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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生79巻11号

2015年11月発行

雑誌目次

特集 食品の安全と安心をめぐる話題

フリーアクセス

ページ範囲:P.733 - P.733

 昨年ごろより,ファストフード店で販売されている食品への異物混入やカップ麺への異物混入など,さまざまな食品への異物混入が報道され,一般の人々の食品の安全に対する信頼が薄らいでいるように感じられます.また,食品添加物や残留農薬の危険性を指摘する書籍が,相変わらず流布するとともに,インターネット上にも同様の情報が溢れています.これらは異なった問題ですが,いずれも食品の安全と安心に係る問題です.
 上述した例以外にも,食品の安全と安心に関してはさまざまな情報が流れており,一般の人々の関心も高いと思われます.これらの情報については,食品衛生の専門家にとっては常識の範囲に属していると考えられますが,対人保健領域の公衆衛生従事者には意外と知られていないこともあると思われ,食品の安全を守るための知識は乏しいと思われます.食品の安全と安心に関する情報・知識は広い領域に跨り,多彩な内容を持っています.そこで今回,「食品の安全と安心をめぐる話題」と題し,食品の安全・安心と健康に関連するいくつかの話題を取り上げて特集を企画しました.

食品の安全と安心

著者: 唐木英明

ページ範囲:P.734 - P.737

 「食品の安全と安心」に関する問題は多岐にわたるが,ここでは「食品の安全」に関する問題として「食品安全(フード・セーフティ)」と「食品防御(フード・ディフェンス)」を,「消費者の安心」に関する問題として「企業統治(コーポレート・ガバナンス)」と「リスクコミュニケーション」を取り上げて概説する.

食品の安全性に関する海外の最近の話題—微生物学的食品安全の立場から

著者: 窪田邦宏 ,   天沼宏 ,   春日文子

ページ範囲:P.738 - P.742

 病原微生物汚染による食中毒のニュースが,テレビ,新聞,インターネット等で毎日のように報道されている.特に大きな事例として,汚染牛肉を生で喫食したことにより腸管出血性大腸菌O111に181人が感染,小児を含む5人が亡くなるという2011年の痛ましい事例1,2)が記憶に新しい.この事例の社会的な反響は大きく,その後,生食(ユッケ等)用牛肉の基準設定や牛レバーの生食の規制へとつながることとなった.翌2012年には白菜の浅漬けの喫食により腸管出血性大腸菌O157食中毒が発生し,169人が感染,127人が入院,8人が亡くなった3).また2014年には,花火大会の露店で販売された冷やしキュウリにより腸管出血性大腸菌O157に518人(2次感染者を含む)が感染し,5人が溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症し重症化するという大規模事例が発生した4).このように大規模,かつ患者が重症化する食中毒事例が日本国内で多く報告されている.
 大規模食中毒は国内で生産・加工された食品に起因するものだけとは限らない.近年,食品流通の迅速化や流通範囲の拡大が目覚ましく,このため,海外から大量の食品を輸入しているわが国では,海外から汚染食品が流入し,国内で食中毒が発生する可能性への注意および対策が必要となっている.国立医薬品食品衛生研究所安全情報部では国内の食品安全関連の情報に加えて,海外の食中毒事例や食品安全対策等の情報を日常的に収集しており,それらを日本語で要約し取りまとめた「食品安全情報」を隔週で当研究所ホームページに掲載している(http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/foodinfonews/index.html).また,特に社会的影響が大きい内容やわが国に関連する可能性が高い事例に関しては,集中して取りまとめ,特設ウェブサイトを介して継続した情報提供を行っている.本稿では,これらの収集情報の中から,今後わが国でも注意が必要な食品の把握や対策に関連した話題提供とすべく,生鮮野菜や果物といった喫食前に加熱調理を伴わない非動物性の食品による海外での最近の微生物関連大規模食中毒事例についてその一端を紹介する.

食品表示制度の概要と課題

著者: 澁谷いづみ

ページ範囲:P.743 - P.747

新たな食品表示制度のはじまり
 2015年4月1日に食品表示法が施行された.これまで食品の表示に係る法律は,保健所では最も関係の深い食品衛生法と健康増進法の他,JAS法の3本の法律があったが,それらの目的が異なるため,必ずしも消費者にとって食品表示が活用しやすいものではない側面があった.また,事業者にとって実施可能でわかりやすい食品表示のあり方が求められていた.
 こうした中で,各々の法律の下にあった58本の食品表示に関する規定である「食品表示基準」を統合し,新たに食品表示法として施行した.

