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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生77巻2号

2013年02月発行

雑誌目次

特集 歯科口腔保健を巡る話題

フリーアクセス

ページ範囲:P.91 - P.91

 高齢者の口腔ケアや歯周病ケアが,誤嚥性肺炎の防止のみならず,全身の健康や栄養の改善に結びついていることは,近年よく知られるようになり,数多くの施設などでケアに取り組まれるようになってきています.また,高齢者のみならず,若年から中高年の歯周病ケアも様々な疾病や健康状態と関係があることが知られており,本誌においても6年前の71巻において「歯周病」をテーマとして取り上げました.しかし,歯科保健や口腔ケアについては,歯周病のみならず,様々な公衆衛生的課題があります.そこで今回改めて歯科保健・口腔ケアを取り上げ,既に本誌でも何回か取り上げられている高齢者の口腔ケアと健康の問題を除いた,幅広い課題について解説して頂くとともに,歯科保健・口腔ケアの将来的な方向性についてもご教示頂くこととしました.

これからの歯科保健行政の推進

著者: 安藤雄一

ページ範囲:P.92 - P.96

はじめに

 全国各地で歯科口腔保健の推進を図る条例が制定され1),歯科口腔保健法も制定された2).本稿では,歯科保健行政の推進について,今までの流れを簡単に整理し,今後の方向性や課題などについて論じてみたい.

超高齢社会における8020運動の現状と課題

著者: 深井穫博

ページ範囲:P.97 - P.101

はじめに

 団塊の世代が65歳に達した2012年,わが国の高齢者人口は3,000万人,高齢化率は24.1%となり,百寿者の数も50,000人を超えた1)

 この超高齢社会のなかで,2011年8月,「歯科口腔保健の推進に関する法律」が公布・施行された.この法律の第一条に,「口腔の健康が国民が健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしている」と明記された.翌2012年7月には,「国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」が大臣告示の形で示された2).このなかで,歯・口腔の健康は,健康寿命の延伸と健康格差の縮小,生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底[NCD(非感染性疾患)の予防],社会生活を営むために必要な機能の維持および向上等を実現するための基本要素と位置づけられている.

 このように,歯・口腔の健康が,全身の健康を維持増進するための基礎的なものとして,法律と施策のなかで位置づけられるようになったのは,口腔と全身の健康に関する疫学データと基礎研究が,今世紀になり次々と報告されるようになってきたことがその背景となっている.

歯周病と全身疾患との関わり

著者: 和泉雄一 ,   青山典生 ,   水谷幸嗣

ページ範囲:P.102 - P.106

はじめに

 歯科治療が全身の精神・身体に与える影響,逆に,全身の変化が歯科領域の症状に及ぼす影響について多くの事例が報告され,その影響の重大性に高い関心が寄せられている.ここ数年の間,ヘルスケアにおける口腔と全身との関連性が科学的に追求されたことにより,歯周病が心臓・循環器疾患や糖尿病,メタボリックシンドロームなどの生活習慣病や,早産・低体重児出産に深く関わっていることが報告されている.

歯科保健の国際比較

著者: 尾崎哲則

ページ範囲:P.107 - P.110

国際比較される指標

 歯科保健の国際比較というと,多くの場合,口腔の保健状況の比較になる.比較する年代を,乳幼児期の結果が反映される思春期と,成人期の結果が反映される高齢期で評価することが多い.

 思春期でよく用いられるのが,12歳児の一人平均う蝕経験歯数[DMFT指数:永久歯でう蝕(むし歯)になったことのある歯の本数:う蝕の治療が終わった歯,う蝕が原因で喪失した歯,う蝕の治療がされていない歯の総和]である.このDMFT指数は,WHO(世界保健機関)によっても使用される代表的な指標である.この時期は,永久歯列が完成する(全ての歯が永久歯になる)時期であり,小児期の口腔保健状況の最終評価とも考えることができる.

歯科保健活動で「地域とつながる」ということ

著者: 葭原明弘

ページ範囲:P.111 - P.115

なぜ住民参加型歯科保健活動が必要だったのか

 歯科医師は,せっかく住民の歯を健康にする技術を持ち,さまざまな事業を通じて住民に場を提供しているにもかかわらず,なかなか住民にはそれが伝わりにくいようです.住民の歯科医師に対するイメージは,一般的にあまり良くありません.各地域でアンケートを取ると,歯科医師のイメージは,未だに,白い,暗い,恐い,痛い,待たせる,などがほとんどです.では,どのようにしたら住民に受け入れてもらえるのでしょうか.

