器疾患を予防できたりするのでしょうか?

フィールドに出よう!・8

海外を自分のフィールドにするということ―ハイチの震災復興支援―歌って踊るヘルスプロモーション

著者: 長谷川文

ページ範囲:P.653 - P.656

カリブ海の島・ハイチ

 “来月からハイチに1年行ってくれる?”

 上司から言われた時,私はハイチがどこにあるのか知らなかった.地図でやっと見つけた小さな島は,遠い世界であった.中米カリブ海の島.リゾートを思い浮かべる方も多いだろう.しかし,ハイチはそんなきらびやかな世界ではない.そんな世界からはほど遠い,現実と向き合っている国であった.

リレー連載・列島ランナー・41

佐久地域保健福祉大学と同窓会―“種子まき人”の活動経過と病院の関わり

著者: 水澤美芳

ページ範囲:P.657 - P.660

はじめに

 前回の列島ランナー著者の結城敬先生から,「佐久病院が以前から取り組んでいる健康な地域づくりのための運動について紹介してはどうか」という有難いチャンス(バトン)をいただきました.

 以下に,地域住民の皆様方と共に行ってきた健康づくりの様々な活動の中から,佐久地域保健福祉大学(以下,大学)とその同窓会活動について紹介させていただきます.

衛生行政キーワード・83

医療計画の見直しについて

著者: 田辺正樹

ページ範囲:P.665 - P.667

はじめに

 医療計画は,医療機能の分化・連携を推進することを通じて,地域において切れ目のない医療の提供を実現し,良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を図ることを目的としています(図1).医療計画の見直しにあたり,「医療計画の見直し等に関する検討会」において,大きく6つの見直しのポイントが示されました(図2).

 概ね平成25(2013)年度から始まる都道府県の新たな医療計画に向けて,平成24(2012)年3月30日,「医療計画作成指針」を改正するとともに,精神疾患,在宅医療の体制構築に係る指針を加えた「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制構築に係る指針」を発出しました(医政発0330第28号,医政指発0330第9号)(厚生労働省医療計画のホームページ参照,http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/).

 本稿では,二次医療圏の設定,PDCAサイクル[注:計画(plan),実行(do),計画(check),改善(act)のプロセスを順に実施すること]について概説します.

海外事情

バングラデシュ・パイガサの調査報告

著者: 梅村朋弘 ,   長谷川美香 ,   日下幸則 ,   福原輝幸

ページ範囲:P.661 - P.664

はじめに

 福井大学工学部の福原輝幸教授,医学部の長谷川美香教授とともに,2011年12月17~22日の日程でバングラデシュ(ダッカ,クルナ,パイガサ)を訪れた.これは現在計画中の水・保健衛生環境改善に関するプロジェクトの事前調査としての訪問であったが,現地の状況が多少なりとも分かったので報告させていただく.

列島情報

地域のつながり

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.591 - P.591

 近年,地域における人と人とのつながりの希薄化について言及されることが多くなっている.こうした中,地域での今後の協働・相互支援等の可能性を探るため,いくつかの集団を対象として行われたアンケート調査(2011年9月実施)の結果について紹介する.

 県内各地区の自治会長への調査(対象者数630人,回収率77.1%,参考:県内の小学校数378校)では,自治会運営上の課題として「会員の高齢化」「役員のなり手減少」「役員への過重負担」「行事等への参加者減少」などが挙げられ,さらにマンション等集合住宅が混在する住宅地では,「未加入世帯の増加」が多くなっていた.自治会長の立場から見た「地域で孤立しやすい対象」としては,「高齢者単身世帯」「高齢夫婦世帯」が特に多かった.民生委員・児童委員(対象者247人,回収率78.9%)では,これらの他に「生活保護世帯」「非高齢者単身世帯」「ニート・ひきこもり」「障害者」の割合も高くなっていた.

公衆衛生Books

―大塚敦子(著)―『介助犬を育てる少女たち』 フリーアクセス

ページ範囲:P.621 - P.621

 ここは,カリフォルニアにある少女更生施設の介助犬訓練室.ライトスイッチを埋めこんだ立て板,犬がくわえられるようにロープを結んだドア,車椅子など,介助犬を訓練するために必要な用具がひととおりそろっている.

 介助犬は,手や足に障害のある人の日常生活を手助けする犬だ.いっしょに暮らす人にどんな障害があるかによって,介助犬の仕事の内容も変わってくるが,落としたものを拾ってわたす,手が届かないものを持ってきてわたす,ドアの開け閉めをする,電気のスイッチやエレベーターのボタンを押す,洋服の着がえを手伝うなど,ずいぶんさまざまな仕事がある.

