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雑誌目次

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公衆衛生77巻3号

2013年03月発行

雑誌目次

特集 慢性腎臓病~CKD

フリーアクセス

ページ範囲:P.185 - P.185

 毎年3月の第2木曜日は「世界腎臓デー」です.国際腎臓学会と腎臓財団国際協会による共同提案を受けて,2006年に定められた新しい記念日ですが,すでに世界100か国以上で,腎臓病の早期発見や治療の重要性などの啓発キャンペーンが展開されるようになりました.

 腎臓病には,慢性糸球体腎炎や糖尿病性腎症,腎硬化症など,数多くの疾患が含まれます.どの腎臓病も病状が進行すると,腎機能が低下して慢性腎不全(人工透析や腎移植の対象)になるおそれがあるという共通点があります.このため最近は個別の病名ではなく,慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)という疾患概念が提唱され,世界腎臓デーにおける啓発活動のメインテーマになっています.

慢性腎臓病(CKD)―新たな疾患概念の歴史とその意義

著者: 前島洋平 ,   槇野博史

ページ範囲:P.186 - P.190

はじめに

 慢性腎臓病(以下,CKD)は,2002年米国腎臓財団(NKF)によって,多くの腎疾患を包含する疾患概念として提唱され,蛋白尿など腎障害を示唆する所見あるいは腎機能の低下が,3か月以上持続する状態と定義されている1)(表).わが国でも日本腎臓学会を中心にCKD対策・CKD啓発活動が盛んに行われ,近年その重要性が広く認識されるようになった.CKDは,急増する末期腎不全(以下,ESKD)患者の予備軍であること,心血管疾患(以下,CVD)を併発し国民の健康に重大な影響を及ぼすこと,そしてその頻度が予想以上に高いことから,現在CKDへの対策が緊急の課題となっている.

 CKDは早期に発見し適切な治療介入を行うことで,ESKDへの移行を阻止し,CVDの発症を予防することが可能である.CKDの概念の導入により,腎臓病に対する認識が非腎臓専門医/かかりつけ医,保健師,栄養士,看護師,薬剤師等の医療従事者,さらには一般住民の間でも深まり,新たな国民病として社会をあげてその対策に取り組むことが,CKD患者の予後改善のために重要である.

CKD早期発見プログラム(KEEP JAPAN)の成果と課題

著者: 高橋進

ページ範囲:P.191 - P.196

はじめに

 慢性腎臓病(以下,CKD)とは,2002年に米国腎臓財団(以下,NKF)が初めて提唱した概念で,原疾患を問わず,慢性に経過する腎臓病を包括し,腎機能によって重症度を規定し標記している.この概念が,グローバルに広く受け入れられ,腎臓病診療の標準化に大いに寄与するに至っている1).早期のCKDは知らないうちに,つまり無症状で進行することが多く,silent-killerとも呼称される.治療しないままでは,末期腎臓病(以下,ESKD)や早期の心血管疾患(以下,CVD)の原因により死亡する危険性がある.CKDを発見する唯一の方法は,腎機能を評価する血液検査および腎臓の損傷を評価する尿検査である.

 CKDが発見されると病気の進行を抑制,ESKDへの進展を予防または遅らせるために,生活習慣の改善や薬剤などによる治療を行う.しかし,ESKDの治療の選択肢は,透析または腎移植のみである.

 世界保健機関(以下,WHO)は,世界の死亡例全体の60%が非感染性疾患(Noncommunicable disease:以下,NCD)で占められていること,特に低中所得国での死亡が多いことを指摘し,NCDが世界経済の発展において,最も深刻な脅威であるとしている.WHOでは密接にタバコ,不健康な食事,運動不足および過度の飲酒などの共通の生活習慣のリスクの関与が明白である心血管系疾患,がん,糖尿病,慢性呼吸器疾患を4大疾病としてフォーカスを当て,予防と対策を行っている.CKDはその70%が高血圧症と糖尿病に由来しており,同様のリスクファクターを有することが認識され,2011年9月に国連総会のハイレベルサミットで,腎臓病が初めて生活習慣に起因する疾患であると,政治宣言がなされた2)

 2011年末現在,わが国の透析患者は30万人を超え,世界でも米国と台湾に次いで高い透析人口比率(100万人あたり2,060人)である.さらに世界的に見た場合,今後も透析患者は増加することが予測され,経済的にも大きな問題となっている.平成23(2011)年度の概算医療費の動向によると,総額は37.8兆円で,前年度に比較し1,500億円,率にして3.1%の伸びで,9年連続の増加で過去最高を更新している.一般医療費の主病傷による傷病分類別では,腎尿路生殖系疾患が医療費の構成比で5位にランクされ,金額は約1兆4千億円,また国民総医療費では約4%を計上している.

 CKDは多くの人々が罹患し,その数が今後も増え続けると予測され,人々は死亡,罹患,QOL(quality of life)およびコストといった形で,特に多くは高齢者層で負担する.アップストリーム予防戦略が負担状況を改善することが明らかであるが,未だ解決がなされていない.これらはCKDは世界中の大きな公衆衛生の問題となる所以である.急増するCKDという社会的,経済的および健康上の課題に取り組むためには,管理・抑制のための臨床的アプローチの補完策として,より広範かつ協調的な公衆衛生面でのアプローチが必要である3).つまり,透析患者の予備軍とも言えるCKDの早期発見および進行抑制が重要であり,そのためCKDの早期発見には,健診事業が重要な位置を占める.

CKDの予防・治療標準化と地域医療連携

著者: 今井圓裕

ページ範囲:P.197 - P.202

CKDの早期発見の重要性

 慢性腎臓病(以下,CKD)は,末期腎不全(以下,ESKD)に至る患者を減らすとともに,腎臓病患者に合併しやすい心血管疾患(CVD)を防ぐことを目的として,2002年にアメリカの腎臓財団により作られた概念である.CKDの定義は,医師,看護師,薬剤師,栄養士などの医療関係者だけでなく,一般住民にもCKDの重要性とリスクを説明できるように,蛋白尿に代表される腎障害の存在,または糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)60ml/min/1.73m2未満と単純なものに決められた1).さらにCKDは早期発見により,治療可能な疾患であり,適切な血圧管理と尿蛋白に対するレニン・アンジオテンシン系阻害薬による治療が確立している.

 このシンプルさと分かりやすさから,わが国においても医学界でCKDの概念はすぐに受け入れられ,短期間に広まった.わが国のCKD患者数は1,330万人であり,成人の13%を占め2),新たに見出された21世紀の国民病であることも判明した.CKDは30万人を超す維持透析患者の予備軍であるばかりでなく,心血管疾患発症の最も強いリスクファクターであることから,人類に対する新しい脅威として再認識された.

CKDと心血管疾患の関連性―国内コホート研究の成果から

著者: 二宮利治 ,   清原裕

ページ範囲:P.203 - P.206

はじめに

 近年,海外の疫学研究より,末期腎不全のような高度に進行した腎障害を有する者のみならず,中等度の腎機能低下や蛋白尿を有する者において,心血管病を発症するリスクが上昇することが報告されている1).この事実を踏まえ,米国腎臓財団は,3か月以上にわたり蛋白尿などの形態学的あるいは器質的な腎障害が持続しているか,糸球体濾過量(glomerular filtration rate:以下GFR)が60ml/分/1.73m2未満に低下している状態を慢性腎臓病(chronic kidney disease:以下CKD)と定義し,全世界的規模でその対策を推奨している2).わが国の大規模疫学調査の成績によると,CKDの罹患者数は約1,300万人と推定されており3),わが国においてもCKD対策の必要性が高まっている.

 本稿では,福岡県久山町で長年にわたり継続している心血管病の疫学調査(久山町研究)の成績4),およびわが国の既存のコホート研究から提供された個々の対象者レベルでのデータを用いて行った大規模統合研究であるJapan Arteriosclerosis Longitudinal Study-Existing Cohorts Combine(JALS-ECC)研究5)の成績を中心に,CKDが心血管病発症に及ぼす影響を検証する.

CKDの効果的な普及啓発手法―日本慢性腎臓病対策協議会の取り組みを中心に

著者: 安田宜成 ,   松尾清一

ページ範囲:P.207 - P.212

はじめに

 慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:以下CKD)は2002年に米国で提唱され,2004年に国際的に定義された1).わが国では日本腎臓学会が中心となって2004年よりCKD対策に取り組んでいるが,CKDは比較的に新しい疾患概念であることから,当初は医療関係者の間でも充分に認知されていなかった.

 新たな国民病として注目されるCKDをどのように啓発してきたのか.日本腎臓学会と日本慢性腎臓病対策協議会(Japan CKD Initiative:以下J-CKDI)の活動を中心にまとめる.

地方自治体におけるCKD対策プロジェクト

著者: 髙本佳代子

ページ範囲:P.213 - P.217

はじめに

 熊本市は,末期腎不全による慢性人工透析者数の割合が,全国平均の1.4倍と高い水準にあることから,慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:以下,CKD)を健康課題として捉え,住民の健康を守るため,2009年から「5年間で,新規に透析導入に至る人を,年間300人から全国平均値となる200人に減らす」という数値目標を掲げ,CKD対策を開始した.

 市のCKD対策の特徴は,ハイリスク・アプローチとポピュレーション・アプローチとを組み合わせて,CKDの予防,早期発見・悪化防止に向けた総合的な対策(図1)を,多くの市民や関係機関・団体と協働で展開しているところである.そして,CKD対策の中心であるCKD病診連携システムや栄養連携システムなどを構築し,2年連続で新規導入者が減少するなどの成果が得られた.

 そこで今回,CKD対策プロジェクトの取り組み概要,対策の中心となる病診連携システム構築の形成,および持続可能要因などについて述べたい.

患者会の立場から見たCKD対策の現状と課題

著者: 宮本髙宏

ページ範囲:P.218 - P.222

はじめに

 日本国内で末期腎不全により人工透析治療を受けている患者は,2011年末で304,592人になる(図1).

 筆者も,その30万人のうちの1人である.糸球体腎炎を原疾患として末期腎不全に至り,1982年9月から透析療法1)の1つである血液透析を続けている.筆者自身にとって,2012年9月に透析歴満30年を迎えられたことは感慨深く,この治療法が開発・臨床化されたこと,日々治療に携わっておられる医師をはじめとする医療関係者,より良い医療・医療技術の向上に努めておられる関係企業,関係機関・団体等々,多くの方々に感謝し,30万人を超える患者の治療と生活を支えていただいていることに,この誌面を借りて御礼申し上げます.

 本稿では表題に示す通り,腎臓病患者=当事者および当事者団体として,末期腎不全医療の現状と,現在国内で推進されている慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:以下,CKD)対策の現状と対策について考察する.

小児CKDの早期発見と腎臓病学校検診の意義

著者: 上村治

ページ範囲:P.223 - P.229

はじめに

 小児のCKD(Chronic Kidney Disease:慢性腎臓病)に関しては,2006年に日本CKD対策協議会が立ち上げられたのを機に,日本小児腎臓病学会でも小児CKD対策委員会が発足された.小児CKD対策のわが国の歴史を振り返ると,1974年から腎臓病学校検診がはじまり,世界に誇れる小児のCKD対策が38年にわたって行われている.しかし,腎臓病学校検診やその後の診療の標準化が進んでおらず,各地方自治体での活動は統一されていない.しかし,それぞれの自治体は単独で様々な活動をしており,われわれ愛知県でも,愛知腎臓財団や愛知県医師会が中心となって,『愛知県腎臓病学校検診マニュアル』1)を2009年に作成し運用している.

 また,徐々に日本人小児の基準値や小児CKDの疫学調査の結果も出てきており,それらの結果も含めて,腎臓病学校検診の意義について述べる.

視点

ひとりひとりの公衆衛生―図書館員として

著者: 磯野威

ページ範囲:P.182 - P.183

「パブリック」ということ

 1985(昭和60)年に自治体の設置する公共図書館(Public Library)から,国立公衆衛生院附属図書館(現,国立保健医療科学院図書館)へ異動したのですが,着任当初は「公衆衛生」という言葉を大して理解もせず,そこでの図書館の仕事をはじめていたと思います.しかし,今では公衆衛生(Public Health)は公共下水道,公共交通など,住民の生活基盤を支えている多くの「公共(Public=パブリック)」という言葉を冠される大切な概念だと思っています.特に昨春,退官してからは,地元,東京都練馬区の公共図書館,東京都立中央図書館,あるいは武蔵大学,東京大学など,公開されている図書館のヘビーユーザーとなりました.公共財の豊かさ,利用しやすさの大切さを,利用者の視点から実感する毎日です.

