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特集 公害・環境問題の変貌と新展開
日本の公害対策と環境政策―その歴史的教訓を将来のために
著者: 宮本憲一1
所属機関: 1元滋賀大学
ページ範囲:P.518 - P.521
文献購入ページに移動戦争は最大の環境破壊である.第二次世界大戦で日本は約300万人の死者を出し,生産力の半分を失い,自然・文化財などの貴重な環境を失った.戦後経済は飢餓状態になったが,1950年の朝鮮戦争と1952年の対日講和条約を経て経済が復興したが,安全を無視した無理な成長をした.この時期に水俣病(1956年5月公式発見)やイタイイタイ病(戦争直後発見)が発生した.
1954年から1960年の所得倍増計画を経て約20年にわたる高度成長が始まり,1970年代には米国に次ぐ世界第2位の経済力を達成した.それは重化学工業化と都市化を急激に進め,現在の大量生産・流通・消費の経済システムをつくった.奇跡の経済成長といわれたが,同時に都市を中心に国土全体を公害のるつぼと化してしまった.欧米の研究者は,この時期の日本は近代化に伴うあらゆる公害が噴出しているとして,「公害先進国」と呼んだ.大阪市では1960年スモッグが165日に達した.冬場は昼間から煤煙のために暗くなり,自動車のヘッドライトをつけなければ交通ができない状況であった.かつては白魚のとれた隅田川はBOD(biochemical oxygen demand)が50ppmを超え,悪臭ふんぷんのどぶ川となった.騒音や地盤沈下などの公害の訴えが保健所に殺到していた.最近の中国の公害よりも深刻な環境破壊が繰り広げられていた.
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