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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生79巻10号

2015年10月発行

雑誌目次

特集 たばこ対策

フリーアクセス

ページ範囲:P.653 - P.653

 2005(平成17)年2月にWHOによる「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(WHO Framework Convention on Tobacco Control)が発効されて以降,10年が経過しました.この間,条約の締結国として,わが国では受動喫煙防止対策や禁煙支援,たばこ増税による価格の値上げ,健康被害に関する警告表示の強化,広告規制などの対策が進められ,近年,喫煙率にも低下傾向が見られています.
 また,かつて「健康日本21」を策定する際,喫煙率半減という目標設定が提案され,最終的には実現に至らなかったという経緯がありましたが,2012(平成24)年に策定された「健康日本21(第二次)」「がん対策推進基本計画」において,2022(平成34)年度までに喫煙率を12%にするという具体的な数値目標がはじめて掲げられました.保健所など地域の保健衛生部門では,目標達成に向け,受動喫煙防止,禁煙支援を主軸とする積極的な取り組みが展開されていることと思います.

タバコ対策の歴史と最近の動向

著者: 矢野栄二

ページ範囲:P.654 - P.658

 昨年2014年は米国公衆衛生総監(Surgeon General)が喫煙と健康に関する報告書1)を1964年に発表してから50周年にあたる.この報告は喫煙の健康影響について体系的包括的にまとめた初めての報告である.この報告で喫煙は肺がんと喉頭がんそして気管支炎の原因であることが指摘されたことを受けて,翌1965年タバコの箱の警告文書の印刷,放送メディアでのタバコ広告の禁止等を定めた法律ができるなど本格的なタバコ対策が始まった.この報告は関係する7千余の論文を検討しているが,そのなかでも英国のDollらの貢献は大きい.はじめDollとHill2)はロンドンの20の病院の協力を得て,肺がん患者,胃がんと大腸がんの患者および肺がん患者と性・年齢が同じがん以外の患者を登録しその喫煙状況を調べるという,今でいう症例対象研究を行った.その結果,肺がん患者中の非喫煙者は男性はわずか0.3%,女性は31.7%に過ぎなかったのに対し,対照群では男性4.2%,女性53.3%であった.喫煙者については,肺がん患者は高度喫煙者が多く,男性患者の26.0%,女性患者の14.6%は1日25本以上喫煙するのに対して,対照群では男性の13.5%,女性の0%が高度喫煙者であった2)
 この結果を受けて,1951年英国医師会員4万人に対して喫煙状況などの調査が行われ34,440人が回答した.その後の継続した観察で調査対象者中の死亡状況が順次公表されているが,例えば20年後の状況について報告した1976年のDollとPetoの論文3)では,生涯非喫煙の男性に比べ喫煙男性は70歳未満では死亡率が2倍と報告されている.原因別で見ると,心疾患,肺がん,COPD(慢性閉塞性肺疾患),その他の血管疾患が多かった.また途中で禁煙することにより,肺がんのリスクは減っており,喫煙と肺がんの因果関係を確証する結果が得られている.

成人喫煙率12%達成に向けて

著者: 中村正和

ページ範囲:P.659 - P.663

成人喫煙率減少目標のねらい
 第一次の健康日本21計画やがん対策推進基本計画では,「未成年者の喫煙をなくす」という目標の設定にとどまっていたが,これらの次期計画においては,未成年者の喫煙防止の目標に加え,「成人喫煙率の減少」と「受動喫煙防止」の数値目標,「妊娠中の喫煙をなくす」(妊婦の喫煙率をゼロにする)という目標が新たに盛り込まれることになった1)
 成人喫煙率の減少の数値目標については,男女計の喫煙率19.5%(2010年の国民健康・栄養調査結果をベースライン値として設定)を2022年度までに12%とすることが提案されている.この目標設定の根拠は,たばこをやめたいと考えている37.6%の喫煙者全員がたばこをやめることを想定して設定された.その背景として,2007年に策定された「がん対策推進基本計画」において喫煙率の半減目標は実現しなかったが,個別目標として「喫煙をやめたい人に対する禁煙支援を行っていくことを目標とする」ことが閣議決定されていた.このことが今回の数値目標の設定に大いに役立った.

