icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生8巻3号

1950年10月発行

雑誌目次

主張

拔けた社會保障制度案

著者: 大渡順二

ページ範囲:P.114 - P.114

 社會保障制度という言葉ほど便利な言葉はない。その概念にしても狹い經濟的な救貧の考え方から,無血革命の考え方にまでお好み吹第の振幅をもつている。だから無産者の陣營からもこれを唱えれば,自由黨の吉田内閣までも一樣にこの言葉をお守札のようにばらまいて來ている。議會で國民福祉について困つたことがあれば,何でも彼でも「何れ社會保障制度の一環として考えたい」といい抜けて來た。その扱い方は誠に不眞面目そのもので,現に,あの六月の試案要綱が審議會から發表されたに拘らず,これを本格的に採上げるための内閣の行政的姿勢はちょつとも講ぜられていない。一握の事務官が寒む寒むとふるえているに過ぎない。
 だだこの試案要綱が,その内容的な批判は別として,ともかくも一應まとまつた構想として,いままでの雲をつかむようだつた問題に,有力な方向を示唆した功績は大きい。現に明年度の豫算に結核對策が可成り幅廣く,總花的に計上されたのも,たしかに,この試案要綱に負うところが多いと思う。逆に皮肉に言えば,本來の結核對策が,この「社會保障制度をつくるべし」の世論に便乘し,その試案要綱を利用して,抜け目なく點を稼いだといつた形である。

グラビヤ

保健所活動の一例—東京都中央保健所より

ページ範囲:P.115 - P.116

--------------------

結核の感染と發病

著者: 岡西順二郞

ページ範囲:P.117 - P.120

1)結核菌の感染經路
 結核は結核菌の感染によつておこる傅染病である。肺結核患者の痰,飛沫等によつて,結核菌が未感染者に侵入するのがもつとも多く見られる經路である。腎臟結核患者の尿,腸結核,肺結核患者の糞便,結核性膿瘍その他の膿汁などにも結核菌が含有せられるが,これが感染をおこす因子となることは稀である。結核牛の牛乳が牛型結核菌の感染をおこさせることは,わが國ではきわめて稀有であると考えられている。
 結核菌が侵入する門戸は大多數の場合,呼吸器とくに肺である。しかも,これは,飛沫感染或は塵埃感染の形で呼吸器内に吸引せられる場合がもつとも多い。衣類,寢具,書籍などに附着した結核菌は比較的長時間生存するが,これが塵埃感染の形式で感染をおこすこともあり得る。

小兒麻痺の疫學と治療

著者: 北岡正見

ページ範囲:P.121 - P.124

 過去においてわが國であまり問題にされなかつた小兒麻痺(以下polioと略)も學界の注目をひくようになつた。その理由は嘗ては散發性であつた本症も近年流行性に多發する樣になり,昭和22年3月5日厚生省令第5號,傳染病屆出規則が發されたり,同22年12月12日法律第64號,兒童福祉法が施行されたりし,昭和22年並に24年には夫々980例並に3130例の患者が屆出され,醫師並に一般の本症に關する知識が著しく進歩したからである。その結果最近polioに關する特集號(1)が發行され,また著者(1-7)も數篇の研究業績を發表した。こゝに先づpolioウィールス(以下ウィと略)について觸れ,ついでその疫學及び治療について述べることにする。

食糧資源より見た國内榮養對策

著者: 有本邦太郞

ページ範囲:P.125 - P.127

 我國の食糧事情は順調な輸入食糧の救援にもよるが國内生産も増加して次第に好轉し,從つて國民榮養状態も漸次戰前のそれに回復しつつある。
 圖1は厚生省が實施している榮養調査から熱量及び蛋白質の攝取量について,その推移を畫いたものである。即ち一人一日當り攝取量をみると,熱量,蛋白質ともに年とともに増加し,昨24年度においては年間平均,都市は熱量1972Cal.蛋白質67.7gであり,農村は熱量2165Cal.蛋白質64.6gという成績を示している。これを國民食糧榮養對策審議會(22年9月)が決定した國民一人一日當り標凖榮養量と對比すると,都市においては熱量,蛋白質ともに約10%の不足であり,農村においては蛋白質は約14%不足であるが,熱量にあつては標凖量をわづかに超えていることになる。即ち食糧資源よりこれを解釋するとき,國民のカロリー及び蛋白必要量を充すになお10%内外の不足があるということになり,榮養的には熱量及び蛋白質の攝取量に關する限り標準必要量の約90%にまでこぎつけたということが推論される。

學校のサニテイシヨン

著者: 宮坂忠夫

ページ範囲:P.128 - P.130

 學校のサニテイシヨンの問題としては,一寸拾つてみても,給水と給水施設のこと,下水や汚物處理のこと,鼠族昆虫の驅除のこと,校舍・寄宿舍・運動場・プールなどの衞生,學校給食に關連して,食料品の貯藏・調理・供給の衞生など色々な問題が山積されている。そして,それらのどの一つを取つても,何れも重要なものばかりであるが,一方また校舍すらなかなか建てられない我が國の現状を考えてみると,これらの問題がどの程度,處理されたら滿足しなければならないかということも非常にむつかしい。
 理想的にいえば際限がないし,あまり貧弱でもこまる。

結核に對する抵抗性

著者: 川村達

ページ範囲:P.138 - P.139

 最近E. R. Longは,結核に對する抵抗性について綜説している。その抵抗性を支配する因子として,榮養,心理的要因,大氣,安靜あるいは勞作などにも觸れているが,中心は,Baldwinその他の,より特異的な抵抗性に關するもので,その方面の最近の傾向を述べている。この部分の簡單な紹介をおこない,關係の深い私の研究を附記して,御參考とし度い。
 Baldwinは第6回國際結核會議に發表した「結核免疫の問題」の中で,結核に對する抵抗性を先天的なものと後天的なものに分け,後天的抵抗性附與に,弱毒結核生菌を用いる理論について述べた。この理論は40年後の今日,廣範なBCG接種計畫として實施化されているが,Baldwinは多くの研究者の,結核免疫の動物實驗成績が,結核死菌や製劑より生菌を用いた方が優れていることを認め,臨床的にも,結核の高い免疫性を考へ,生菌免疫による人類の結核免疫の可能性を述べたのである。その後Gardnerとの共同研究により,慢性結核症の2次感染は,外因性よりむしろ内因性ではないかと考える樣になつた。この樣な後天的な抵抗性の本態に就ては,PirquetやRömerの影響を受け,漸次ツベルクリンに對する過敏性を重視し,細胞性の防禦力を強調する樣になつた。彼の協力者Krauseは,アレルギー性炎症反應は,再感染の菌量が大きいと組織に破壞的に働くが一般には生體の抵抗力の高さを示すものであるとした。

水産加工食品の細菌汚染度

著者: 大園榮一郞 ,   高尾朔

ページ範囲:P.139 - P.140

 はしがき:非衞生的不良食品は傳染性腸疾患や食中毒をおこしやすいから,これら惡質食品の一掃は公衆衞生の一關心事であることはいうまでもない。その目的で食品衞生法が施行されて二年餘すぎたが,所期の目標に至るのは仲々困難である。我々は市販食品のうち,大阪市内の水産加工食品販賣店23の魚介乾製品・水産調味加工品・魚肉煉製品・加工昆布類につき,昭和24年8-9月昭和25年3-4月の2回に亘り,細菌學的にその汚染度を檢査し,食品衞生に寄與せんとした。
 檢査方法:檢査對象とした食品は表にみるとおりであるが,煉製品のほかは10瓦の試供材料を100ccの滅菌水道水をいれた滅菌大型コルベンにいれて5分間浸漬しさらに2分間振漬し,その水を被検原液とした。煉製品は10瓦の材料を100ccの滅菌水道水ですりつぶし乳劑液とし,これを被檢原液にした。

學童の尿中ビタミンB群排泄量

著者: 橋本日出男

ページ範囲:P.140 - P.141

緒言
 日本の學童尿中ビタミンB1及ビタミンB2排泄量に關する調査は既に若干發表されているが,ビタミンB1,ビタミンB2及ニコチン酸の代謝産物たるN'-メチールニコチンアミド(以下夫々單にB1,B2,N'-Mと略稱する)を同一尿につき同時に測定し,その綜合的關係を觀察した例は少く,とくにN'-Mの排泄量は日本では未知の域にあるといえよう。そこで私は學童尿中のこれらB群の排泄量を測定し,とくに健常兒童と榮養要注意兒童排泄量の差異に注目した。從來發表された小兒の尿中B1及B2排泄量に關する主な報告は表1の通りであるがN'-Mに關する報告はない。
 1.觀察對象:京都市立勸修小學校の兒童中,同一家族の兄弟姉妹で三名以上が同校に通學して居る健常な同胞群(特定の眼疾患,並に口唇,口角,口内炎等を認めず)23組68名及榮養要注意兒童10名(何れも別家庭)を被檢者とした。なお栄養要注意兒童の判定には私(5)の提案した一新法(年令別身長別體重を基準とし榮養可良域,握視診域,榮養要注意域を區別し,臨牀的檢査により握視診域兒童を榮養可良又は榮養要注意に篩い分ける方法を適用した。

消化器傳染病の集團發生

著者: 岡野和一

ページ範囲:P.142 - P.143

 厚生省發表によれば戰後消化器傳染病の患者の總數は次第に減少しているがその集團發生の状態はどうなつているであろうか。又これらの屆出の實際はどうなつているか。
 たゞしこゝに集團發生とは同じ場所に於て約20名以上同じ系統の感染經路によつて殆ど時を同じうして發生したものといふ定義による。

北日本公衆衞生會議

著者: 小谷新太郞

ページ範囲:P.153 - P.155

 昭和25年4月18日から3日間,日米合同北日本公衆衞生會議が仙臺市に於て盛大に行われた。會場は東北大學醫學部講堂で,参會者は進駐軍側は30餘名,日本側は200名餘であつた。會場の中央壇上には,この會議のモツトーである "Plan your part in preventing diseases" "豫防は皆さん自身の力で" と大きく書かれて掲げられてあつた。いくつかのマイクロフオーンがそなえてあり,會場の大きさもこの種の會議にふさわしい大きさであつて,會議を成功に導くに與つて力があつた。
 さて第1日の午前中は,關係者の祝辭があり,サムス准將より會議の目的について説明があつた。その中で廣い意味の公衆衞生には4つの面があると述べられた。(1)疾病豫防Prevention (2)醫療Medical care (3)社會福祉Welfare及び(4)社會保障Soci l securityである。この4部面がうまく組合わされて行はれなければ,眞の公衆衞生の成果を期することはできない。今回は疾病豫防を主として會議の題目に取り上げたが,その他のものが取り上げられなかつたからとて,それが公衆衞生上重要性が少いということを意味するのではない。今後は少なくとも6ヶ月に1回,この種の會議を開いて,順次公衆衞生の各方面の問題を取上げて行くつもりであるとも述べられた。

疫學總論(2)

著者: 野邊地慶三

ページ範囲:P.156 - P.158

第2講 傳染源
Ⅰ 患者
(1)患者の傳染危險期間
 各種傳染病患者の周圍に對する傳染危險期間を確認することは傳染源對策の第一の問題である。ハシカはその傳染危險期間が最も確然とした病氣であつて,初期のカタール期3〜5日,發疹期3〜5日,計6〜10日平均8日が危險であるが,發疹が消えると同時に危險が止むものである。從つて學校傳染病豫防規程で主要症状消退後なほ1週間登校を禁止してあるのは,行政との安全率を考慮した處置であつて,學校醫は上述の疫學的事實から手心を加えてよいのである。猩紅熱では一般に發病後3週間で危險期が終るのであるが,小兒では4週間,大人でも冬期は同じく4週間に延びる。なお中耳炎,副鼻洞炎,鼻カタール等の合併症が起ると,その全快する迄延長するものである。この樣な合併病がある場合,若し平常の規準通りに,退院させると退院後家庭内二次感染例Return Caseを起すものである。但し本病の落屑は危險がないものである。天然痘は痂皮が剥離すれば患者は傳染源としての危險がなくなるが,痂皮内のヴイールスは長く生きて居るので危險である。また百日咳は初期のカタール期1〜2週間,痙咳期の初めの3週間,都合4〜5週間傳染の危險があるのである。本病の痙咳はなお數週間乃至2〜3ケ月間續くことがあるが,上記の期間が過ぎれば,最早隔離を必要としないものである。

國内・海外ニュース

ページ範囲:P.161 - P.163

臨時診療報酬,臨時醫藥制度兩調査會の設置
 醫藥分業問題を早急に解決すべく,この度厚生省では臨時診療報酬調査會及び臨時醫藥制度調査會を設置(いずれも庶務は大臣官房總務課で處理する)し,醫藥分業について調査審議することになつた。
 臨時診療報酬調査會においては,醫師,齒科醫師及び藥劑師の專門的技術に對する適正な技術料と藥價の基準を調査審議するのであるが,技術料及び藥價が適正であるかどうかは,第一に專門的技術に對する報酬額が醫師,齒科醫師,及び藥劑師の生活の安定を維持しまた醫療内容の向上を來すに足るものであること,第二には技術科及び藥價の總計である醫療費が國民に對して著しい經濟的負擔の増加を及ぼさないことという,二つの觀點から見て勘案檢討の上定められるのである。また臨時醫藥制度調査會においては,醫藥分業の可否,及び醫藥分業を實施することが可なりとする場合においては,その實施の具體的方法,地域及び時期等を檢討し,更に關係議法規の改正等をも調査審議することになつている。

質疑應答

著者: 染谷四郞

ページ範囲:P.166 - P.168

 問 BCGワクチン注射は結核の發病を防止し,死亡率を低下させるが,自然感染の豫防にはあまり期待できないといわれている。豫防注射は本來感染防止を目的としたものであることから考えると,少し不思議に思えるが,これは一體どうしたわけでしようか。
 答 一般に疾病の豫防にワクチン注射を行うことは感染豫防と,發病豫防との兩方をその目的としているものである。すなわち感染防禦の免疫抗體が充分生體内に産生されておれば,その病原體の浸襲は行われず,あるいは浸入した病原體も直ちに死滅されて感染が防禦されるであらう。しかし免疫が感染を防禦するほど強くなければ病原體の感染は免がれ難いが生體内で増殖が疎止されて發病までに到らないようにすることも期待出來る。このことはまた免疫が充分出來ていても,病原體の毒力の強弱によつて樣子が變つてくる。例えば結核菌のように免疫體の存在する生體内においても菌が増殖し,生存して行くことの出來る場合は感染豫防の面は少なくて,發病防止に專ら豫防注射の效果を期待することになるのはやむを得ないことゝ考える。

公衆衞生と社會(最近の新聞より要約)

著者: 榊原享 ,   高野一夫

ページ範囲:P.169 - P.171

醫藥分業
 多年紛爭を續けて來た醫藥界懸案のいわゆる醫藥分業問題はこのほど厚生省の斡旋により,臨時診療報酬調査會および臨時醫療制度調査會が設置され,學識經驗者など第三者を交え日本醫師會,日本齒科醫師會,日本藥劑師協會の三者が,それぞれの立場より討議し,最後の解決をはかることになつた。しかしこの問題は単に醫師,藥劑師の問題だけでなく一般への影響も大きいので和解にはなほ月日を要することと思われる。兩者の主張を紹介してみよう。

讀者の手紙

著者: 橋本日出男

ページ範囲:P.171 - P.172

學校衞生統計調査項目中の大きな無駄
 1千9百萬人の身體檢査の結果を對象とする此の大統計の集計は昭和23年から從來の學校衞生關係者の手から離れて地方統計機構の系統を通じて行う事になつた事は,徴兵檢査及國民體力檢査の無くなつた今日正確迅速を期する上から機宜を得た措置と云わなければならぬ。然るに此の調査項目中の榮養状態要注意者數は其資料が區々であつて集計の意味をなさず國家的に大きな無駄をして居るのみならず實際面に於て健康教育實施上大きな障碍となつて居る。茲に例を最近の京都市小學校兒童に取つて見るならば榮養要註意の全然無い學校も有れば之が全兒童の1/3以上にも達する學校もあつて其結果が甚しく不統一であるが之は身體檢査規程に榮養状態の正確な把握法や各校醫の主觀の相違を是正する手段が規定されて居ないためである。もつとも以前は肋骨附着部が識別される程度によつて三段階に分類する方法が行われたが之は本邦學童には判定が酷で實情に副はぬ憾があつた。其後本邦に於ても種々の判症法が行われたが主として計測値のみを基準としたものが多く臨牀的所見を併用したものが少く適當と思われるものがない儘に戰爭になり昭和19年には其の檢査實施要領で『榮養指數等により判定するの要なき事』と規定され各校醫の主觀に一任された形となつた。

人事消息

ページ範囲:P.151 - P.151

 ◇川畑愛義氏 厚生技官から日本大學體育研究所長であつた氏は最近京都大學教養學部教授に就任。
 ◇瀨木三雄氏 厚生省兒童局母子衞生課長から厚生省の統計調査部主任であつた氏は新設の東北大學醫學部公衆衞生學教授に就任。

海外文献

結核・經濟・環境,他

著者: 田多井

ページ範囲:P.131 - P.132

 環境衞生の先覺者Simon卿が,家畜と同じ生活を送るロンドン下層階級に注目してから,健康における經濟的環境的因子が重要視され,關係統計資料も多數えられた。しかしながら,彼やVirchowが指摘したような激しい社會的不均衡は,今日の西歐諸國では消失し,北歐では外國旅行者に,經濟階級が判斷しかねる程になつている(1)。
 しかしバフアロー市の年令別結核死亡率(1939〜1941)には,中年以上の男子において,經濟地區間に明瞭な差異があらわれている(2)。かく經濟状態と結核死亡率との逆相關が,成人女子よりも成人男子に大きいことは,そこに含まれる因子としての經濟状態以外に,職業状態が肉體的過勞として重大な影響を與えていると推察される。これに關しテネシー州の職業階級別死亡率(1944〜1946)をみると,職業的環境がいかに役割りを演じているかゞ判る(3)。その數字をさらに,1930年におこなわれた10州の調査(4)と較べると面白い。下位階級にいたるほどその15年間に死亡率が著しく改善された。しかもなお,經濟階級間にある疾病の不均衡は,結核に關するかぎり全くとり除かれた譯ではない。

時評

何かゞ拔けている?

著者:

ページ範囲:P.137 - P.137

 明年は日本の結核豫防事業史上,劃期的な年になりそうである。優曇華の花咲く年と言つては過言かも知れないが,結核關係者にとつては積年の希望が漸く實現の一歩をふみ出す年であろう。4ヶ年計畫で病床の倍加が實現しそうで,さしあたり來年度は2萬1千床を15億圓で増設する。國民の三割に對して,一部國庫負擔による健診を行うため2億圓が用意されている。30歳までのツ反應陰性者その他に對し國費及地方費によるB・C・G接種が行われる。結核の治療費の二分の一を國庫及び地方費で負擔するために9億圓が用意される。という風に總額87億圓,昨年度に比し,實に35億増という巨費が承認された。今後各方面との接衝の末,確定するわけではあるが,今回の豫算内定をみても,官民とも容易ならざる決意を以て,結核對策に乘り出したことが察せられるのである。二旬に亘り晝夜を舍かない奮闘をつづけた厚生省内外の關係者,ことに主務當局である公衆衞生局及び醫務局の關係者の努力と熱意に對し,又その説明によく耳を傾けて,結核對策の緊急性を容認した財政當局者の明敏と英斷に對し深い感謝と敬意を拂わずにおれないのである。
 しかしながら一方に於て,我々はたとえ望蜀のそしりは受けようとも,本對策について畫龍點睛を缺いてはいないだろうかという疑問を敢て提出しようとするのである。それは我國の醫療體系の問題である。結核豫防事業の第一線機關として,保健所7百が見事に整備されつゝあることは實に慶ばしい。

對談

アメリカの衞生教育

著者: 緖方富雄 ,   楠本正康

ページ範囲:P.133 - P.136

 司會者 今度楠本先生がアメリカのヘルス・エジュケーションを中心とした醫師會の活動や,地方の活動をみて歸られたということで,その總括的な御感想を話していただき,緖方先生にそれを補足していただくという形で話を進めていただきたいと思います。御歸り以來お忙がしく,緖方先生を掴まえるのには苦勞しましたが…。
 楠本 僕はヘルス・エジュケーションということを中心にして見てきたのですが,アメリカでは行政に對する國民の考え方を基礎として衞生教育が必要なんですね。だから日本とはまた別の意味の必要があるんですね。つまりもつと具體的に申しますと,民主的な行政というものは,結局それを衞生行政の面からみればですね,衞生教育が根本だということになるのです。アメリカでは衞生の問題を上から押し付けたり權限で仕事をするというのはとても惡いことになつているのです。それではどういうことかというと,國民の良き理解と協力ですね,これによつてのみはじめて衞生行政は完全に行われうるという考え方なのです。従つて,國民の良き理解と協力とを得るためには,ここに衞主教育が基盤になるのです。あちらは御承知のように州も郡も市も獨立しておりますが,ある市の,またはある郡の衞生行政が非常に振わなかつたとすれば,その根本を更に突いてみると,衞生教育が滲透していないからだという結論をつくるわけでね。

統計の頁

小兒麻痺の統計

著者: 平出光

ページ範囲:P.145 - P.148

 從來比較的に等閑に附せられて來た小兒麻痺が,最近醫學のあらゆる面から問題にされ,又,肢體不自由症の最も大きな原因として,社會的にも採り上げられて來たことは,可愛い盛りの子供を持つ親達にとつて.更には廣く「文化國家」を云々する私達の國にとつて,まことに喜ばしい事である。
 そこで我が國の小兒麻痺(poliomyelitis)に關する統計資料をこゝに招介し,その動向と現状をお傳えする。

醫藥隨想

農村の勞働に於ける新らしい傾向について

著者: 安騎東野

ページ範囲:P.149 - P.150

 農村厚生の諸問題を詮じつめれば,過勞と粗食の點に焦點を結ぶ事は今更こゝで論ずる程の事でもない位既に萬人に認められた常識である。
 問題の解決を急ぐ人達に云はせれば,もうそこ迄はつきりしているなら,解決策としては農村を機械化し,そして農民にうまいものを食はせればそれでいゝのではないかとおつしやる。誠に御尤もな話である。しかしこう簡單に云い切られて見ると,話が何んとなく猫の頸に鈴をつける話のようになつて,あまり御尤も過ぎて,伺つてゐる方には味けもそつけもなくなつて了う。

窓明け運動

著者: 楠本正康

ページ範囲:P.150 - P.151

 もう,かれこれ,10年の昔になるが,私が丁度,豫防局の結核課につとめていた頃,石川縣の結核死亡率は,毎年30をはるかに越えていた。私たちは,何とかして,この問題に手をつけなければならないと,いつも半ば希望をもつて考えていた。そして,これが石川縣でも縣政の大きな宿題であつたことは云うまでもない。
 多分,昭和15年の6月だつたと思うが,石川縣知事の土居さんが,天皇陛下にお目にかゝつた時,陛下は石川縣の結核のことを大變御心配になつておられ,いろいろ知事さんに御質問があつた。當時のことだから,知事さんもすつかり恐縮して,その歸りみちに,まつすぐ結核課にやつて來られた。そして,結核豫防については,石川縣としても最大の努力をするから,厚生省としてもできるだけの援助をして欲しいとの話であつた。

公衆衞生の發達・6

疫病の確認とその豫防—公衆衞生の出發

著者: 杉靖三郞

ページ範囲:P.159 - P.160

 18世紀にはいつて,國家が公衆衞生の一面を管理しはじめた。それは18世紀以來19世紀を通じてペストが流行したので,それが侵入することを防ぐために,港々に檢疫所を設けたのである。近東からペストがヨーロツパにはいつて流行を見たのは1709年にロシヤであつて,次いで中部ヨーロツパに擴がり,更に1720年にはマルセイユとチユーロンに流行つた。
 この18世紀のマルセイユの流行が,イギリスにはいらなかつたのは,港に檢疫所を設けたからであつて,疫病を喰いとめる效果があつたのである。この檢疫所というものは,現在では,古臭い,厄介な,そして不人情なものと考えられがちであるが,實際に大きな效果があつたのである。そして,それにつづいて避病院が數多く建てられるに至つた。

公衆衞生學教室めぐり・1

松岡脩吉教授を迎へた東京大學醫學部

著者: T生

ページ範囲:P.144 - P.144

 初秋のある晴れた日の午後,東京大學の公衆衞生學教室を訪れた。都電赤門前で下車し,國寶の赤門をくぐり,うつ蒼と繁つた銀杏並木を通りぬけ,右に折れると,中世の城砦のような建物の前にでる。これが目指す醫學部一號館で,ここには公衆衞生學教室の他,衞生學,黴菌學,生理學,生化學,藥理學の各教室がある。
 公衆衞生學教室は,昭和21年醫學教育審議會の答申に基ずき,昭和23年に設置されたものである。初代の主任教授は人も知る勞働衞生學界の第一人者である石川知福博士であつた。

保健所だより・Ⅰ

東京都中央保健所の實績

著者: 奧野徹

ページ範囲:P.152 - P.152

 この保健所が事實上發足したのは保健所法制定に先立つこと2年,昭和10年(1935)の事であつて今日迄約15年を經過している。當初に於ける目的は,將來公衆衞生院に於ける衞生技術官養成に際して都市衞生の臨地訓練場とすることと,大都市の地區保健事業の模範地區を作ることの二つであつた。その名も東京市特別衞生地區保健館と呼ばれた。其の後昭和23年の新制保健所法の施行に件つて末端衞生行政廳としての業務もを抱合して今日に及んでいる。
 最初の2ヵ年は建物も出來ず,多くの意味で準備期として過ぎた。3年目から約5年間は事業が大體順調に進められた第一の時期であつたが,次で起つた太平洋戰爭の混亂のうちに保健衞生事業は必然的な退歩を餘儀なくされ,昭和22年に至つて漸く第二の事業期に入つたと見ることが出來よう。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら