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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生77巻7号

2013年07月発行

雑誌目次

特集 医療安全のさらなる推進に向けて

フリーアクセス

ページ範囲:P.517 - P.517

 平成11(1999)年に,大学病院における患者取り違えや都立病院での消毒薬の誤注入など重大な医療事故が相次いで報告され,医療安全に対する社会的関心が高まり,わが国の医療安全施策推進の契機となりました.

 その後,国による医療安全対策の基本的な考えが示され,医療の現場において,施設の規模や機能に応じた対策が求められるようになりました.

医療安全施策の動向―行政の取り組み

著者: 古屋好美

ページ範囲:P.518 - P.521

はじめに

 医療安全については,患者やその家族,医療の提供者・機関,行政機関(地方自治体および国)など,およそすべての人々の願いでありましょう.一方で,医療行為には一定のリスクを伴うことや「ヒューマンエラーは起こるもの」は周知の事実です.リスクを最小化し,医療安全を確保するためには,医療関係者はもとより,患者・住民を含む多くの人々や関係機関の協調性ある努力が必要です.

 医療情報提供推進や医療安全確保に向けて大きく踏み出した第5次医療法改正〔平成19(2007)年4月施行〕から6年ほどが経過する今,本特集では現時点において医療安全にかかわる専門家がそれぞれの立場から執筆すると伺っており,これまでの組織的な取り組みと今後の展望が見えることと期待しています.筆者の分担は行政の取り組みとして次の4項目についてまとめます.

 1.医療安全施策の経緯

 2.最近のガイドライン

   1) 医療広告ガイドライン

   2) 医療機関ホームページガイドライン

   3) 医療対話推進者ガイドライン

 3.保健所における医療安全対策の現状と課題

 4.健康危機管理における地域医療システム安全への展望

医療安全支援センターの取り組みと医療機関との連携

著者: 東健一 ,   浜田進一

ページ範囲:P.522 - P.525

はじめに

 医療安全支援センターは,医療法に基づく施設であり,医療に関する患者やその家族などからの苦情・心配や相談に対応するとともに,医療機関,患者やその家族などに対して,医療安全に関する助言および情報提供機能などを担っている.

 横浜市では,平成16(2004)年7月に,「医療安全相談窓口」を健康福祉局医療安全課に設置した.平成19(2007)年の医療法の改正に伴い,都道府県,保健所設置市などは,「医療安全支援センター」を設置するよう努めなければならないと規定されたことを受け,「医療安全相談窓口」を医療法上の「医療安全支援センター」として位置づけた.

 相談件数は概ね増加傾向にあり,平成20(2008)年度以降,毎年約5,000件を上回る相談を受けており,平成25(2013)年1月現在,延べ37,000件以上もの相談を受けている(図1).

 このたび窓口設置から8年を経て,その振り返りとして本年「横浜市医療安全相談窓口8年間のあゆみ―患者さんと医療機関の架け橋として」を上梓した.

 本稿では,現在本市医療安全支援センターで行っている業務とその課題,および医療機関との連携の実情について述べる.

病院における医療安全管理体制―特定機能病院の取り組みを通して

著者: 海渡健

ページ範囲:P.526 - P.530

はじめに

 医療の安全性についての基本的考えは同じであるが,個人病院から特定機能病院まで規模に応じて職員の感じ方や取られるべき対策も異なる.特定機能病院に共通する特徴を医療機関側と患者側に分けると,病床数や診療科が多く,職種が細分化され,多くの専門知識を持った職員が勤務している,という医療機関側の要素と,合併症の存在や前治療歴など複雑な疾患背景を有し,医療機関に対する期待も高い,という患者側の要素が挙げられる.

