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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生76巻9号

2012年09月発行

文献概要

特集 独居高齢者と健康

独居高齢者問題―一開業医の立場から

著者: 堂垂伸治12

所属機関: 1(医)緑星会どうたれ内科診療所 2千葉大学医学部

ページ範囲:P.706 - P.711

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はじめに

 私は1999年1月から千葉県松戸市で開業している内科医である.当院は,月平均2,000人の外来患者さんと常時40人以上の在宅患者さんを管理,在宅看取り数は年間6~14人の(ひとり)在宅療養支援診療所である.当院を受診される患者さんには,まさに「かかりつけ医」として診療にあたり,皆さんが不幸にして病に倒れられた後も,看取る医療を行っている.

 事例:患者さんは63歳男性.2005年5月に血圧が196/127に上昇,呂律障害が出現し,近所の病院を受診.頭部MRIで多発性脳梗塞と診断され服薬開始.07年2月に当院へ逆紹介された.奥さんを胃がんで亡くし,子どもはおらず,集合住宅で1人暮らしだった.以後,月1回の割りで安定して外来通院をされていた.しかし09年10月外来中に警察署から連絡があり,自宅で「孤独死」されているのが発見された.

 開院以来約13年余り経つ.この13年間当院が何らかの形で関わった患者さんで,判明した死亡患者数は443人である.このうち「自宅死」が108人(うち在宅で看取った方は73人)いる.443人中,「突然死」は46人,「突然死かつ孤独死」は13人だった.「孤独死」では警察から問い合わせの電話が入り,知ることが多い.病院で管理中でも予期せぬ突然死がある.あえて言えば,どんなに努力し厳格で最善の臨床を行っても,突然死や孤独死は出現し得る.

 在宅医療を行っていると,これらの亡くなった方々に「最後まで付き合う医療」を行うことになる.高齢者は亡くなるまでに多数の疾病や事故に遭遇する.「かかりつけ医」は文字通りその一つ一つに対応せざるを得ない.最近は医療現場の努力もあり,「一度の疾病で直ちに亡くなる方」は少ない.むしろ幾多の重病を乗り越えて長生きされる方が多い.治療のみならず介護への理解も必要である.したがって医療現場にはこれまでに未経験の負荷がかかっている.「介護力が全くない独居高齢者」では,さらに対応・対処が困難で難渋する.

参考文献

1) 常盤平団地自治会>孤独死ゼロ作戦 http://www.ne.jp/asahi/toki/jiti/kodokusi/kodokusiTOP.html
2) 中沢卓美:今を読み解く『孤独死』をどう防ぐか.日経新聞,2012年5月13日
3) 堂垂伸治:独居生活者の転帰から得られたこと.千葉県医師会雑誌58(11):44-46,2006 http://www3.ocn.ne.jp/~doutare/text/06.11.30.html
4) 菅村昇,他:「一人暮らしあんしん電話」の提案.ヒューマンインターフェースシンポジウム2007:一般発表3112
5) これまで,安否確認システムはいくつかあるが,契約料や月数千円程度の利用料が必要で,余り普及していないのが実態である.また他に,主に自治体に導入されている「緊急通報装置」がある.これは確かに緊急時に一定の効力は認めるが,実際は1人あたり年間4万円以上の費用がかかり,税金が投入されて初めて成り立つものである.したがって市によっては「非課税世帯だけ利用可能」などの制限を設けている.この他にも「通報のうち半数以上が誤報で実際の救急通報は3%くらい」,「手足となって訪問する現場の方は負担が重い」など問題が多々ある.私はこういう問題があるにもかかわらず,漫然と予算を継続している現状に大きな疑問を感じている.
6) 橘木俊詔:無縁社会の正体.pp41-47,PHP研究所,2011
7) 「高齢者見守り2町会独自に,読売新聞東葛版 11.11.10」「お年寄り見守りコール,朝日新聞ちば東葛版 12.3.7」他各紙 どうたれ内科診療所>診療所ニュース http://www3.ocn.ne.jp/~doutare/news.html
8) 「1人暮らしあんしん電話」で安否確認,特集/今後期待される保険診療.月刊保険診療65(11):21-22,2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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