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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生78巻9号

2014年09月発行

雑誌目次

特集 超高齢社会―大都市の高齢者支援の課題

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ページ範囲:P.589 - P.589

 1次ベビーブームのいわゆる団塊の世代が65歳以上の年齢となり,総務省が発表した2013年9月15日時点の推計人口によると65歳以上の人口は3186万人,総人口に占める割合は25.0%となっています.高齢者の割合が21%を超えると国際的に超高齢社会とされますから,わが国は超高齢社会に突入しています.団塊世代のジュニアが高齢者となる2035年には33.4%に達すると推測されています.

 現在の超高齢社会の特徴は,大都市において急速に高齢者人口が増えていくこと,高齢者の間の経済面,健康面の格差が大きく,一様な高齢者対策では対応できなくなっていること,高齢者単独世帯の割合が高くなっていくこと,介護,医療ニーズの複合的ニーズを有する者が多くなることです.大都市ではすでに孤立死,生活破綻する高齢者が増加し,生活保護者に占める高齢者の割合や高齢者の生活保護率も増加傾向にあります.また高齢者の社会的孤立の問題も深刻になってきています.健康日本21(第2次)においてソーシャルキャピタル,健康格差という言葉が強調されていることにも超高齢社会の到来が影響していると思われます.

首都圏における高齢者人口と世帯数の将来推計

著者: 鈴木透

ページ範囲:P.590 - P.594

国立社会保障・人口問題研究所の将来人口・世帯推計

 国立社会保障・人口問題研究所は,国勢調査が行われるたびに将来人口・世帯推計を更新している.2010年国勢調査結果に基づく将来人口・世帯推計として,まず全国の将来人口推計(2012年1月推計)を公表し,翌年全国の世帯数の将来推計(2013年1月推計)と地域別の将来人口推計(2013年3月推計)を公表した.さらに今年に入って都道府県別の世帯数の将来推計(2014年4月推計)を公表し,2010年を出発点とする将来人口・世帯推計の公表を終えた.地域別人口推計には都道府県別推計に加え市区町村別推計が含まれるが,世帯数の将来推計は従来から都道府県別推計のみである.

 ここでは主に2013年3月の地域別将来人口推計と,2014年4月の都道府県別世帯数将来推計に依拠し,首都圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)の高齢人口と高齢世帯の動向を概観する.なお,将来推計の結果はすべて国立社会保障・人口問題研究所のホームページ(www.ipss.go.jp)で提供している.

大都市における高齢者異状死の実態と課題

著者: 福永龍繁

ページ範囲:P.596 - P.600

はじめに

 東京都23区には死体解剖保存法第8条に基づき監察医制度が施行されている.医師法第21条に基づいて異状死として警察署に届け出られた死体は,すべて監察医が検案を行い,死因の不明な場合には解剖によって死因を究明している.例年の死因調査結果については,事業概要1)として発行し一般に公開しているが,本稿では特に高齢者の異状死について詳解する.

大都市における高齢者の生活破綻の現状と課題

著者: 西垣千春

ページ範囲:P.601 - P.605

高齢期における生活不安

 「高齢者」であると意識する時期やきっかけはさまざまであるが,高齢期の生活の幸福度を判断する際には,「家計の状況」「健康状況」「家族関係」が大きく影響を及ぼしている(内閣府「平成23年度国民生活選好度調査」).

 はじめに,家計の状況についてみると,公的年金・恩給を受給しているもののうち,その収入が世帯収入の全て(100%)である高齢者が6割近くにのぼり,生活を支えていることがわかる.暮らし向きでは,「心配ない」ものが約7割である一方で,「心配」があるものが約3割存在している.貯蓄の目的では3分の2が「病気・介護への備え」,2割が「生活維持」であることから,年金収入が少ないものや現在の家計状況では病気・介護などへの対応ができないものも相当数存在していることがわかる.

超高齢社会における高齢者の医療・介護体制の現状と将来ビジョン

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.606 - P.611

はじめに

 今後のわが国における高齢者問題としては,都市における高齢者数の増加が大きな課題となる.図1と図2は名古屋医療圏について国立社会保障・人口問題研究所の推計人口をグラフ化したものである.図2の人口ピラミッドからも明らかなように,名古屋医療圏では今後急速に高齢化と少子化が進んでいく.ここで注目される点は図1から明らかなように,団塊の世代が後期高齢者に達する2025年以降は急速に人口が減少していくことである.しかも,名古屋医療圏では10代から20代前半の人口流入は2020年以降も続くが,75歳以上の死亡数が大幅に増えることで人口が大きく減少する多死社会になるのである.

 フランスや北欧諸国が1990年代から積極的に団塊ジュニアにおける合計特殊出生率向上を念頭に少子化対策を積極的に行ったのに対し,わが国はバブル崩壊後の経済不況もあり,この年代を対象とした有効な少子化対策を行うことができなかった.そのために,今後多少なりとも有効な少子化対策を行ったとしても,増加する高齢世代を支えるだけの若年人口の確保を行うことは難しい.

 少子化の進展は医療介護の担い手となる労働者の確保を困難にする.特に居住コストの高い都市部において,他職種と比較して賃金で恵まれていない介護職を十分量確保することは難しいだろう.人的資源に限界があるのであれば,限られた人材で効率的にサービスが提供できるようなシステムづくりを行う必要がある.地方に比較してインフォーマル部門の弱い大都市においてはフォーマル部門の効率性を大幅に高めることが必要となる.

 本稿では上記のような問題意識から超高齢社会において,大都市ではどのような医療・介護体制が必要なのかについて私論を述べてみたい.

大都市における高齢者の在宅ケア―現状と課題

著者: 黒田研二

ページ範囲:P.612 - P.616

はじめに

 2010年から2040年まで30年間の65歳以上人口の増加率の推計によると,首都圏など大都市部でその増加率は高い(国立社会保障・人口問題研究所).大都市は単身世帯が多いことも特徴である.大阪市では65歳以上の人のいる世帯のうち単身世帯は全国21.8%に比し41.1%をも占めている〔平成22(2010)年国勢調査〕.医療政策上,病院病床数を増加させていくことは選択肢に上がっていない.むしろ療養病床数を削減していくことが目指されている.こうした状況の下で,大都市の高齢者の医療と介護をいかに確保していくかが課題となっている.

 2025年以降,65歳以上人口の中でも後期高齢者の割合が半数以上を占めるようになり,高齢者の大量死時代が到来する.2011年,年間の死亡者は125万人であったが,2030年には年間161万人の死亡が推計されており,病床数が抑制されていく中で,高齢者の看取りをどこで行うかということも課題となってくる.大都市では地域における互助の力も衰退傾向にある.在宅療養支援診療所・病院等を,診療科目の専門分化,職住分離が進む中,今後どこまで増加させていくことができるかも課題である.

 こうした現状を踏まえて,本稿では,大都市での在宅ケアについて筆者の大阪での経験も交えて総論的に述べていきたい.

高齢社会の都市住宅政策

著者: 平山洋介

ページ範囲:P.617 - P.621

 高齢化する都市のために,住宅政策をどのように構築すればよいのか.住まいに関する高齢層の最大の特徴は,持ち家率が高い点である1).この持ち家は,住む場所を物的に安定させ,さらに経済安定をもたらすと考えられている.高齢者の住まいと経済が安定してはじめて,保健・医療・社会保障などが有効に機能し,社会の落ち着きが得られる.戦後,日本の政府は,住宅所有の普及をめざし,持ち家促進の住宅政策を展開した.この枠組みのもとで,多数の一戸建て住宅が郊外に建ち並び,市街地には分譲集合住宅が増大した.高齢化の段階に入った都市は,持ち家の大量のストックを有し,“不動産都市”としての側面をもつ.しかし,住宅所有に根ざす社会安定が続くとは限らない.以下では,持ち家中心社会の実態を検討し,高齢化都市における住宅政策の課題を考える.

大都市における生活困窮者の在宅ケア

著者: 山下眞実子

ページ範囲:P.623 - P.626

はじめに

 近年,生活困窮者の問題について新聞やテレビなどで話題になることが多い.「生活困窮者自立支援法」が2013年12月に成立し,生活困窮者の支援が早急な課題となっている.高齢者を中心に大都市の生活困窮者が集まる山谷地域で,訪問看護ステーションコスモス(以下,コスモス)はさまざまな取り組みを行っている.その一端を紹介したい.

大都市における在宅医療者に対する地域医師会の役割と実践

著者: 中村正廣

ページ範囲:P.627 - P.632

はじめに

 高齢化率が大阪市内第13位の24.7%と,東成区は,老朽化した密集木造住宅,長屋を住まいしている老老世帯,単身高齢者が多いところである.当区医師会員の平均年齢も府下で上位の62歳と高齢化している.105か所の診療所開業医の中で「在宅医療」をされている開業医は4割を超えているが,後送病院との連携を保ち24時間体制の「機能強化型在宅療養支援診療所」を算定している診療所は15か所で,要件を満たせないとして撤退する診療所も出てきている.

 その中で,患者・医師との信頼関係を持つ「かかりつけ医」による在宅医療が,地域居住の成否に関与すると考える.在宅死が2割に満たない現状から,「かかりつけ医」を選ぶときに,将来の在宅機能を考慮しない高齢府民が増える中で,地域医師会は「地域医療連携室」を設置し,地域居住を可能とする在宅「かかりつけ医」の紹介を推進している.

高齢社会における災害対策の課題

著者: 室崎益輝

ページ範囲:P.633 - P.637

はじめに

 非常災害においても日常災害においても,社会の高齢化が暗い影を落としている.高齢社会ゆえの脆弱性が,さまざまな災害のリスクを増大させ,高齢者の犠牲を増幅させているからである.そこで本稿では,高齢社会と災害リスクとの関わりを考察し,高齢者の犠牲をいかに軽減するかを,考えてみることにしたい.

視点

保健所の現場から―先生と駐在保健婦さん

著者: 豊田誠

ページ範囲:P.586 - P.587

先生

 保健所に勤務していて,冷や汗が流れたことが何度かある.

 とりわけ印象深いのは,1999年の夏,結核研究所名誉所長の青木正和先生を高知空港へお迎えにいった時のことである.当時,厚生省から「結核緊急事態宣言」が出され,高知市では中学校で大きな結核集団感染事件が起こっていた.そのため,「結核の集団感染」をテーマにセミナーを開催し,その講師として青木先生をお招きした.

連載 いま,世界では!? 公衆衛生の新しい流れ

都市部の高齢化に伴う課題と可能性

著者: アレックス・ロス

ページ範囲:P.638 - P.643

 今,かつてない高齢化と無計画で急速な都市化という2つの世界的潮流が起きています.それによって,高齢者の生活の質,健康,尊厳を向上させるサービスを計画,実施,監視する公衆衛生システムや社会制度が形成,変化しています.人口および疫学的な推移,疾病負荷の変化,社会経済的発展と後退など,そのすべてが保健,医療,社会福祉サービスの計画と実施に大きな影響を与えます.

 世界保健機関(WHO)は,高齢者ができる限り長く,健康で,独立して,生産的な生活を送る支援をすること,高齢者の社会参加と包摂を促進すること,孤独感を緩和すること,疾病,障害,認知症などの有病期間を短縮すること,入院や施設収容よりも自宅や地域で生活できることを促すような公衆衛生および社会福祉サービスの提供を提唱しています.

リレー連載・列島ランナー・66

市町村に作業療法士が勤務していることを知っていますか

著者: 安本勝博

ページ範囲:P.644 - P.647

はじめに

 皆さんは市町村行政職員として,作業療法士(occupational therapist,以下,OT)が勤務していることをご存じでしょうか.

 私も研究員として参加している,平成20(2008)年度地域保健総合推進事業「行政の理学療法士,作業療法士が関与する効果的な事業展開に関する研究」の雇用実態調査では,全国の市町村に常勤で雇用されている(医療機関を除く)OTは285人でした.

 雇用されているOTが少ない一番の要因として,市町村行政にはOTを含むリハビリテーション専門職(以下,リハ専門職)の必置義務がなく,行政が行う各事業や施策の中でリハ専門職の有用性を理解している市町村が,独自に採用してきたという経緯があります.

映画の時間

―答えはひとつじゃない.人生は色とりどり.それぞれ好きな色があっていい.―ローマの教室で~我らの佳き日々~

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.649 - P.649

 ローマにある高校の始業の風景,若い教師が補助教員として赴任するところから映画は始まります.ナレーションのようにかぶるセリフは,その高校に長く勤務する老教諭フィオリートの独白です.イタリアの教員に定年制度があるのかどうかわかりませんが,日本で言えば定年間近,あるいは既に定年を過ぎた年齢の,この老教諭は既に教育への情熱を失っているかに見えます.教育だけではなく,人生への情熱も失いかけているのでしょう.半ば発作的にアパートの窓から飛び降りようと窓枠に立ちますが,偶然にアパートに面した道路で工事が始まり,自殺への情熱も失せてしまいます.

 若い新任の補助教師プレツィオーゾはやる気満々の熱血教師ですが,どことなく頼りない感じもします.そんなプレツィオーゾを迎える女性の校長フェラーリオは,教師は学内の問題に対応すべき,という方針です.

予防と臨床のはざまで

さんぽ会月例会~メタボ・生活習慣病対策2014

著者: 福田洋

ページ範囲:P.651 - P.651

 さんぽ会(多職種産業保健スタッフの研究会,http://sanpokai.umin.jp/)では,毎年定点観測的に生活習慣病対策について取り上げています.昨年は,特定健診・特定保健指導第一期の振り返りから第二期で行うべきことの議論が交わされました.今年は「メタボ・生活習慣病対策2014~未受診と医療費:データヘルス・コラボヘルスを睨んで」と題して,国のデータヘルス推進の動きを捉えつつ,蓄積された第一期のデータを活用し,特に3大生活習慣病の未受診・未治療対策についての議論を交わしました.

 最初に私から「メタボ・生活習慣病を取り巻く状況と本日の論点」と題して,20分間の話題提供を行い,その後残りの100分間をすべてディスカッションに充てる…という思い切ったプログラムにしました.

「公衆衛生」書評

―本田 美和子,イヴ・ジネスト,ロゼット・マレスコッティ 著―誰でも学べる高齢者ケアの本質『ユマニチュード入門』 フリーアクセス

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.653 - P.653

 フランス発の認知症高齢者ケアメソッド「ユマニチュード」の待望の解説書が登場した.

 日本が人類史上経験し得なかった高齢社会を迎えるに当たって認知能などの機能低下のある高齢者の増加に医療・介護・福祉がどのような姿勢をもって臨むのかということに関しては,主としてヒューマンリソース等のシステムに関する議論が,現時点では多いように思う.そして,ユマニチュードのようなケアメソッドが,今あらためて注目されているのは,医療や看護の領域から具体的なケア現場への発信が,必ずしも十分ではなかったことが背景にあるかもしれない.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.654 - P.654

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.655 - P.655

あとがき フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.656 - P.656

 ある市の健康づくりの審議会で,市民に主体的な健康づくりをどうしたら実践してもらえるのかと議論をしていたところ,現場で診療している医師から最近高齢者から「先生は健康が大事と言ってくれますが,生きがいがないし,何で長生きしたのかなあと思っている」と言葉を返されることが多くなり困っているのだとの発言が出されました.超高齢社会の厳しい現実です.長生きしていることを喜んでもらえない高齢者が多くなっているようです.

 本特集の玉稿を拝読して印象的だったことは,高齢者の経済格差や住宅問題でした.平山洋介氏から,わが国の都市は不動産都市としての側面が強く,住宅の階層差が若年・壮年期から拡大し,高齢期に最大化していること,持ち家を前提とした高齢者政策では低所得の高齢者には対応できない困った状況にあるとのご指摘をいただきました.室崎益輝氏から,災害対策の課題として高齢者の「社会孤立」と「危険環境」の2つの点をご指摘いただきました.高齢者が社会(世代)的に分離されていることが高齢者に災害の被害が集中していることにつながっていること,高齢者ほど老朽化住宅に住んでいるために災害時の高齢者の犠牲者数が多くなっていること,また零細な高齢者福祉施設は「社会孤立」「危険環境」の2つの問題を凝集して抱えている災害弱者であることをご指摘いただきました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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