たばこ増税と期待される効果

著者: 望月友美子

ページ範囲:P.665 - P.669

 今年,2015年は,世界保健機関(WHO)たばこ規制枠組条約(FCTC)が2005年に発効して,ちょうど10年目である.20世紀半ばにたばこによる健康被害が証明されてから半世紀後に,地球規模で拡大するたばこの流行とその健康被害を鑑み,世界保健機関憲章第19条で定められた権限をWHOが初めて行使して,地球規模での解決策を講じるために国際的な枠組として制定した条約である.
 年間600万人の死亡をもたらすたばこほどの依存性と有害性,致死性を有する製品であれば,本来,合法的な流通はありえないが,たばこ生産に経済的に依存している国もあり,さらに多くの国々で,財政物資として社会経済政治制度に組み入れられてしまっている.そこで,即座に禁止措置の対象とする代替策として,需要と供給の両面から規制をかけることで,現世代および特に次世代をたばこの害から守ろうという国際合意がFCTCである.現在,世界人口の89%をカバーする180の国と地域が条約を締結しており,たばこ生産国であるジンバブエまで参加した.

タバコ規制と法制度

著者: 田中謙

ページ範囲:P.670 - P.674

タバコ規制の法制度と本稿の射程
 日本において,現在,タバコに対して何らかの規制をしている法律としては,「未成年者喫煙禁止法」(1900年策定),「たばこ事業法」(1984年)(もっとも,同法は,規制というよりはタバコを推進している面が強い悪の元凶である),「たばこ税法」(1984年),「労働安全衛生法」(1972年制定,1992年,2014年改正)などがあげられ,最近では,「健康増進法」(2002年)も策定されたほか,世界レベルの「たばこ規制枠組条約(以下,FCTC)」(2003年採択,2005年効力発生)も採択された.また,現在,多くの自治体で,いわゆる「路上喫煙禁止条例」(2002年以降,各地で策定)が策定されるようになったほか,神奈川県や兵庫県では,「受動喫煙防止条例」(2009年,2012年)が策定されている.このように見てみると,日本も一昔前と比べると状況はかなり変化したが,FCTCの趣旨を踏まえれば,日本においては,タバコに対する「行政的規制」のさらなる強化は必要不可欠である.
 本稿では,「喫煙の自由」と「非喫煙者の権利」の内容を踏まえたうえで,「日本において,どのような行政的規制をすべきか」という視点から,タバコ規制をめぐる現行の法制度を踏まえつつ,「タバコ規制をめぐる今後の法制的課題」を提示することとしたい.

受動喫煙防止対策の現状と課題

著者: 大和浩

ページ範囲:P.675 - P.680

喫煙・受動喫煙による日本の死亡数
 2013年から始まった厚生労働省の「健康日本21(第二次)」では,日本人の死因の第一位は喫煙で12万9千人,第二位が高血圧で10万4千人,第三位は運動不足で5万2千人,という分析に基づき,今後の健康管理は肥満の有無にかかわらず喫煙と高血圧を有する者への対策を強化することと運動不足の解消に重点をおいて推進されることとなった1).さらに,受動喫煙によって少なくとも6,800人の日本人が死亡していることが報告されており2),禁煙支援と屋内全面禁煙化を推進することは喫緊の課題である.

受動喫煙防止条例の効果とその成立過程

著者: 関口正俊 ,   原田久

ページ範囲:P.681 - P.686

 疫学の父といわれるジョン・スノーは,彼がコレラ流行の原因と突き止めた給水所のポンプを運営し続けた水道会社と戦った.公衆衛生は,経済原理が優先する中で,本人の責任だけに帰することができない健康問題を科学的知見を用いて解決するためのものである.現代日本では,給水所ではなく,街中に自動販売機や喫煙所を設置するタバコ産業が,営利のために多くの人々の命を奪っている.

禁煙治療の現状と課題

著者: 飯田真美

ページ範囲:P.687 - P.691

 喫煙だけでなく,受動喫煙の健康被害についてもエビデンスが蓄積され,医学・歯学学会および関連団体が相次いで禁煙宣言を行い,タバコのない社会を目指して行動を開始している.2006年4月から禁煙治療の保険適用が始まり約10年が経過したが,ようやく「禁煙をするために治療を受けることは効果がある」と一般に認識されるようになってきた.禁煙社会環境整備が徐々にではあるが進み,2012年に策定されたがん対策推進基本計画(第2期),および2013年度からの健康日本21(第二次)において2022年度までに喫煙率を12%に減らすという数値目標が設定されている.一般診療のなかで禁煙治療の重要性が増すなか,本稿では禁煙の意義,禁煙外来の実際,禁煙治療の現状と課題について概説する.

健診の場を活用した禁煙支援

著者: 増居志津子

ページ範囲:P.692 - P.695

 2013年度からの第2期特定健診・特定保健指導において健診当日からの喫煙の保健指導が強化されるとともに1),2014年度にはがん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針が改正され,肺がん検診において短時間の禁煙指導の効率的な実施を図るよう記載がされた.しかし,わが国においては,健診・検診の場での医師からの禁煙アドバイスの実施率は低く,禁煙治療の利用率も低い状況である2)
 喫煙は,メタボリックシンドロームだけでなく,がんや循環器疾患等の原因となることから,わが国で広く実施されている健診や検診の場における禁煙支援の意義は大きい.そこで,本稿では,健診や検診の場において喫煙者全員に短時間で禁煙を働きかける方法について,具体的に紹介する.

先進事例に学ぶ地域での喫煙対策—多治見市の推進体制と公共施設敷地内禁煙

著者: 道林千賀子 ,   櫻井きよみ

ページ範囲:P.697 - P.701

 地域における市町村レベルの喫煙対策は,健康日本21ならびに健やか親子21を踏まえた自治体の健康増進計画等に基づき展開されている.わが国において,科学的根拠に基づいた効果的な取り組みは示されている1)が,市町村レベルの喫煙対策の推進の実態は十分に明らかにされていない.大阪府内の市町村を対象とした先行研究2)では,喫煙対策の市町村格差が認められ,効果的な喫煙対策を地域で推進していくには様々な課題や困難が伴うことが推察される.
 このような状況の中,多治見市は2002年から健康日本21を踏まえた「たじみ健康ハッピープラン」(以下,プラン)の3つの優先課題の1つとして喫煙対策を明確に位置づけ,ライフステージ別に地域の関係機関と連携し,継続的に取り組んでいる.約10年間で成人の喫煙率は半減した.

視点

災害時地域保健支援・受援体制構築を目指してリーダーシップを育む

著者: 古屋好美

ページ範囲:P.650 - P.651

東日本大震災の衝撃
 東日本大震災は多くの公衆衛生関係者に大衝撃を与えた.超急性期医療を担う災害派遣医療チームDMAT(Disaster Medical Assistance Team)の組織的で迅速な対応に対して,公衆衛生のマネジメント対応は大きな課題を残した.そして今,広域大災害やその他の想定を超える健康危機事態においても健康被害を最小限にするためのしくみはできないものかと,公衆衛生関係者の間では冷静にそして分野を超える試みが始まっている.
 法令としては,東日本大震災における被災者の健康管理において様々な課題が表出したこと等を踏まえ,2012年7月,地域保健対策の推進に関する基本的な指針の一部改正となった.また,即応力強化と被災者対応の改善が課題となる中,災害対策基本法も段階的に改正されている.

連載 いま,世界では!? 公衆衛生の新しい流れ

世界のタバコ対策の動向

著者: 佐原康之

ページ範囲:P.702 - P.706

タバコ・エピデミックの概況
 1960年代をピークに,日本では成人喫煙率は減少に転じている.では,世界に目を転じ,もう少し長いスパンで見た場合にはどうだろうか.20世紀のごく初頭には,世界のどの国でも喫煙は庶民にとっては日常的なものではなかったが,20世紀前半に大量生産・大量広告の結果,高所得国(先進国)を中心に急速に拡大した.1950年代から米国・英国等で喫煙と肺がんとの影響が指摘され始め,20世紀後半に高所得国では喫煙率が減少し始めるものの,中低所得国においては喫煙率は上昇を続ける.21世紀に入って,中低所得国でも喫煙率自体の若干の減少は見られるが,世界の人口の大部分を占め,かつ人口増加の著しいこれらの国々では,喫煙者数はいまだ増加している.肺がんなどの健康被害は20〜30年を経て顕在化するため,21世紀中盤にかけて,これらの国々で,がんや心疾患の著しい増加が起こることが予測される.20世紀にはタバコが原因で死亡した人は約1億人であったが,現在の喫煙状況が続けば,21世紀には10倍の10億人が死亡すると推計される.そして,この3分の2は,中低所得国の70歳以下の勤労者層で発生する.中低所得国においては,マラリアや結核などの感染症は制圧されつつあるが,タバコによる健康被害は,これとは極めて対照的な状況にある.タバコ・エピデミックと呼ばれるゆえんである1〜3)
 また,このエピデミックの背景には,高所得国の巨大タバコ企業が,規制の緩い国々へと世界中にマーケットを広げていった歴史がある.マラリアという病気は,マラリア原虫を蚊が媒介して人にうつしていくが,肺がん等の場合には,巨大タバコ企業が媒介し,タバコを世界中に拡散させている状況にある.

衛生行政キーワード・103

厚生労働省におけるたばこ対策

著者: 寺原朋裕

ページ範囲:P.707 - P.709

 わが国の疾病構造は,感染症などの急性疾患から,生活習慣病であるNCDs(Non-Communicable Diseases)に代表される慢性疾患へと大きく変化した.国際的にも,重要な健康課題として,がん・循環器疾患・糖尿病・COPD(慢性閉塞性肺疾患)をNCDsの主要4疾患と位置づけている.
 厚生労働省では,1978年から国民健康づくり対策を行っており,2013年からは第4次国民健康づくり運動にあたる健康日本21(第二次)を展開している.生活習慣や社会環境の改善によるNCDsの予防等を推進しており,健康に関する様々な数値目標を設定している.

基礎から学ぶ楽しい保健統計・13

標準化

著者: 中村好一

ページ範囲:P.710 - P.715

point
1.標準化は交絡因子制御のための層化の一部である.
2.標準化には直接法による年齢調整と間接法による標準化死亡比(標準化罹患比)の算出がある.
3.直接法も間接法もそれぞれの利点と問題点を抱えている.
4.小規模集団には間接法を適用する.

リレー連載・列島ランナー・79

健康寿命日本一を目指した奈良県の取り組み

著者: 田中考子

ページ範囲:P.716 - P.718

 「列島ランナーは,いま一番伝えたいことを自由に執筆できるから,担当している仕事をまとめたらいいよ」と前ランナーからバトンを受け取った.原稿締切までの期間に,4月の人事異動で保健所から現在の奈良県健康福祉部健康づくり推進課に異動となった.保健師として県民の健康に関わる業務に従事していることに変わりはないが,県内全市町村の特性を踏まえ,地域の実状にあった施策の推進,評価,新たな施策の展開等,県としての責任の重さを感じている.新たな所属で2カ月が経過し,一意専心,健康づくりに関する重要課題の解決に向けて取り組んでいる.今回は,その中から健康寿命日本一に向けた奈良県の取り組みを紹介させていただこうと思う.
 奈良県は,人口1,396,879人,高齢化率27.2%(2014年10月1日現在)で,県の北部・中部は京都・大阪などの大都市通勤圏で人口が集中しているが,南部は広大な山林地帯が広がり,人口が少なく高齢化が著しい.市町村数は39市町村,そのうち人口1万人未満の市町村が18という実状である.保健所は,中核市である奈良市に1カ所と県型保健所が4カ所あり,そのうち,中和保健所は,18市町村,人口594,329人(2014年10月1日現在)を管轄し,県型保健所としては日本最大規模ともいわれる保健所である.

