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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生77巻10号

2013年10月発行

雑誌目次

特集 日常生活とアレルギー

フリーアクセス

ページ範囲:P.789 - P.789

 昨年12月に給食を原因とする食物アレルギーで小学生が死亡する痛ましい事件が発生しました.また,今年の冬には中国の大気汚染物質が日本に飛来し,PM2.5という微粒子が呼吸器疾患や呼吸器のアレルギー疾患を引き起こしたり,花粉症を悪化させたりするのではないかと危惧されました.さらに,昨年5月にはアレルギーを引き起こす可能性のある新たな物質として,消費者庁から「コチニール色素に関する注意喚起」がなされました.加えて,「茶のしずく」石鹸による皮膚アレルギーが多発した事件も起こりました.

 このように,最近アレルギーに関連する事件等がいろいろと発生しています.また,花粉症や喘息などについても問題が改善しているとは言えない状況です.アレルギーについては,以前にも特集で取り上げましたが,さまざまな事件が起こっている現状を鑑みて,改めて特集を企画しました.なお,今回は主要なアレルギー疾患である花粉症や喘息などではなく,日常生活に潜んでいるアレルギー疾患や最近のアレルギーを巡る話題を中心に企画しました.

食物アレルギーの現状

著者: 近藤直実 ,   小玉ひとみ ,   熊田ますみ ,   松野ゆかり

ページ範囲:P.790 - P.795

はじめに

 近年,食物アレルギーを持つ小児や成人は増加している.さらに,最近は種々の重大な問題が起きており,大きな社会問題になっている.このような時こそ原点に立ち返り,食物アレルギーを基礎と臨床の視点から,最新の知見や情報をもとにして整理,理解したうえで日常の臨床や活動に冷静にかかわることがより強く求められる.そこで本稿では,この食物アレルギーの現状として,臨床,発症機序,さらに免疫寛容を含めた新たな治療戦略などについて概説する.

 食物を摂取することにより起こる不利益な反応(adverse reactions)は,その機序が種々である.食物アレルギーfood allergy(食物過敏症food hypersensitivity)は,免疫学的機序が関与するものをいう.この他に食物の毒性,先天性代謝異常症などの非免疫学的機序によるものなどがある.最新の「食物アレルギー診療ガイドライン2012」1)(日本小児アレルギー学会)では,最新の知見や考えから,“食物アレルギーとは食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象”と定義されている.すなわち,食物の生体への侵入経路を経口摂取だけに限定しない.

給食での食物アレルギー事故と学校生活での注意点―検証委員会および再発防止委員会での検討

著者: 笹本和広

ページ範囲:P.796 - P.800

はじめに

 小児の食物アレルギーの頻度は増加傾向にあり,保育園や学校でも対応に追われるという声も聞かれる.調布市でも,給食で食物アレルギーの対応をしている児童は平成16(2004)年度47人であったのに,同20(2008)年度は171人,同24(2012)年度は262人と急増している.そのような状況の中,昨年12月に小学校5年生の女児が給食後にアナフィラキシーショックを呈し,死亡するという本当に痛ましい事故が起きてしまった.

 調布市では検証委員会を設置し,事故に至った経緯と背景について協議を重ねてきた.その後再発防止検討委員会で,今後の対応を協議した.本稿では,そこで検討された問題点や今後の対応について述べる.

(旧)茶のしずく石鹸によるアレルギー

著者: 松永佳世子 ,   矢上晶子 ,   中村政志 ,   佐野晶代 ,   小林束

ページ範囲:P.801 - P.806

はじめに

 近年,加水分解コムギ末(グルパール19S)を含む(旧)茶のしずく石鹸で洗顔することによって,グルパール19Sが経皮的・経粘膜的に吸収され,コムギアレルギーのなかった人にグルパール19Sに対するIgE抗体を作らせ,これと交差反応するコムギ摂取時にアナフィラキシー反応を起こす重大な問題が生じた1~3)

 本稿では疫学調査結果,診断基準,確定診断に必要な検査の1つであるELISA法と,予後や発症のメカニズムについて概説する.最後に,このアレルギーが発症した背景としての,化粧品の安全性の問題を考察する.

大気汚染とアレルギー

著者: 井上健一郎

ページ範囲:P.807 - P.812

アレルギーにかかる内的・外的要因

 現在では,花粉症(アレルギー性鼻炎・結膜炎),アトピー性皮膚炎,気管支喘息,薬剤・食物アレルギーなどのアレルギー疾患に罹患している人は3割を超え,医療機関での治療・管理のみならず,その対応策や日常ケアについての啓蒙活動の重要性も増しつつある.

 同疾患は複数の遺伝(個体)要因と環境要因が相互に作用して起こる多因子性疾患と考えられており,また,その発症のみならず病態増悪にもさまざまな要因が関与していることが示唆されている.これまで,ある種の遺伝子多型・変異がアレルギー疾患の病因の一翼を担っていることは明確化されており,「宿主の(アレルギー)感受性」という定義で表現されることもある.さらに近年注目されている個体要因として,肥満が挙げられる.肥満が喘息をはじめとするアレルギー疾患の発症や悪化に関与しているとの疫学研究が活発に発表されており,メタボリックシンドロームなどと同等に「生活習慣病」としてそのクリニカルエンティティーが羅列される考え方も存在する.一方で,住居・食・水圏・大気圏などをはじめとするわれわれを取り巻く環境は,ここ数年で急激な変化を遂げてきた.

ラテックスアレルギー

著者: 赤澤晃

ページ範囲:P.813 - P.818

はじめに

 天然ゴムラテックスは柔らかく弾力性のある性質から,古くから日常生活用品,医療用具として広く使用されてきた.これまで安全と考えられてきた物質であるが,その使用頻度,品質によってはアレルゲンとなってしまう.天然といわれていてもアレルギーになり得るものが数多くあることに注意を払うべきである.

 ラテックスアレルギーは即時型アレルギー反応なので,アナフィラキシーを起こす可能性がある.ハイリスクグループの人や,一般人でも兆候がある場合には注意が必要である.

金属接触アレルギーと全身型金属アレルギー―皮膚科の立場から

著者: 足立厚子

ページ範囲:P.820 - P.825

はじめに

 人類は金属を時計,アクセサリー,装飾品,生活用品,コイン,革製品,工具,機械として使用したり,歯科金属,骨接合金属,ステントなどの医用金属を体内に埋め込んだりして使用している(表1).金属は土壌,大気,海水などの環境中に含まれ,生息するすべての動植物は,体内に多種の微量金属を蓄えている.これらを食する人類は,毎日さまざまな微量金属を摂取し体内に蓄積する.

 金属は,皮膚に直接接触皮膚炎を起こす接触アレルギーとともに,食物や歯科金属に含まれる金属が体内に吸収されて種々の発疹を起こす全身型金属アレルギーを起こしうる.その臨床的特徴,診断と治療について述べる.

身近に潜む金属アレルギーへの対応法―歯科の立場から

著者: 松村光明 ,   岡本寛之

ページ範囲:P.826 - P.832

日常生活におけるアレルギーとは?

 現代の日本では,人口の約2~3割前後が何らかのアレルギーを有しているといわれており,日常生活の中で注意すべき疾患の1つである.日常生活が便利になればなるほど,さまざまな物質が世の中にあふれ,新たに化学合成されたものが異物として認知される機会が増えてくる.そのため,それらの物質に対して,生体は予期しないさまざまな反応を示すことになる.アレルギーとはその反応の1つである.

 そもそも,アレルギーとは生体の有する免疫反応の1つであり,花粉や金属などの体外からの異物,または自己を異物と見なす生体防御反応である.特定の抗原が一度体内に侵入すると,それに対する抗体が作られ,同じ抗原が体内に再侵入してきた時にそれを迅速に排除する反応が起こる.通常は生体にとって有利に作用するはずのこのメカニズムが原因となり,生体が過剰に反応してしまうことにより,逆に有害な反応を起こし,場合によっては体に重篤な障害を引き起こしてしまうことがある.

コチニール色素とアレルギー

著者: 杉本直樹 ,   穐山浩

ページ範囲:P.833 - P.837

はじめに

 平成24(2012)年5月11日,消費者庁から「コチニール色素に関する注意喚起」として,コチニール色素が添加された食品を摂取したとき,急性アレルギー反応(アナフィラキシー)を引き起こした症例の研究情報の提供があったと報告された.アナフィラキシーを発症した場合,呼吸困難などの重篤な症状となる場合もあるため注意が必要となる.コチニール色素は,赤色の着色を目的として,食品添加物だけでなく医薬部外品や化粧品などさまざまな用途で使用されている.消費者庁の注意喚起を受けて,何らかのアレルギー症状の既往歴のある消費者は,コチニール色素が含まれているか否かの表示を確認することが必要と考えられる.また消費者にコチニール色素の種類や用途範囲の正確な情報を伝えることが,リスク管理上重要であると考えられた.

 本稿では,レギュラトリーサイエンスの観点から,わが国と諸外国の規格を基に,コチニール色素とそのアルミニウム結合物(レーキ)であるカルミンがどのような色素であるかについて説明する.また,最近の知見を交えながら,コチニール色素とアレルギーの関係について解説する.

行政における食物アレルギー対策

著者: 丸井英二

ページ範囲:P.838 - P.841

食物アレルギーは食品衛生の概念を変えた

 従来,食品衛生の目的は,よりよい食品を作ることであった.毒物の混入がなく無毒であり,腐敗していない,汚染されていない食品は当然のこととして,そのための生産工程管理などについて,HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)のような措置が必要とされてきた.こうした「よいモノ」を作り出すための規制は,歴史的に食品衛生法などによって行われてきた.特に平成12(2000)年の「雪印事件」以後,さまざまな食品関連の事件が広く注目を浴びるようになり,細かい点では批判もあるにしても,行政の監視や対策は歴史的にもそれなりの成果を上げてきた.

 しかし,食物アレルギーが問題とされることで,事情はまったく異なるものになってきた.それは,よいモノを作ればそれですむ,あるいは良質の食品を生産しさえすればよいという「神話」が崩れたからである.換言すれば,「タンパクに優れたよい食品」を作ることはよいことなのだが,食物アレルギーの問題は,その先で最終的に「誰が食べるか」にあったからである.その意味では,「モノに罪はない」のである.

視点

地域診断と公衆衛生看護(保健師)活動

著者: 渡會睦子

ページ範囲:P.786 - P.787

漠然とした課題と公衆衛生活動

 「健やか親子21」には思春期の保健対策の強化として,人工妊娠中絶や性感染症なども含まれており,平成17(2005)年の中間評価報告書では,

・10代の自殺率と性感染症罹患率は改善が認められなかった

・10代の人工妊娠中絶実施率は減少傾向にあるもののその要因は明らかではなく,地域格差もあるため,今後さらなる分析が必要である

と挙げられている1)

 これまで私は性問題対策にかかわってきたが,保健所保健師としてAIDS対策を担当した当初,コンドーム使用を強く推進していた.しかし,多くの住民の相談を受けるうち,漠然と山形県の性問題は「自分の心と体を守るための自尊心の問題である」と感じた.そのことを機に公衆衛生看護活動を展開し,「生きるための心の教育(性教育)」教材2)を開発し,山形県教育委員会とともに,15歳以上20歳未満の人工妊娠中絶率(年齢階層別女子人口千人対)を,2000年18.3の全国6位から2010年5.0(全国45位)3,4)へと約3分の1に,性器クラミジア感染症を定点あたり2000年8.8から2010年1.405)へと,約6分の1への減少につなげた.

連載 この人に聞きたい!・7

ピロリ菌除菌と胃がんリスク検診

著者: 加藤元嗣

ページ範囲:P.842 - P.847

はじめに

 2015年2月から,ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となった(図1).H. pylori除菌による胃がんの抑制効果を考えると,わが国の胃がん予防対策が大きな転換期を迎えたといえる.同時に,従来行われてきた二次予防(早期発見・早期治療)であるX線検診にはさまざまな問題が存在して,その役割転換を考えなければならない時期でもあった.H. pylori感染者の総除菌時代となり,これからの胃がん予防策は,H. pylori除菌の一次予防と画像診断による胃がんスクリーニングの二次予防を組み合わせたTest, Treat, and Screeningが基本となる1).今後はこの胃がん予防策に,胃がんリスク検診をどのように組み込むかが重要なポイントである.

講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ―新しい仕組みをつくろう・19

チームとしての産業保健活動―産業医以外の職種はどう位置づけられ活躍すべきか

著者: 五十嵐千代

ページ範囲:P.848 - P.852

はじめに

 わが国を取り巻く社会情勢は加速するグルーバル化の中で,労働環境も変化を強いられている.産業構造の特徴として,第三次産業化,労働者の高齢化,国際化,労働の多様化,女性労働の増加が挙げられ,それに伴い働く人たちの健康問題も生活習慣病だけでなく,メンタルヘルス,過重労働などがある.また,最近では印刷業従事者の胆管癌にみられる,有害物を取り扱う労働者に職業性疾患が見つかるなど,労働衛生の問題が露呈しているといわざるを得ない.

 一方,わが国の労働政策においては,ILO(国際労働機関)の187号条約である「国内の職業上の安全及び健康を不断に改善すべく国内政策,国内制度,国内計画を遂行する」というものは世界に先駆け批准したものの,「すべての労働者に等しく産業保健サービスを提供する」というILO161号条約はまだ批准できていない現状がある.これは,労働安全衛生法が,労働者数50人以上の事業場に報告義務があると定めていることから,労働者数50人未満の事業場で働く約3,500万人が法的に守られていない可能性があるからと考える.

 中小企業が企業全体の9割を占める日本において,そこで働く人々の健康をどう守り,支援しているのかが大きな課題となっている.

 筆者は内閣府自殺対策推進会議の委員であることから,労働者のうつ病・自殺対策の切り口から,チームとして取り組むべき産業保健活動について述べることとする.

「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・18

幸せな人は長生き?笑う門には福来る?

著者: 大平哲也

ページ範囲:P.853 - P.856

 幸せな国と聞くと,ほとんどの人はブータンを思い浮かべるのではないでしょうか? ブータンでは,1人あたりの国民総所得が年間1,920米ドル(約19万円)であるにもかかわらず,国民の97%が「幸せ」と回答していることが知られています.それでは,「幸せ」ということと「健康で長生き」ということは一致するのでしょうか? また,「笑う門には福来る」といわれていますが,笑うことと幸せは関係するのでしょうか?

公衆衛生Up-To-Date・10 [国立健康・栄養研究所発信:その2]

国民健康・栄養調査の現状

著者: 奥田奈賀子

ページ範囲:P.857 - P.859

はじめに

 国民健康・栄養調査〔平成14(2002)年までは国民栄養調査〕は,終戦直後の昭和20(1945)年より毎年実施されている栄養モニタリング調査である1,2).調査手法・項目などに変更を加えながらも,そのときの国民の栄養摂取状況および身体計測値,臨床検査値や生活習慣について代表値を提供し,保健医療施策に影響を与えてきた.本稿では,戦後から現在までのわが国の健康課題の変化と,これとともに歩んできた国民健康・栄養調査の現状について概説する.

