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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生78巻3号

2014年03月発行

文献概要

連載 講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ―新しい仕組みをつくろう・24【最終回】

日本学術会議の提言が新しい労働雇用・労働安全衛生システムへと転換するために:改革の方向性・最近2年間の動き・その論点

著者: 岸(金堂)玲子1

所属機関: 1北海道大学環境健康科学研究教育センター

ページ範囲:P.197 - P.203

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はじめに

 わが国は労働安全衛生法のもとで40年間の優れた実践があるが,一方で「過労自殺・過労死」のような根本的な問題が解決できていない.長時間労働や女性労働者の地位が低いなど,歴史的に形成された日本に特徴的な課題も多い1).加えて最近注目を浴びた「印刷職場の胆管がん」問題に集約される化学物質管理や,中小零細企業の労働安全衛生の課題もある2)

 日本学術会議は約84万人いる日本の科学者を代表する組織であるが,そこで2011年に,日本学術会議の歴史の中で初めて,今後の労働雇用システムと労働安全衛生(Occupational Safety and Health;OSH)のための提言を出すことができた3).提言は,広く国民(特に当事者である労働者や企業経営者),厚生労働省をはじめとする行政や,政治家,労働雇用にかかわる学会・専門家などに向けて発出されたものである.

 本講座もいよいよ24回を迎え最終章になった.これまでの各章では日本学術会議提言を踏まえ各テーマごとに多様な専門家が職場環境の改善や関連の社会システム改革の方向性を示した.しかし,この間,2度の政権交代で,政治が大きくゆれ動いている.その中でどうしたらILO(国際労働機関)の“decent work for all”(換言すれば,“働く人およびその家族,皆が人間らしく健康で安全に働き,安寧に生きる社会”)に近づくことができるだろうか? 日本の明るい未来のために最終稿の本稿では,できるだけ建設的に,かつ実効性のある改革の方向性や論点を示したい.

参考文献

1) 岸玲子,他:雇用労働環境と働く人の健康・生活・安全 まとめ:人間らしい労働と健康で安寧な生活を確保するためのシステム構築.学術の動向15(10):59-64, 2010
2) 岸玲子:労働安全衛生法40年 役割と課題 人間らしい労働と今後の労働法制度のありかた.労働の科学67(11):644-648, 2012
3) 日本学術会議 労働雇用環境と働く人の生活・健康・安全委員会:提言 労働・雇用と安全衛生に関わるシステムの再構築を―働く人の健康で安寧な生活を確保するために.2011 http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t119-2.pdf
4) 今野晴貴:日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?.星海社新書,2013
5) 森岡孝二:過労死は何を告発しているか―現代日本の企業と労働.岩波現代文庫,2013
6) 石水喜夫:日本型雇用の真実.ちくま新書,2013
7) 濱口桂一郎:若者と労働―「入社」の仕組みから解きほぐす.中公新書ラクレ,2013
8) 本田由紀:教育と仕事の関係の再編成に向けて―現状の課題・変革の進展・残された課題.宮本太郎編:生活保障の戦略―教育・雇用・社会保障をつなぐ.岩波書店,2013
9) 岸-金堂玲子:パブリックヘルス(公衆衛生)の視点からみた社会システム改革―労働雇用システムの抜本改革が喫緊の課題.学術の動向17(4):70-75, 2012
10) 宮本太郎:生活保障―排除しない社会へ.岩波新書,2009
11) 宮本太郎編:生活保障の戦略―教育・雇用・社会保障をつなぐ.岩波書店,2013
12) 埋橋孝文:日本の生活保護・低所得者支援制度―ワーキングプア層への目配り.宮本太郎編:生活保障の戦略―教育・雇用・社会保障をつなぐ.岩波書店,2013
13) 吉岡英治,他:労働関連疾患としての循環器疾患,糖尿病,不眠症などの実態,予防対策―働く人の疾病予防と健康づくりのために.公衆衛生77(4):322-326, 2013
14) 日本産業衛生学会労働衛生関連政策法制度検討委員会:「労働衛生法令の課題と将来のあり方に関する提言」 2013年4月 https://www.sanei.or.jp/images/contents/253/Proposal_Occupational_Health_Policies_and_Regulations_Comittee.pdf

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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