 これらと医療安全管理上の問題との関連を考えると,医療者側の要素として,①職種や職員数が増加するほど意思の統一が困難になりテリトリー意識が強くなる,②専門性が高くなるほど行為の妥当性評価が困難になり,専門家に対する気づきの発信が低下する,③多彩な目標設定のため安全対策への参加意識の継続が困難になる,④患者に対して多くの関係者が協働する必要があるためヒューマンエラーの確立が高くなることがあげられる.一方,患者側の要素としては,①要求が過大で治療が奏効するという予想を抱いている,②合併症や基礎疾患など背景が複雑である,③既に多くの医師が関与している,④安全対策はすべて備わっており,安全管理はすべて医療機関が行うべきものである,という誤解を抱いている.

 本稿では東京都港区に存在する東京慈恵会医科大学附属病院本院で医療安全対策を行っている者として,多種多様な部門が緊密に連携して医療を行っている特定機能病院の現場で取り組んでいる当院の医療安全推進対策を,医療安全推進室の役割,他職種との連携,院内メディエーターの育成,ヒューマンエラー対策としてのチームステップス(TeamSTEPPS®)の活用といった面から紹介する.

医療安全管理における看護職の役割と地域連携の推進

著者: 杉山良子

ページ範囲:P.531 - P.534

はじめに

 日本における医療安全元年といわれる1999年に発生した医療事故を発端に,医療安全推進活動が目に見える形で展開されてきた.それまでも,同様の医療事故はあったが,医療事故そのものに対する考え方は当事者の責任追及を中心とした偏狭なものであった.医療界自体が,それに異を唱える状況にはなかった.

 そうした中,1990年代半ば頃より,看護が率先してインシデントレポートを収集する活動を始めた.看護がけん引していくことで医療安全活動が推進されていったといっても過言ではなく,それにはそれだけの背景と理由が存在したと思う.加えて,1999年,2000年にメディアが大きく取り上げ社会問題化した医療事故の直接的な当事者は,いずれも看護師たちであったことを忘れてはならない.看護師たちが支えてきた病院医療の狭間で起きた,不幸な事故の数々であった.

 それから十数年を経て,医療事故は医療の質との関連で取り扱われるようになってきている.現在では,良質な医療を提供していくために,という命題の下に医療安全の取り組み内容が法制化され,またチーム医療における医療者の専門性を前提とし,互いに連携・補完し合うことでの,安全性の確保が強調されるようになってきた.現状ではまだまだ不足な点は多いものの,確実に医療安全は推進され,浸透してきたことは否めない.

 この稿では主として,病院において職員の大多数を占め,常に患者の身近で業務をしている看護師の安全への取り組みや役割,さらに安全管理としてのなすべきことについて,筆者の体験や実践を踏まえて論じてみたい.

医療安全にかかわる人材育成―効果的な教育を目指して

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.535 - P.538

はじめに

 本邦の医療安全推進の取り組みは,約10年の間に大きく変化を遂げている.平成14(2002)年10月には,病院,有床診療所に,医療安全管理体制の整備が義務付けられ,平成19(2007)年4月には,無床診療所および助産所への医療安全管理体制整備が義務付けられた.

 平成18(2006)年の診療報酬改定で,医療安全対策加算が新設され,専従の医療安全管理者を配置していることが要件とされ,平成19(2007)年3月には,厚生労働省医療安全対策検討会議 医療安全管理者の質の向上に関する検討作業部会より,「医療安全管理者の業務指針および養成のための研修プログラム作成指針―医療安全管理者の質の向上のために」1)(以下,本指針)が公表され,医療安全管理者の業務が明らかになった.続いて,平成22(2010)年度の診療報酬改定では,医療安全対策加算が医療安全管理者の配置状況によって「専従:加算1:85点」,「専任:加算2:35点」に変更され,施設の規模に応じた医療安全管理者の配置が可能となり,医療安全管理者の配置が促進された.

