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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生80巻2号

2016年02月発行

雑誌目次

特集 子どもへのがん教育

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ページ範囲:P.85 - P.85

 日本では,1981年から,がんが死因の第一位を占め,さらに高齢化の進展を主な要因として,罹患者数・死亡者数ともに増加し続けており,国民の2人に1人が生涯のうちにがんに罹患すると推計されています.
 子どもにとっても,大切な家族が罹患するなど,がんが身近な問題となっています.がんの予防という観点からも,がんという疾患について子どもの頃から学び,また,がん患者への理解を深めていくことが重要です.

がん教育—公衆衛生の立場から知っておくべきこと

著者: 衞藤隆

ページ範囲:P.86 - P.90

 近年,国民のだれもが家族や親類,友人,知人のがん罹患を耳にすることが多くなってきている.このような状況において,がんを理解し,向き合うことを可能にするための方策として,子どもの頃からの教育にがんを取り上げるべきであるという意見が強くなってきた.「がん教育」という特別な教科が存在する訳ではなく,現行の教育体系の中にしかるべく位置づけ,最終的には国民の素養としてのがんについてのリテラシーを高めることを目標に,がんに関する教育のあり方が検討されるようになってきた.これらの成り立ちから掘り起こし,解説を加えたいと思う.

がん教育—教育の立場から

著者: 植田誠治

ページ範囲:P.91 - P.96

学校における健康教育の特徴
 学校における健康教育は,児童生徒が生涯を通じて健康な生活を送るうえでの基礎を培うものである.その観点から,学校における健康教育では,健康を自ら保持増進するために必要な能力・態度を育成する.「生涯を通じて健康な生活を送るうえでの基礎を培う」という観点は,まさに発育発達途上にある児童生徒を対象とする学校における健康教育の特徴といえる.学校という「場」の概念で健康教育を考えるのではなく,発育発達途上にある児童生徒を教育するという「機能」の概念で健康教育を考えるという特徴である.
 筆者は,そのような特徴を有する学校における健康教育に,がんに関する学習内容をこれまで以上に位置付けていこうとすることに大きな価値と可能性を感じている.ここでは,その価値と可能性を確固たるものとするうえで,押えておくべきと考えていることを整理する.

がん教育—医療の立場から

著者: 垣添忠生

ページ範囲:P.97 - P.101

 私は40年間,がん医療に携わってきた.また,若い頃15年間,国立がんセンター研究所生化学で基礎研究にものめり込んだ.つまり,若さに任せて泌尿器科医と基礎研究者の二足のわらじを履いたのである.
 私自身,早期の大腸がんと腎臓がんを経験し,いずれも手術で完治した.つまり,私自身はがん患者を経験し,サバイバーの立場にもある.

がん教育の実践と意義

著者: 中川恵一 ,   玉利祐樹

ページ範囲:P.103 - P.109

がん教育を取り巻く背景
 日本は,男性の3人に2人,女性の2人に1人近くが,がんに罹患する世界でも有数のがん大国であり,欧米では減少に転じているがん死亡数も,増え続けているなど,がん対策の遅れが目立っている.いまだ高い喫煙率,低い検診受診率,がんに関する情報を集約して治療に生かす「がん登録」制度の未整備など課題が山積している.こうした状況を改善するため,2007年に「がん対策基本法」が施行され,「10年でがん死亡率を2割削減」という目標を立てたが,達成困難な状況である.
 こうした現状の背景には国民のがんに関する知識,理解の不足があると筆者は考えている.がんの予防や早期発見は,わずかな知識の有無が左右するし,治療法の選択はまさに「情報戦」と言えるからである.

がん教育—患者会によるいのちの授業

著者: 三好綾

ページ範囲:P.111 - P.117

 教室で準備をしていると子どもたちが寄ってくる.「ねえ,がん患者さんって担架に乗ってくるの?」と,がん患者である私に話しかける.「私が,がん患者でね,私がお話しするのよ」と言うと「ええ!うそ!」という驚きの声.
 小学生にがん患者のイメージを聞くと「寝たきり」「痩せている」「いつも点滴をぶらさげている」という言葉が羅列される.私たちがん患者が自分で車を運転をして学校にやってきて,立って話ができることだけで驚きの対象となる.もちろん,状況によってはそのような状態になる患者さんもいることを伝えたうえで,私たちがん患者には,子どもたちと同じように美味しいご飯を食べて,普段通りの生活を送っている仲間も多くいることを伝える(写真1).

豊島区における「がんに関する教育」の取り組み

著者: 細山貴信

ページ範囲:P.119 - P.124

 豊島区は2012年度から,区立の全小・中学校で,がん予防の普及啓発のために,「がんに関する教育」を実施し,健康教育の一環として,がんの仕組みやがん予防に関する正しい知識を児童・生徒に学ばせている.正しい生活習慣ががんを予防するのに有効な手段であることを理解し,小・中学生のうちから,正しい生活習慣を身に付け,がんに対する正しい理解と関心をもち,将来にわたり,健康的な生活習慣を実現したいと考えている.
 実施してから3年が経過し,その成果を定量的に評価することは難しいが,取り組むまでの経緯とこれまでの成果を以下に述べる.

