icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生78巻3号

2014年03月発行

雑誌目次

特集 出生前診断

フリーアクセス

ページ範囲:P.145 - P.145

 妊婦の血液を用い胎児の染色体異常の可能性を調べる検査を受けることができるようになり,多数の妊婦が受診したことが新聞などで報道されています.この胎児の出生前診断については,羊水検査などが以前から行われていましたが,一部の妊婦を対象に限定的に行われてきており,今回の新しい母体血清マーカー検査のように広く普及する可能性のある検査ではありませんでした.今回の母体血清マーカー検査は,倫理的問題を抱えている可能性があるとともに,社会に大きな影響を与えることも予見されます.また,出生前診断の1つである着床前診断についても倫理的,社会的な影響力は大きいと思われます.

 出生前診断や着床前診断は公衆衛生とは直接関係なく,また私たちが出生前診断について住民から質問を受けることは稀だと思います.しかし社会的影響として障害者差別を引き起こす可能性が想定されることから,私たちも出生前診断や着床前診断を知り,その問題点ついて理解しておくことは重要なことと思われます.そこで今回,出生前診断・着床前診断について勉強することを目的に特集を企画しました.

出生前診断の現状―進歩と課題

著者: 澤井英明

ページ範囲:P.146 - P.152

はじめに

 出生前診断とは,妊娠中の胎児が何らかの疾患に罹患しているかどうかを検査して診断することである.その本来の目的は,あらかじめ出生前に診断をしておくことで,生まれた児の健康の向上や,適切な療育環境を提供することである1).しかし,妊娠初期~中期の母体保護法の定める人工妊娠中絶の可能な時期(現在は妊娠22週未満)に実施されて,胎児の疾患が重篤と診断された場合には,生まれてきても重度の障害が避けられないことも多く,そうした児の出生を避けるために,妊娠継続自体を断念するということがありうる.そのため医学的にも社会的および倫理的にも留意すべき多くの課題があるとされている1).そして2011年から米国で始まった母体血中胎児DNAを用いた無侵襲的出生前遺伝学的検査が,日本でも2013年から始まったことで,マスコミ報道などが過熱し,上記の倫理的な課題も改めて注目される事態となっている.

胎児心臓病の出生前診断と治療

著者: 松井彦郎

ページ範囲:P.153 - P.157

先天性心疾患の出生前診断の概要

 わが国において,長年胎児に関する診療は公的な医療として認められてこなかった.欧米では“胎児は患者”ということが一般化しているにもかかわらず,日本では法的に,人間は“出生時より”ヒトとして認められ,“出生前の胎児”はヒトとしての治療対象とはなっていないことに起因すると考えられる.一方,医療技術においては,欧米の発展に遅れることなく,先天奇形症候群や先天的機能異常の遺伝的検索や画像検索が時代とともに進歩する中で,出生前に“胎児を診断する”さまざまな方法が進歩し,その必要性が議論されることで出生前診断は社会的に普及してきた.

 先天性心疾患に関する出生前診断は,1980年代から欧米で盛んになり,その有用性が示されてきた1).これは遺伝子的な検査ではなく超音波画像による心形態および心機能診断であり,出生後早期に全身状態が悪化する可能性のある先天性心疾患や不整脈を検出し,疾病の予後を改善することが主たる目的であった.遅れることなく日本でもその重要性が認識され,全国各地で胎児心臓病に対する診断技術が磨かれてきた.

着床前診断の現状―進歩と課題

著者: 末岡浩

ページ範囲:P.158 - P.162

はじめに

 1980年代以降,体外受精とその関連技術を中心として,生殖医療の発展はめざましく,技術の普及は挙児を希望する夫婦に大きな力をもたらしている.現在,わが国の出生児の2.7%が体外受精によって誕生している.

 1990年代以降には,遺伝子解析および診断技術の開発もまた急速に発展を遂げ,疾患の原因となる遺伝子解析や遺伝子・染色体の解析法が幅広く開発された.これらの成果から体外受精による単一の胚細胞由来の遺伝子診断を行う着床前(遺伝子)診断(preimplantation genetic diagnosis;PGD)の概念が生まれ,技術が発展を遂げた1).PGDは体外受精によって得られた配偶子や初期胚の一部から遺伝子または染色体を解析することで,目的とする重篤な遺伝病の発生につながる胚を診断することが可能となる.