 平成19(2007)年4月1日に施行された第5次医療法改正においては,「医療安全の確保にかかる医療機関の管理者の義務を規定することにより医療安全の確保という施策の方向を明示」という基本的な考え方の下,医療従事者の資質向上を通じた医療安全対策推進を図る内容が盛り込まれた.今後,さらなる医療安全推進を図るため,医療安全管理者だけでなく,感染制御にかかわる院内感染管理者もしくは感染制御チームや,医薬品安全管理責任者および医療機器安全管理責任者などが,チームで取り組む組織的な医療安全推進が求められている.

 さらに,平成24(2012)年度の診療報酬改定では,「患者サポート体制充実加算」が新設され,専任の医療対話推進者の配置が要件となり,これまでの医療安全にかかわる組織的な取り組みを再検討し,より一層“チーム力”を高めた展開が望まれる.

医薬品の安全管理体制―職種間連携による医療安全の向上

著者: 荒井有美

ページ範囲:P.539 - P.543

はじめに

 医薬品は「疾病を治癒し,症状の緩和をもたらす」という,とても重要な役割を果たす反面,使い方を誤ると非常に危険である.医療機関は,医薬品を取り扱わない日はないといっても過言ではない.日々使用されるどのような医薬品にも,常に危険が伴っていることを忘れてはならない.

 筆者は,大学病院で病棟薬剤師として7年間,看護師として5年間病棟に勤務した後,現在は医療安全管理室でリスクマネジメントに従事している.本稿では,医療現場における医薬品の安全管理体制の現状と課題について解説する.

医療事故防止に向けて―原因究明と再発防止

著者: 後信

ページ範囲:P.544 - P.547

はじめに

 良質な医療の提供に当たり,特に安全を重視する考え方が,最近10年あまりの間に国内外で広がってきた.1999年には大学病院で発生した手術を受ける患者の取り違え事故が発生し,また,別の病院では消毒薬を静脈に注入した事故が発生した.2000年には,大学病院で人工呼吸器の加湿器へのエタノール誤注入や,別の大学病院では内服薬を静脈注射した医療事故が発生し,社会的な問題となった.このような背景があり,社会から医療の安全を求める要請が強まったことから,医療界では医療事故やヒヤリ・ハット事例に学ぶ取り組みなど,一層の医療安全推進の取り組みがなされるようになった.同時に,不可避的に発生する有害事象については,紛争の早期解決を図るために,まず産科領域を対象として無過失補償制度が導入され運用されている.

「医療版失敗学」のすすめ―インシデントから学び,真の医療安全にトライする

著者: 濱口哲也

ページ範囲:P.548 - P.552

はじめに

 医療界や産業界の多くのインシデント・アクシデントレポートを分析してきた結果,次のことがはっきりいえる.人間は誰でも他人が経験した失敗と同じ失敗を犯す動物である.さらに,過去と同じか,似たような形で次の失敗が起こる.業界,職種,機器,作業などによって,あるいは文化や技術の成熟度によって最終的な失敗の結果や事象が異なるので気付いていないだけで,実は失敗の本質は同じであることが多い.そうであるなら,われわれは他人や過去の失敗に学ぶべきである.そのためには,インシデント・アクシデントレポート(以下,レポート)は組織の宝でなければならない.失敗の最終結果事象だけに着目するのではなく,失敗の本質に着目してレポートを有効活用すべきである.

 ところが医療機関で書かれているレポートの中には,事実や経緯だけに終始し,「マニュアル通りに行動するよう厳重注意,周知徹底」といった根性論的な対策や,「配薬ミスが増えています」といった最終結果事象への注意喚起だけにとどまっているものが少なくない.“再発防止”を行うには,真の原因を究明し,そこに根本対策を施さなければならない.さらには,これまで経験していないが今後起こるかもしれない新しい失敗を防止するという「未然防止」を行うには,「今回の失敗を未然防止に応用しよう」という考えが必要である.

 本稿では,レポートを再発防止と未然防止に有効活用する方法を述べる.まず,未然防止に役に立たない典型的なレポートを紹介し,その後役に立てるためのエッセンス①と②を説明する.

視点

大規模災害と公衆衛生

著者: 奥村順子

ページ範囲:P.514 - P.515

 世界保健機関(World Health Organization)の定義1)によれば,公衆衛生とは,その実施者が官・民のいずれであるかにかかわらず,コミュニティーや集団を対象に人々の疾病を予防し,健康を推進し,寿命を延ばすことを目的とする組織化された手段を指す(筆者訳).本稿では,地震,津波,暴風雨,洪水,火山噴火などの自然災害に起因する大規模災害時の公衆衛生活動について筆者の視点を述べる.紛争やHuman Errorによる化学災害,放射線災害などは,対象外である旨,了解されたい.

特別寄稿

安全な物的環境を考える

著者: 筧淳夫

ページ範囲:P.554 - P.558

はじめに

 人と環境との関係を考えるとき,人が行動を起こすことによって周辺環境に影響を与えることもあれば,人を取り巻く環境によって行動が支配・影響されることもある.山本多喜司とS.ワップナーの編著「人生移行の発達心理学」1)によると,人間と環境の間のシステムを双方向の関係でとらえる相互交流主義(transactionalism)においては,人間を「身体・生物的側面」,「心理的側面」,「社会文化的側面」の3つの側面から捉えるとともに,もう一方の環境を「物理的側面」,「対人的側面」,「社会文化的側面」のやはり3つの側面から捉えて整理している.

 医療安全においても,インシデントやアクシデントを分析し,適切な対策を講じるためには,医療スタッフを「医療従事者や患者の健康状態や身体的な能力(身体・生物的側面)」,「どのような心理状態でその作業に望んでいたのか(心理的側面)」,「職種や役割としてどのようなことが求められていたのか(社会文化的側面)」といった側面で捉えることができる.またその時の環境を,「医療従事者の作業や患者の日常生活がどのような作業・生活環境の中で行われ営まれていたのか(物理的側面)」,「第三者を含めた人間関係はどのような状況であったのか(対人的側面)」,「医療行為の法的・社会的位置付けがどのようなものであったのか(社会文化的側面)」など多角的な視点からの分析が必要である.このようにさまざまな要因が絡み合って発生する医療事故を分析する際に,物的環境のみを取り上げることには本質的な限界があるが,ここではこれまであまり振り返られることの少なかった,医療施設内の適切な物的環境と医療安全について考えてみたい.

連載 中国高齢者の健康と福祉・4

中国における総合医の育成による地域保健医療サービスの推進―北京市からの報告

著者: 楊玲 ,   杜雪平 ,   趙林

ページ範囲:P.560 - P.565

 中国は近年,全科医師(総合診療医師を意味し,以下“総合医”と称す)の育成に力を入れているが,現段階においては,全国の総合医は大変不足しており,また専門的水準の低い.このことが政府が推進する地域の保健医療サービス体系整備の足枷となっている.早急な総合医の人材育成は,中国の地域保健医療サービスの発展において大変重要である.さらに総合医の充実による「初診制度」「連携病院と双方向に転院できる協力体制」の構築,高次医療機関との協働,生活習慣病の予防サービス体系の基盤整備などによって医療費の抑制も期待できると思われる.

この人に聞きたい!・4

子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

著者: 道川武紘 ,   新田裕史 ,   川本俊弘

ページ範囲:P.566 - P.569

はじめに

 「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」とは,化学物質の曝露や生活環境が,胎児期から小児期にわたる子どもの健康にどのような影響を与えているのか明らかにし,化学物質などの適切なリスク管理体制の構築につなげることを目的として,環境省が主導している研究事業である.エコチル調査は,約10万人の母親(妊婦)とその父親をリクルートして,生まれてくる子どもが13歳になるまで追跡する計画(前向きコーホートデザイン)で,2011年1月から,同年8月以降に出産予定の母親のリクルートを開始した.