リレー連載・列島ランナー・55

地域保健・医療の役割に気づいてから公衆衛生医師となるまで

著者: 大原宰

ページ範囲:P.860 - P.862

はじめに

 私は現在,卒後7年目で,公衆衛生の道に入って3年目になります.保健所長としてはようやく1年経ち,所長室の机と椅子にも慣れてきたところです.今までの経験を振り返って思ったこと,また公衆衛生分野における今後の展望について述べたいと思います.

衛生行政キーワード・90

アレルギー疾患対策について

著者: 西嶋康浩

ページ範囲:P.863 - P.864

はじめに

 わが国においては,全人口の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹患していると推定されており(気管支喘息が国民全体では約800万人,花粉症を含むアレルギー性鼻炎は国民の40%以上,アトピー性皮膚炎が国民の約10%),アレルギー疾患対策に対する国民の関心は非常に高い.しかしながら,患者への医療の提供などについては,わが国は欧米のアレルギー診療水準との格差はないものの,患者のニーズに対応できていない部分があり,課題を残しているといえる.

 また,アレルギー疾患に関する研究については,徐々に発症機序,悪化因子などの解明が進みつつあるが,その免疫システム・病態はいまだ十分に解明されていないため,アレルギー疾患に対する完全な予防法や根治的治療法はなく,治療の中心は抗原回避をはじめとした生活環境確保と,抗炎症薬などの薬物療法による長期的な対症療法となっているのが現状である.

活動レポート

発展途上国と熊本の人材育成に関するネットワークづくり―国立病院機構熊本医療センターの取り組み

著者: 武本重毅 ,   ,   杉和洋 ,   芳賀克夫 ,   河野文夫

ページ範囲:P.865 - P.868

はじめに

 世界情勢が刻々と変化し,物,経済,情報などのグローバル化が進む中,そのバランスを保ち発展の鍵を握るのは人的資源である.国立病院機構熊本医療センターでは,1980年代半ばから始めた国際医療協力を通じ,特に医療分野において世界的な舞台で活躍できるような人物を育てる手伝いを続けてきた.その2本の柱が,25年前より本センターが行っている厚生労働省所管JICA(独立行政法人国際協力機構)集団研修,そして本センターが独自に始めた,本センターとタイのコンケン病院との国立病院レベルでの国際協力である.本センターがサポートしてきた世界各国からの研修員と,日本の地方都市熊本の国際交流を志す者との間でネットワークを形成し,力を合わせて感染症と闘い高齢化対策を考える時代がくるかもしれない.

ジュネーブからのメッセージ

新しい公衆衛生を支えるヘルス・リサーチ

著者: 中谷比呂樹

ページ範囲:P.868 - P.868

 WHOが2年ごとに発行する世界保健報告書(World Health Report)は,新しい課題を展開する先駆けとなってきた.今回のテーマは,「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの研究」(http://www.who.int/whr/en/index.html).「研究」というとゲノムやiPS細胞を使った高度なものを考えがちだが,公衆衛生分野での研究も活発で,報告書では,以下12の事例を示している.①殺虫剤処理蚊帳使用によるマラリア死亡者数の低減(サハラ砂漠以南の22アフリカ諸国のデータ解析),②抗HIV薬のエイズ伝播予防効果に関する無作為コントロール試験,③亜鉛添加による肺炎と下痢による死亡率低減効果に関する無作為コントロール試験,④テレメディスンによる小児医療の質改善(ソマリアの小児医療をケニアのナイロビから支援),⑤多剤耐性結核の迅速診断法導入の効果判定,⑥心血管障害予防の為の合剤の開発(polypill)とその効果,⑦リーシュマニア症の二剤併用療法の無作為コントロール試験,⑧保健従事者の役割分担の変更による小児保健向上に関する多国間比較研究,⑨ブルンジにおける産科救急病棟と救急搬送サービスの効果に関する後ろ向きコホート研究,⑩途上国における金銭的動機付けによる受診勧奨の効果,⑪メキシコにおける医療保険導入による医療アクセス向上に関する実証研究,⑫医療システムの持続可能性の予測研究.

