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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生77巻9号

2013年09月発行

雑誌目次

特集 衛生行政を担う人材―獣医師・薬剤師

フリーアクセス

ページ範囲:P.701 - P.701

 人々の健康の脅威は,20世紀の半ば頃までは水,空気,食べ物の汚染・不衛生でありました.その後,社会的インフラの整備が進み先進国では不衛生との戦いという意味の公衆衛生は終わったかのように思われてきました.しかし,環境汚染,食品安全,医薬品の安全,薬物乱用,人獣共通感染症の流行など人々の健康を脅かす新たな問題が登場してきています.これに対応できる新たな組織体制や人材づくりが必要となってきています.

 イギリスではすでに「Health Protection」が設けられ,広域的な検査体制や専門組織の充実が図られています.わが国も食品,感染症,化学物質などにかかわる検査,規制,監視にかかわる組織と人材育成の必要があります.また,グローバル社会となり,農産物,工業製品,感染症に対するには国際的な枠組みの下で,専門性の高い専門職を配置して対応することが必要となってきています.わが国の対物衛生の領域は,多くの獣医師や薬剤師によって担われていますが,体系的な人材育成の教育システムが確立されるまでには至っていません.国民の健康と安全を確保するためには,幅の広い専門領域から能力の高い専門職を確保することも必要となってきています.

戦前の衛生行政における獣医師・薬剤師の役割

著者: 横田陽子

ページ範囲:P.702 - P.705

戦前の中央・地方の衛生行政組織

 戦前の日本において,衛生行政に従事する技術者には,医師,薬剤師および獣医師がいた.このなかで医師は,その創設期に主導的役割を果たし,また明治期から戦前の昭和期を通じて,まずコレラ,ペストが,後に結核,腸チフスなど伝染病対策が重視されたこともあり,衛生行政の技術者のなかで主導権を堅持した.一方,衛生行政には伝染病などの対人以外に対物分野もあり,これらは薬剤師・獣医師が担った.ここでは戦前期の衛生行政のなかで周辺に位置付けられる業務に従事した,薬剤師・獣医師を中心に述べる.

 戦前の衛生行政の組織機構を概観しておくと,中央で衛生行政を担当したのは,1875年創設の内務省衛生局である.内務省(1873年創設)は内政全般を管掌した中央官庁であり,地方事務を専管する県治局と警察行政を司る警保局がその中心であって,衛生局は内務省の一隅を占めるにすぎなかった.1938年に至り,内務省衛生局と同外局の社会局が統合されて旧厚生省が創設される.

衛生行政にかかわる獣医師の卒前・卒後教育の現状と課題

著者: 吉川泰弘

ページ範囲:P.706 - P.710

はじめに

 獣医師に対する社会ニーズは国内外において大きく変動してきた.本稿では,このニーズの変化の現状と今後の教育の課題を述べる.

衛生行政領域にかかわる獣医師の役割と課題

著者: 森田邦雄

ページ範囲:P.711 - P.715

はじめに

 獣医師については,一般に動物のお医者さんというイメージが強いと思われるが,獣医師法第1条では「獣医師は,飼育動物に関する診療及び保健衛生の指導その他の獣医事をつかさどることによつて,動物に関する保健衛生の向上及び畜産業の発達を図り,あわせて公衆衛生の向上に寄与するものとする」と規定されており,公衆衛生の向上に寄与することもその任務とされている.これは,動物および食肉などの動物性食品を原因とする人の健康被害を防止するための対策を講ずるうえで,その専門家である獣医師を必要とするためである.現実に,公衆衛生行政領域において長年,多くの獣医師が種々の業務に従事し貢献しているが,一般にその認知度は低いと思われる.

 ここでは,公衆衛生行政分野における業務について,法律の規定上,獣医師でなければできない業務,獣医師の貢献が必要な業務および獣医師が貢献できる業務に分類し,その役割の現状と課題について記し,多くの方のご理解を得られれば幸いである.

公衆衛生,健康科学に対する薬剤師の役割と教育―現状と将来展望

著者: 高木達也 ,   白國優子

ページ範囲:P.716 - P.720

はじめに

 2004年12月26日,スマトラ島沖でモーメントマグニチュード9.1~9.3とも推定される,世界史上最大規模の地震が起こった(9.3とすればこの規模を確実に上回るのは1960年チリ地震のみ).世界最大規模の海洋性地震のため,“Boxing Day Tsunami”とも呼ばれる最大規模の津波となって,不幸にもインド洋沿岸の国々に被害が及んだ.後の調査によれば分岐断層が観測されており,この存在がさらに被害を大きくしたと考えられている.また最も震源に近かったバンダアチェ(アチェ特別自治州の州都)は壊滅状態で,この都市だけで3万人以上の方々が犠牲になったと考えられている.