Codexの概要

著者: 豊福肇

ページ範囲:P.748 - P.752

 Codex Alimentarius(コーデックス委員会)1)とは,消費者の健康の保護と食品貿易における公正な取り扱いを目的として1963年に国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)によって作られた政府間組織である.
 現在,日本を含む185メンバー加盟国及び1メンバー組織(EU),230 Codexオブザーバー,52国際政府間組織,162の国際非政府間組織,16の国連機関がCodexに参加しており,加盟国の人口に基づくと世界の99%をカバーしている.

食品トレーサビリティシステム

著者: 福田伊津子 ,   大澤朗

ページ範囲:P.753 - P.757

トレーサビリティの目的と概要
 食の安全性に対する不安要因としては,食品・農畜水産物が病原体(異常プリオン,鳥インフルエンザ,SARS,腸管出血性大腸菌O157:H7,コレラ等)や有害化学物質(農薬,抗生物質,ダイオキシン類等)によって汚染されること,また食品・農畜水産物の規格が偽装表示されること等が挙げられる.現在,わが国は食の供給を海外に強く依存しているが,これに加えて複雑多岐な流通システムによって「農場から食卓まで」のフードチェーン・サプライチェーンにおける介在者の顔や食品・農畜水産物の取り扱われ方がほとんど見えない状況にある.このような背景から,私たちの食卓に届けられる食品・農畜水産物の安全性について不安が増大している.
 食を取り巻く不安や危害が増大する中で,食品の追跡可能性(トレーサビリティ)を確保することは,食品による事故を未然に防ぐことや事故発生時に迅速に対応できるほか,表示の信頼性が向上することが期待され,私たちの食卓に届けられる食品・農畜水産物の安全性と信頼性の確保につながると考えられる.欧州連合(EU)やアメリカではすでに,全ての食品にトレーサビリティが実施されている.

食品に関する苦情—異物混入を中心に

著者: 舘山優乃

ページ範囲:P.758 - P.761

 冷凍食品への農薬混入,カップ麺へのゴキブリ混入などがマスコミに大きく取り上げられたこともあり,消費者の食品の安全への関心は高まっている.事件が発生したときには,食品衛生に関する苦情の届出件数が増える傾向にあり,行政機関では食品の安全を確保するため,食品に関する苦情の原因を調査し,苦情発生の未然防止に努めている.筆者の所属する東京都健康安全研究センターでは,広域に流通する食品の製造工場の監視指導を行っているが,本稿では,当センターでの事例をまじえながら,異物混入を中心とした食品に関する苦情について取り上げる.

フードディフェンス

著者: 神奈川芳行 ,   今村知明

ページ範囲:P.762 - P.766

 輸入冷凍ギョーザへの農薬混入事件(2007〜2008年:冷凍ギョーザ事件)1,2),国内の食品工場での冷凍食品への意図的な農薬混入事件(2013年末:アクリフーズ事件)3,4)に続き,2015年には,店頭での異物混入の動画の投稿等,食品中への意図的な異物混入事件が相次いでいる.
 2001年の9.11世界同時多発テロ以降,テロ対策の重要性が増す中で,意図的に毒物等を混入した食品による「食品テロ」の可能性が懸念されている.特にテロ対策に力を入れている米国では,脆弱性評価手法としてCARVER+Shock法を開発し,食品企業での取り組みを促している注1),5〜7)

新たな「機能性表示食品」制度

著者: 千葉剛

ページ範囲:P.767 - P.771

 2015年4月1日,食品表示法が施行され,その一環として「機能性表示食品」制度が始まった.これまで,機能性を表示することができる食品は,国が個別に許可した特定保健用食品(通称:トクホ)と国の規格基準に適合した栄養機能食品に限られていた.しかし,いわゆる健康食品を含む加工食品や生鮮食品においても,機能性成分を含んでいればその効果が期待できることから,事業者の責任の下,科学的根拠を示したうえで機能の表示を可能とする制度である.
 機能性表示食品制度とは,機能性を分かりやすく表示し,消費者が商品を適切に選択することを助け健康維持に役立てるための制度とされているが,では,機能性表示食品を適切に利用するためにはどのようにすればいいのであろうか.

