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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生79巻10号

2015年10月発行

文献概要

特集 たばこ対策

タバコ対策の歴史と最近の動向

著者: 矢野栄二12

所属機関: 1帝京大学大学院公衆衛生学研究科 2日本学術会議脱タバコ社会の実現分科会

ページ範囲:P.654 - P.658

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 昨年2014年は米国公衆衛生総監(Surgeon General)が喫煙と健康に関する報告書1)を1964年に発表してから50周年にあたる.この報告は喫煙の健康影響について体系的包括的にまとめた初めての報告である.この報告で喫煙は肺がんと喉頭がんそして気管支炎の原因であることが指摘されたことを受けて,翌1965年タバコの箱の警告文書の印刷,放送メディアでのタバコ広告の禁止等を定めた法律ができるなど本格的なタバコ対策が始まった.この報告は関係する7千余の論文を検討しているが,そのなかでも英国のDollらの貢献は大きい.はじめDollとHill2)はロンドンの20の病院の協力を得て,肺がん患者,胃がんと大腸がんの患者および肺がん患者と性・年齢が同じがん以外の患者を登録しその喫煙状況を調べるという,今でいう症例対象研究を行った.その結果,肺がん患者中の非喫煙者は男性はわずか0.3%,女性は31.7%に過ぎなかったのに対し,対照群では男性4.2%,女性53.3%であった.喫煙者については,肺がん患者は高度喫煙者が多く,男性患者の26.0%,女性患者の14.6%は1日25本以上喫煙するのに対して,対照群では男性の13.5%,女性の0%が高度喫煙者であった2)
 この結果を受けて,1951年英国医師会員4万人に対して喫煙状況などの調査が行われ34,440人が回答した.その後の継続した観察で調査対象者中の死亡状況が順次公表されているが,例えば20年後の状況について報告した1976年のDollとPetoの論文3)では,生涯非喫煙の男性に比べ喫煙男性は70歳未満では死亡率が2倍と報告されている.原因別で見ると,心疾患,肺がん,COPD(慢性閉塞性肺疾患),その他の血管疾患が多かった.また途中で禁煙することにより,肺がんのリスクは減っており,喫煙と肺がんの因果関係を確証する結果が得られている.

参考文献

1)US Department of Health, Education and Welfare, Public Health Service:Smoking and Health:Report of the Advisory Committee to the Surgeon General of the Public Health Service. Public Health Service Publication No.1103. 1964
2)Doll R, Hill AB:Smoking and carcinoma of the lung;preliminary report. BMJ 2(4682):739-748, 1950
3)Doll R, Peto R:Mortality in relation to smoking:20 years' observations on male British doctors. BMJ 2(6051):1525-1536, 1976
4)Funatogawa I, et al:Trends in smoking and lung cancer mortality in Japan, by birth cohort, 1949-2010. Bull World Health Organ 91(5):332-340, 2013
5)Allwright S, et al:Legislation for smoke-free workplaces and health of bar workers in Ireland:before and after study. BMJ 331:1117-1120, 2005
6)Pell JP, et al:Smoke-free legislation and hospitalizations for acute coronary syndrome. N Engl J Med 359(5):482-491, 2008
7)Been JV, et al:Effect of smoke-free legislation on perinatal and child health:a systematic review and meta-analysis. Lancet 383(9928):1549-1560, 2014
:Conrad P, Kern RC (eds):The Sociology of Health and Illness, 2d ed, 1986, pp484-498
9)Daniel Kahneman:Thinking, Fast and Slow. Farrar, Straus & Giroux, 2011
10)厚生労働省:健康日本21(総論)
11)Geoffery Rose:Sick individuals and sick populations. Int J Epidemiol 30(3):427-432, 2001
12)日本学術会議健康・生活科学委員会・歯学委員会合同(新)脱タバコ社会の実現分科会提言「受動喫煙防止の推進について」平成22(2010)年4月6日
13)日本学術会議健康・生活科学委員会・歯学委員会合同脱タバコ社会の実現分科会提言「東京都受動喫煙防止条例の制定を求める緊急提言」平成27(2015)年5月20日
14)日本学術会議健康・生活科学委員会・歯学委員会合同脱タバコ社会の実現分科会提言「無煙タバコ製品(スヌースを含む)による健康被害を阻止するための緊急提言」平成25(2013)年8月30日
15)McRobbie H, et al:Electronic cigarettes for smoking cessation and reduction. Cochrane Database Syst Rev 12:CD010216, 2014
16)Yano E:Japanese spousal smoking study revisited:how a tobacco industry funded paper reached erroneous conclusions. Tob Control 14:227-235, 2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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