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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生79巻5号

2015年05月発行

雑誌目次

特集 死因究明制度の現状と将来展望

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ページ範囲:P.293 - P.293

 わが国では,死因究明は通常,警察と法医学の人々に委ねられています.ところが,1996年3月に東京都港区内で発生したパロマ社製瞬間湯沸器の不具合による一酸化炭素中毒死亡事故や,2007年6月に名古屋で時津風部屋の当時17歳の少年が心肺停止状態で搬送死した事件において,遺族が疑問をいだき関与したことにより死因究明制度の問題点が露見するところとなりました.国民の安全意識が高まってきているのに死因究明の制度がそれに追いついていない現状が明らかにされたのです.安全,安心な社会を実現するためには,事故,暴力・虐待などの社会災害に関わる死因究明制度を充実・強化していくことが求められています.
 その後,2012年6月に「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(死因・身元調査法)」が制定されました.また「死因究明等推進法」が時限的に制定され,死因究明制度の現状分析にもとづく制度の見直しを示す最終報告書が2014年4月に出されています.しかし,まだ死因究明制度の充実,強化されていく道筋がみえる状況にはありません.

日本の死因究明制度の現状と将来展望

著者: 福永龍繁

ページ範囲:P.294 - P.298

 死体検案・解剖は,人が受ける最期の医療と位置付けられる.人が亡くなり異状死として取り扱われる場合,検視が行われる.その際に,犯罪性がなければ死因や死亡の種類の決定がなおざりにされている地域が多く,監察医制度の有無によって死因究明の精度に地域格差があることを喫緊の課題として,死因究明二法は制定され,内閣府に死因究明等推進会議が設置され,2014(平成26)年4月に最終報告書が出された.その二法のうちの「死因究明等の推進に関する法律」が同年9月に失効し,新たな法律が制定されることもない現状である.
 本稿では,国の死因究明に関する検討会に関わってきたひとりとして,これまでの経過と今後の進むべき方向について論じたい.

日本の法医学教育および死因究明制度の歴史

著者: 岩瀬博太郎 ,   石原憲治

ページ範囲:P.299 - P.303

 わが国の死因究明の歴史を振り返ると,2本の大きな流れがある.一つは,すでに江戸時代に明確に行われていた中国伝来の「検使」であり,他方は蘭学として移入され明治時代に本格化した西洋由来の法医学である.わが国の死因究明は,従来型の検使から大学の法医学教室等における法医学への移行と位置づけられ,法医学の拡大・発展の歴史でもあるものの,いまだに,主流は警察が行う検視主体の死因究明であり,そのなかでは検使の伝統もいまだに残っていると言わざるを得ない.以下,順を追って考察したい.

日本の監察医制度の歩みと課題

著者: 松本博志

ページ範囲:P.305 - P.310

監察医制度の発足
 日本の監察医制度は今年で70年目を迎えた.公式的な始まりは,1946(昭和21)年12月11日にGHQ(General Headquarters,連合国軍最高司令官総司令部)の公衆衛生福祉局長から日本政府厚生省(現厚生労働省)医務局長に対して,全国の主要都市に監察医局を設置する覚書を送達し,各主要都市に監察医を任命,常置するよう指令を出したことに始まる1,2)
 しかしながら,実務上はそれ以前に始まっている.東京都については,『東京都監察医務院50年史』によると,1945年11月18日付の朝日新聞に掲載された「始まっている『死の行進』餓死はすでに全国の街に」という記事から,GHQが朝日新聞社に対して実情調査を行ったことに端を発しているようである.その結果,11月23日以後は,飢餓,伝染病,栄養失調などによる死亡者に対して,GHQ厚生課員立会いの下で死体解剖を行って厳密な調査を実施すべき旨を東京都民生局に指令したとのことで,その後,東京都は「東京都変死者等死因調査規程」を制定し,東京大学および慶應義塾大学の法医学,病理学の両教室員に委嘱して,監察医務業務を1946年4月1日から開始した.東京都監察医務院が開設されたのは1948年3月21日であり,以前の大学委嘱は廃止され,専任監察医を3人おいて業務を開始した.