ダイエット食品と健康

著者: 東泉裕子

ページ範囲:P.772 - P.776

 国民の健康志向が高まる中,「健康食品」が広く普及している.消費者委員会が行ったアンケート調査でも,約6割の人が「健康食品」を利用していると回答している1).広く普及している「健康食品」だが,法令上の定義はなく,また,医薬品のような効能効果を標榜する表示は法律で認められていない.しかし,特別用途食品と保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品)には,限られた範囲で機能等の表示が認められている.現在,市販されている「健康食品」は,これらの保健機能食品とそれ以外のいわゆる健康食品(以後,健康食品と示す)を指す.
 消費者庁のアンケート調査では,医療機関への受診等をすることなく,健康食品で体調不良を改善しようとした経験がある者は約4割,そのうちおよそ3割はダイエットを目的とした健康食品を利用していることが報告されている1).さらに,同調査において,「美容」「ダイエット」目的の利用者では,20代・30代女性において,健康食品の購入に際して「ランキング・口コミ」を重視する傾向があると述べている.ダイエット目的,すなわち,ダイエット効果を標榜した健康食品は,各種広告媒体を使った広告・宣伝が活発に行われている.一方で,そのような広告・宣伝の中には,ダイエット効果が必ずしも実証されていないにもかかわらず,そうした効果を期待させる表示が数多く見受けられる.本稿では,ダイエット効果を標榜した健康食品について解説する.

食品に含まれる有害物質—トランス脂肪酸と多環芳香族炭化水素類

著者: 渡邉敬浩 ,   堤智昭

ページ範囲:P.777 - P.782

 食品に本来含まれている化学物質が,加熱といった加工によって変化し有害物質となることが知られている.この事実は「焼き魚の焦げた部分は食べないように」といった食生活の知恵に古くから反映されてきている.現在では,食品に由来し加工を原因として生成する有害物質には複数が知られており,それらを総称して製造副生成物と呼んでいる.本稿では,複数が知られる製造副生成物中,トランス脂肪酸と多環芳香族炭化水素類について概説する.

視点

地域包括ケアシステムと保健所

著者: 大木元繁

ページ範囲:P.730 - P.731

超高齢社会の到来
 徳島保健所(県型)の管内人口は,2015年4月1日推計人口で49万6千人ですが,2025年には45万9千人と10年で3万7千人(7.5%)の減少が推計されています.一方,後期高齢者は2万人(28%)増え,15〜64歳の生産年齢人口(働く人)は3万4千人(12%)減ります.つまり,10年で12%減る労働者で,28%増える後期高齢者の医療・介護を担わなければなりません.単純計算で今の1.5倍働かないといけないということになります.

投稿・活動レポート

自宅近隣環境の再認知による歩行時間を増やす試み—プラステンの実践支援

著者: 久保田晃生 ,   岡本尚己 ,   印鑰真人

ページ範囲:P.791 - P.794

緒言
 2010年の健康日本21最終評価では,1日の歩数がベースライン値(1997年)より男女ともに約1,000歩減少し,国民の身体活動の低下が問題となっている.そこで,厚生労働省は,身体活動の増加支援のために,2013年3月に健康づくりのための身体活動基準2013(以下,身体活動基準)1)および,身体活動指針(以下,アクティブガイド)2)を公表した.また,アクティブガイドは,これまでの健康づくり運動に関する指針と比べ,身体活動促進の意識レベルを高めることを主として,発信する情報を最小限に抑え,毎日10分の身体活動を増やすことが強調されている(以下,プラステン).
 しかし,意識レベルを身体活動の促進への行動レベルに導くには,何らかの別の支援が必要であると考えられる.実際,行動科学的手法を用いた身体活動を促進する行動レベルの変容を促すプログラムも数多く行われているが,プラステンに焦点を絞ったプログラムはほとんど認められない.そこで,筆者らは自宅近隣環境を再認知させ身体活動の増加を支援したプログラムを基に3,4),プラステンの行動として,歩行時間を10分間増加させるプログラムを実践したので報告する.

連載 衛生行政キーワード・104

食品の安全性確保に向けた厚生労働省の取組

著者: 中村梨絵子

ページ範囲:P.783 - P.785

 食はすべての国民の毎日の暮らしに欠かせないものであり,その安全性の確保に対して,多くの人が高い関心をもっている.また近年では,食品流通の広域化・国際化が進展し,生産や流通のあり方も複雑化している.こうした状況の中で,食品中の異物混入や放射性物質の問題,腸管出血性大腸菌などによる大規模な食中毒事件の発生など,食の安全をめぐって多くの課題が生じている.
 厚生労働省では,食品の安全性確保に向けて,最新の科学的知見に基づき,消費者や生産者,食品関係事業者など,幅広い関係者と情報を共有しながら,さまざまな施策を展開している.

