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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生80巻7号

2016年07月発行

雑誌目次

特集 子どもの貧困と健康

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ページ範囲:P.461 - P.461

近年のわが国において,社会の経済格差が拡大し,貧困にあえいでいる家庭が増加していることがマスコミ等によって指摘されています.特に子どもの貧困の増加がたびたび取り上げられており,子どもの貧困率が2012年には16.3%となり,子どもの6人に1人が貧困状態であると報道されています.さらに,2015年のOECDの発表では,加盟34カ国中,わが国の子どもの貧困率は,OECD平均を上回り,11番目に高かったとされています.また,ひとり親の家庭では約6割の子どもが貧困であると指摘されています.
 貧困が健康に影響を与えることはよく知られていますが,特に子ども,幼少期の貧困は,低栄養や劣悪な生活環境が生涯にわたる健康影響を引き起こすことが予測されます.さらに,近年,子どもの貧困が精神発達や脳の発達に影響を与えると言われています.加えて,家庭の経済的貧困が子どもの教育機会を奪う可能性があることは,低学歴・低学力のみならず,健康や栄養についての知識不足を招き,やはり大人になった時や成長過程における健康問題に結びつく可能性も考えられます.また,子どもの貧困が低学歴や低学力に結びついていることは,成人後の貧困の連鎖に繋がっていることも何度も指摘されています.

日本の子どもの貧困の現状

著者: 大澤真平 ,   松本伊智朗

ページ範囲:P.462 - P.469

 本稿では,子どもの相対的貧困率の概要,子どもの貧困に関するいくつかの構造的背景,そして貧困の世代的再生産について述べることで,わが国の子どもの貧困の現状についての基本的な理解を示したい.
 貧困のなかに生まれ育つ子どもの存在は,当然,子育て家族の貧困と切り離すことはできない.子どもの貧困という特別な貧困があるわけではなく,子どもの貧困もまた広く貧困に対する対応のなかに位置づけて議論されなくてはならない.

子どもの貧困と食生活・栄養

著者: 村山伸子

ページ範囲:P.470 - P.474

 日本の子どもの貧困率は1985年に10.9%,2012年に16.3%であり増加している1).中でも子どもがいる現役世帯のうち,大人が1人の世帯の相対的貧困率は2012年54.6%と高く,ひとり親家庭などで特に経済的に困窮しているといえる.生活意識でも,「大変苦しい」と回答した世帯数は,2001年20.2%に対して2013年は27.7%に増加し,「やや苦しい」32.2%を加えると6割である1)
 このような状況に対し,2014(平成26)年1月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行され,同年8月に「子供の貧困対策に関する大綱」が閣議決定された.また,内閣府の子どもの貧困対策会議では,2015年末に,ひとり親家庭・多子世帯等自立応援プロジェクトと児童虐待防止対策強化プロジェクトの政策パッケージを策定した.前者の政策パッケージの中で,児童扶養手当の増額,保育所等の保育料の負担軽減策等の経済的支援の他,子どもの居場所づくりや学習支援の強化が盛り込まれ,放課後児童クラブ等の終了後に生活習慣の習得・学習支援や食事の提供を行うことが可能な居場所づくりが示された.

子どもの「貧困」における多様な心身の発達困難と支援の課題

著者: 小野川文子 ,   田部絢子 ,   内藤千尋 ,   髙橋智

ページ範囲:P.475 - P.479

 現代の急激な社会構造の変化,家庭の経済的格差や養育困難の拡大のなかで,また子どもの迷い・失敗などの試行錯誤を待てない社会の非寛容さや学校の厳しい管理統制のもとで,子どもは日々,「排除」されないように,多様な不安・緊張・ストレスを抱えながら現代を必死に生きている.
 そうした不安・緊張・ストレスが複雑に絡み合い,自律神経失調症・心身症,抑うつ・自殺,不登校・ひきこもり・中途退学などの心身の発達困難,いじめ・暴力・被虐待,触法・非行などの多様な不適応を有する子どもも少なくない.

子どもの貧困と口腔疾患

著者: 渡部茂

ページ範囲:P.481 - P.485

 齲蝕や歯周病は生活習慣病の最たるもので,口腔の状態が生活環境の影響を受けていることは普遍的事実である.過去,齲蝕の多かった時代には,無知(低デンタルIQ)によるものと無視(育児放棄)によるものとが混沌としていたが,最近の齲蝕減少傾向により後者があぶりだされ,そこに隠れていたネグレクト,貧困という,齲蝕のもつ全く別な社会的側面が露呈されてきた.
 齲蝕の直接的な原因は,プラーク(歯垢(しこう))による酸の産生がリン酸カルシウムを主成分とする歯を脱灰することである.これがどのようにネグレクト—貧困のラインとリンクしているのか,その背景を探る.

女性の貧困と若年出産の現状

著者: 佐藤拓代

ページ範囲:P.486 - P.490

女性の貧困
 貧困に関しては,OECD(経済協力開発機構)が用いている「等価可処分所得の中央値の半分の金額(貧困線)未満の所得しかない人口が全人口に占める比率」が「相対的貧困率」と定義されて,世界的に比較に用いられている.子どもの貧困率は,次世代を担う子どもの成育状況を改善する指標として重要であるが,女性の貧困率は注目されているとはいいがたい.特に子どもを養育する年代で世帯主が女性である場合の貧困は,子どもの養育に及ぼす影響が大きい.厚生労働省によれば,2012年の国民生活基礎調査での相対的貧困率は16.1%で,世帯主が30歳未満では27.8%と多く,さらに大人一人と子どもの世帯では54.6%と多くなっていた1).わが国のひとり親世帯では母子家庭が84.7%2)で,さまざまなレポートで報告されているように母子家庭の多くは貧困であり,これも女性の貧困である.
 子どもの養育の有無に関係なく,年齢別にみた女性の相対的貧困率は,阿部(2014)3)が平成25年国民生活基礎調査を用いて分析している.15〜19歳で男性18.8%,女性18.5%,20〜24歳で男性21.8%,女性19.5%と,女性の貧困率は男性より低いが,35歳以上では女性の貧困率が高くなり,75〜79歳で25.4%と男性の16.2%の1.5倍であるという.高齢女性の貧困も大きな課題であるが,本稿では20歳未満(若年)の女性の貧困について考えてみたい.

子どもの貧困と児童虐待

著者: 奥田晃久 ,   川松亮 ,   桜山豊夫

ページ範囲:P.491 - P.495

緒 論
 児童相談所は児童とそれを取り巻く家庭を支援する専門機関であるが,近年「児童虐待」に関する相談件数が急増し,児童虐待への対応が業務の大きな割合を占めている.児童虐待についての対応では,トルストイによる「アンナ・カレーニナ」の次の言葉が想起される.
 「幸福な家庭はみな一様に似通っているが,不幸な家庭はいづれもとりどりに不幸である」(原久一郎訳,新潮文庫).

子どもの貧困対策と自治体行政—子どもの貧困対策推進法・生活困窮者自立支援法

著者: 湯澤直美

ページ範囲:P.496 - P.501

 先進諸国における「子どもの貧困」が社会問題化するなか,日本においても政府による対応が着手された.2013年6月には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(平成25年法律第64号)が成立し,2014年1月に施行されている(以下,子どもの貧困対策推進法).これを受け,2014年8月には「子供の貧困対策に関する大綱」(以下,大綱)が閣議決定された.また,生活困窮者への対応として,2013年12月には「生活困窮者自立支援法」(平成25年法律第105号)が成立し,2014年4月に施行されている.本稿では,これらの法律・大綱の内容を解説するとともに,施策の動向や課題について概観する.

生活困窮者への地域での取り組み—POPOLOハウスとフードバンク

著者: 鈴木和樹

ページ範囲:P.502 - P.506

3つの事業に取り組む
 NPO法人POPOLO(以下,POPOLO)の取り組みは大きく分けて,3つに分類されます.1つ目は,主に生活に困っている方やホームレス状態の方に対しての相談支援事業です.年間約500件の相談が寄せられ,大半の相談者が安定した住居を持っていない方からの相談であり,中には明日の食事にも事欠くような相談も寄せられます.
 そういった経緯から,安定した住居を持たない方のために,2011年度より,2つ目の事業として,完全無料の一時生活支援施設である富士POPOLOハウスを開設しました.

子どもの貧困対策活動—山科醍醐こどものひろばの取り組み

著者: 村井琢哉

ページ範囲:P.507 - P.510

 京都市の山科醍醐地区で「特定非営利活動法人山科醍醐こどものひろば」は,子どもの豊かな育ちを応援してきました.前身の「山科醍醐親と子の劇場」の時代からの活動は,現在36年目となります.特定非営利活動法人となる前の20年間は,団体を支える会員である地域の専業主婦や青年(会員の子どもで高校生年代以上おおむね30代の若者)が中心となり,文化芸術体験や野外活動などの文化や自然に直接触れ合う鑑賞活動や体験活動,地域ブロックごとの子ども会活動などを行ってきました.対象は会員の子どもが中心であり,不特定多数の地域の子どもへの活動は限られていました.
 そこから1999年に「山科醍醐こどものひろば」に改変し,特定非営利活動法人になってからの15年は,その対象をより広げ「地域のすべてのよりよい子どもの育ちの環境を豊かにすること」に,子ども,家族,そして地域も一緒になって取り組んできました.

子どもの貧困対策活動—居場所をつくる児童館の取り組み

著者: 荘保共子

ページ範囲:P.511 - P.517

子どもの貧困と向き合った学校
 かつて「釜ヶ崎」には,不就学児のための「大阪市立あいりん小中学校」があった.貧困で戸籍や住民票がなく地域の学校に入れない子どもたちのための学校だった.お弁当の時間になると学校を抜け出す子がいた.朝礼で倒れた女の子がいた.前日から何も食べてなかった.父親は夜勤の仕事に行っていなかった…….貧困は,子どもの健康と一直線上にあった.それで学校に朝食と昼食を用意した.床屋さんが来て学校で散髪をした.学校にお風呂を設け,先生と一緒に汗を流した.先生と洗濯もした.
 大阪市教育委員会の嘱託ではあるが,日本で当時ただ一人のスクールケースワーカー(学校ソーシャルワーカー)がいて,地域と家庭と学校,そして福祉をつないでいた.見かけない子が公園で遊んでいると声をかけ,親と面談し就学をすすめた.登校しなかった子の家を訪問したら子守りをしていた.幼い弟をおぶって登校し勉強するようになった.熱を出し一人で寝ている子がいたら病院に連れて行った.学校と福祉が連携し,子どもの貧困と向き合った.

視点

保健所に求められるこれからの感染症対策

著者: 中里栄介

ページ範囲:P.458 - P.459

変わりゆく感染症対策
 感染症法は1998年に制定されたが,その後頻回の改定が行われてきた.これはそれだけ感染症対策が急激に変化してきたことによるものである.最近の情勢としては,エボラ出血熱,中東呼吸器症候群(MERS),デング熱,そしてジカウイルス感染症等の対応への備えが求められるとともに,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)など多剤耐性菌による院内感染対策が,保健所で求められている.
 全国保健所長会では地域保健総合推進事業の中で「新興再興感染症危機管理事業支援班(筆者が分担事業者.以下,本班)」を設置し,健康危機管理に関する委員会と連携しながら,全国の保健所の対応の支援活動を行っている.ここでは,本班の活動をとおして見えてきた保健所に求められるこれからの感染症対策について考えてみる.

投稿・資料

受刑者における死因の分析

著者: 大島明 ,   松川敦紀 ,   小川敦史 ,   石川匠 ,   大西陽之

ページ範囲:P.523 - P.526

目的
 受刑者の生活習慣は,刑務所等の行刑施設に収容される前は一般人口に比して不健康と想像されるが,収容されている間は禁煙・禁酒など「健康的」な生活を強制される.強制された「健康的」な生活の結果が疾病の罹患や死亡にどのように反映されるかを見るために,本研究では,法務省矯正統計のデータを用いて受刑者における主要な死因の分析を行った.

