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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生80巻10号

2016年10月発行

雑誌目次

特集 包括的な糖尿病対策

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ページ範囲:P.717 - P.717

 11月14日は世界糖尿病デーです.世界に拡がる糖尿病の脅威に対応するために,国際糖尿病連合(IDF)と世界保健機関(WHO)が1991年に糖尿病啓発の日として制定し,2006年に国連により公式に認定されました.
 しかしながら,制定から25年が経過した現在も糖尿病患者数は爆発的に増え続けており,IDFの発表によると,2015年現在,世界の成人(20〜79歳)糖尿病人口は4億1500万人に上り,有病率は8.8%と推定されています.日本においても,2012年に実施された国民健康・栄養調査によると,「糖尿病が強く疑われる人」と「糖尿病の可能性を否定できない人」の合計は約2050万人と推定されており,対策の一層の推進が求められています.

糖尿病のリスク・予防要因

著者: 後藤温 ,   津金昌一郎

ページ範囲:P.718 - P.726

 「平成24年国民健康・栄養調査」では,「糖尿病が強く疑われる者」は,男性15.2%,女性8.7%であり,糖尿病有病者数は男女合わせると約950万人と推計されている1).同調査によると,糖尿病有病者数は増加しており,2型糖尿病が約95%を占める.人口の高齢化に加え,運動や食事などの生活習慣の変化,肥満の増加が有病者数の増加に影響していると考えられている.本稿では,多目的コホート研究(JPHC Study)の成果や国内外の研究結果を踏まえて,生活習慣と密接に関係する2型糖尿病のリスク・予防要因を要約することにより,一般集団に対する糖尿病の予防について検討する.

世界の糖尿病の現状と対策

著者: 公益社団法人日本糖尿病協会

ページ範囲:P.727 - P.733

 現在,世界の糖尿病人口は4億1500万人に上っており,2040年には約6億4200万人に達すると試算されている.中でも日本が位置するアジア・西太平洋地域の患者数の増加は深刻で,2015年は1億5320万人と全世界の約3分の1の糖尿病患者がこの地域に集中している.わが国においても,糖尿病と強く疑われる人と可能性を否定できない人の合計は約2050万人に上り,早急な対策が迫られている.
 国際連合(国連)により「糖尿病の全世界的脅威を認知する決議」が採択されて今年で10年.この間,世界では糖尿病の予防,治療,療養を喚起する様々な啓発運動が展開されてきた.本稿では,世界の糖尿病の現状と糖尿病の抑制を目指す活動を紹介し,今後必要とされる取り組みを概観する.

米国の糖尿病対策

著者: 内潟安子

ページ範囲:P.734 - P.736

 米国糖尿病学会学術集会が1940年から,欧州糖尿病学会学術集会は1965年から毎年開催されている.因みに日本糖尿病学会学術集会は1958年から開催されており,糖尿病に対する日本の意欲は素晴らしいものといえよう.
 本稿では,米国の糖尿病に対する国家的戦略とでもいうDCCT/EDIC研究を例に取り上げて,米国における糖尿病の動向が世界を席捲してきた現状を示したい.

血糖モニターと糖尿病の療養指導—その変遷と今後への展望

著者: 西村理明 ,   池田義雄

ページ範囲:P.737 - P.742

糖尿病療養指導の手段としての血糖測定の歴史
 糖尿病療養指導の手段としての血糖測定の歴史の始まりは,1964年前後に血糖値を試験紙で測定するという簡易な方法が導入された時にさかのぼる.相前後して,実際の血糖値を簡易に測定できる機器の開発が進行していた.
 1970年代に入り,アメリカのマイルス社(エームス事業部)によりdry chemistry systemによる簡易血糖測定法が開発された.ここで用いられた試験紙はデキストロスティックスと名づけられ,色調を測定する専用の分光光度計としてリフレクタンス・メーターが考案されたが,かなり大型の機器であった.この機器の改良により1974年に小型化されたものが開発され,わが国ではDexter(デキスター)として13万8000円で発売された.これが血糖自己測定(SMBG:self monitoring of blood glucose)を実用化させる基になった.

栄養学からみた糖尿病—エネルギー制限と糖質制限

著者: 江部康二

ページ範囲:P.743 - P.748

従来の糖尿病食(エネルギー制限・高糖質食)は糖尿病を増加させる—久山町研究
 久山町は,福岡市の東に隣接する,人口8,000人足らずの町である.1961年から九州大学医学部が,ずっと継続して40歳以上の全住民を対象に研究を続けている.5年に一度の健康診断の受診率は約80%で,他の市町村に比し高率である.また,死後の剖検率も82%の住民において実施されていて,精度の高い研究の支えとなっている.
 1961年当時,日本の脳卒中死亡率は非常に高く問題となっていたが,久山町の研究により,高血圧が脳出血の最大の原因であることが判明した.それを受けて,食事の減塩指導や降圧剤の服用で血圧のコントロールを行ったところ,久山町の脳卒中は1970年代には3分の1に激減した.