いま,世界では!? 公衆衛生の新しい流れ

食品安全管理は国境を越えて

著者: 宮城島一明

ページ範囲:P.786 - P.790

 食品の安全性をめぐる事件の報道は絶えることがない.農業物や食品の貿易が盛んになったおかげで,消費者が安く豊富な食品を入手することができるようになった一方で,いくつもの国境を跨ぐようになった生産から消費までの長大な供給鎖のどこかが破綻すると,安全影響は瞬く間に遠方の国に及ぶ.ある食品汚染事件が報じられる前に,影響がすでに複数の国に達していることは普通である.
 全球化(グローバリゼーション)が進んだ現在にあって,自国の食品安全管理体制の強化に心を砕くのは各国政府の責務であるが,それだけでは足りない.国内の消費者の健康を守るためには,他国の食品安全に関心を向け,必要な援助や投資を差し向ける必要がある.

基礎から学ぶ楽しい保健統計・14

その他の多変量解析

著者: 中村好一

ページ範囲:P.796 - P.800

point
1.目的変数が2値データ(0-1(ゼロイチ)データ)では多変量解析としてロジスティック回帰分析を用いる.
2.観察期間と帰結発生の有無をセットにしたデータを生存データという.
3.生存データを用いて生存曲線を作図し,コックスの比例ハザードモデルで解析する.
4.多変量解析で数量データを説明変数とする場合には,ダミー変数の使用も考慮する.

リレー連載・列島ランナー・80

子ども虐待予防から産後うつ対策へ—福岡県妊娠期からのケア・サポート事業

著者: 岩本治也

ページ範囲:P.801 - P.804

概要
 近年,妊娠・出産や育児を取り巻く環境の変化に伴い,子どもへの虐待が問題となっています.虐待の背景の一つとして,母親のハイリスク要因の存在が明らかとなっており,虐待を予防するためには,ハイリスク要因を抱える妊婦に対し関係機関が支援を行う連携体制が必要とされています.
 そのため,福岡県では,医療機関,市町村,県保健福祉(環境)事務所(県の保健所)等の連携のもと,2010年度から「妊娠期からのケア・サポート事業」を開始し,妊娠期からの早期介入および養育支援を行うことにより,乳児虐待防止を図る取り組みを行っています.この取り組みは,当初は市町村窓口でのハイリスク妊婦の把握から始まりましたが,2013年度からは産科医療機関等も事業にご参加いただいています.
 そこで,本稿ではこの事業の経緯,現状,課題等についてお伝えします.

[講座]子どもを取り巻く環境と健康・9

乳幼児のアレルギー・感染症へのダイオキシン類,有機フッ素系化学物質曝露による影響

著者: 宮下ちひろ ,   岸玲子

ページ範囲:P.805 - P.810

 近年,アレルギー疾患は有病率が増加すると共に発症の低年齢化が進んでおり,その原因として遺伝要因の他に化学物質を含む環境要因などの関与が示唆されている.本稿では,ダイオキシン類や有機フッ素系化学物質などの難分解性化学物質が,胎児期および出生後初期の発達途中で未熟な免疫機能に与える影響,および生後のアレルギー・感染症リスクとの関連について,北海道スタディでの日常生活での低濃度曝露による報告と諸外国での高濃度曝露による報告から紹介する.

予防と臨床のはざまで

第31回国際産業衛生学会参加ダイジェスト(3)—高かった学会のホスピタリティ

著者: 福田洋

ページ範囲:P.811 - P.811

 5月31日〜6月5日,韓国で行われた第31回国際産業衛生学会(ICOH)のダイジェストの最終回です.今回は学会後半のプログラムや,学会運営,サブ/ソーシャルプログラムを振り返ります.
 水曜日(DAY4)には,サブプログラムの1つ,日中韓産業保健学術集談会が開催され,“Development of occupational health in 3 countries”と題した特別セッションのあと,ヘルスケアワーカーおよび職業関連ストレスをテーマとした2つのミニシンポジウムが行われました.この学術集談会は,昨年は日本(ACOHと共催,福岡),来年は中国と毎年3カ国の持ち回りで行われており,各国の産業保健の現状の共有や比較に役立っています.日本と韓国はしくみや課題が似ていますが,中国はかなり様相が異なります.従業員規模が段違いに大きく,環境問題や有害業務を多く抱える2次産業が主体で,法整備や産業保健のしくみ作りが発展途上にある中国の状況を知る貴重な機会になりました.