投稿・地域事情

英国における風力発電を取り巻く実状—HIA(Health Impact Assessment)に着目して

著者: 森松嘉孝 ,   久保達彦 ,   藤野善久 ,   原邦夫 ,   石竹達也

ページ範囲:P.527 - P.530

 英国の再生可能ネルギーの比率は3%であり,これは日本の割合と同様で,欧州先進国のなかでも低い(図1).2009年6月に公布された「EU再生可能エネルギー促進指令」1)では,2020年までに自国の最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を15%とする目標が義務付けられ,英国ではこの目標を達成するために,電力における再生可能エネルギーの割合を2010年の9%から2020年までに31%へ拡大する方針を示した2).この計画の柱は風力の大幅拡充であり,洋上風力は現状(2009年)の約9倍,陸上風力は現状の約4倍を見込んでいる(図2).そこで今回われわれは,英国における風力発電事情を健康影響予測評価(Health Impact Assessment;HIA)の視点から視察を行ったので報告する.

連載 いま,世界では!? 公衆衛生の新しい流れ

世界の子どもの貧困と健康—貧困が生み出す格差の健康影響とその対策

著者: 友川幸

ページ範囲:P.519 - P.522

 2007年の国連総会では,「貧しい生活を送っている子ども達は,栄養,飲料水と衛生設備,基本的な保健サービスの利用,住居,教育,参加,保護等を奪われている.モノやサービスが極端に不足することで最も大きな脅威を受けて傷つくのは子ども達である.また,子ども達が貧困の中で生活をすることで,権利を享受できず,潜在能力を十分に発揮することも,社会の一員として参加することもできないまま取り残される」と言及され,子どもの貧困に対する対策の必要性が強調された1)
 「貧困」の定義は,国や機関によっても異なるが,大別すると,必要最低限の生活水準が満たされていない状態を意味する「絶対的貧困」と,ある地域社会の大多数よりも貧しい状態を意味する「相対的貧困」がある.開発途上国について「貧困」という言葉を用いる時は,一般に,「絶対的貧困」を指し,「1日1.9ドル」を国際貧困ラインとして,1日の生活費が1.9ドル未満である人の比率を,貧困率としている.この貧困率が,ミレニアム開発目標の「極度の貧困と飢餓の撲滅」の指標としても使用されてきた.

[講座]子どもを取り巻く環境と健康・17

胎児期の化学物質曝露による後天的な遺伝子発現制御への影響

著者: 宮下ちひろ ,   小林祥子 ,   岸玲子

ページ範囲:P.531 - P.537

 胎児期の環境化学物質曝露は,出生時のみならず生後,さらには成人後の健康にまで影響する可能性がある.そのメカニズムの一つとして提唱されている,胎児期環境による児のDNAメチル化の変化について,その示す意味と現在までの疫学研究をわれわれの最新のデータを交えてまとめた.この分野の報告は近年増加傾向にあり,注目の度合いの高まりがうかがえるが,環境化学物質曝露に関してはごく一部の遺伝子のメチル化についての報告が散見されるにとどまり,一定の見解を得るまでには至っていない.今後は,曝露の影響を受ける遺伝子領域の網羅的な探索を行い,より深くメカニズムに迫るとともに,そのメチル化変化がどのように生後の健康・疾病とつながるのか,細胞・動物実験,出生コーホートでの疫学研究で明らかにする必要がある.

リレー連載・列島ランナー・88

公衆衛生医師と臨床医のはざまで

著者: 生野淑子

ページ範囲:P.538 - P.540

公衆衛生医師という仕事
 大阪市は約270万人の政令指定都市で,海外からの訪問客数も右肩上がりで活気づいている一方,大都市ゆえの複雑で一筋縄では解決しない様々な健康課題も抱える街です.一介の糖尿病内科医であった私が,そのような諸問題に向き合うようになった転機は「人事異動」という社会人であれば誰もが経験する出来事でした.
 「公衆衛生」について学生時代に授業で少し習ったものの,何の知識もないまま公衆衛生医師として働き始めることに強い抵抗感があったこともあり,臨床医の仕事を続けながら公衆衛生の世界に足を踏み入れることになりました.