[講座]子どもを取り巻く環境と健康・8

胎児期の環境化学物質曝露が出生体重と生後発育へ与える影響

著者: 湊屋街子 ,   岸玲子

ページ範囲:P.719 - P.724

 胎生期の種々の環境因子が,出生体重や健康に影響を与えることが懸念される.この20年ほどの間に,残留性有機汚染物質(POPs)や日用品等に含まれる化学物質への胎児期曝露が出生体重に及ぼす影響について,多く研究されるようになった.最近では,体内のPOPs蓄積レベルと肥満度の関連や,食品パッケージなどに使用されるフタル酸エステル類やビスフェノールA(BPA)の尿中のレベルが,子どもの肥満やBMIと関係することが報告されている.しかし,市場に出回る多くの化学物質については,まだ十分に理解されていない.本稿では,従来から出生体重への影響について報告の多い喫煙に加えて,環境化学物質の出生体重と特に肥満への影響について最新のデータを示し,胎児期の“obesogen(肥満源)”と呼ばれる化学物質の影響と今後の課題について考える.

予防と臨床のはざまで

第31回国際産業衛生学会参加ダイジェスト(2)—職域健診のワークショップ

著者: 福田洋

ページ範囲:P.696 - P.696

 韓国で行われた国際産業衛生学会(ICOH)について(5月31日〜6月5日),今回は私自身の発表や継続参加している分科会を中心に報告します.月曜日(DAY2)の午後に,民医連との共同研究“Life and work of people aged 40 and younger with type 2 diabetes(T2DMU40 study):A cross-sectional study focused on socioeconomic status and health literacy”を発表しました.低所得層の多い若年2型糖尿病に肥満や合併症の罹患が進行している状況を,昨年のヘルスリテラシー学会報告の内容に加え,よりSES(社会経済状況)部分を強調し,雇用状態と健康の関連にも触れて発表しました.座長の堤明純先生(北里大学)からの「このような格差が発生する原因として考えられる背景は?」との質問には,収入の少なさや不安定な雇用などの経済的な理由により通院が困難であったり中断しやすい状況があること,教育やリテラシーの状況を考えると格差が世代を超えて受け継がれることなどが予想されるとお答えしました.またフロアから「この状況に対してどのような対策が考えられるか」と質問があり,糖尿病学会だけでなく,公衆衛生やプライマリケア関連など日本の様々な分野の学会で報告してきたこと,そこでの議論から考えると解決法は1つではなく,糖尿病専門外来のみならずプライマリケア(一般内科),小児科など外来の場,学校教育,産業保健などそれぞれの場でできることがあること,これらが協力・連携する必要があると述べました.
 ICOHには約35の科学分科会がありますが,2002年に恩師武藤孝司先生(前・獨協医科大学)とアムステルダムの学会に参加して以来,継続して参加しているのはScientific committee of Health Services Research and Evaluation in Occupational Health(SC of HSR & EOH)で,主に産業保健サービスの評価とエビデンスについて議論しています.3年に一度の世界会議の間に1〜2回の分科会を開催するなど非常にアクティビティが高い科学分科会ですが,設立して20年が経過し初期メンバーの多くが定年退職の時期を迎えています.本学会では,若手の研究者を増やし活動を継続していくために,事務局体制,IT戦略,次回分科会の候補,長い分科会のネーミングの変更〔EOHS:Evaluation(Effectiveness)of Occupational Health Services〕などが議論されました.学会は約20年で世代交代の時期を迎えます.その時議論されることが国内外であまり変わらないことを興味深く感じました.基調講演の演者だったDr.Ivan Ivanov(WHO)とも名刺交換しましたが,このようなVIPともコミュニケーションをとれることが分科会の魅力です.ドイツのWolf Kristen氏とは,来年開催のIUHPE(ブラジル)での職域ヘルスプロモーションのシンポジウム開催の可能性について議論しました.学会との関わりが単に自分の発表をする,講演を聴くという関わりから変わってきています.