映画の時間

—記憶はあたかも,重力のような力で私たちの心を捉え続ける—光のノスタルジア/真珠のボタン

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.813 - P.813

 「サンチャゴに雨が降る」(エルヴィオ・ソトー監督,1975,フランス・ブルガリア)という映画がありました.1973年にチリで起こった軍事クーデターを描いた作品です.サンチャゴに雨が降る,というのは,ラジオがクーデターの発生を伝える暗号でしたが,その後の軍事政権下での弾圧を暗示しているとも思えます.
 今月は,ピノチェト将軍によるクーデターと,その後の軍事政権による弾圧を中心に,人間による愚行を描いた,パトリシオ・グスマン監督による2つの作品をご紹介します.両作品ともドキュメンタリー映画ではありますが,叙事詩ともいうべき作品に仕上がっています.

書籍紹介

『障害者権利条約とやどかりの里』—やどかりの里45周年記念出版編集委員会 編 やどかり出版 2015年 フリーアクセス

ページ範囲:P.747 - P.747

 精神障害のある人の「ごく当たり前の生活」を求めて,1970年にさいたま市(旧大宮市)で活動を始めた「やどかりの里」は,街中に障害者生活支援センターやグループホーム,働く場を点在させ活動の輪を広げてきた.2015年3月末で356人のメンバーがやどかりの里の活動を利用し,支援する人は300人を超えている.
 本書は,社会福祉実践の45年の節目に,2010〜2014年までのやどかりの里の実践を,障害者権利条約(2006年国連で成立,2014年1月日本批准)に照らし合わせて点検し,今後の課題や方向性を示す.権利条約を絵に描いた餅とせずに,実践に引き付けて考えていく試みとして,全国の人たちとともに社会福祉実践の質を高め合うための1冊になるようにと願って企画された.実践を積み上げてきた人たちの等身大の言葉,率直な思いが語られる.

「公衆衛生」書評

—東京大学公共政策大学院 医療政策教育・研究ユニット 編—ここにはチーム医療の縮図がある『医療政策集中講義—医療を動かす戦略と実践』 フリーアクセス

著者: 坂本すが

ページ範囲:P.795 - P.795

 そこはハーバード白熱教室さながらの熱気であった.講師も受講生も皆一緒になって議論する.若いナースもいればベテランのドクターもいる.どうやら医療職種だけというわけでもない.日本の大学の一般的な授業風景とは異なる世界がそこにあった.社会人向けの講座であるから,いろいろな人が集まっているのであろうが,年齢も職種も風貌も異なる人々が,何についてこれほど熱い議論を交わしているのだろうか.
 東京大学公共政策大学院の医療政策教育・研究ユニットが社会活動として実施する「医療政策実践コミュニティー」.通称H-PACは,患者支援者,政策立案者,医療提供者,メディアの4つの異なる立場の者から構成される.受講生は常にミックスチームを作って,共に政策提言や事業計画書の成果物を作り上げる.

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.815 - P.815

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.816 - P.816

 今回の特集は,昨年頃より世間を騒がせた食品への異物混入等を取り上げ,食品の安全・安心の問題を中心に企画しました.
 食品に対する危惧というと,今回の特集でも指摘されているように,多くの消費者あるいは主婦の方々は,保存料や着色料といった食品添加物や農産物の残留農薬の問題を挙げられます.これはおそらく人工的に合成された物質を体内に摂取することへの不安に基づいていると思われますが,許可されている物質については科学的に安全性が検証されています.逆に人工ではない自然物質が安全かというと,必ずしもそうではないことは,フグや毒キノコを挙げればすぐにわかります.やはり今回ご指摘いただいているように,添加物等の使用より微生物による食品汚染のほうが健康への危険度は高いことは明らかです.しかし,多くの市民が危険性を認識していないように思われ,その代表的な例として牛肉の生食があり,その結果死者が出る事態を引き起こしました.さらに厚生労働省により牛レバーの生食が禁止されて以降,豚レバーを生食する人が増えた(らしい)ことを耳にすると,あまりの知識の無さに驚いてしまいます.このように多くの市民の食品の安全への知識には不十分な点が多々あると思われます.食品の安全性についての知識の普及はわれわれの責務です.本特集を熟読され,責務を果たす一助にしていただければと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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