 住民は歯の健康に関心があります.一方,歯科医師はそれに応えることができる技術を持っています.住民が歯科医院に来院してきちんとした予防処置を受けることができれば,健康を獲得できます.しかし,両者はなかなかうまくつながっていません(図1).

咀嚼(噛むこと)の効用と嚥下障害

著者: 福田雅臣

ページ範囲:P.116 - P.121

はじめに

 国民の歯の健康づくりを推進していく一環として,80歳で20本以上の歯を保とうという8020運動が提言され,四半世紀を迎えようとしている.平成23(2011)年歯科疾患実態調査結果によれば,8020達成者は38.3%(推計値)であると報告され,80歳の3人に1人以上が達成者であることが明らかとなった1).8020の数字の意味について,「80」は“高齢者になっても”,または“生涯を通して”という意味が込められていることは想像できる.では「20」に関してはというと,これは,少なくとも20本以上の歯があれば,ほとんどの食べ物を噛むことができる,すなわち食べ物をしっかりと“咀嚼”して美味しく食べることができるということからきている数字である.昨年7月に発表された健康日本21(第二次)における,歯・口腔の健康の目標の第1番目に「口腔機能の維持・向上(60代における咀嚼良好者の割合の増加)」が挙げられている2).すなわち,しっかりと噛むこと,噛めることを保持・増進することは,口腔保健の最重要課題であると言っても過言ではない.

 また,食育の分野に目を向けると,歯科保健分野からの食育を推進するために,平成21(2009)年には「噛ミング30(カミングサンマル)」というキャッチフレーズが作成された3).さらに,第2次食育基本計画では,食育の推進の目標に関する事項の中で,「よく噛んで味わって食べるなどの食べ方に関心のある国民の割合の増加」が示されている4).これらの活動は,よく噛むこと,咀嚼することの重要性を国民に広く認知してもらうためのメッセージであると言える.そこで本稿では,咀嚼(噛むこと)の役割,効果について解説するとともに,噛むことの大切さの伝え方,嚥下障害についても述べる.

口臭の臨床と公衆衛生

著者: 川口陽子

ページ範囲:P.122 - P.125

はじめに

 「お口のエチケット」として,口臭予防に対する人々の関心が高まっている.そのため,巷には口臭に関するさまざまな情報が氾濫しており,予防効果を謳っている口臭ケア製品も数多く市販されている.しかし,その中には科学的根拠のないものも多い.近年,においを検査する測定機器が開発されたことで,口臭に関する研究は著しく進歩し,口臭の診断・治療・予防法が明らかになってきた1~3).口臭の発生には,医科・歯科領域の疾患が関与しているが,90%以上は口腔内に原因があることが明らかになっている.現在,わが国にあるすべての歯科大学(歯学部)附属病院には,口臭専門外来が設置されている4)

ドライマウス(口腔乾燥症)の現状と課題

著者: 斎藤一郎

ページ範囲:P.126 - P.130

はじめに

 口腔乾燥症(ドライマウス)に罹患していると考えられる潜在患者数は,海外で報告された疫学調査1)から算出すると,日本国内で約800万人から3,000万人と推定されているが,本症の認知度は低く,自覚症状があっても受診されていない,あるいはどの診療科を受診すべきか知られていないのが現状である.さらに,診断法や対処法も普及しておらず,その受け皿となる医療機関も限られており,本症の普及や診療のガイドラインの確立が求められている.

 ドライマウスは,様々な病因が重複して発症する場合が少なくない.ストレスや更年期障害,薬剤の副作用などがその複合的な要因の一つとなる.特に,高齢者は様々な要因により発症することが多いことから,単に加齢により乾燥するという判断は安易であり,老化と断定して患者に伝えることは適切とは言いがたい.服薬大国と言われる日本では,医療者だけの問題ではなく,受療者自身が薬に依存するという意識をまだまだ根強く持っていることの現れでもある.口腔乾燥感を訴える薬剤は降圧薬,抗うつ薬,睡眠導入薬などの治療薬などが挙げられる.これらは,高齢者で服薬の可能性が高いとはいえ,複数の要因が加わってドライマウスを呈することが極めて多いと推測できる.このことから,口腔乾燥症状に対する対症療法のみならず,生活習慣に対する指導,さらには心身症としての対応も必要となる.

 ドライマウスの病態は口腔内だけでなく,摂食・嚥下機能の低下,誤嚥性肺炎,上部消化管障害の原因となることも明らかである.特に高齢者では肺炎のリスクが高く,唾液量減少への対処は重要な意味を持つ.さらに,口腔内の不快感に不安を持つことによる精神神経的な影響も考慮しなければならない.

 先進国での医療の大きな役割のひとつに「QOL(quality of life)の向上」が問われて久しい.生活の質を高めるためのニーズを見据えた新たな医療の展開は,歯科と医科との連携で模索されるべきであろう.

 本稿では,ドライマウスの現況を紹介する.

子どもへの虐待と歯科

著者: 森岡俊介

ページ範囲:P.131 - P.135

はじめに

 わが国では寿命の延伸により高齢者が増えてきているが,高齢者を支え,次世代を担う子どもの出生数は毎年減少しており,平成23(2011)年度には出生数が105万人強で過去最少となったことが厚生労働省人口動態統計で報告されている.その一方で,子どもの虐待に対応した児童相談所での対応件数は年々増加し,厚生労働省によれば,平成2(1990)年度には1,101件であったものが,10年後の平成12(2000)年には17,725件,さらに11年後の平成23年度には過去最高の59,862件となっている(図1).このために,出生数に対しての虐待相談件数割合が,平成23年度には平成2年度の60倍を超えている.

 このように,少子化が進む中で子どもの虐待が増加していく背景としては,地域の崩壊による近隣との関係の変化,家族の中での夫婦・親子関係の変化や,長期の経済不況により生じた貧困など,様々な要因があると考えられる.

 ところで,歯科医師は,母親が妊娠する前から乳幼児期さらには子どもが成人していくまで,生涯を通じた「かかりつけ歯科医」として子育てに関われる立場にある.そこで,次世代を担う子どもたちが,健やかに育つ環境づくりのための歯科の役割は,被虐児の口腔内状況を子どもの虐待に関わる職種に知ってもらうことと,歯科関係者が,子どもの虐待に関する知識と現状をよく理解し,歯科口腔保健の専門職として子どもの虐待と関わる行政や他職種との連携を図ることであると考える.

視点

これからの公衆衛生に期待すること―一臨床医の立場から

著者: 貞本晃一

ページ範囲:P.88 - P.89

 今回,10年ぶりに本誌に寄稿する機会を与えて頂きました.公衆衛生の研究,保健行政の場を離れて久しく,せっかくの機会ですが,本稿が散文的・感想文的雑文で,一方的に公衆衛生・地域保健の現場や研究機関で活躍されている皆様に対するお願い・希望とならざるを得ないことを前もっておことわり・お詫び申し上げます.

特別記事

[鼎談]大阪市の「西成特区構想」とわが国の結核対策の課題

著者: 古知新 ,   下内昭 ,   高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.136 - P.142

 わが国では結核低まん延時代に入って,低まん延,高まん延の地域に二極分化してきており,近年,一律的な結核対策だけでは解決が難しくなってきています.特に全国一罹患率の高い大阪市西成区あいりん地域の結核問題の解決には,特別な結核対策が求められています.

 現在大阪市では新市長の下で,西成区問題の根本的な解決策として「西成特区構想」の検討が進められています.その中に結核問題も入りました.特区構想の有識者座談会を経て,2012年10月,その構想が公表されました.WHOで世界の結核対策を統括されていた古知新氏も,この構想に深い関心を寄せられ,現地に何回か足を運ばれています.現在,そのビジョンを具現化する作業が行われ,極めて重要な時期にあります.

 そこで今回,古知新氏と,西成区の結核事情に詳しい下内昭氏をお招きし,特区構想で示された結核対策を成功に導くための課題について,具体的に語り合っていただくことにしました.

連載 保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・23

論文刊行の後

著者: 中村好一

ページ範囲:P.143 - P.147

 今回は,めでたく論文が活字になって,雑誌に掲載された後の話をする.

災害を支える公衆衛生ネットワーク~東日本大震災からの復旧,復興に学ぶ・11

復興を推進する「未来図」へ

著者: 佐々木亮平 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.148 - P.153

復旧から復興への転換期

 1.課題が積み上がり,ますます募る焦り

 発災から1年9か月が経った平成24(2012)年12月に本稿を書いている.陸前高田市(以下,現地もしくは被災地)では,津波被害にあった建物で解体が行われていなかった市庁舎や高田高校の工事も始まり,被災地の復興もいよいよ加速すると見ている人が多いかも知れないが,われわれの中にはむしろ焦りが募っている.