 時期は12月末だったが,熱帯,亜熱帯地方を中心に被害が大きかったため,衛生状態の悪化,感染症のまん延などが心配された.日本からも災害医療チームが現地へ赴いたが,その中に薬剤師も加わっていた.不幸中の幸いだったのは,少なくとも壊滅的な感染症のまん延はみられなかったことである.このような状況下,災害医療チームの一員としての薬剤師の役割は,意外と知られていない.もちろん,医薬品などのロジスティクスに関し,薬剤師の役割は小さくない.2011年の東北地方太平洋沖地震の際には,医療施設もまた被災したため,元来それらの医療施設で医薬品を処方されていた患者に対し医薬品の処方ができなくなっていたところ,地元の薬剤師会が大きな役割を果たしたとのことである1).Ⅰ型糖尿病の患者のためのインスリンをはじめ,即時に必要不可欠な医薬品も少なくないので,悠長に待っているわけにはいかないことは,意外と報道されなかったようにも思う.

 しかしながら,薬剤師が果たすことのできる役割は医薬品の供給に関する事項だけではなく,被災地域の衛生環境の保全にも大きな役割を果たしている.東北地方太平洋沖地震の被災地域でも,害虫の駆除をはじめ,衛生環境の整備に果たした役割は小さくない.本稿は,災害医療に関するものではないので,災害医療に関しての薬剤師の役割については,最後に少し言及するにとどめるが,薬剤師が公衆衛生に果たすことのできる役割は決して小さくない.本稿では,薬剤師が人々の健康の保全に果たす役割と,大学薬学部における公衆衛生教育の果たす役割に関して述べる.

地域保健および地域医療における薬剤師に期待される役割―その現状と課題

著者: 児玉孝

ページ範囲:P.721 - P.725

はじめに

 65歳以上の高齢者が人口の4割を占める超高齢社会を近い将来に控え,医療保険をはじめとする社会保障制度改革を国家的な課題として,社会保障制度改革国民会議を中心に,国民が安心して生活できる,持続可能な社会保障制度の運営に向けた議論が本格化している.医療,介護,健康増進,疾病予防,セルフメディケーション,公衆衛生,環境衛生など,国民の健康と生活にかかわる幅広い分野を担う薬剤師の役割は,ますます重要になってきている.

 薬剤師法第1条には,「薬剤師は,調剤,医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする」と規定されている.医療の一翼を担うことはもちろんのこと,薬のプロフェッショナルとして,社会環境の変化や時代に柔軟に対応して,国民および地域社会に貢献することが求められる薬剤師の地域における役割について考察する.

医薬品の安全対策などや乱用薬物の取り締まりにかかわる厚生労働技官の現状

著者: 國枝卓

ページ範囲:P.726 - P.729

はじめに

 医薬品や医療機器は,疾病の治療や予防,診断に用いられ,国民の健康の維持・向上に大きな役割を果たしており,こうした医薬品などの研究開発の支援を行うとともに,審査,安全対策や監視指導に万全を期すことが必要です.また,麻薬,覚醒剤など,乱用されるおそれのある医薬品の管理や乱用薬物の取り締まりが必須です.このため,医薬品などや薬物にかかわる法律や制度が整えられており,その中で国(厚生労働省など)および地方自治体で薬事に携わる専門職が重要な役割を果たしています.

 厚生労働省で薬事にかかわる専門職は,業務内容から大きく2つに区分されます.いわゆる薬系技官と呼ばれる薬学などの専門知識を有する薬事関連技術職員と,地方厚生局麻薬取締部に所属する麻薬取締官です.ここでは,これらの専門職につき,その業務内容,採用,キャリアパス,今後の展望について述べます.

兵庫県の衛生行政領域における獣医師の現状と専門性確保の課題

著者: 村上和典

ページ範囲:P.730 - P.734

はじめに

 兵庫県の衛生行政領域においては,獣医師と薬剤師が大半を占めているが,本稿では,そのうちの獣医師の現状について報告する.