エビデンスに基づく運動療法

著者: 佐藤祐造 ,   酒井映子

ページ範囲:P.749 - P.754

 現在,わが国の医学,医療の現場では,本稿の題名のように,根拠に基づく医療(EBM)が求められている1).糖尿病運動療法に関する臨床・研究の分野においても,安静の弊害2〜5),運動指導と糖尿病発症予防に関する疫学的追跡調査成績が報告される6〜20)など,運動療法の有用性を証明する根拠が次第に明確になっている.また,マイオカイン(myokine)を介した身体運動効果発現のメカニズム解明など画期的なエビデンスが報告されている21,22).さらに,日本糖尿病学会は「糖尿病運動療法・運動処方確立のための学術調査研究委員会」(委員長:佐藤祐造)を設置し,糖尿病運動療法の現状に関する質問紙調査を実施し,その調査成績が昨年までに報告された23〜27)

2型糖尿病の発症抑制・早期治療介入へ

著者: 河盛隆造

ページ範囲:P.755 - P.760

 インスリン発見の地,トロント大学は「インスリン発見100周年シンポジウム」を2021年に開催すべく,早くも準備を開始した.「2021年には糖尿病はどうなっているか?」との討論が始まった.筆者は,「1型糖尿病は再生医療の進歩で,治癒する病気になっている」と述べた.iPS細胞,ES細胞の活用,さらには膵外分泌組織からの内分泌細胞への分化促進技術などの活用により,患者の膵β細胞を再構築することができよう.移植後の拒絶反応も,biomembrane(生体膜)などの進展とその応用により克服できるであろう.準備委員会の他のメンバーも,“promising, probable”と同意してくれた.それまでの間,1型糖尿病患者の血糖コントロールをより良好に保ち,決して血管障害を発症させないことが明確な治療目標になろう.
 一方,世界で激増し続ける2型糖尿病はどうなっているであろうか.筆者は「2型糖尿病と診断されるとすぐに治療して,“もとの糖尿病でなかった状況に戻る”のが当たり前,という時代になっている」と強調したが,他の委員全員から,“You are too optimistic!”と言われた.そこで,「日本ではカナダや米国と異なり,全ての人が定期健診などにより早期に糖尿病と診断されている.1年前には正常だったのに,この1年生活にどのような変化があって糖尿病が発症したのか,詳しく聴取し,その原因を除去するように指導することにより,正常血糖応答に復している例が絶えず見られる.5年もあれば実現可能だ」と言った.皆からは“Good luck!”と冷たく言われた.少なくとも日本ではそうなっているように,最前線の若手医師には今こそ全力を尽くしてもらいたい.現実に,2型糖尿病の治療に長い間専念している患者さんの現状を理解すれば,そのことの重要性が理解できるはずである.

足立区糖尿病対策アクションプラン—「あだちベジタベライフ〜そうだ,野菜を食べよう〜」の取り組み

著者: 馬場優子

ページ範囲:P.761 - P.766

 足立区では,2001年度に「健康あだち21行動計画」を策定し,区民と協働で健康づくりに取り組んできた.その結果は,11分野に総花的な対策を行ったことから区民の健康状態を本質的に改善するには至らなかった.
 2012年度,新計画策定にあたり過去10年間の足立区民の健康状態や意識を改めて精査したところ,以下のような実態が浮き彫りになった.

視点

災害の公衆衛生,原子力災害の公衆衛生

著者: 安村誠司

ページ範囲:P.714 - P.715

 2011年3月11日(金)14時46分に発生した東日本大震災により,岩手県,宮城県,福島県を中心に地震,津波により,1万5000人以上の方が亡くなり,また,2500人以上が行方不明となっている(2016年3月10日時点,警察庁).
 今年4月14日(木)21時26分,16日(土)1時25分に熊本県,大分県を中心に震度7を記録する熊本地震が発生した.その後も余震が続き,死者が49人,関連死疑いが20人,行方不明者が1人(2016年5月24日時点)であり,最大時18万人を超える避難者がおり,その後減少するも多数が避難生活を送っている.

連載 衛生行政キーワード・110

糖尿病対策

著者: 髙山啓

ページ範囲:P.767 - P.769

 2012(平成24)年の国民健康・栄養調査では,糖尿病が強く疑われる者は約950万人,糖尿病の可能性が否定できない者は約1100万人,あわせて約2050万人と推定されている.糖尿病は症状が進むと失明等の視力障害,腎臓障害,心筋梗塞,脳卒中,神経障害等のさまざまな合併症を招く疾患であるにもかかわらず,自覚症状がないため,合併症が発症し始めてから初めて受診し,治療の開始が遅れることも少なくない.本稿では,行政の立場から,これまでの主な糖尿病に対する取組みを整理した.