 震災直後は避難所生活での健康の確保に始まり,その後,仮設住宅での新生活の開始から商業施設等の復旧に合わせるように,様々な保健事業を復旧させつつ,住民一人ひとりの健康づくりを心掛けてきた.2012年になってからは県内外からの支援者が少しずつ引き上げるのに代わって,新たに採用されたスタッフや名古屋市からの1年間の新たな支援者を得て,言葉に語弊があるかも知れないが,何とか被災地および非被災地での仕事を廻してきた.ただ,「先が見えるようになる活動を」,「現地ではしたくてもできない活動を」…と常に現地に寄り添って進んできたつもりだが,思い通りに事が進まない状況が繰り返されている.

講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ─新しい仕組みをつくろう・11

放射線作業者の健康―リスク評価,リスク管理の視点から

著者: 武林亨

ページ範囲:P.154 - P.158

はじめに

 労働者の健康をどのように護るのか.産業の発達とともに直面してきたこの課題に対して,労働衛生の分野ではさまざまなアプローチが取り入れられてきた.有害要因下での作業に伴う健康リスクに対しては,工程への新規の導入あるいは日常管理において,健康影響に関する科学的なエビデンスや曝露に対する客観的な測定技法をベースとしたリスク評価を行い,そのリスクの程度に応じた管理を行うアプローチが提唱され,実践されている.そのベースとして,Paracelsus(16世紀のヨーロッパの医学者)の言葉「Dosis sola facit venenum―すべての物質は有毒にも無毒にもなりうる.それを左右するのは量のみである―」に示されているように,量の考慮なしに単に物質の有害性情報のみで健康影響発生の有無を判断してはならない,との考え方が重要である.

 全米研究評議会(NRC)による「Risk Assessment in the Federal Government:Managing the Process」(1983年)が提示する,リスク評価からリスク管理へ至る一連のプロセスは,もっともよく知られた枠組みであろう1).リスク評価は,有害性同定(定性的な有害性の種類),量反応性評価(有害性発生確率と量との関係),曝露量評価の3つのプロセスとして提示されている.本稿で取り上げる電離放射線(以下,放射線)のようにヒト発がん性のある有害要因の場合,遺伝子傷害性が弱いなどの一部の状況を除いては,少しでも存在すれば有害事象は発生し,その量が増加すれば健康有害事象発生の可能性(確率)が増加すると考える.そのため量反応性評価においては,疫学研究などによってエビデンスが蓄積されている中・高用量(線量)領域での量反応関係に基づいて,数学モデルによる低用量領域への当てはめが行われる.曝露量評価は,集団での曝露の実態を明らかにするもので,量反応性評価の情報と合わせれば,その集団でのリスクの大きさを定量化することが可能となる(リスク判定).

 その結果を踏まえて行われるのが,リスク管理である.科学的な評価であるリスク評価を踏まえ,実行可能性,利益と損失のバランスといった技術的あるいは社会的状況を考慮に入れた上で実行される.定量化された健康リスクのレベルを知り,その受容あるいは低減へ向けたアクションを(社会あるいは個人が)取るためには,リスク評価やリスク管理に関する情報の発信,伝達や理解,さらには,一連のプロセスの透明性や当事者間の信頼の醸成,つまりリスクコミュニケーションが不可欠である.一連のプロセスを図1に示した.

「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・11

笑うと肩こりが良くなる?―「笑い」と「肩こり」との関連について

著者: 大平哲也

ページ範囲:P.159 - P.162

 わが国では,「肩こり」で悩んでいる人が多いことが知られています.平成22(2010)年度国民生活基礎調査によると,病気や症状の訴えでは,男性では「腰痛」を訴える頻度が最も高く,次いで「肩こり」であり,女性では「肩こり」が最も高く,次いで「腰痛」,「手足の関節が痛む」となっています.また,ストレスで肩がこると言われるように,経験的に肩こりとストレスが関係することは知られていました.さらに近年,自覚的ストレスや職業ストレスが多い人において,肩こりを訴える人がより多いことが報告されるようになり,ストレスと肩こりとの関係が明らかになってきました1~3)

 それでは,笑いで肩こりを解消することはできるのでしょうか?

公衆衛生Up-To-Date・2 [国立感染症研究所発信:その2]

麻疹(はしか)・風疹の流行と予防接種に関する話題

著者: 多屋馨子

ページ範囲:P.163 - P.168

はじめに

 2007年の全国流行を受けて,「麻疹に関する特定感染症予防指針(以下,特定感染症予防指針):厚生労働省告示第442号」が告示され,2012年度を麻疹排除の目標年として,国を挙げた対策が実施されてきた.本稿では,麻疹(はしか)と風疹の現状と課題,予防接種について考えてみたい.