予防と臨床のはざまで

多職種産業保健スタッフが学び合う意義

著者: 福田洋

ページ範囲:P.518 - P.518

 本連載で何度も取り上げているさんぽ会(多職種産業保健スタッフの研究会http://sanpokai.umin.jp/)ですが,すでに23年の歴史があります.vol.142では,活動の名古屋への広がりについて紹介しました.しかし,長い活動の間には存亡の危機に瀕したこともあり,月例会の参加者数が極端に減ったこともありました.
 今回,私は,初代・福渡靖会長(順天堂大学医学部公衆衛生学教授,当時)から数えて4代目の会長に就任しました.事務局体制も一新したこの機会に,4月14日,「多職種産業保健スタッフの学びの場〜より実りある場とするために」をテーマに第228回月例会を開催しました.ストレスチェックや糖尿病重症化予防などの旬のテーマではなく,自分たちの学びの場をどうすべきかといういわば内向きの議論に,予想を大きく上回る70人以上の方が集まりました.関東圏の様々な大学・大学院から将来の産業保健スタッフを志向する多くの学生が参加してくれたことも嬉しかったです.

映画の時間

—これは今,起きている現実!国家による市民監視を暴露した衝撃のスクープ—その真相を記録した歴史的ドキュメンタリー—シチズンフォースノーデンの暴露

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.541 - P.541

 これは劇映画ではないのか.と疑問を感じるほど,今月ご紹介する『シチズンフォー』はドラマチックでサスペンスフルなドキュメンタリー映画です.本作品は,2013年に起こった,いわゆる「スノーデン事件」を描いています,と言うか,本作品自体がスノーデン事件の一部と言ってもいいような気がします.
 2013年の初め,本作品の監督であるローラ・ポイトラスは,シチズンフォーと名乗る人物から暗号化されたメールを受け取ります.ローラ・ポイトラスは,イラク戦争に取材した『My Country My Country』(2006年,日本未公開)や,グアンタナモ収容所を描いた『The Oath』(2010年,日本未公開)などで高い評価を得ているドキュメンタリー映画作家です.このふたつの作品が,ともに9.11以後のアメリカの抱える課題を鋭く指弾する内容であったことから,“シチズンフォー”は,彼女に衝撃的なメールを送ったものと思われます.冒頭のメールの文面からして,観客は度肝を抜かれます.——暗号の鍵のコピーは作らないように.パスフレーズは安全性強固なものを使うように——.しかも,これらの対策をとっても,それは万全なものではなく,時間稼ぎに過ぎない,と彼(シチズンフォー)は言います.なぜなら,「敵」は毎秒1兆種類ものパスフレーズを推測可能であるし,機器がハッキングされれば,暗号の秘密鍵はすぐに解読されてしまう….敵とはいったいだれなのでしょう.

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.543 - P.543

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 西田茂樹

ページ範囲:P.544 - P.544

 わが国の死亡率の歴史的な推移を見ると,第二次世界大戦直後に急激に低下しており,この低下は抗生物質をはじめとする医療の進歩の成果だと一般的には言われています.かなり前に,個人的にわが国の死亡水準の歴史的推移について分析していたことがあります.わが国の死亡率は1920年頃以降順調に低下していましたが,1930年代に入ると,それまでとは一転して停滞し始めます.1930年代は,社会経済統計を見ると,戦争に向かう社会情勢の中で,市民の経済格差が拡大し貧困が蔓延していたのではないかと思われる時代です.このことを考慮すると,この時期には貧困の蔓延が死亡率の停滞を招いたのではないかと推測されます.さらに,1947年以降の死亡率の急激な低下は,医療の進歩ではなく戦後の経済の回復によって起こった現象との解釈も成立するようにも思えます.すなわち,わが国の歴史的な死亡率の推移に社会状況,貧困の蔓延が大きな影響を与えていたのではないかとも考えられます.当然と言えば当然ですが,貧困は一国,一地域の死亡水準にも大きな影響を持っている重大な公衆衛生的問題ではないかと思われます.
 本誌では,貧困と健康について2013年77巻の特集「若者の精神保健」などの中でも取り上げていますが,貧困に全面的に焦点をあてた特集企画は2008年72巻の特集「現代の貧困と健康」以来となります.しかし,この8年間にわが国の貧困問題は改善しているとは言い難く,公衆衛生上のさらに大きな課題となっており,緊急に取り組むべき状況は深刻化していると思われます.今回,特に子どもに焦点を当てて,健康と貧困について多様な側面から識者の方々にご解説をいただきました.本特集が皆様の貧困と健康に対する取り組みの一助になることを期待しています.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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