小児がんとがん教育

著者: 中川原章

ページ範囲:P.125 - P.129

 子どものがん教育を語る時,小児がんの問題を避けて通ることはできません.それは,小児がんの子どもたちが実際に学校の友達の中にいることが多いからです.そして,その体験の中から様々なことを学び,命の大切さを理解していくことになるからです.
 小児がんは全がんの約1%を占める,いわゆる希少がんのひとつです.最も発生頻度の高い白血病・リンパ腫のほかに,脳腫瘍,神経芽腫,腎芽腫,肝芽腫,網膜芽腫,骨肉腫,横紋筋肉腫などがあり,それぞれをとるとさらに希少ながんの集まりと言えます.また,発症年齢はそれぞれ異なるものの,概して年齢が低いほど治りやすい傾向があります.

視点

人がつくる公衆衛生

著者: 池田和功

ページ範囲:P.82 - P.83

次も練習しよう!
 私が,就職して初めての仕事は健康増進計画策定でした.何とか計画ができて,いよいよ事業展開する段階になってはじめて,実施主体は行政ですが実際に健康づくりに取り組むのは住民であり,住民が盛り上がらないとうまくいかないことに気づかされました.協力をいただきながらウォーキングや体操など健康づくりグループの立ち上げなどに関わっていると,長続きするグループの特徴に気づきました.それは,大抵リーダーというかお世話役的な方がいるということでした.いろんな方がおられますが,共通点としては皆さん熱心で,休まず参加されます.昔,参加していたジャズバンドで,なぜこのバンドが長続きしているのかという話になりました.結論は,バンドリーダーが毎回練習直後に「また練習しよらよ!(次も練習しよう!の和歌山弁)」と誘ってくれるから,ということに落ち着きました.拍子抜けするような結論ですが,結構的を射ているような気がします.

連載 リレー連載・列島ランナー・83

入浴事故対策は公衆衛生上の大きな課題

著者: 松田徹

ページ範囲:P.131 - P.134

 入浴事故は冬季に自宅で高齢者に発生しやすい特徴があり,2012年の日本救急医学会の全国調査によると年間約19,000人が死亡しているとされています.これらの数は国家的課題とされる自殺の半数を超えています.

[講座]子どもを取り巻く環境と健康・12

環境化学物質曝露による内分泌系への影響—(1) 甲状腺機能

著者: 伊藤佐智子 ,   岸玲子

ページ範囲:P.137 - P.144

 胎児期は,内分泌系がホルモンかく乱作用を受けやすい.そのため,種々の環境化学物質曝露が母児の甲状腺機能へ影響を引き起こすことが示唆されている.本稿では,これまでの内外の報告をもとに,環境化学物質による甲状腺機能,特に出生時の児のホルモン値へ与える影響について紹介する.古くからクレチン症などの先天性の甲状腺機能低下症では,児の精神発達遅滞など生後長期にわたって影響を及ぼすことが知られているが,胎児期は特に中枢神経系発達では重要なシナプス形成時期であるので,化学物質による甲状腺機能への影響は児の中枢神経発達の面からも重要である.

予防と臨床のはざまで

さんぽ会・名古屋

著者: 福田洋

ページ範囲:P.145 - P.145

 私のメインの活動の1つであるさんぽ会(産業保健研究会)ですが,東京での活動が20年を超え,この活動が名古屋にも広がりつつあります.名古屋・東海地区でも,産業保健について多職種で本音で議論し合える場が欲しいという機運が高まる中,東京のさんぽ会に何度も足を運んでくれた安田博之先生(イビデン産業医)が中心となり準備が進められました.2012年9月に関東での研究会の運営方法や状況について私から話題提供し,2013年4月にはさんぽ会・東海(仮称)という準備段階にて定例で会合が開かれるようになり,ついに2014年4月,さんぽ会・名古屋(http://sanpokai-nagoya.jimdo.com)が設立されました.産業保健の課題がより困難化・複雑化していく中,多職種の議論の場が広がることは,とても有意義で素晴らしいことと思います.
 現在は3カ月ごとに例会が開催されるようになり,この10月にあらためて,講演をさせていただく機会を得ました.今回のテーマは「職場の健康づくりのゴールは?〜ヘルスプロモーション,ヘルスリテラシー再考」としました.健康づくり活動を行っている職場は多い.しかしそもそもなぜ職場の中で生活習慣病対策や健康づくりを行うのか.産業保健活動を行う上での根本的なゴールをざっくばらんに語り合いたい,そんな狙いでした.仰天したのは会の進行です.なんと講演の前からいきなりグループワークが始まったのです.「皆様の職場の健康づくりは? それぞれの立場で話し合ってみましょう.福田先生にお聞きしたいことはありますか?」という世話人の簡単な問いかけだけで,あっという間に80人ほどの参加者の議論がスタートしました.その熱気と参加者の姿勢に圧倒されました.そして講義の話題提供後には,再度グループワークが行われ,最後に参加者全員で議論の内容の共有が行われました.