食品安全行政の専門職確保と専門性の維持―自治体調査結果からみた現状と課題

著者: 清原昭子 ,   工藤春代 ,   新山陽子

ページ範囲:P.735 - P.738

はじめに

 地方自治体は,フードチェーンを構成する食品事業者に対する監視,指導取り締まり,検査などからなる食品衛生に関する「規制行政」の実務を担うとともに,「支援行政」として事業者や地域住民への食品衛生措置の普及,導入支援を進める役割を果たしている.その食品安全・衛生行政には,1996年のO157による集団食中毒事件や,2001年のBSE国内発生など,新たな危害因子の出現により,高度な専門知識が必要とされるようになってきた.また,現場の状況に迅速に対応するうえで地方自治体の役割は極めて大きくなっている.さらに,食品衛生上の問題に対する食品関連事業者,消費者やマスメディアへの情報提供や,これら関係者と行政との間の相互理解,意見交換を進めるリスクコミュニケーションなどの新たな取り組みも,自治体の課題として認識されている1)

 地方自治体がこのように食品安全・衛生行政の重要な役割を効果的に果たしていくためには,食品安全・衛生の専門的な訓練を受け,高度な専門知識を持つ専門職集団の存在が不可欠である.筆者らの調査によれば,欧州,豪州などにおいては,整った専門高等教育体系があり,行政組織においても専門職が行政の中心に位置付けられている.

 一方,日本の地方自治体の食品安全・衛生行政の組織機構とそこにおける専門職の配置,現任教育訓練がどのような現状にあるのかについては,これまであまり調査が行われていない.そこで,筆者らの研究チームでは,全国の自治体の一斉調査を実施し現状を把握するとともに,職員の専門性向上のための課題を検討することとした(追記参照).

 そこで,西日本の複数自治体の食品安全・衛生業務,家畜衛生・植物衛生業務担当部署に対して実施した予備的なインタビュー調査に基づき,アンケート調査票を作成し,2011年末に,47都道府県,19政令指定都市,41中核市,8保健所設置特例市に配布した.回収数は,都道府県31(回収率66.0%),政令指定都市16(同84.2%),中核市37(同90.2%),特例市6(同75.0%)であった.質問項目は,①自治体における食品安全・衛生,家畜衛生,植物衛生の業務にかかわる各課の専門職の定員および配置数,1ポストの平均在籍年数,各課の担当課長の属性(資格または採用職種),②各課の食品衛生監視員,獣医師などの定員,その充足率の過去10年間の変化(自由記述),③食品安全行政にかかわる専門職の確保,資質と能力に関する課題(自由記述),および④専門職の研修制度,とした.

 項目①④に関しては,現在執筆中の論文にて詳しく紹介する予定である.ここでは,特に衛生部局に関する回答を中心として,自治体における専門職の採用に関する課題と,研修・現任教育や専門性の維持に関する課題について述べる.さらに,自治体の種類別に直面する課題の特徴を述べたい.

視点

ビッグ・データ時代の臨床研究と公衆衛生への期待―医学への敬意,医療への感謝,研究への希望

著者: 佐瀬一洋

ページ範囲:P.698 - P.699

ビッグ・データ時代の臨床研究

 いわゆるビッグ・データの時代を迎え,医学の創造的破壊が話題となっている1).世界に先駆けて高齢化社会を迎えた日本では,がん,血管病,認知症の増加といった大きな困難に直面することが予想され,予防・診断・治療・介護のすべてにわたり,持続可能な社会保障システムの構築が急務である.一方,科学技術,特にライフサイエンス分野では,ヒトゲノム解読やiPS細胞開発に象徴されるように,偶発的な発見の積み重ねから組織的な価値の創造へとパラダイム・シフトが進み,それに伴い臨床研究も疾患志向型研究から患者志向型研究へと大きく変貌を遂げつつある.

 公衆衛生は,近代化を図る中で,国民の健康な生活を確保するための医療および保健指導として大きく発展してきたが,情報通信技術の発展や疾病構造の変化を踏まえ,疫学や医療統計学をはじめとする方法論を核とした社会健康医学(パブリック・ヘルス)として,さらなる活躍が期待されている.

トピックス

新型インフルエンザ等対策特別措置法による公衆衛生的対策などについて

著者: 一瀬篤

ページ範囲:P.740 - P.744

はじめに

 「新型インフルエンザ等対策特別措置法」1)(以下,特措法)は,国民の生命・健康の保護と国民生活・経済への影響を最小化することを目的として,さまざまな措置を規定しており,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」2)(以下,感染症法)など,他の法律と相まって万全を期そうとするものである.