リレー連載・列島ランナー・47

保健所における災害医療対策の取り組み

著者: 長坂裕二

ページ範囲:P.169 - P.172

はじめに

 当所では平成22(2010)年度から,災害医療対策に取り組んでいます.発災時に管内の医療機関の情報をリアルタイムに収集し一元化するシステムを構築しました.この一元化された情報は,地域の関係者が共有するだけでなく,新たに設置を予定している地域の災害医療コーディネーターが県の災害対策本部に設置される災害医療コーディネーターと円滑な連絡体制を構築することにより,迅速で適切な医療救護対策を行うことを目的としています.平成23(2011)年12月には医療機関の情報伝達訓練を実施しました.その概要について報告します.

衛生行政キーワード・86

平成24年度歯科診療報酬改定連載について

著者: 中園健一

ページ範囲:P.174 - P.176

 平成24年4月に診療報酬が改定された.今回の診療報酬改定は,「社会保障・税一体改革成案」で示された2025年のイメージを見据えつつ,あるべき医療の実現に向けた第一歩の改定であった.本稿では,歯科診療報酬改定についてその概要を説明したい.今回の歯科診療報酬改定のポイントは,歯科保健医療を取り巻く現状を踏まえ,歯科治療の需要の将来予想(イメージ)を行い,国民・患者が望む安心・安全で質の高い歯科医療が受けられる環境を整えていくために必要な分野に重点的に配分を行った点にある.

列島情報

海外旅行と食中毒

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.96 - P.96

 海外での4日間の研修旅行から戻ったグループ84人中34人が,帰国2日後より発熱,腹痛,下痢の症状を呈した.保健所での検便ではカンピロバクター・ジェジュニが検出された.旅行中の食事についての調査によると,3回の夕食で焼肉系の料理を食べていたが,メンバーへの聞き取りだけでは原因施設・食品の特定は不可能であった.

 海外旅行での食中毒発生状況については,厚生労働省の食中毒統計でその一端を知ることができる.2000年から2011年までの12年間の食中毒事件一覧によると,「発生場所」が「国外」と報告された事例は152件3,210人で,この他に「国内外不明」が140件367人となっている.国外での発生と報告された152件での病因物質の割合は,「その他の病原大腸菌(22%)」「腸炎ビブリオ(20%)」「カンピロバクター・ジェジュニ/コリ(17%)」「サルモネラ属菌(13%)」の順であった.

ジュネーブからのメッセージ

グローバルヘルスの課題は非感染症(NCD)へ─日本の高齢者対策の出番─

著者: 中谷比呂樹

ページ範囲:P.115 - P.115

 21世紀最初の10年の地球規模の健康問題の花形は,エイズ・結核・マラリアという三大感染症であった.その口火を切ったのは2001年の国連エイズ特別総会で,エイズという1つの病気に初めて特別総会まで開いて対応を協議し,その後の途上国援助の大型プロジェクトとなった.そして10年間の国際社会の努力により,新規発生の抑制に概ね成功が得られたのである.また,母子保健の向上や感染症の制圧などを含むミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)に掲げられた,貧困撲滅への8つの取り組みが進められ,多くの国の経済状況が大きく改善してきた.

 加えて,一昨年はエイズに続いて,病気を主要議題とした総会としては2回目になる「国連(NCD:Non Communicable Diseases)総会」が開催された.WHOは各国首脳の政治的誓約を具体化することを委ねられ,2年の検討と各国協議を経て得られた2025年までの目標とその進捗評価指標を,今年5月のWHO総会(議長国は日本となる予定)を経て,秋の国連総会へ報告することとなっている.したがって,今年の国際保健の主役は「NCD」一色となり,WHO総会議長国に内定している日本の出番とは言えまいか.

映画の時間

―東と西.嘘と真実.自由と使命.その狭間で揺れる,愛.―東ベルリンから来た女

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.162 - P.162

 1989年にベルリンの壁が崩壊し,1990年に統一ドイツが誕生してから既に20年余が経過し,いまや「東ベルリン」や「東ドイツ」という言葉も死語になりつつある感があります.この映画は壁が崩壊するおよそ10年前,東ドイツがいまだ「健在」であった1980年頃の物語です.

 題名にもあるように,医師である主人公バルバラ(ニーナ・ホス)が東ベルリンから,地方都市の病院へ赴任する場面から映画は始まります.バスから降りて出勤してくる彼女を病院の窓から眺めながら,上司たちが彼女について話しています.すっきりとした魅力的な女性ですが,赴任の理由はどこか曰くありげです.

予防と臨床のはざまで

第10回日本ヘルスプロモーション学会ダイジェスト

著者: 福田洋

ページ範囲:P.176 - P.177

 昨年12月6~8日に順天堂大学で第10回日本ヘルスプロモーション学会が開催されました.記念すべき第10回ということで,特別講演には,オタワ憲章(1986年)におけるヘルスプロモーションの概念の提唱者の一人イローナ・キックブッシュ博士が来日され,さらにオタワ憲章を翻訳し日本にヘルスプロモーションの概念を広めた島内憲夫先生(順天堂大学スポーツ健康科学部教授)が大会長を務められました.テーマは「ヘルスプロモーション再考~健康社会創造のデザインをめざして」.私も島内先生にお声掛けを頂き,準備委員会の一人として職域ヘルスプロモーションのシンポジウムの企画,座長を務めさせて頂きました.

 まず初日は,イローナ・キックブッシュ博士を囲んで,座談会形式のサテライトシンポジウムが行われました.前半はイローナ博士から,HiAP(Health in All Policies=全ての政策において健康を考慮すること)の概念についてミニ講義が行われました.イローナ博士は,ドイツの病理学者Rudolf Virchow医師(1821-1902)の“Medicine is a social science”の記述を引用され,19世紀の時代から人々の疾病の原因は住居,水,栄養,教育,労働者の権利や安全と無関係ではいられないとし,現代でも環境への働きかけが大きな課題となっていることを示しました.その上でWHO設立(1948年),アルマ・アタ宣言(1978年),オタワ憲章(1986年)の流れを経て,2006年にフィンランドがEU議長国としてHiAPの重要性を位置づけ,先進国での政策決定の潮流になりつつあることが示されました.HiAP国際会議(2010年,アデレード),生活習慣とNCD(非感染性疾患)のモスクワ宣言(2011年),SDH(健康の社会的規定要因)のリオ政治宣言(2011年)とHiAPのムーブメントは続きます.HiAPが重要なのは,保健医療の人材や政策が孤軍奮闘するのでなく,あらゆる政策機会において健康増進が考慮されることにあります.WHOのSDHのレポートにもあるように,深刻な健康格差が進行し,これを食い止めるためには,医学的アプローチだけでは力不足です.例えば生活習慣病の予防を,医学的側面だけでなく,街づくり,学校教育,通勤・交通,労働環境,スーパーマーケット,外食産業などあらゆる面から捉えると,違ったアプローチが見えてきます.われわれも日々の産業保健活動や予防医療活動の推進に,HiAPの考えが必要ではないかと考えさせられました.後半は,筑波大学の阪本直人先生がファシリテーターを務められ,地域,職域,学校など様々なフィールドでヘルスプロモーション活動を実践している参加者からの質問タイムが設けられました.せっかくなので,私は「HiAPの概念は素晴らしいが,現実の世界は厳しい.例えば産業保健の分野で,経営層など影響力を持つ方への交渉はどう行うのか?」と,最初の質問を投げかけてみました.イローナ博士からは「交渉(ネゴシエーション)の技術は大変重要で,多くの専門職は実践やエビデンス作りは得意でも,交渉が不得手なことが多い.一度はカリキュラムに従って学ぶべき」と示唆を頂きました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.179 - P.179

次号予告・あとがき フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.180 - P.180

 今回は,歯科口腔保健を取り上げて,特集を企画してみました.歯科口腔保健については,近年,さまざまな機会に話題にされたり,健康に関連した雑誌で特集されることが多いように感じます.この背景には,歯や口腔内の健康を守り,衛生状態を良好に保つことによって,歯科領域の疾患のみならず,他の身体疾患の予防,栄養状態の改善などに繋がることが分かってきたことがあると思われます.正しい歯磨きや口腔ケア,定期的な歯科受診といった比較的簡単な行動で,口腔内のみならず,身体的な健康も守れるなら,私たちも今以上に積極的に歯科口腔保健を推進するべきだと思います.

 公衆衛生の現場において,歯科口腔保健の専門家である歯科医師や歯科衛生士の数は多くありません.保健師や医師などの他の専門職が歯科口腔保健の知識を持ち,彼らを援助することで,歯科口腔保健をより一層推進できると思われます.歯科口腔保健の知識を習得するため,本号を熟読して頂きたいと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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