 公共図書館時代は,本を車に2,000冊ほど積み,住民の中を巡回する「移動図書館」を皮切りに,資料の貸出・提供,児童へのサービスを自治体全域で行うことが,私の仕事の柱でした.住民の「誰にでも」「どこでも」「いつでも」そして「求められるあらゆる資料」を無償で迅速に提供することが仕事の基本です.それは1970年代の「市民の図書館」の誕生と共に歩んでいたと思います.その仕事は「本を読むことは善である(本を読む力を育成する)」ことへの可能性に賭けることでもありました.表面的には,住民の利用率(登録率,貸し出し冊数)を上げることが重要な目標であり,そのためには資料購入費と人材の確保増強が生命線となります.毎年の数値が上がっていくことは,目に見える効果として,住民,議会などに報告・評価され,その結果は財政措置として反映されていきます.順調に進んでいる限り,日々の労苦は報われていきます.そして何より日々の仕事を支えてくれるのは,読みたい本を届けることができた時の利用者からの「ありがとう」というひとことです.特に子どもたちは素直に反応してくれます.まさに子どもは未来ですね.

地域事情

バングラデシュの僻地(パーバヤージャパ)における水問題

著者: 梅村朋弘 ,   長谷川美香 ,   日下幸則 ,   福原輝幸

ページ範囲:P.257 - P.260

はじめに

 発展途上国を対象とした調査は少なくない.しかし,発展途上国は,国内各地(特に首都から離れた僻地)へのアクセスの悪さ,識字率の低さなどといった特性を考えると,国内各地で同じように正確な調査を行うことは困難である.また,首都と僻地では,生活習慣や疾病状況などが全く異なることもある.それゆえ,一部の地域に関する調査結果を,そのまま当該国全般に当てはめて考えることは難しい.

 バングラデシュもそのような国のひとつである.本誌76巻8号で述べたように,われわれはバングラデシュのパイガサ地域で,水・保健衛生環境改善に関するプロジェクトを計画している.情報の少ない地域で確実にプロジェクトを遂行するためには入念な事前調査が不可欠であり,これまでにも事前調査を数度行っているが,雨季の調査を行ったことがない.そこで,雨季の真っ最中である2012年7月14~20日にかけて,バングラデシュのパイガサ地域を訪問して,生活習慣や生活環境などの調査を行った.

連載 保健活動のtry! 学会で発表しよう 論文を執筆しよう・24【最終回】

おわりに

著者: 中村好一

ページ範囲:P.230 - P.234

 これまで2年間に亘った本連載も今回が最終回となる.本連載第1回で宣言したように,この連載は①保健活動を念頭に置いて,②コメディカルスタッフを対象に,③日本語での学会発表や論文執筆を目指す1),ということで2年間続けてきた.そして本連載は指南書であり,指導者の指導を受けることの必要性も述べた.

 よくよく考えると,本連載のターゲットは,結局は研究についても初心者,あるいは今から必要に駆られて研究を行わなければならない人なのかもしれない.研究結果は山のようにあるが.学会発表や論文執筆はしたことがない,という人はある種の特殊な人たちであろう2).研究は計画に始まり,最後の詰めとして学会発表や論文執筆があるので,そもそも最後の部分のみを取り出して議論しても仕方がない,という考え方があっても良い3)

災害を支える公衆衛生ネットワーク~東日本大震災からの復旧,復興に学ぶ・12【最終回】

[対談]改めて,支援から協働へ―連載の最終回を迎えて

著者: 佐々木亮平 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.235 - P.240

ノウハウ,経験の限界を知る

岩室 「亮平さん」といつものように呼ばせてもらいますね.大学での本業の合間に月に1回から数回,陸前高田市へ片道200kmを越える道のりを通いながらの毎月の連載執筆,お疲れさまでした.「できる人ができることを」というわれわれのモットーで,本連載を通じて被災地からの情報発信をさせてもらいましたが,亮平さんにとって被災地支援は初めてではないですよね.

佐々木 入職2年目の平成11(1999)年に岩手県内の集中豪雨で,ダムの貯水量を越えて川が氾濫した地域を2日間,訪問して歩く災害支援を経験しました.平成16(2004)年の新潟県中越地震のときは,岩手県の第1班として発災10日目から1週間1人で入り,東京都や千葉県船橋市などと連携して地元の保健所,市町村の皆さんの支援をさせていただきました.ミーティングの仕方,方向性の付け方,全戸調査という経験は,今回も大変役に立ちました.ただ,今回の災害でこれらの経験が活きたのは,最初の3週間程度,3月いっぱいまででした.岩室先生と連絡がついた12日目(3月22日)頃には,既に先のイメージが付きにくい状況になっていました.