 本稿では,新型インフルエンザ等対策のうち,生命・健康の保護にかかわる主なパンデミックインフルエンザ対策,特に医薬品による対策および公衆衛生的対策について記載する.本稿において意見にわたる部分は,筆者の個人的見解であることをお断りしておく.

特別寄稿

未来図を描く公衆衛生活動in陸前高田②―復興中長期に不可欠な人「財」育成とポピュレーションアプローチ脳

著者: 佐々木亮平 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.745 - P.749

人財育成という命題

 読者の皆さんは,自身が公衆衛生にかかわる専門職の1人として一人前と意識できるようになったのはいつ頃だったか,覚えておられるだろうか.入職後3年目だったのか5年目だったのか.公衆衛生分野にかかわらず,1人の社会人として自立し行動ができるようになるには,ある一定の時間が必要であったはずである.しかもそれはベテランがいて,中堅がいて,新人がいるという当たり前の環境の中にいた場合である.

 東日本大震災から2年4か月が経ち,ようやく3回目の夏を迎えている陸前高田市(以下,被災地もしくは現地)では,改めて,質も兼ね備えた,なくてはならないという意味合いでの人「財」育成=人づくり,には時間が必要であることを認識させられている.

連載 中国高齢者の健康と福祉・6【最終回】

上海市における高齢者“9073モデル”ケアサービスの構想

著者: 章淑萍 ,   趙林

ページ範囲:P.752 - P.757

 人口の高齢化の進行や生活様態の変化に伴って,保健・医療・福祉をはじめとする社会の仕組みを大きく見直すことが求められている.高齢期の人々が余生においても生きる喜びを感じられる社会をいかにすれば構築できるかは,各分野における調整や再構築に向けた取り組みにかかっている.

 21世紀は「高齢者の世紀」と称されるほど,急速な人口の高齢化に伴う介護問題など,かつて人類が経験したことのない社会問題に直面している.これはまさに現代の人類と知恵の限界との戦いの幕開けであるといっても過言ではない.

この人に聞きたい!・6

排尿障害

著者: 後藤百万

ページ範囲:P.758 - P.762

はじめに

 一般的に使われる「排尿障害」の正式な医学用語は「下部尿路機能障害」です。下部尿路機能障害は排尿障害と蓄尿障害に分けられ,下部尿路機能障害により,さまざまな症状(下部尿路症状)が出現します.下部尿路症状は,多岐にわたる疾患・病態に起因し,適切な治療には正確な病態診断が重要となります.下部尿路機能障害は直接生命にかかわるものではありませんが,生活の質を著しく障害します.本稿では,下部尿路機能障害の疫学,病態,治療について解説します.

講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ―新しい仕組みをつくろう・18

産業医制度の歴史と課題

著者: 堀江正知

ページ範囲:P.763 - P.767

工場法の「工場医」

 わが国は,明治に産業革命を経験し,熱中症,じん肺,鉛中毒などの職業性疾病が報告され,鉱山,紡績,製鉄,造船などの事業所では附属病院が設置された.殖産興業の進展に伴って労働は過酷となり,1911年に工場法が公布されて,労働時間の制限,女性や年少者の保護,業務上傷病の補償などが規定された.1921年に倉敷労働科学研究所(現労働科学研究所)が設置されて労働生理や産業疲労などの研究が始まり,1929年に日本産業衛生協会(現日本産業衛生学会)が発足して企業の医師などが会員となった.1936年,八幡製鐵所病院(現製鉄記念八幡病院)の黒田静らがコールタールに曝された職工に肺がんが多いことを世界で初めて報告したほか,減圧症,膀胱がん,マンガン中毒,二硫化炭素中毒なども報告された.

 戦時体制が進行する中で,1938年4月に工場法の省令であった工場危害予防及衛生規則が改正され,同第34条の3第2項が,常時500人以上の職工を使用する工場の工場主に「工場医」の選任を義務付けた(表1).工場医は,工場の衛生に関する事項をつかさどる者とされ,月1回の職場巡視と年1回の健康診断の実施義務が規定された.1940年に選任義務が100人以上に拡大され,衛生上有害な業務に従事する職工の健康診断は年2回に増やされた.1942年に別の省令であった工場法施行規則が改正され,健康診断の義務がすべての工場に適用され,その項目が規定され,工場主がその結果に関する医師の意見を聴取して就業上の措置(事後措置)を行う義務も規定された.このように,現行の産業医に関する法令の基本的な事項は,戦時体制の進行に伴って規定されたものである.

「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・17

楽観的な人は長生き?―楽観主義と健康との関係

著者: 大平哲也

ページ範囲:P.768 - P.771

 みなさんはグラスに半分残った水を見てどう思うでしょうか? 「まだ半分もある」というのは楽観的に考える人(オプティミスト,optimist),「もう半分しかない」というのは悲観的に考える人(ペシミスト,pessimist)と判断されます.なんとなく楽観的な人のほうが悲観的な人よりもよく笑っているように思いますが,本当でしょうか? また,楽観的な人と悲観的な人ではどちらのほうが健康なのでしょうか? 近年の疫学研究の結果からは,どうやら楽観的な人のほうが健康で長生きのようです.

公衆衛生Up-To-Date・9 [国立健康・栄養研究所発信:その1]

健康食品の国際比較

著者: 千葉剛 ,   梅垣敬三

ページ範囲:P.772 - P.775

はじめに

 健康志向の高まりにつれて,消費者が自己判断で選択して経口摂取する製品が注目されている.そのような製品は「健康食品」と呼ばれており,特定保健用食品,サプリメント,栄養補助食品,自然食品など,多様な名称と形状の製品がある.食品に医薬品のような機能や効能効果を表示すると,消費者が病気の治療に利用して適切な医療を受ける機会を逃してしまう.そこで「健康食品」には,医薬品との誤認・混同を避けるとともに,健康の保持増進に活用できるようにするための表示規制がある(表1).健康効果が期待できる製品に対する表示の取り組みは,国際的にも進んでおり,食品に対する健康効果の表示について,日本と海外の制度の状況について紹介する.

リレー連載・列島ランナー・54

減塩食のすすめ

著者: 平紅

ページ範囲:P.776 - P.777

はじめに

 わが国における高血圧症の平成23(2011)年国民健康・栄養調査によれば,日本人では30歳以上の人のうち男性は約6割,女性は約4割が高血圧とされている1).本稿では高血圧に影響が大きい塩分摂取の問題について述べる.

衛生行政キーワード・89

妊産婦と乳幼児の健康診査のあゆみ

著者: 山本圭子

ページ範囲:P.778 - P.780

はじめに

 母子保健は戦前からの長い歴史を持つ.その間,乳児死亡率は,明治,大正期には出生千対150~160であったのが,昭和15(1940)年には100を,同27(1952)年には50を割り,同50(1975)年にはついに10.0となり,以降毎年改善され1桁台となり,平成23(2011)年には2.3となった.また,妊産婦死亡率は,明治~昭和初期には出産10万対200~400であったのが,昭和40(1965)年には87.6,同60年には15.1,平成以降は1桁となり,平成23(2011)年には3.8と目覚ましい改善を遂げた.

 昭和17(1942)年の妊産婦手帳規程,同22(1947)年の児童福祉法,同23(1948)年の母子衛生対策要綱,同40(1965)年の母子保健法において,妊産婦と乳幼児の健康診査がどのように規定され,公費負担されてきたのか,この機会に関係通知などを振り返ってみたい.

お知らせ

―第2回日本NP協議会研究会―治し,支える医療のキーパーソンとしての特定看護師 フリーアクセス

ページ範囲:P.739 - P.739

日時:2013年11月30日(土)9:30~16:30

 受付開始 9:00~

会場:東京医療保健大学国立病院機構キャンパス

 (東京都目黒区東が丘2-5-1)

日本精神衛生学会第29回大会のご案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.751 - P.751

会期:2013年9月21日(土)~22日(日)

会場:宮城大学大和キャンパス

 (〠981-3298 宮城県黒川郡大和町学苑1番地1)

ジュネーブからのメッセージ

シンデレラ・ディジーズのNTD

著者: 中谷比呂樹

ページ範囲:P.751 - P.751

 顧みられない熱帯病(NTD:neglected tropical deisease)の1つであるハンセン病を,いよいよ世界の公衆衛生問題から消し去るためのWHO会議が去る7月にバンコクで開催された.「声なき人々」の「顧みられなかった」病気群が,なぜ一躍シンデレラのように脚光を浴びるようになったのか,その経緯と対策の醍醐味を語ってみたい.

 まず,その前に読者の方々には聞きなれないNTDについて簡単に説明しておこう.NTDはアフリカ・中南米・アジアの熱帯地域に患者が集中している17の特定の熱帯病の総称で,年間の死亡者は50万人程度と考えられている.年間400万人にも達するエイズ・結核・マラリアなどの三大感染症による死亡者から比べると1つひとつの病気の死亡者こそ少ないものの,後遺症を残すことも多く,それが偏見・差別の引き金になるなど保健問題のみならず社会的正義の問題も惹起する疾患群なのである.

映画の時間

―イタリアの世界的巨匠エルマンノ・オルミ監督がある街の聖堂を舞台に描いた危機の時代に贈る,現代の黙示録―楽園からの旅人

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.781 - P.781

 去る7月8日,ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇はアフリカからの不法移民を乗せた船が多く漂着するイタリア南部のランペドゥーサ島を訪問しました.この小さな島の近海で,漂流している移民を救おうとする島民の苦悩を描いた「海と大陸」を本誌4月号でご紹介しましたが,今月ご紹介する「楽園からの旅人」も,明瞭には描かれていないものの,おそらくはイタリア南部,アフリカと近接していると想像させる地域を舞台としています.

 年老いた司祭が神に祈りを奉げているシーンから映画は始まります.教会が取り壊される様子で,聖堂の天井に飾られていたキリスト像も取り外されます.教会に集う信者も少ない,というかほとんどいない状況で,教会が閉じられれば,自身の身の振り方も考えなければならない司祭は机上のキリスト像にも祈ります.「陽気なドン・カミロ」(1951,フランス・イタリア)や「汚れなき悪戯」(1955,スペイン)では,キリスト像が祈りに応える場面が記憶に残りますが,この作品のキリスト像は,司祭の祈りに対して沈黙を守ります.

予防と臨床のはざまで

さんぽ会5月月例会「生活習慣病対策2013~特保第2期のフォーカス」

著者: 福田洋

ページ範囲:P.782 - P.782

 様々な学会・研究会・シンポジウムなどで取り上げられている特定保健指導第1期の振り返り・第2期への移行ですが,多職種産業保健スタッフの研究会である「さんぽ会」(http://sanpokai.umin.jp/)でも,ほぼ年1回のペースで定点観測的にこのテーマを取り上げ,現場的な議論を行ってきました.5月23日に「生活習慣病対策2013―特保第2期のフォーカス」と題して月例会を行い,最近では最大の113名の参加がありました.

 本年4月12日に厚生労働省保険局から「特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き」がアップされ,各健保や保健指導機関でも独自に第1期の振り返りが行われ,その課題に基づいた第2期のフォーカスが絞られつつあると思います.今回の月例会では,議論に時間を割くことを目標に,コーディネーター代表の福田から20分程度の話題提供・状況整理を行い,その後100分を「朝まで生テレビ」方式ですべてディスカッションにあてる,という大胆なプログラムを考えました.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.783 - P.783

次号予告・あとがき フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.784 - P.784

 平成24(2012)年9月にイングランド北部都市のリーズでPublic Analyst, Trading Standards Officer,Environmental Health Officer(EHO)に会う機会がありました.Public Analystは1860年から現在も存在する飲食物の分析を行う自治体の専門職です.EHOは公衆衛生制度の誕生とともに存在している自治体の「監視員」です.自治体において現在まで一貫して対物衛生業務を担当し続けています.わが国では対物衛生にかかわる分野は,戦後,獣医師,薬剤師などの専門職によって担われるようになりました.その教育訓練は現任教育に負ってきました.近年,専門制の必要性が高まり,大学の学部・大学院の教育的役割が重要されてきています.

 ところで,平成25(2013)年2月にコペンハーゲン大学で獣医師教育システムを学ぶ機会がありました.ここでは,行政,大学と企業が協働して人材育成と教育がなされていました.EU諸国における獣医師教育の共通化もはじめられていました.農業国の食品安全の専門職に対する力の入れ方がさすがに違うと感心させられました.この分野の専門職の資質向上を図ることは国民の健康と安全の確保のためには必要,不可欠となっています.本特集は,対物衛生にかかわる専門職の歴史,大学教育,行政の現場,地域の現場などでの現状と課題を見つめるよい機会となりました.ご執筆者の皆さんに御礼を申しあげます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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