リレー連載・列島ランナー・91

県の立場から母子保健に向き合う—信州母子保健推進センターの設立に関わって

著者: 塚田昌大

ページ範囲:P.771 - P.773

 私は,小児科医として臨床の現場を経験したのちに,長野県に行政医師として採用され,保健所長や本庁課長職などを経験しながら,今年で7年目となりました.小児科医として健診や予防接種等で行政に関わることが多くあり,将来ある子どもたちの健康を守るためには,医療だけではなく,行政サービスとしての母子保健の充実が重要であることを実感したことが行政に入ったひとつの理由でした.そして,県に採用されてからは,「地域の子どもたちの健康を守るために,県あるいは保健所の立場で何ができるか,何をすべきか」を自分のモチベーションとしており,その行動の中で,2015年度から設置した県の母子保健拠点(信州母子保健推進センター)の立ち上げに関与してきました.今回は,私が県の行政医師として,これまでの関わりを振り返り感じてきたことを述べていきます.

[講座]子どもを取り巻く環境と健康・20

環境化学物質曝露による先天異常への影響—(1) 尿道下裂,停留精巣

著者: 三井貴彦

ページ範囲:P.775 - P.779

 妊娠期および胎児期における内分泌かく乱物質(EDCs)への曝露が,児の性腺機能,性分化や第二次性徴の発来に影響を与える懸念が世界的に高まっており,本稿で紹介するように,EDCs曝露が尿道下裂や停留精巣などの先天異常に与える影響が明らかになりつつある.しかし,その結果には,いまだ確立されたものはなく,今後も新たなエビデンスの蓄積が必要である.特に,本邦からのエビデンスの高いデータの発信が望まれる.

予防と臨床のはざまで

最終日にクリチバ宣言を採択—第22回IUHPEダイジェストその3

著者: 福田洋

ページ範囲:P.780 - P.780

 前々回,前回に続きヘルスプロモーション健康教育国際会議(IUHPE)のダイジェストです.学会全体としては,とても一人では回りきれない量のプログラムでしたが,今回は自分が参加した職域ヘルスプロモーション(Workplace Health Promotion,WHP)のセッションについてお書きします.
 WHPは,国際産業衛生学会(ICOH)に比べると扱いは小さいものの,一般口演セッションやポスターで取り上げられていました.2日目のWHPの口演セッションでは,4題の報告が行われました.Anne Taylor氏(オーストラリア)からは,南オーストラリアでの中小企業のヘルスプロモーションの現状と課題について,Paola Ardiles氏(カナダ)からは,ソーシャルイノベーションと健康経営について,David Do Quang氏(シンガポール)からは,多国籍企業の遠隔事業所への様々なリテラシーレベルに対応する健康教育ツールキットの紹介,さらに本年2月に日本健康教育学会のアドボカシーセミナーに来日いただいたTrevor Shilton氏(オーストラリア)からは,西オーストラリアでのe-ラーニングや良好実践の表彰を活用したWHP事例について,報告がありました.

映画の時間

—私には二つの偉大な“発見”がある——それは彼の才能と,かけがえのない友情だ.—奇蹟がくれた数式

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.781 - P.781

 数学ファンの方には「数学は美しい」ものでしょうが,とっつきにくいという印象をお持ちの方も多いと思います.しかし,公衆衛生にとって(他の分野でも同様ですが),疫学や統計学の基盤をなす数学は,重要な学問であることは言うまでもありません.わが国でも「博士の愛した数式」(2006,小泉堯史監督)のように数学の魅力が描かれている映画もあります.今月ご紹介する「奇蹟がくれた数式」は,数学ファンでなくてもその魅力に浸ることのできる作品です.
 1914年,イギリスの施政権下にあるインドのマドラスで,分厚い数学の研究ノートを抱えた主人公ラマヌジャン(デヴ・パテル)が,求職活動に奔走しています.しかし正規の学位をえられずに大学を中退しているようで,なかなかいい職が見つかりません.やっと見つけた経理係の職も英国人の支配人から出ていけと言われますが,インド人の上司の口利きでなんとか馘がつながり,故郷から母親と妻を呼び寄せることができました.

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.783 - P.783

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 石原美千代

ページ範囲:P.784 - P.784

 今月は糖尿病を取り上げ,「包括的な糖尿病対策」を特集としました.
 多目的コホート研究の成果を踏まえた2型糖尿病の予防に関する検討から,米国やアジアなど世界の糖尿病の現状や,血糖モニター,食事・運動療法など治療に関する最新の知見,さらに,2型糖尿病の発症抑制には,内因性インスリン分泌が保持されていることが必須条件であり,より早期の治療介入が求められることまで,詳説していただきました.また,足立区における「健康無関心層」へのアプローチを意識したユニークな糖尿病対策の紹介もあります.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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