出生前診断と着床前診断の倫理問題

著者: 苛原稔 ,   桑原章

ページ範囲:P.163 - P.166

はじめに

 出生前に胎児の異常を診断する方法には,妊娠成立後に胎児・胎盤組織である絨毛の一部や羊水に浮遊する細胞の染色体を調べる,超音波断層法などで画像診断するなどの「出生前診断」と,生殖補助医療(assisted reproductive technology;ART)を前提として体外培養中の初期胚成分を材料に遺伝子診断する「着床前診断」がある.広義には「着床前診断」は「出生前診断」に含まれると思われるが,一般的には妊娠してから検査する「出生前診断」に対して,妊娠成立前の胚の段階で検査する「着床前診断」は区別して考えられている.

 近年の若年女性では初婚年齢の平均は30歳を超えるようになり,それにつれて妊娠・出産年齢が高齢化している.女性の年齢の上昇は,当然,卵子の老化につながるので,女性の妊娠年齢の上昇により児の染色体異常の発生頻度は増す.並行して少子化傾向は変わらないので,元気な子を産みたいと希望するカップルやその家族もまた増加傾向にある.そのため,出生前に胎児の異常の有無の検査を希望するカップルもまた増加している.

 一方,卵子の老化は妊娠率の有意な低下や流産の増加をきたすので,不妊症が増え,特に難治性不妊が増える原因になる.また,頻回に流産を起こす不育症患者も増えている.この場合,ARTを選択するカップルが増加するのみならず,遺伝子異常のチェックを経て問題のない胚を移植することで,ARTの妊娠率を向上させたり,流産を防止することが期待されるようになっている.

 医療技術の進歩で画期的な検査方法が開発される一方で,生命の誕生や人間のあり方に関連した事項を含む出生前検査については,多様な倫理的問題が指摘され,多方面から賛否両論が報告されている.そこで,現在の出生前診断や着床前診断に関する倫理的な問題点を概説する.

遺伝カウンセリング

著者: 三宅秀彦 ,   小杉眞司

ページ範囲:P.167 - P.171

出生前診断と遺伝カウンセリング

 胎児は,自らの意志で自己決定ができない存在であり,本邦での法律では人間としての立場も曖昧な存在である.このような胎児という存在を対象とした診断が,出生前診断である.一般的な診療では,診断に引き続き治療という流れになるが,出生前診断においては,治療ではなく人工妊娠中絶という選択肢も存在している.これには,いくつかの意見はあるが,基本的に女性のリプロダクディブライツと胎児の生存権の衝突をもたらす.また,胎児に対する診断においては,検査手段や診断方法の限界があるため不確定要素も多い.

 以上に挙げたような特性により,出生前診断にかかわる選択においては,両親にとって大きな葛藤が生じ,大きな精神的重圧となりうる.また,この生命の選択に対する葛藤は,両親だけでなく医療者自身にふりかかってくる問題でもある.よって,出生前診断においては,生命倫理的な配慮が必要となる.

出生前診断をどうとらえるか

著者: 玉井邦夫

ページ範囲:P.172 - P.175

はじめに

 2012年8月に突然にも感じられる形で新聞報道が行われた新型出生前診断(無侵襲的出生前遺伝学的検査non-invasive prenatal testing;NIPT)は,13,18,21トリソミーを検出対象としていたことから,筆者が代表理事を務める公益財団法人日本ダウン症協会(Japan Down Syndrome Society;JDS)は「当事者」として否応なく論議に巻き込まれることになった.出生前診断/検査が,確定診断に至るものの母体と胎児への侵襲性が高い技術から,判定が確率に留まるものの侵襲性の低いものに「進歩」していくという流れはそれまでにも一貫していた技術の変遷動向であり,NIPTもその流れに位置づけられる.

 JDSは,母体血由来で胎児の遺伝学的情報を取得する技術が登場すること自体については,報道の1年以上前から日本産科婦人科学会などの主催するシンポジウムなどでの情報から把握していたが,NIPTをめぐる議論の推移はメディアによる報道のあり方に大きく影響されることで,JDSにとっては「騒動」とでも呼ばざるを得ないような様相を呈した.

