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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生77巻9号

2013年09月発行

文献概要

特集 衛生行政を担う人材―獣医師・薬剤師

公衆衛生,健康科学に対する薬剤師の役割と教育―現状と将来展望

著者: 高木達也1 白國優子1

所属機関: 1大阪大学大学院薬学研究科医療薬学専攻 情報・計量薬学分野

ページ範囲:P.716 - P.720

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はじめに

 2004年12月26日,スマトラ島沖でモーメントマグニチュード9.1~9.3とも推定される,世界史上最大規模の地震が起こった(9.3とすればこの規模を確実に上回るのは1960年チリ地震のみ).世界最大規模の海洋性地震のため,“Boxing Day Tsunami”とも呼ばれる最大規模の津波となって,不幸にもインド洋沿岸の国々に被害が及んだ.後の調査によれば分岐断層が観測されており,この存在がさらに被害を大きくしたと考えられている.また最も震源に近かったバンダアチェ(アチェ特別自治州の州都)は壊滅状態で,この都市だけで3万人以上の方々が犠牲になったと考えられている.

 時期は12月末だったが,熱帯,亜熱帯地方を中心に被害が大きかったため,衛生状態の悪化,感染症のまん延などが心配された.日本からも災害医療チームが現地へ赴いたが,その中に薬剤師も加わっていた.不幸中の幸いだったのは,少なくとも壊滅的な感染症のまん延はみられなかったことである.このような状況下,災害医療チームの一員としての薬剤師の役割は,意外と知られていない.もちろん,医薬品などのロジスティクスに関し,薬剤師の役割は小さくない.2011年の東北地方太平洋沖地震の際には,医療施設もまた被災したため,元来それらの医療施設で医薬品を処方されていた患者に対し医薬品の処方ができなくなっていたところ,地元の薬剤師会が大きな役割を果たしたとのことである1).Ⅰ型糖尿病の患者のためのインスリンをはじめ,即時に必要不可欠な医薬品も少なくないので,悠長に待っているわけにはいかないことは,意外と報道されなかったようにも思う.

 しかしながら,薬剤師が果たすことのできる役割は医薬品の供給に関する事項だけではなく,被災地域の衛生環境の保全にも大きな役割を果たしている.東北地方太平洋沖地震の被災地域でも,害虫の駆除をはじめ,衛生環境の整備に果たした役割は小さくない.本稿は,災害医療に関するものではないので,災害医療に関しての薬剤師の役割については,最後に少し言及するにとどめるが,薬剤師が公衆衛生に果たすことのできる役割は決して小さくない.本稿では,薬剤師が人々の健康の保全に果たす役割と,大学薬学部における公衆衛生教育の果たす役割に関して述べる.

参考文献

1) 石井正:石巻災害医療の全記録―「最大被災地」を医療崩壊から救った医師の7か月.p140,講談社,2012
2) 文部科学省:学校環境衛生基準の施行について. http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1266524.htm
3) 厚生労働省:水道法施行規則. http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/topics/suisitu04/1.html
, doi:10.3109/1040841X. 2012.713323
5) Cortés-Jofré M, et al. Drugs for preventing lung cancer in healthy people(Review). The Cochrane Library, Issue 10, 2012

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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