お知らせ

第16回 日本健康福祉政策学会・学術大会 フリーアクセス

ページ範囲:P.648 - P.648

期間:2012年11月17~18日(土,日)

会場:東京家政学院大学千代田三番町キャンパス(東京都千代田区三番町22)

沈思黙考

高コスト体質

著者: 林謙治

ページ範囲:P.652 - P.652

 昨今,国や自治体の財政難の話題が毎日のようにマスコミを賑わしている.筆者が退職して民間人になってからわずか2か月であるが,その立場で見るといくつか気になることがある.何をするにしても日本は全体的にやはり高コスト体質という印象がある.身の周りを見ても,例えばガソリンの値段が1ℓ150円は先進諸国と比べてかなり高い.ガソリン本体の価格(利益込み)にガソリン税(揮発油税と地方道路税)が固定額として53円かけられているので結局143円になり,この価格をベースに消費税を上乗せするので150円近くになってしまう.みなさん,ガソリンスタンドの領収書をもう一度よく見てください.ガソリン税の分まで消費税をかけるのは二重課税であり,関係者の間で時々問題にされている.ガソリン税は本来暫定税率であることを思えばなおさらである.運送費の価格は当然物価全体にはねかえることになる.国だけでなく国民側も高コストに慣れ切ってしまっている.これから夏に向かって需要が伸びると思われるペットボトル500mℓの水1本が130円である.1ℓだと260円になり,ガソリンよりはるかに高い.人々はそれでも高価な水を飲んでいるという意識はほとんどないように見える.水道の水を詰めて持ち歩くことはできないだろうか.

 交通関係と言えば,いつも気になるのがささいな交通違反を積極的に取り締まる警察のスタンスである.交通安全のために取り締まりをしっかりやっているという主張はもっともであるが,違反チケットを切られることがあれば一度じっくり見ていただきたい.切符のうえに交通特別会計と書いてある.一般会計ならばそのまま国家歳入になるが,特別会計ではいったん国庫に入ったのち交通予算として再び戻ってくる仕組みになっている.3年前の政府事業仕分けで非合理的ということから,国立病院特別会計はじめいくつの特別会計が廃止された.特別会計の仕組みは交通違反を積極的に取り締まるインセンティブになっているとも言えるわけで,果たして健全な制度であろうか.一般会計であっても交通安全のために積極的な取り締まりを行うという高度のモラルを持って頂きたい.それでも予算が不足するということであれば,その理由を国民に堂々と訴えればよい.

映画の時間

―ノーベル平和賞の裏側にあった,家族の愛の物語.―The Ladyアウンサンスーチーひき裂かれた愛

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.664 - P.664

 本年6月16日にオスロで,1991年にノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチー女史による受賞演説が行われました.感動的な受賞演説でしたが,なぜ受賞演説が21年後になったのか.1991年には何があったのか.ご存知の読者も多いとは思いますが,本作品をご覧になると,この間の事情が理解できます.

 1947年のビルマ,小さな少女に父親が国の歴史の話をしています.父親はアウンサン将軍,ビルマ建国の父と呼ばれる人です.側近に促され,将軍は会議に出掛けます.その会議中に,一部の軍人たちにより将軍は暗殺されます.穏やかなビルマの山々から,緊迫感あふれる将軍暗殺に至る冒頭のシーンは,まるでアクション映画を観ているようです.この短い冒頭の場面で,観客はビルマの歴史やサウンサンスーチー女史の置かれた状況を簡潔に理解し,映画に引き込まれていきます.さすがは「ニキータ」や「レオン」を作ったリュック・ベッソン監督と思わせます.

予防と臨床のはざまで

第85回日本産業衛生学会健康教育・ヘルスプロモーション研究会

著者: 福田洋

ページ範囲:P.668 - P.668

 今年5月30日に,第85回日本産業衛生学会(名古屋,http://jsoh85.umin.jp/)にて,健康教育・ヘルスプロモーション研究会を行いました.元UFJ銀行の埋忠洋一先生が長年主宰されていた研究会ですが,特定保健指導開始前の2006年から引き継いで早7年,職域の健康教育,ポピュレーションアプローチ,人事との連携,企業風土,組織の禁煙推進などを取り上げてきました.今年は昨年に引き続き,テーマを「働き盛り世代におけるヘルスリテラシーII」として,さらに実証研究に役立つ議論を行うことを目的に研究会を行いました.一般演題オープンの前日であったにもかかわらず,約40名の方にご参加頂きました.

 最初に私から,昨年までの研究会の歴史と,研究会として働き盛り世代のヘルスリテラシーについて継続的に取り上げる理由についてご説明しました.2010年,ロンドンにDon Nutbeam先生(英国,サウサンプトン大)を訪ねた経験から,日本の企業が長年取り組んでいるヘルスプロモーション活動や,従業員の健康に関する自己管理能力を高める取り組みがヘルスリテラシーに関係する可能性についてお話しし,ヘルスリテラシーに内包される多様な意味,例えば臨床と公衆衛生,米国と欧州,リスクファクターと資産(アセット)について,Nutbeam先生と議論できたことをお伝えしました.続いて2人の演者の先生から,ミニレクチャーを頂きました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.669 - P.669

あとがき・次号予告 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.670 - P.670

 近年イギリスの公衆衛生組織の調査に行く機会が多い.訪問先は,2004年新設のHealth Protection Agency(HPA)が主である.最初にHPAを訪問したのは2005年,行く度にわかりやすい組織になり,地方レベルの組織の専門性が高められている.昨年はHPAの総会にも参加させていただいた.中心人物の方々との朝食会にもお招きいただき,直接話を聞く機会も得ることができた.2013年4月にさらに組織強化がなされ,名称がPublic Health Englandとなる予定である.

 WPAは,WHO(世界保健機関)のIHR(International Health Regulation:国際保健規則)のUKのNational Focal Pointとなっており,WHOのGOARN(地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク)の一員となっている.イギリスは国内事情が複雑であるにもかかわらず,感染症対策については世界の枠組みを支え,国内の公衆衛生体制と協働できる組織へと変革を進めていることに驚かされている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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