映画の時間

—季節は巡りゆく.想い出だけを残して—.—愛しき人生のつくりかた

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.147 - P.147

 「めでたし,聖寵充ち満てるマリア,主,御身とともにまします…」といきなり,天使祝詞から映画ははじまります.カトリック教徒ならずとも,何ごとかと居住まいを正してしまうような場面ですが,実は告別式の場面です.主人公マドレーヌ(アニー・コルディ)の夫の葬儀で,つつがなく式も終わり,参列者が散会しはじめたところに,一人の青年がモンマルトルの墓地を慌ただしく駆け抜けて飛び込んで来ます.「墓地を間違えた」と大遅刻をしたのは孫のロマン(マチュー・スピノジ).父親のミシェル(ミシェル・ブラン)はしかめ面ですが,妻のナタリー(シャンタル・ロビー)と祖母のマドレーヌが優しくとりなします.
 美しいモンマルトルの風景を背景に,冒頭から観客の心をつかみながら,登場人物の性格までも感じさせる,すばらしい演出です.監督のジャン=ポール・ルーヴは,俳優としても有名ですが,長編映画の演出は3作目とのこと,監督としての才能も素晴らしいものがあります.

「公衆衛生」書評

—新谷 歩 著—第一線で活躍する統計家が,現実的な視点で,知りたかった問題に答えてくれる『今日から使える医療統計』 フリーアクセス

著者: 香坂俊

ページ範囲:P.110 - P.110

 自分は最近,無謀にも臨床系の大学院を開設するなどして1),院生と循環器疾患の大規模レジストリからの分析を行ったりしている.そこでよく「統計難しいっすね」などという趣旨の発言を耳にしたりもするのだが,厳密にはそれは間違った認識であると思う.
 実は統計の理論そのものはそれほど難しいことではない.高校数学の新課程では「データ解析」が【数Ⅰ】に織り込まれ(2012年〜),高校生でもその基本的なコンセプトは習得可能,とされている.実際,進研ゼミのQ & Aなどをみても十代にして彼らの理解度は恐ろしく高い2)

—谷口清州 監修 吉田眞紀子・堀 成美 編—「半年vs. 3日」のギャップを埋める,日本の医療現場で渇望されていた書籍『感染症疫学ハンドブック』 フリーアクセス

著者: 青木眞

ページ範囲:P.135 - P.135

はじめに
 筆者の勝手な感覚で言わせてもらえば,日本の医療現場で数十年前から必要とされていた本が,今年(2015年)になってようやく上梓された.本書『感染症疫学ハンドブック』である.
 なぜ,この種の本の出版が数十年遅れたのか.それは,この疫学という領域が感染症に限らず,医療・医学に必須であるという認識が国内のさまざまなレベル・領域で遅れたからである(そして今も遅れ,冷遇されている).その問題が現れた実例を示す.
 1996年,大阪は堺市で数千人の患者を生み出した腸管出血性大腸菌O157:H7の集団発生は「半年」近く続いていた.本書の第1章を執筆されたJohn Kobayashi先生(以下,敬意と愛着を込めてJohnと略)に,「あなたが指揮を執れば集団発生を終息させるまで,どのくらいの時間が必要ですか」と聞くと,「3日……長引くと1週間かな……」.「!!」(参考までにJohnとのつきあいは10数年に及ぶが,彼に「はったり」という概念は存在しない).
 この「半年vs.3日」のギャップを埋めるべく,このJohnをはじめ関係の先生がたの支援を受けて設立された実地疫学の拠点が「国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP-J:Field Epidemiology Training Program)」であり,本書は,このコースの卒業生の共同執筆により完成された.

書籍紹介

『医系技官がみたフランスのエリート教育と医療行政』—入江芙美 著 NTT出版 2015年 フリーアクセス

ページ範囲:P.149 - P.149

 医師の中のわずか0.08%という「医系技官」(医師免許を有し,専門知識を生かして医療制度作りに携わる技術系行政官)である著者が,エリート官僚を養成するENA(フランス国立行政学院)に留学し,そこでみた官僚教育と医療行政とは…….フランスの「本物」のエリート教育と医療制度を紹介する.

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.151 - P.151

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 石原美千代

ページ範囲:P.152 - P.152

 昨年6月に第二期がん対策推進基本計画の中間評価が行われ,現在のがん対策の最大の目標である「がんの年齢調整死亡率(75歳未満)の20%減少」の達成が困難な状況等について報告されました.この中間報告は大きく報じられましたが,分野別施策「がんの教育・普及啓発」は世間の注目を集めたとは言えない状況です.
 今回の特集では,特に「子どもへのがん教育」を取り上げ,学校教育における教育の枠組み(教育課程)の基本から,文部科学省の取り組み,学校における具体的な実践例まで,幅広く解説していただきました.平成29(2017)年度以降の「学校におけるがん教育」全国展開を目指して,本特集を公衆衛生関係者の本来業務である「重要な健康課題に関する普及啓発」すなわち「がん教育」に役立てていただければと思います.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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