 これらは,いずれも保健サービスのアクセス向上策とその効果判定を意図したものであるが,手法も対象も実施主体も異なっており,これらの研究からはいくつかの教訓を汲み取ることができよう.第一が,多彩な研究方策がありそれを適切に選択すること,第二が,研究の主体は途上国のことも多く,先進国・途上国を問わず,すべての国が研究の主体であり利用者であること,第三が現在進行中の事象が研究対象となるので,難しいことがでてくる反面,いま一歩その応用に気をつけることでその研究成果を政策として実施に持ち込むことができるということである.ただ,報告書はなぜ政策に反映されないことが多いのかについても解析している.往々にして,研究の焦点が現場や政策決定者の懸念事項とずれている,研究報告が科学的には正しくとも非専門家には咀嚼できない,提案された解決策が財政的・実務的に実行不可能なことなどである.

映画の時間

―その島が選んだのは,憎しみか,日本人の誇りか―飛べ!ダコタ

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.869 - P.869

 1945年に第2次世界大戦が終わり,わが国は連合国の占領下に置かれます.その占領下日本において1946年1月,敗戦からわずか半年後の新潟県佐渡島,英国軍の輸送機が悪天候のため海岸に不時着します.「ダコタ」という愛称で呼ばれるダグラスDC-3型機で,それが本作品の題名にもなっています.

 不時着を目撃し最初に現場に駆けつけたのは,村長の娘,千代子(比嘉愛未)でした.遅れて村長(柄本明)をはじめとする村の有力者も駆けつけますが,半年前までは交戦国で,いまは統治国でもある英国の兵隊が突然舞い降りてきたわけで,村長以下,村民は混乱の渦に巻き込まれます.

予防と臨床のはざまで

第21回ヘルスプロモーション・健康教育国際会議

著者: 福田洋

ページ範囲:P.870 - P.870

 8月26~29日に,タイのパタヤで開催された「ヘルスプロモーション・健康教育国際会議(IUHPE)」に参加しました.3年に1度開催されるヘルスプロモーション・健康教育分野唯一の国際学会です.1995年に日本で開催された時,私は大学院生として参加し,それが初の国際学会発表経験でした.その後,パリ(2001),メルボルン(2004),バンクーバー(2007),ジュネーブ(2010)を経て,久し振りのアジア開催となりました(学会HPはhttp://www.iuhpeconference.net/).

 テーマは「Best Investments for Health」.予防は治療に勝るといわれ続け久しいですが,現実には健康や健康施策への投資は,まだ低い水準にあります.今回の学会では,すべての人々が健康で幸福な状態となるために何が最良の投資なのか,現時点で政府や専門家や市民はどれだけの投資をしているのか,投資を増やすために今後何に挑戦すべきか?…という熱い議論が交わされました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.871 - P.871

次号予告・あとがき フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.872 - P.872

 食物アレルギーは奇妙な疾患だと思います.食物は,栄養となり,からだをつくり,精神や身体の活動のもととなってくれるものです.その食物が一部の人に健康被害を引き起こし,場合によっては死に至らせるのが食物アレルギーです.病原菌はヒトに何らかの好ましい影響を与えることはなく,存在全体が害です.それに比べて,食物アレルギーでは,本来好ましい存在である食物がヒトに害を与えています.好ましいものの存在を否定しなければならない奇妙な状態が食物アレルギーではないかと感じています.

 今回,その食物アレルギーを中心に,アレルギー疾患について,日常生活との関連の視点から特集を企画し,ご専門の先生方にご執筆いただきました.おそらく多くの読者の方が,アレルギーについて初めて触れる知識が多数包含されている内容ですので,熟読していただきたいと思います.私自身も結構知らなかったことがあり,参考になりました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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