欧米の死因究明制度の歩みと現状—日本との比較

著者: 白鳥彩子 ,   藤宮龍也

ページ範囲:P.311 - P.315

 死因究明制度は国によって様々であるが,欧米諸国においては2種類に大別される.一方は,死因究明そのものを目的とし,明らかとなった死因等の情報が同様の死の再発予防や公衆衛生向上,犯罪捜査等に活用される英米法系,もう一方は,犯罪死見逃し防止が目的の中心となり,検死に警察が関与する大陸法系である.わが国の死因究明制度では,司法解剖制度はドイツを,また監察医制度はアメリカ合衆国のメディカル・イグザミナー制度を起源とするため,英米法系と大陸法系の制度が併存し,さらに,体系的でないため責任主体が不明瞭となっている1〜6).また,法医解剖は死因決定に関わる重要な業務であるが,その実施や死因の決定に関して,欧米諸国と日本では異なる部分が多い.欧州では,EU統合に際する各国の死因究明制度の違いによる混乱を避けるため,1999年のEU欧州評議会による勧告1)で法医解剖の対象が明確にされた(表1).これらは日本の異状死体に相当するが,法医解剖に先立って犯罪死体や変死体と判断されることなく,unnatural deathとして死因究明が進められることになる(本稿では,便宜上届け出るべき死体はすべて異状死体と呼ぶ).
 本稿では,世界で最も有名で,かつ最も民主的といわれるコロナー制度を中心に,日本の死因究明制度に影響を与えたドイツおよびメディカル・イグザミナー制度の他,特に法医解剖の実施率の高いスウェーデンやフィンランドの死因究明制度について解説し,わが国の死因究明のあり方について考察する.なお,各国の死因究明制度の実施概要および解剖実施状況については,表2および表3を参考にされたい7)

日本の死因究明制度の課題—法学者の立場から

著者: 福島至

ページ範囲:P.316 - P.320

はじめに—法律家の関わり
1.法律家と死因究明
 人が亡くなった原因が何であるのかについては,以前からも,裁判所において最終的に決定されることがらではあった.民事訴訟においてと,刑事訴訟においてと,である.
a) 民事訴訟は,基本的に私人間の争いに関する訴訟である.例えば,医療過誤を理由に遺族が損害賠償を求める訴えを起こした場合で,その中で死因が問題となりうる.
b) 刑事訴訟は,国家機関である検察官が,被告人に対して刑罰を科すよう求める訴訟である.例えば,検察官が殺人罪で公訴提起した場合で,その中で死因が問題となりうる.
 しかしながら,訴訟を通じての死因究明には,大きな限界や制約がある.第一は,責任追及のための訴えや公訴が提起されなければ,始まらないことである.そもそも,遺族や検察官が,死因に不審を抱くことがなければ訴訟にはならない.第二に,訴訟には大きなハードルが存在する.特に民事訴訟では,時間や労力,資金などの点で大きな壁がある.いずれの訴訟にせよ,死亡直後の初期段階で,必要な情報収集(解剖など)が行われていないことも,訴訟を提起しにくくしている原因である.

わが国の死因究明に関わる医師等の教育体制の確立とその課題

著者: 松本博志

ページ範囲:P.321 - P.325

 わが国はこれから未曾有の多死社会を迎え,死因究明制度の確立が必須となっている.犯罪の見逃しという観点で語られているが,わが国の死因統計で1994〜1995年にかけて死亡診断書・死体検案書の書式改訂に伴って心疾患が30%減少し,肺炎が20%減少,脳血管疾患が20%増加した事実に目を背けることなく,死因診断の向上を図る必要がある1).他論文でも記述されているように,2012年6月に死因究明関連二法が成立した.一つは「死因究明等の推進に関する法律」(死因究明等推進法),もう一つは「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」(死因・身元調査法)であった.死因究明等推進法に基づき,内閣府に官房長官を長とする死因究明等推進会議が設置され,その下部組織として死因究明等推進計画検討会が設置されて18回の議論を重ねた.その結果策定されたのが「死因究明等推進計画」(2014年6月13日閣議決定)である2).この中で,当面の重点施策として,新たに決まったものとして下記のものがある.
●政府における施策の管理・調整体制を構築し,施策を検証・評価・監視
●地方に対する関係機関・団体からなる協議会の設置の要請
●協議会等での検討結果を踏まえた地方の実情に応じた体制整備の要請
●警察官,海上保安官に対する研修等の充実
●5年後を目途に,専門的研修を修了した医師が警察等への立会い・検案を実施できるよう,検案に携わる医師の充実及び技術向上
●小児死亡例に対する死亡時画像診断の情報の収集・分析・検証
●検案に際して必要な検査・解剖を明らかにするための研究の推進
 単純に読みとると,地方の実情に応じて新しい体制を取ること,その体制については研修および技術向上をはかること,画像診断情報の解析や検案に必要な検査・解剖を明らかにするための研究を推進する計画を策定することが書かれている.したがって,各地方において死因究明に関する教育の充実と研究を図る必要があるということになる.

死亡時画像診断(Ai)技術の現状と課題

著者: 高橋直也 ,   樋口健史

ページ範囲:P.326 - P.329

 死因究明のための最も有用な手法は解剖であるが,世界的に解剖の機会は低下している1).一方,近年のCTやMRIなどの画像診断の進歩は著しく,2000年ごろから国内外でCTやMRIを死因究明に用いるようになった2,3).日本では死亡時画像診断は,Autopsy imaging(Ai)として広く知られている4,5)

Public Health and Safetyと死因究明制度—公衆衛生の立場から

著者: 反町吉秀 ,   瀧澤透

ページ範囲:P.330 - P.334

 世界では年間500万人以上が,暴力,事故,自殺などの傷害による死亡のため,命を落としている1).また,世界における死亡の約9%は,傷害による外因死であり,DALY(Disability Adjusted Life Year,障害調整生命年)でも約9%を占めている1).しかも,将来の死因予測では,交通事故,自殺,対人間暴力による死亡が,これまで以上に死因順位の上位に位置すると予想されている1).世界中の人々の命を脅かしているのは,疾病ばかりではないのだ.
 そこで,WHO本部は,2000年,「(暴力や事故による)傷害は,主要な公衆衛生課題の一つであり,傷害は予防可能(preventable)である」と宣言し2),暴力・傷害予防部門(Department of Violence and Injury Prevention)を設立した1).WHOは,現在まで,暴力,交通事故,子どもの事故,自殺それぞれについてのグローバルレポートを作成し,暴力・傷害予防についても,公衆衛生政策として取り組むよう,世界各国に促している.

医療現場における死因究明の現状と課題—医療事故調査制度

著者: 木村壮介

ページ範囲:P.335 - P.339

 一般社会での公衆衛生の観点,事故,犯罪等を念頭に使われる「死因」の考え方は,医療現場では異なった意味合いを持つ.がんで死亡した人の「死因」は多臓器不全,肺炎等と記載されることも多く,つまり,最後の引き金になった現象が「死因」であり,がんはその「原因」であるという考え方をする.「医療事故死」(この言葉だけでも,多くの定義,議論があるが,ここでは,過誤の有無を問わず,診療行為が関与した死亡としておく)の調査ということになると,その「死因」だけでなく「死亡にいたった原因」を究明すること,そしてその経験から再発を防止するための提言をすることが医療事故調査制度の考え方である.例えば,鎮痛薬の投与量を誤り患者が死亡した場合,「死因」は明らかに薬剤の過剰投与であるが,なぜそのようなことが起きたのか「原因究明」を行うことになるわけである.したがって,医療現場における「死因究明」という題をいただいたが,医療現場においては,「事故の原因究明」の現状と課題として読んでいただきたい.

視点

公衆衛生のリーダーシップ

著者: 角野文彦

ページ範囲:P.290 - P.291

公衆衛生とは
 「公衆衛生」とは何か.1986年に医師免許を取得し,公衆衛生医師として彦根保健所に赴任した.当時の上司が語った憲法25条の話が印象に残っている.生存権を定めた憲法25条は,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する.国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とうたう.公衆衛生とは,食物や空気,衣服,住居など生きていれば全てに関わるもの.国民の生存権に関わる非常に重みのある言葉なのだ.
 しかし,近年,「公衆衛生」という言葉が世間から消えつつある.かつて行政に存在した公衆衛生課の多くは,生活衛生課や環境衛生課に名前を変え,大学医学部でも公衆衛生を学ぶ学生は少なくなった.なぜ,憲法に定められた言葉をもっと大切にしないのか.

連載 基礎から学ぶ楽しい保健統計・8

割合の推定と検定

著者: 中村好一

ページ範囲:P.340 - P.345

point
1.母集団の割合の推定も点推定値±1.96×標準誤差で95%信頼区間を算出する.
2.割合の差の検定ではカイ2乗検定が基本となる.
3.標本サイズが小さい場合にはフィッシャーの直接確率法を用いる.
4.対応がある場合にはマクネマーのカイ2乗検定を用いる.

[講座]子どもを取り巻く環境と健康・3 環境化学物質の曝露(2)

POPs(ダイオキシン・PCB類)の曝露実態

著者: 梶原淳睦

ページ範囲:P.347 - P.352

 本稿では,はじめに環境化学物質測定の背景を述べ,ダイオキシン,PCB類分析法および化合物の構造や特徴を簡潔に説明した.次に,北海道スタディの妊婦血液や母乳中のダイオキシン,PCB類の測定結果を記し,ダイオキシン,PCB類曝露の現状を明らかにした.また,過去の事例としてダイオキシン,PCB類の高濃度曝露事件であるカネミ油症事件の次世代影響の最近の知見を解説した.最後に人体のダイオキシン,PCB類の約90%は食品から摂取されていると推察されるので食品中ダイオキシン,PCB類濃度の過去から現在までの状況を解説し,今後の化学物質の曝露量がどのように変化するか考察を試みた.本稿が環境化学物質の曝露実態を理解する上で何らかの参考になれば幸いである.

リレー連載・列島ランナー・74

生涯にわたって食べる機能を支援するまちづくり—保健所の公衆衛生と臨床の融合を目指して

著者: 矢澤正人

ページ範囲:P.353 - P.356

保健所に求めたもの
 大学院では,予防歯科を専攻し,動物実験に明け暮れていました.しかし,その時感じたことは,この動物実験の延長線上を歩み続けても,人間のトータルな健康は見えてこないのではないか,という思いでした.そのような思いを抱きつつ,保健所を進路に選んだ理由は,公衆衛生分野で活動していた仲間の存在が一つ.もう一つは,片山恒夫先生という歯周病治療では日本のレジェンドとも言うべき歯科医が,戦後のモデル保健所の一つ,豊中保健所に5年間勤務しておられた事実を知ったからでした1)
 とは言うものの,保健所は健診をするところぐらいの知識しか持ち合わせない私は,思い余って当時豊中市で開業しておられた片山先生の歯科診療所を東京から訪ねることにしました.片山先生の診療室での対話は,2時間の予定がとうとう6時間にも及び,私は最終的に「公衆衛生と臨床と教育のできるような職場を選びなさい」との先生の言葉をいただき,杉並区の保健所に勤務することとなったのでした.

予防と臨床のはざまで

発病,発症,それがどうした

著者: 福田洋

ページ範囲:P.346 - P.346

 このコラムでも何度か紹介させていただいた,臨床疫学ゼミですが,総合診療科とさんぽ会の共催で,働きざかり世代の生活習慣病や健康障害の予防や臨床に日々取り組んでいる専門職を対象として,臨床疫学・研究デザイン・統計手法の基礎を学ぶために開催しており,今回で69回を迎えます.2月26日に順天堂大学で開催した69回臨床疫学ゼミは,前半はいつも通りのピアレビューで,保健師の楠本真里氏(三井化学)から,同社で展開するヘルスマイレージの取り組みの報告があり,その評価のデザインやフレームワークについて議論が行われました.
 後半は,2014年度の締めくくりということで,父(福田勝洋,久留米大学医学部名誉教授)を北海道から講師に招き,疫学用語の用法の考察について特別講義をしてもらいました.専門職は,日々の業務で様々な専門用語を使っています.特に,患者や社員の病気や健康状態に関わる疫学用語については,特に意識しなくても頻用していると思います.例えば,特定健診・保健指導分野では,受診率,継続率,中断率,実施率,メタボ脱却率など,○○率の百花繚乱ですが,分子と分母を正しく把握している人がどれぐらいいるでしょうか.実際に,学会やシンポジウムなどの議論でも,用語の定義がしっかりしていないために,議論が噛み合わないということもよく経験します.

映画の時間

—いくつもの時を その瞳は見つめた 森よ 今あなたは どこにいるの—パプーシャの黒い瞳

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.357 - P.357

 1910年,ひとりの若いジプシー女性が娘を産む場面から映画は始まります.母親はその女の子をパプーシャ(人形の意)と名付けますが,出産に立ち会った呪術師の女性は,この名前に乗り気ではないようです.
 舞台は,1971年に移ります.刑務所に女性の高級官僚が訪れ,渋る所長を脅かして,窃盗で収監中の女性を釈放させます.この女性がパプーシャで,彼女の詩によるオペラの会場に連れて行かれます.ここで観客は,パプーシャが高名な詩人になっているらしいことを知ります.

お知らせ

公益財団法人 かなえ医薬振興財団 平成27年度アジア・オセアニア交流研究助成金募集要項 フリーアクセス

ページ範囲:P.298 - P.298

趣旨 近年の生命科学分野において研究者間の交流,ネットワーク,および共同研究が急速な発展に寄与しており,これらの交流は革新的な発見から臨床応用まで少なからぬ貢献ができると考え,アジア・オセアニア地域における共同研究に対する助成を行う
助成研究テーマ 生命科学分野におけるアジア・オセアニア諸国との交流による学際的研究—特に老年医学,再生医学,感染症,疫学,医療機器,漢方,その他

Ⅰ 第34回健康学習研修会「行動変容,意識変容の基本となるコミュニケーション技法の習得」 フリーアクセス

ページ範囲:P.315 - P.315

2015年7月2日(木)9:45〜3日(金)17:15
テーマ 元気・やる気が生まれるコミュニケーション法とは

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.358 - P.358

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.359 - P.359

あとがき フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.360 - P.360

 医学生時代に学部の食堂は司法解剖室や監察医事務所の裏にありました.その横を通って食事に行っていたので,司法・行政解剖の風景とその臭いには慣れさせられました.監察医事務所長を兼ねていた当時の法医学教授から,行政解剖は公衆衛生の観点からのものであることは教えていただいていました.本特集の玉稿を拝読し,わが国の死因究明制度が正当に位置づけられていないことに,わが国の公衆衛生制度が未成熟であったことが関係していたと感じさせられました.わが国の公衆衛生制度も戦前は内務省,警察の影響力下にあったからです.医学部に公衆衛生学講座が設けられたのは戦後のことです.
 死因究明制度が今でもまだ正当な位置づけが得られていないという現実はわが国の社会の問題でもありますが,実は公衆衛生制度の問題でもあると感じさせられました.死因究明制度が確立されているイギリス,オーストラリア,スウェーデンなどの国が,公衆衛生制度を誕生させたり,社会保障制度をつくりあげたりした国であることは,決して偶然なことではないと感じさせられました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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