 筆者はあくまでもJDSという団体の人間であり,医療従事者でも遺伝学研究者でもない.しかしながら,30年以上にわたって臨床心理士として虐待やDV(domestic violence)といった,ある意味では人間の「生死」に及ぶ事象に取り組んできたという事情もある.本稿では,当事者団体という立場と,生業である臨床心理学という立場から,NIPTをめぐる議論について考えるところを述べさせていただくことにする.

出生前診断・着床前診断と優生学

著者: 山口裕之

ページ範囲:P.176 - P.180

出生前診断と中絶

 2013年4月から始まったいわゆる「新型出生前診断」の臨床研究に参加した妊婦約3,500人のうち,胎児の染色体異常が確定した54人中53人が中絶を選択したことが大きく報道された1).しかしこれは,はっきり言ってしまえば予想通りの結果である.新型であれ従来型であれ,出生前診断の意義について,「胎児の状態を事前に知ることで,異常のある胎児に対して出生後すみやかなケアが行える点にある」という意見もあるが,こうした診断のクライアントとなる一般の人々にとってみれば,出生前診断は「異常があった場合に中絶するため」という感覚が根強いであろう.

 ちなみに,イギリスやカリフォルニア州では出生前診断の費用は「社会的予防システム」として公費負担されている.これは,先天異常のスクリーニングのコストを負担するほうが,障害児が出生した場合のコスト負担よりもメリットがあると判断されたためだという2).そして実際,大多数の妊婦が出生前診断を受け,異常が確定した場合には多くが中絶を選択する.

出生前診断の法律問題

著者: 丸山英二

ページ範囲:P.181 - P.186

はじめに

 2012年8月末に新しい方法を用いた非侵襲的出生前検査の導入が報道された1).それ以降,出生前診断(本稿では先天異常に関するものに焦点を絞る)に対する関心が高まり,また,2013年5月には,ダウン症候群の子の両親が羊水検査の結果を誤って告げた産婦人科医院と医師を訴える訴訟が提起された2).本稿は,出生前診断およびそれに密接に関連する胎児異常を理由とする選択的中絶をめぐる法律問題を検討しようとするものである.

 なお,出生前診断は目的によって,①胎児治療を目的とするもの,②分娩方法の決定や出生後のケアの準備を目的とするもの,③妊娠の継続・中絶を決定するための情報の提供を目的とするものの3種類にわけられるといわれる3).本稿では,そのうち,③の選択的中絶を前提とするものをとりあげる.

特別寄稿

未来図を描く公衆衛生活動in陸前高田④【最終回】―公衆衛生は触媒産業

著者: 佐々木亮平 ,   岩室紳也

ページ範囲:P.188 - P.192

制度がもたらす復興の遅れ

 この原稿が出る頃には発災から3年近くが経過し,遅れているとはいえ,住宅再建,復興住宅の建設が進んでいる.現地では復興住宅はいつ完成するのか.基幹病院である岩手県立高田病院はいつ,どこにできるのか.市の保健福祉総合センターはどこにでき,どのような機能を持つのかなど,住民や関係者が注目しているさまざまな事柄がある.一方で被災地におりる予算も一見潤沢のように思われがちだが,決して現地の実情に合致したものではない.

 これからさらなる人と予算が必要となってくるが,東北の被災地ではそもそもマンパワーが不足している.そのうえ,被災地への財政的な支援は恒久的なものではないため,人を雇用するにしても非常勤,期限が限られた措置や予算となり,被災者の方々が自分自身の生活を復興させようとした時に1~数年先に雇用を切られてしまう職に就かないというのは当然の選択である.国が長期的な展望に立った予算措置ができないことが復興を遅らせていると言っても過言ではないのではないだろうか.そのような状況でも被災地では日々,できるところからさまざまな分野,角度の取り組みが展開されている.

視点

保健所の現場から―原子力発電所立地保健所からの提言

著者: 荒木均

ページ範囲:P.142 - P.143

はじめに

 保健所は,災害発生時における住民の健康管理の拠点と位置づけられていて,福島第一原子力発電所事故のような原子力災害の発生に対して,多くの関係機関と調整をはかりながら対応していかなくてはなりません.