映画の時間

—その日,僕らは大人になることを決めた.—ぼくらの家路

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.725 - P.725

 児童虐待は,暴力などで身体に危害を加える「身体的虐待」,適切な世話を行わない「ネグレクト」,罵声を浴びせたりする「心理的虐待」,性的な暴行をふるう「性的虐待」に分類されます.今月ご紹介する「ぼくらの家路」の主人公は,このうちの「ネグレクト」の状態にあります.
 ベルリンに住む主人公のジャックは10歳の男の子.シングルマザーのザナと,6歳の弟マヌエルとの3人で暮らしています.若い母親ザナは子供を愛してはいるようですが,まだまだ遊びたいお年頃のようで,ジャックとマヌエルを家に残したまま,夜遊びして朝帰りということも日常化しているようです.ジャックは,朝は一人で起きて,弟に朝食の用意をし,学校にかようという,とてもよくできた子供です.しかし,あるとき,風呂の温度調整を忘れたまま,弟を風呂に入れようとし火傷を負わせてしまいます.結果としてベルリンの児童福祉局に保護され,適切な養育がなされていないという判断なのでしょう,10歳のジャックはベルリン郊外の児童養護施設に預けられ,幼いマヌエルは児童福祉局の指導の下で母と生活することになります.

「公衆衛生」書評

—NPO法人日本医療ソーシャルワーク研究会 編 村上須賀子,佐々木哲二郎,奥村晴彦 編集代表—療養者への相談支援に活用できる1冊『医療福祉総合ガイドブック2015年度版』 フリーアクセス

著者: 眞崎直子

ページ範囲:P.664 - P.664

 地域で療養者や家族から相談を受けていたとき,この書籍に出会っていたらもっと納得のいくケアができたのではないか.本書を初めて手にしたときの筆者の偽らざる思いである.
 わが国における保健・医療・福祉サービスは,さまざまな法律や制度から成り立っている.その制度を療養者や家族にわかりやすく説明し伝えることができれば,療養者のセルフケア能力を引き出すことができるだろう.本書は,そのようなときに専門職の力になる.

書籍紹介

『タバコ規制をめぐる法と政策』—田中 謙 著 日本評論社 2014年 フリーアクセス

ページ範囲:P.706 - P.706

 タバコ規制をめぐる法律問題について,解釈論,立法論を展開するとともに,行政的規制についても検討する.2015年「日本公共政策学会著作賞」受賞.
 「『喫煙の自由』と『非喫煙者の権利』は,相反する主張をしているのか?」「タバコ問題は,『マナー』で解決できる問題なのか?」「健康被害という実害を防止するための行政的規制は正当化できないのか?」「『公共スペース』を『全面禁煙』とすることは『喫煙の自由』に反するのか?」「タバコ会社では,消費者に対して『正確な情報』が提供されているのか?」このような問いについても回答を提示する.

『出生前診断─出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』—河合 蘭 著 朝日新書 2015年 フリーアクセス

ページ範囲:P.706 - P.706

 次々に登場してきた胎児診断技術.検査を受けるか否か.結果をどう受けとめるか.晩産化が進み,産科医療も進歩するなかで,多くの女性たちが重い問いに対峙し,葛藤している.体験者の生の声,医療関係者の賛否両論に迫る.著者は写真家を経て1986年から出産関連分野を取材してきたジャーナリスト.「本書が,社会の中で出生前診断についての対話を拓くための助けになったらうれしい」(あとがきより).

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.727 - P.727

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 成田友代

ページ範囲:P.728 - P.728

 2020年にはオリンピック・パラリンピックも開催されるということもあり,本誌読者の皆様も,それぞれの立場で,たばこ対策の一層の推進に取り組まれていることと思います.しかしながら,喫煙率は低下傾向にあるものの,その一方で,公衆衛生の現場からは,官公庁での建物内禁煙が思うように進まない,たばこ対策を進めようとしたところ,様々な立場からの予想を超える介入があり苦労しているなど,大きな壁に直面しているといった声を耳にします.
 そこで,困難に立ち向かいながら,たばこ対策を進める公衆衛生担当者への応援メッセージになればと考え,本特集を企画いたしました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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