公衆衛生78巻1号

2014年01月発行

特集 公衆衛生の原点を学ぶ―イギリスの挑戦

イギリスにおけるソーシャルサービスの発展の歴史

著者： 岡田忠克¹

所属機関： ¹関西大学人間健康学部人間健康学科

ページ範囲：P.32 - P.36

はじめに

　イギリスでは，福祉サービス供給のあり方が大きな課題となっている．1980年代以降，先進国に共通する財政の危機的状況は，各国に「小さな政府」論を呼び起こした．とりわけ福祉政策分野においての政策理念の転換は，これまでの福祉国家のあり方を大きく変えるものであったといえる．世界的な潮流としての「福祉多元主義」，「福祉の混合経済」化政策が，福祉政策の根底に位置するようになった．福祉改革と呼ばれる一連の状況の中で国家の役割，公的部門を縮小しようとする政策が実施され，市場原理の導入による効率的な福祉サービスの供給が指向され，現在に至っている．

　本稿では，社会サービスの中でもコミュニティケアを中核とする対人福祉サービス(personal social services)の提供に関する政策に限定し議論している．イギリスでのソーシャルサービス(social services)の概念には保健・医療・教育・対人福祉サービスなどが含まれるとされているが，そのうち対人福祉サービスの具体的な展開であるコミュニティケア政策に焦点を当て，特にコミュニティケア改革までの流れと保健政策との関わりについて歴史的背景を考察する．

参考文献

1)炭谷茂：コミュニティ・ケア．社会政策と社会行政，法律文化社，pp245-246, 1992

2)三浦文夫：コミュニティ・ケアと社会福祉．季刊社会保障研究7(3):17, 1971

3)田中寿：コミュニティ・ケア論抄．レファレンス28(4):8, 1978

4)田中寿：コミュニティ・ケア論抄．レファレンス28(4):9, 1978

5)炭谷茂：コミュニティ・ケア．社会政策と社会行政．法律文化社，p248, 1992

6)川田誉音：イギリス―「シーボーム報告」から「バークレー報告」へ―．地域福祉講座①社会福祉の新しい道，中央法規，p74, 1986

7)岩間大和子：イギリスの高齢者医療・福祉の諸問題．レファレンス470:68-71, 1990

8)平岡公一：イギリスにおける社会福祉計画．季刊社会保障研究28(2):168, 1992

9)小田兼三訳：「コミュニティ・ケア：行動のための指針．海声社，1989

10)小田兼三訳：英国コミュニティ・ケア白書．中央法規出版，1991

11)北村彰：英国のコミュニティ・ケア改革について①～⑤，週間社会保障．8月31日～9月28日，1992

12)平岡公一：イギリスにおける高齢者福祉の改革．福地義之助，他(編)．高齢化対策の国際比較．第一法規，1993

13)岡田忠克：転換期における福祉国家．関西大学出版部，2009