連載 この人に聞きたい!・12【最終回】

自殺対策は今

著者: 清水康之

ページ範囲:P.193 - P.196

はじめに

 自殺対策に関する国の指針である「自殺総合対策大綱」が,2012年の夏に刷新された.副題として,「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して」という強いメッセージが新たに掲げられ,「自殺は,その多くが追い込まれた末の死」であるという基本的な考え方の下,自殺対策を「包括的な生きる支援」として関係者が連携して展開することが謳われている(図1).

 同時に,自殺対策の大きな方針転換が謳われている.全国レベルの漠然とした啓発中心の取り組みから,地域レベルの実践的な取り組みを中心としたものへと転換を図ることが,政府の方針として謳われているのである.その背景には,「地域レベルの実践的な取り組みを中心とする自殺対策」を全国的に推し進めるための条件がようやく整ってきたことがある.

講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ―新しい仕組みをつくろう・24【最終回】

日本学術会議の提言が新しい労働雇用・労働安全衛生システムへと転換するために:改革の方向性・最近2年間の動き・その論点

著者: 岸(金堂)玲子

ページ範囲:P.197 - P.203

はじめに

 わが国は労働安全衛生法のもとで40年間の優れた実践があるが,一方で「過労自殺・過労死」のような根本的な問題が解決できていない.長時間労働や女性労働者の地位が低いなど,歴史的に形成された日本に特徴的な課題も多い1).加えて最近注目を浴びた「印刷職場の胆管がん」問題に集約される化学物質管理や,中小零細企業の労働安全衛生の課題もある2)

 日本学術会議は約84万人いる日本の科学者を代表する組織であるが,そこで2011年に,日本学術会議の歴史の中で初めて,今後の労働雇用システムと労働安全衛生(Occupational Safety and Health;OSH)のための提言を出すことができた3).提言は,広く国民(特に当事者である労働者や企業経営者),厚生労働省をはじめとする行政や,政治家,労働雇用にかかわる学会・専門家などに向けて発出されたものである.

 本講座もいよいよ24回を迎え最終章になった.これまでの各章では日本学術会議提言を踏まえ各テーマごとに多様な専門家が職場環境の改善や関連の社会システム改革の方向性を示した.しかし,この間,2度の政権交代で,政治が大きくゆれ動いている.その中でどうしたらILO(国際労働機関)の“decent work for all”(換言すれば,“働く人およびその家族,皆が人間らしく健康で安全に働き,安寧に生きる社会”)に近づくことができるだろうか? 日本の明るい未来のために最終稿の本稿では,できるだけ建設的に,かつ実効性のある改革の方向性や論点を示したい.

「笑門来健」笑う門には健康来る!~笑いを生かした健康づくり・20【最終回】

笑いは増やすことができるのか?日常生活で笑いを増やす方法とは?

著者: 大平哲也

ページ範囲:P.204 - P.207

 笑うことが健康によいということは,誰でも経験的には感じていることですし,本連載においても笑いと健康との関連について多くの研究を紹介してきました.一方,笑いは健康に良いことは理解していても,実際に笑いを増やすためにはどうしたらよいのかということが問題となります.では,日常生活において笑いを増やすためには具体的にどうしたらよいのでしょうか?

