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自殺対策における公衆衛生のリーダーシップ
著者: 本橋豊1
所属機関: 1京都府立医科大学
ページ範囲:P.506 - P.507
文献購入ページに移動2006年に自殺対策基本法が成立してから今年で9年目になる.当時,日本全体の自殺者数が3万人を超える厳しい社会状況の中で,自殺対策は日本全体で取り組まなければならないという雰囲気が関係者の努力で醸成されていた.WHO(世界保健機関)が自殺問題を公衆衛生上の課題と位置づける文書を公表したのが2004年のことだったが,その時点での公衆衛生関係者の自殺対策への関心は高くなかったと記憶している.自殺対策基本法とこれに続く自殺総合対策大綱の策定は,自殺対策を公衆衛生上の課題という範囲を超えて,社会問題として対策に取り組むべき必要性を提示した.具体的に言えば,多重債務問題解決のための法整備や自死遺族支援のための枠組みの構築などである.
公衆衛生関係者の自殺対策への取り組みは,まず精神保健の研究と実践から始まったが,自殺対策基本法の施行後は関連諸分野との連携を模索しながら,公衆衛生のアイデンティティを越える形で取り組みは進展していった.すなわち,うつ病や精神保健の課題に限定することなく,住民参加やエンパワメントなどのヘルスプロモーションのアプローチを広く用いて,民間団体・法曹関係者・学校関係者などと連携しつつ,地域や職場における自殺対策を推進していく枠組みができた.これと平行して,公衆衛生関係者は地域の自殺対策の介入研究を行い,総合的な自殺予防事業により農村部において自殺率が短期間に確実に減少することを明らかにした.今後は,このような自殺対策の成果を次の段階の政策展開にいかにつなげるかが問われているのである.
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