講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ─新しい仕組みをつくろう・12

産業環境の変化と労働災害管理システム

著者: 草柳俊二

ページ範囲:P.241 - P.244

 どの国においても,建設産業は最も労働災害発生件数の多い産業となっている.わが国では,1970年代初頭より行政の監視システムが強化され,建設産業の労働災害が減少したが,依然として全労働災害の1/3以上が建設産業で発生している.建設産業における労働災害の減少は,行政の監視システムの強化だけでは達成できない領域に入っていると考えなければならない.安全管理は監視的取組みではなく,労働環境整備,健康管理と一体化し,生産性を向上させるための基盤として,企業経営の根幹として捉えていくことが求められている.

「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・12

笑うと冷え性が良くなる?―「笑い」と「冷え性」との関連について

著者: 大平哲也

ページ範囲:P.245 - P.248

 「冷え性」とは何でしょうか? 外気温の変化に伴って,手,足,腰などの冷え,および冷えに伴う症状(痛み,倦怠感等)を感じやすい人(通常の人では感じない程度の温度変化でも感じる人)を,一般的に「冷え性」と呼びます.簡単に言えば,普通の人よりも手足の冷えを感じやすい人ということです.冷え性は自覚的症状が主であるため,身体的な病気の有無に関係なく存在します.

 一方,これとは逆に,冷えの自覚はあまりないけれども,実は冷えやすい身体である場合もあります.わが国では,女性の約3分の1に冷え性が見られることが報告されており1,2),特に冬場は冷え症状で悩まれている人が多いと思われます.

公衆衛生Up-To-Date・3 [国立精神・神経医療研究センター発信:その1]

国立精神・神経医療研究センターと医療計画

著者: 堀口寿広 ,   奥村泰之 ,   伊藤弘人

ページ範囲:P.249 - P.252

はじめに

 国立精神・神経医療研究センター(図1,2,http://www.ncnp.go.jp/index.html)は,平成22(2010)年に独立行政法人化した後も,病院と研究所が一体となり,精神疾患,神経疾患,筋疾患,および発達障害の克服を目指した,高度先駆的医療と研究開発および政策提言を行っている.

 このたびの医療法改正により,都道府県では平成25(2013)年度から地域医療計画において,精神疾患が5疾病に位置づけられることになった.本稿では,当センターが医療計画の策定にどのように寄与しているか紹介する.

リレー連載・列島ランナー・48

保健所に求められるもの

著者: 福澤陽一郎

ページ範囲:P.253 - P.256

はじめに

 平成24(2012)年4月から約20年ぶりに保健所で仕事をすることになった私に,列島ランナーの原稿依頼が来るとは思いもしませんでした.

 予防医学に関心を持ち,島根で就職し,保健所,大学の医学部や看護学科と,仕事の場は変わりましたが,終始一貫して興味があったテーマが「脳卒中予防」でした.

 国が脳卒中の3次予防を目指して,脳卒中情報システムは導入されましたが,島根県は1次予防も重要ということで,脳卒中発症調査を実施することにしました.その後,介護保険制度の導入と個人情報の保護という流れを受けて,脳卒中情報システムは本来の機能を発揮することが難しくなっています.この間の歴史的経過を振り返ることは,エビデンスに基づく公衆衛生活動,脳卒中登録事業の意義など重要な内容を含みますが,これについてはまた別の機会に譲りたいと思います.

 本稿では,島根県雲南保健所に赴任が決まった際に,県から所長として大切にして欲しいとお話のあった感染症対策と地域医療のことを中心に報告します.

列島情報

要介護者の動向

著者: 日置敦巳

ページ範囲:P.222 - P.222

 2000年に介護保険制度が始まって13年が経過した.2006年からは,「高齢者が介護サービスを受けずに元気で過ごせるようにするために」と,介護予防事業が追加されている.今後のさらなる高齢化の進行を踏まえ,介護や医療を必要とする者の著増を抑えることが必要である.こうした中,公衆衛生的な立場からは,要介護認定を受けている者の割合の動向について,興味が持たれるところである.

 ここでは岐阜県内における65歳以上の要介護認定者数を,2007年と2012年の3月審査分について,要介護状態区分(1~5)別,5歳階級別(最上の階級は95歳以上)に比較を行った.中重度の要介護者(要介護2~5)数は5年間で,男性では32.4%,女性では34.4%の増加を示した.65歳以上人口に占める割合で見ると,男性では5.9%から7.0%に,女性では9.4%から11.5%へと上昇している.これを年齢階級別に見ると,男女とも75歳以上で中重度要介護者の割合が上昇している.要介護者(要介護1~5)の割合は65~69歳では約2%で,85~89歳までは5歳階級上がるごとにほぼ倍増しており,2012年に比べ,2007年には各年齢階級において少しずつ低くなっている.2006年と2011年の各年齢階級別死亡率には大きな差が見られないことから,死亡による要介護者割合への影響は,両年でほとんど変わらないと考えられる.

映画の時間

―やがて鯨は姿を見せなくなり,老姉妹の季節も静かに変わっていった…―八月の鯨

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.248 - P.248

 穏やかな入り江のある島.そこに建つ別荘で夏を過ごす年老いた姉妹.時はゆったりと流れていきます.高齢になり,眼も不自由になって気難しくなっている姉(ベティ・ディヴィス)を,やはり高齢の妹(リリアン・ギッシュ)が面倒を見ています.妹の夫は第一次世界大戦で戦死し,そのときは姉が妹の面倒を見たようです.それからの長い年月,2人の間にも,様々な出来事があったのでしょう.具体的な説明はなくても,観客に2人の歴史を共体験させていく,リンゼイ・アンダーソン監督の優れた演出です.

 ドラマチックな要素は,あまりありません.山田洋次監督の「東京家族」が公開され,オリジナルである小津安二郎監督の「東京物語」も注目を集めましたが,この「八月の鯨」もドラマチックな要素が少ない,小津作品に似た雰囲気を感じます.

ジュネーブからのメッセージ

日本人初のWHO事務局長(第四代)中嶋 宏先生を悼む

著者: 中谷比呂樹

ページ範囲:P.256 - P.256

 第3回の本稿を準備している最中の1月26日に,引退先のフランス国ポアチエ市から,日本人初のWHO事務局長であられた中嶋 宏先生の訃報に接したので,若き公衆衛生関係者のために先生の等身大のお姿を描いてみたい.

 中嶋先生は1928(昭和3)年生まれで享年84歳.東京医科大学御卒業後,渡仏され,その後も,基本的に海外で生きそして仕事をされ,「最後はフランスの土に帰りたい」と遺言された,芯からの国際人でありました.留学中は,精神薬理を研究され,科学への興味は晩年まで尽きませんでした.WHO退職後はフランス医学および薬理学アカデミー終身会員として,様々な今日的な課題に関心と発言を続けておられました.

予防と臨床のはざまで

「性差からみた総合健診」シンポジウムインプレッション

著者: 福田洋

ページ範囲:P.261 - P.261

 1月25~26日,仙台にて千哲三大会長(医療法人社団進興会理事長)のもと,第41回日本総合健診医学会が開催されました.メインテーマは「健康増進の確立へ―健康教育と総合健診」.強制されることなく自らの意思で健康を求めていく時代を作るには,幼小児期からの年齢に応じた健康教育が重要であるという視点のもと,いかに総合健診と健康教育が関連していくべきかが議論されました.私自身は,自分がずっと専門として取り組んで来た「健康教育」が,健診の学会のメインテーマに取り上げられるようになったことに感銘を受けました.

 その学会の中で,研究室の大学院生である藤林和俊先生(NTT東日本関東病院予防医学センター)がシンポジストを務めた「性差からみた総合健診」は大変興味深く,また素晴らしい内容でした.石垣洋子先生(せんだい総合健診クリニック),吉川博通先生(住友病院健康管理センター)が司会をされ,4人のシンポジストがそれぞれの立場から,総合健診における性差について発表されました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.263 - P.263

次号予告・あとがき フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.264 - P.264

 最近,健康関連の記念日が増えています.新しいものとしては,禁煙の日(毎月22日)があります.数字の22の形を2羽の白鳥に見立てて「スワンスワンで禁煙を!」というスローガンで,禁煙運動が推進されています.

 3月は3日の「耳の日」,24日の「世界結核デー」などがあります.このように,通常の記念日は特定の月日を指定しておりますが,CKD(慢性腎臓病)の普及啓発を目的とした「世界腎臓デー」は,“毎年3月の第二木曜日”という変則的な設定です.しかも(私だけかもしれませんが),“CKD”という造語にも違和感があります.腎機能や腎不全などの腎の英語表記には“Renal”が使われるのに,なぜ“Kidney”なのか? という疑問もありました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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