公衆衛生Up-To-Date・14

食品に含まれる放射性物質の調査

著者: 堤智昭

ページ範囲:P.208 - P.212

はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災により発生した東京電力福島第一原子力発電所(以下,福島原発)の事故により,大量の放射性物質が周辺の環境に放出された.その結果,食品の放射性物質による汚染が危惧されたため,原子力安全委員会により示された「飲食物摂取制限に関する指標」1)を緊急的な措置として食品衛生法上の暫定規制値とした.しかし,暫定規制値はあくまで事故後の緊急的な措置として定められたものであったため,食品安全委員会によって行われた放射性物質の食品健康影響評価を踏まえて,2012年4月より現行の基準値が施行された(図1).暫定規制値では,食品からうける放射性物質の年間の預託実効線量が5mSvを超えないように食品中の規制値を設定していた.一方,現行の基準値ではより一層の安全と安心を確保する観点から,規制対象となるすべての核種から受ける年間の預託実効線量が1mSvを超えないように食品中の基準値が設定された.現行の基準値では福島原発事故の状況を踏まえて,放射性セシウムの他,放射性ストロンチウム,プルトニウムなどを規制対象核種とし,これらすべての核種からの年間の預託実効線量を合計して1mSvを超えないように,食品中の放射性セシウム(Cs134と137の合計)の基準値が設定された.このような状況の中,筆者らは,新たな基準値に対応した放射性物質の試験法を整備し2,3),さらに食品中の放射性物質の規制の効果や妥当性の検証を目的に,流通食品中の放射性セシウムの検査,並びに食事試料からの放射性セシウムの預託実効線量の推定を実施してきた.本稿ではこれらの調査結果について紹介する.

リレー連載・列島ランナー・60

被災地における保健師活動について―管内市町の伴走者として

著者: 花崎洋子

ページ範囲:P.213 - P.216

はじめに

 東日本大震災からまもなく3年.いまだに言葉に尽くせない思いが錯綜する.自身をはじめ被災した住民にはいまだ仮設住まいから踏み出せていない人も数多い.何処に向かって行こうとしているのだろうか….気持ちも生活も投げやりになってしまっている.幸福感には程遠い.喪失感もぬぐいきれない.あの地に30年と築いてきた生活そのものが,一瞬にしてすべてなくなるなんて….あの時からどのようにして今に至ったのかも思い出したくない.

 しかし,私には保健師という仕事があった.多くの人と出会い,多くの人と語り合い,多くの人に支えられて,今もなんとか仕事を続けている.

 現在,大船渡保健所管内の市町を含め,保健師は世代の交代を迎え,若い人材が投入されている.地域を知り,地域の住民とともに健康課題に取り組む,保健師魂ともいうべき熱き思いを若い世代に伝えていかなければ,との思いが強くなっている.

 大船渡保健所(以下,保健所)では,大船渡市,陸前高田市,住田町を管轄し,その2市が東日本大震災・津波の直接的被害を受けた.発災直後から現在に至るまで,保健所保健師がそれぞれの市町に継続してかかわり続けている.

 保健所保健師として精神保健福祉に取り組み,被災地における保健師活動に携わっている状況についてお伝えしたい.

映画の時間

―人は斬れども猫は斬れず―猫侍

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.219 - P.219

 猫が主役,あるいは準主役を演ずる映画はそう多くはありません.猫に演技を求めるのが犬に比べて難しいからとも言われます.それでもアメリカ映画では『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンと共演?したキャット,『ハリーとトント』のトントなど印象に残る猫たちもいます.特にディズニー映画では『トマシーナの三つの生命』や『三匹荒野を行く』など猫そのものが主人公であるすばらしい映画がありました.わが国では市川崑監督の『吾輩は猫である』や,犬童一心監督の『グーグーだって猫である』も印象に残ります.今月ご紹介する『猫侍』でも玉之丞という猫が名演を見せます.

 時代は幕末の江戸,主人公の斑目久太郎(北村一輝)は剣の達人でありながら,事情があって藩を離れ,現在は妻子を故郷に残したまま長屋での浪人暮らし.仕官もままならず,経済的にも苦しい久太郎のところに,剣の腕を見込まれて暗殺の依頼が持ち込まれます.賭場での八百長騒ぎで,米沢一家の若頭から,対立する相川一家の親分,ではなく親分の可愛がっている猫の玉の丞を斬ってくれとの話です.武士のプライドを傷つけられながらも,報酬に眼がくらんで久太郎は依頼を引き受けますが….

予防と臨床のはざまで

流行り目に罹患

著者: 福田洋

ページ範囲:P.221 - P.221

 本コラムは,連載開始以来約10年間,忙しい時も,国外出張中も,ネタ切れに苦しんでも,ずっと毎月書き続けてきました.しかしこのたび2か月間,休載を余儀なくされました.11月下旬のある日,流行り目(いわゆる流行性角結膜炎)に罹患しました.感染経路は不明ですが,感染症情報センターのサイトによると,流行性角結膜炎は「小児に多いものの成人にも見られ,職場,病院,家庭内などの人が濃密に接触する場所などでの流行的発生もみられる」と記載されています(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_29/k02_29.html).