 筆者らは,研究実施機関である独立行政法人国立環境研究所に設置されたコアセンターに所属し,独立行政法人国立成育医療研究センターに設置されたメディカルサポートセンターから産科・小児科領域の専門的支援を受けながら,対象者のリクルートとその後の追跡を担当する全国15か所の調査拠点(大学医学部・医科大学などに置かれたユニットセンター)と協働して調査の実施に当たっている(図1は全国の調査地域と実施機関).本稿では,エコチル調査の経緯を含めて,概要と進捗状況をお伝えする.

講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ―新しい仕組みをつくろう・16

労働安全衛生統計・調査と予防活動

著者: 小木和孝

ページ範囲:P.570 - P.575

はじめに

 労働安全衛生統計は,労働災害・職業性疾病の現状把握と分析に,またその予防のための労働条件・職場環境の改善に重要な役割を果たしている.労働災害と職業性疾病は,どの産業でも多数報告されていて,過重労働による健康問題,職場間の大きな格差とともに,社会全体で取り組む大きな課題となっている.公表されている休業4日以上の死傷病についても,国際的に見て改善を要する水準にあり,職業病の過少報告も各国に共通した切実な問題として重視される.

 ILO(国際労働機関,International Labour Organization)は,2002年に労働災害と職業病の記録と届出に関する議定書と勧告を採択し,労働災害・職業病の届出・集計の改善を各国に呼びかけている1).ILOによる今年の労働安全衛生世界デー(4月28日)のテーマは「職業病の予防」で,実態の把握と予防対策の強化を緊急の課題としてあらためて提唱している2).ILOは,年間32万人が労働災害で死亡し,202万人が職業病で死亡していると推定している.国別の労働災害・職業病統計には工業国を含めて差が大きいが,工業国の死亡災害については,ILO推計値がほぼ公表件数と見合っている.しかし,労働災害,職業病の発生状況については,国による差が依然として大きく,日本の現状についても,統計の取り方の再検討,予防に結びつく分析の改善が必要と指摘されている.

 わが国には,労働災害の総発生件数として公表されているデータは存在していない.公表されている休業4日以上の労働災害,職業病についても,集計方法による差があり,休業4日未満については十分把握され公表されているとはいい難い段階にある.したがって,把握されている統計値の分析・利用にも制約があり,集計・分析の在り方と有効な予防対策に結びつく利用について,国際動向も参照しながら再検討していく必要がある.とりわけ,休業4日未満の労働災害および職業病を含めた集計システムの再整備,職業病統計における過少報告の改善,有効な予防対策の計画・実施に役立つ統計・調査の拡充を進めていくことが重要な課題となっている.

「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・16

音を楽しむ!音楽療法と笑いとの共通点

著者: 大平哲也

ページ範囲:P.576 - P.579

 近年,音楽を聴いたり,演奏したりすることにより身体的・心理的ストレスを軽減させる効果があることが国内外において報告されるようになってきました.具体的には,好みの音楽を聴取した場合,「活気」が上昇したという報告1)や聴取する音楽の種類により,幸福感や活気が上昇したり,緊張が低下したという報告2)などがあります.また,音楽は内分泌系,自律神経系,心血管系に影響し,身体のリラクゼーションに関係し,痛みを軽減させる効果もあることから,病院の集中治療室などでも使われています3).それでは,音楽を用いた健康教室は心身の健康維持・増進,疾病予防に効果があるのでしょうか? そして,笑いとの共通点はあるのでしょうか?

公衆衛生Up-To-Date・7

[国立長寿医療研究センター発信:その1]

災害時の新たな課題―「防げたはずの生活機能低下」予防―そのターゲットとしての生活不活発病

著者: 大川弥生

ページ範囲:P.580 - P.585

はじめに

 東日本大震災後,はや2年が経過したが,被災地には多くの課題が残されている.また非被災地にも今後の災害時対応の見直しの課題がある.その中で「防げたはずの生活機能低下予防」を明確に位置付ける必要がある.

 本稿ではこの問題と,高齢者におけるその主な原因である「生活不活発病」,そして「要援護者」に代わる新しい概念である「特別な配慮が必要な人」についてご紹介したい.

リレー連載・列島ランナー・52

医師確保に向けて

著者: 古川次男

ページ範囲:P.586 - P.589

はじめに

 平成16(2004)年に新医師臨床研修制度は開始された.それ以後,全国での医師不足,医師偏在が顕在化し,大きな社会問題となっている.国は平成19(2007)年から「緊急医師確保対策」としてのさまざまな取り組みを行っているが,いまだに,その成果が見えてこない.最新のOECD Health Data 20121)によるとわが国の人口1,000人当たりの医師数は先進7か国中最下位の2.2人である(表1).

 さらに,昨年9月には文部科学省と厚生労働省の連名で「地域の医師確保対策2012」なるものが発表された.それによると現在,医療施設に従事する医師は全国で28万人(平成22年末)であり,毎年4,000人程増加している.

 わが国の医師の養成数については,昭和57(1982)年および平成9(1997)年の閣議決定により,入学定員を7,625人まで抑制していたが,その後,近年の医師不足に対応するために,平成20(2008)年度より定員増員を図り,平成24(2012)年度までに8,991人となった.この定員増による学生が平成25(2013)年度末に初めて卒業することになる.この中長期的な医師養成対策の他に,医師確保のための環境整備として,次の3つの対策を挙げている.

 ①医師のキャリア形成を踏まえた地域偏在・診療科偏在の緩和.

 ②医師が生涯にわたり研鑽を積み,医療の現場で活躍できる環境の整備(女性医師らの生涯を通じたキャリア形成支援).

 ③超高齢社会などの今後の医療需要に対応した人材の育成.

 このような国の施策の下で,佐賀県としての医師確保の取り組みの現状とその成果について述べてみようと思う.

活動レポート

運動教室の企画・運営・評価研修の開催―調査結果を踏まえた事業展開

著者: 野田華子 ,   稲葉やす子 ,   種田行男 ,   大渕修一

ページ範囲:P.590 - P.594

背景・目的

 静岡県総合健康センターは健康科学に立脚した健康づくりの拠点施設として「市町支援事業」を実施してきた.平成21(2009)年度には静岡県内の市町の健康増進担当課および介護予防担当課を対象に,健康づくり・介護予防事業での運動指導の現状・課題などについて調査を実施した(以下,運動指導実態調査)1)

 その結果,課題となっていることは「運動指導事業や指導効果についての評価が難しい」(両課合計86.4%)や「人材不足」(同72.1%)などであることが明らかになった.また運動を専門とする職種の配置は約2割であり,運動を専門とする職種がいないことでの課題は,「体力測定やその評価方法など」(同69.4%)や「運動が関連する施策や事業の企画」(同63.3%)であった.また他機関との連携の希望は介護部門(47.1%)の方が健康部門(28.1%)より19ポイントも多いことなどが明らかになった.

お知らせ

第15回看護国際フォーラムのお知らせ フリーアクセス

ページ範囲:P.553 - P.553

テーマ:「在宅ケアの推進とその方略―臨床・退院支援・地域における看護の連携」

主催:大分県立看護科学大学

共催:大分県看護協会

日時:2013年10/26(土)12:30~17:00

会場:別府ビーコンプラザ 国際会議場

ジュネーブからのメッセージ

Why not Both!?②国際保健と国内公衆衛生の再統合―Why Not Both! のすすめ

著者: 中谷比呂樹

ページ範囲:P.559 - P.559

 今年のWHO総会は日本の尾身茂氏が議長を務めて,WHO改革・それを具現化する第12次WHO事業計画方針(2014~2019)と2014~2015事業予算など中期的な国際保健の方向性を決する重要な会議となった.それをとり仕切った日本としては鼻高々といったところであるが,審議の中で,前回,国際保健と国内の医療活動を両方やればよいではないか“Why not Both!?”がなぜ,問題になるのかについてはたと思い至ったことがあるので論議を続けてみたい.

 欧米の若い学生と話していてもこのような問いに出合わないし,ジュネーブ大の医学生には国外研修が当たり前,知人の子弟に途上国での研修を斡旋したりするのも日常茶飯事である.欧米出身の各種専門家委員会の委員は国内的にも国際的にも活躍しておりどうして日本だけが違うのか.そこで気がついたのは,双方の優先課題の乖離(ミスマッチ)に由来するのではないか,ということであった.

映画の時間

―ダンスは私にとって哲学だったと言えたら,最高に幸せね―そしてAKIKOは…~あるダンサーの肖像~

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.597 - P.597

 「そしてAKIKOは…」は,2011年9月に75歳で亡くなられた,わが国のモダン・ダンスの第一人者であるアキコ・カンダの最後のリサイタルの前後を中心に描いたドキュメンタリー映画です.演出を担当されたのは,これもわが国の女性映画監督の草分け的存在の羽田澄子監督です.この映画を演出されたときは85歳になっていらしたかと思います.

 羽田監督は1985年に40代のアキコ・カンダがモダン・ダンスに情熱を傾ける姿を映像に収めた映画「AKIKO―あるダンサーの肖像」を発表されています.そして2010年,70代を迎えた「アキコ」を再び映像に残すところから映画は始まります.

予防と臨床のはざまで

第86回日本産業衛生学会健康教育・ヘルスプロモーション研究会

著者: 福田洋

ページ範囲:P.598 - P.598

 5月14~17日に,谷川武学会長(愛媛大学大学院医学系研究科公衆衛生・健康医学分野教授)のもと,第86回日本産業衛生学会(愛媛,http://jsoh86.umin.jp)が行われました.5月15日には,「働き盛り世代におけるヘルスリテラシーⅢ」をテーマに,健康教育・ヘルスプロモーション研究会ミニシンポジウムを開催し,3年連続でヘルスリテラシーをテーマに取り上げました.

 一昨年は,杉森裕樹先生(大東文化大学)からヘルスリテラシーの概要について,昨年は,杉森裕樹先生に加えて石川ひろの先生(東京大学大学院)からヘルスリテラシーの尺度についてご講演いただき,職域でのヘルスリテラシーの活用について理解を深めてきました.3年目となる今年は,「ヘルスリテラシーを使う」ことにフォーカスして,実際に従業員のヘルスリテラシーを調査したり,教育で使用した経験について3事業所から報告をいただき,その課題,疑問点,可能性について議論を行いました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.599 - P.599

次号予告・あとがき フリーアクセス

著者: 成田友代

ページ範囲:P.600 - P.600

 編集委員に就任し,初めての特集の企画に当たり,「医療安全」をテーマに選ばせていただきました.私自身,行政の担当者として病院の医療安全対策に関与する中で感じたことですが,医療安全は“ヒューマンエラーは起こるもの”を前提に,リスクを最小限に抑えるべく,院長のリーダーシップのもと,いかに組織的に取り組んでいくかが鍵であり,その管理手法はどの分野においても役立つものと考えたからです.

 詳細は,特集をお読みいただくとして,多種多様の職種が集まる病院において,各部署が連携して対策の強化が図られているか,インシデント報告という個人の気付きをチームの行動に結びつけられているか,管理者のリーダーシップは発揮されているか,などなどこのような視点は,私自身が担当業務に当てはめて振り返る機会ともなりました.また,高齢化の進展に伴い,医療ニーズが益々増大する中,次世代を担う若い人達が安心して医療の道を選択できるような環境を整備していくことはわれわれ現役世代の役割であるとも感じています.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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