 当初は片眼のみの充血でしたが,その後数日で両眼ともに充血著明となり,人前に出るのも気を遣う状況となりました.眼科からは2週間要休務の診断書をいただき,診療業務が停止になりました.生まれて初めて診断書で休む経験となり「診断書を握りしめて,復職可を懇願する社員」の気持ちが少しだけわかりました.

「公衆衛生」書評

―濱田 篤郎 編―渡航者医療を簡潔に網羅したバイブル的書物.ぜひ手元に置いて診療を―『トラベルクリニック海外渡航者の診療指針』 フリーアクセス

著者: 尾内一信

ページ範囲:P.187 - P.187

 本書を手に取ってまず感じたことは,「日本で長く要望されていた渡航者医療を簡潔に網羅したバイブル的書物がやっと世に出た」ということである.本書は,実に素晴らしい出来栄えであるが,編集されたのが濱田篤郎博士なので納得できた.濱田篤郎博士は,現在日本渡航医学会の理事長として日本の渡航医学会でリーダシップを発揮されている.また,労働者健康福祉機構海外勤務健康管理センター(JOHAC)で長く渡航者健康管理に精通され,現在は東医大病院渡航者医療センター教授として教育者としても活躍されている.また,特筆すべきは,渡航医学の専門家でありながら著名な作家であるということである.

 主な著作には,『旅と病の三千年史』(文藝春秋),『伝説の海外旅行―「旅の診断書」が語る病の真相』(田畑書店),『歴史を変えた「旅」と「病」―20世紀を動かした偉人たちの意外な真実』『世界一「病気に狙われている日本人」―感染大国日本へのカウントダウン』(以上,講談社),『新疫病流行記-パンデミック時代の本質』(バジリコ)などがあり,いずれも思わず濱田ワールドに引き込まれる良書である.知らないうちに渡航医学の面白さが身近なものとなるので,これらの本もぜひお薦めしたい.

―NPO法人 日本医療ソーシャルワーク研究会 編 村上須賀子,佐々木哲二郎,奥村晴彦 編集代表―さまざまな患者・家族のケースマネジメントへの実践書―『医療福祉総合ガイドブック 2013年度版』 フリーアクセス

著者: 宇都宮宏子

ページ範囲:P.217 - P.217

 私は,病院から生活の場へ患者さんを帰したいと考え,訪問看護の現場から大学病院に移り,「退院調整看護師」として,退院支援・退院調整に取り組んだ.私が訪問看護をしていた時代は介護保険制度が施行される前で,行政の高齢福祉課のケースワーカーや,ヘルパー事業所,特別養護老人ホームのデイサービスや短期入所担当の相談員たち,多くの社会福祉士の仲間に支えられ,対象者や,家族の抱える暮らし,経済問題,虐待の問題等に一緒にかかわってきた.

 1992年から,私が訪問看護を実践していた京都の行政区では,特に「福祉・医療・保健の実務者会議」を当初から開催し,困難事例のケース検討も行ってきた.そこで中心になって会を牽引していたのが行政の社会福祉士だった.その経験から,退院調整部門では医療ソーシャルワーカー(MSW)と退院調整看護師が協働して取り組むことが効果的であると考え,病院に戻ってからも退院調整部門の仕組みを作ってきた.

--------------------

投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.222 - P.222

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.223 - P.223

あとがき フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.224 - P.224

 今回の特集は,妊婦の血液を用い胎児の染色体異常を調べるスクリーニング検査を受けることができるようになり,多数の妊婦が受診したことがマスコミで大きく報道されたことを受けて企画しました.

 この母体血清マーカー検査の出現は,社会に大きな影響を与えると判断され,われわれ公衆衛生従事者も,この検査について正確な知識を持っている必要があると考えられます.出生前診断については,母体血清マーカー検査のみならず,着床前診断や胎児心臓病の診断などの分野でも急速に進歩しており,これらの内容についても知っている必要があると思われます.さらに,出生前診断や着床前診断は,倫理的な問題,優生思想との関係,法律問題など,さまざまな分野の問題も抱えている可能性があり,これらについても理解している必要があると思われます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら