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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生80巻9号

2016年09月発行

雑誌目次

特集 災害時の公衆衛生活動

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ページ範囲:P.629 - P.629

 災害時の公衆衛生活動の起点は1995年の阪神・淡路大震災と言えます.それは地域保健制度改革,医療制度改革,介護保険制度の成立など災害時の健康支援活動に関係する社会的な基盤が整えられ始められた時期に発生した災害であったからです.災害時の公衆衛生活動は新潟県中越地震の頃にはマニュアルが整えられていました.しかし,東日本大震災のような広域的,複合的な巨大災害に見舞われた被災地では,これまでのやり方では被災者の健康支援の目的を果たすことができませんでした.
 日本列島は,4枚のプレートの境界に位置する世界有数の地震多発地帯に位置しています.そのため南海トラフの周辺を震源とした巨大地震など東日本大震災以上の大規模災害が発生する可能性があります.本年4月に熊本で内陸型地震が発生しましたが,今後も予期しない活断層の動きによる直下型地震発生の可能性があります.台風,豪雨,土砂・土石流,火山噴火,竜巻などの災害は日常化しています.近年も2014年8月豪雨による広島の土砂災害,2015年9月豪雨による鬼怒川堤防決壊などがありました.日本のどこで災害が起こるかもしれないことを示しています.

日本の災害対策の到達点と今後の課題

著者: 河田惠昭

ページ範囲:P.630 - P.635

災害対策に係るこれまでの活動
 わが国の災害対策の原点は,1961年に制定された災害対策基本法である.そして,この基本法と関連する法律の問題点が明らかになってきたのは,1995年阪神・淡路大震災,2004年新潟県中越地震,2011年東日本大震災であり,新たな問題を提起しつつあるのが,2016年熊本地震である.筆者はそれぞれの災害を契機として,次のような役割を担ってきた.
1) 阪神・淡路大震災:震災5,10,15および20年検証事業に参画するとともに,2002年に創設された阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長として14年間にわたって,この震災の教訓を世界と21世紀に発信する役割を担ってきた.

大規模災害時の公衆衛生活動と被災地支援の到達点

著者: 金谷泰宏 ,   鶴和美穂

ページ範囲:P.636 - P.642

 阪神・淡路大震災(1995年)では,災害医療への対応がクローズアップされ,その後の災害派遣医療チーム(DMAT)の創設,広域災害救急医療情報システム(EMIS)の整備につながった.一方で,東日本大震災(2011年)では,避難生活の長期化に伴う健康影響への対応が課題とされた.このため地域保健法に基づく「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」(以下,基本指針)の改正(2012年)の中で,大規模災害時の公衆衛生活動として,「被災地域の情報収集」と「医療連携・保健活動の全体調整,保健活動の支援・受援」が取り上げられた.その後の災害対策基本法の改正(2014年)では,避難所への保健医療サービスの提供が明記されたところである.しかしながら,被災地支援のあり方については必ずしも自治体間で一致しているわけではなく,その標準化が課題とされた.
 そこで,2014年に全国衛生部長会災害時保健医療活動標準化検討委員会が設置され,被災地支援の到達点の一つとして,地震,津波,火山噴火,台風等の自然災害時に伴う重大な健康危機発生時における保健医療活動に関し,自治体間の応援を効果的に行うための組織として,「災害時健康危機管理支援チーム(Disaster Health Emergency Assistance Team;DHEAT)」が提案された.

都道府県における災害時の公衆衛生支援体制づくりの現状と課題

著者: 田上豊資

ページ範囲:P.643 - P.647

 東日本大震災は,広域複合災害であり,特に津波と原発事故による被害が甚大で,ライフライン,通信,物流,アクセス等の社会インフラが壊滅したことが特徴である.そのため長期間の劣悪な環境での避難生活に起因する二次的な健康被害とそれに対応する公衆衛生対策に注目が集まった.加えて,多くの市町村や保健所の庁舎が全壊もしくは使用不能になるなどして市町村や保健所の指揮調整機能が混乱してニーズとリソース,支援と受援がミスマッチしたことにより,限られた資源の有効活用や被災状況に応じた支援資源の適正配分ができないことが課題となった.
 こうした教訓を受けて全国衛生部長会の下に専門委員会を設置し,都道府県や市町村の指揮調整機能を支援する「災害時健康危機管理支援チーム(以下,DHEAT:Disaster Health Emergency Assistance Team)」の制度化に向けた検討をしている最中に熊本地震が発生した.東日本大震災より自治体庁舎の被災が少なく,ライフライン等が早期に復旧したにもかかわらず,自治体の指揮調整機能の混乱によるニーズとリソース,支援と受援のミスマッチが再び大きな課題となった.さらに,東日本大震災の時より多くの種類の支援チームが入り,DHEATを意識した支援も実施されるなどして,新たな課題も浮き彫りになった.

地域における災害時の救急医療体制整備の現状と今後の展望—阪神・淡路大震災以降の経緯も踏まえて

著者: 山本光昭

ページ範囲:P.648 - P.652

 わが国において,災害時における救急医療体制が本格的に整備されはじめたのは,1995年1月に発災した阪神淡路大震災の教訓を踏まえ,1996(平成8)年5月の厚生省健康政策局長通知が発出された以降と言え,その通知に基づき,災害拠点病院や広域災害・救急医療情報システムなどが全国的に整備されてきた.
 本稿では,厚生労働省が進めてきた対策の経緯,兵庫県および関西広域連合の取り組みの紹介,また,筆者は,阪神淡路大震災当時,厚生省健康政策局指導課課長補佐で,大震災時の緊急対応および同通知の起案を担当したことから,災害時救急医療体制整備にあたっての発想の原点の紹介,その後筆者が考える今後の展望を述べることとしたい.

災害時の精神保健医療活動—熊本地震を踏まえて

著者: 加藤寛

ページ範囲:P.653 - P.657

 大災害後に精神科医療および精神保健が関与しなければならない問題は多岐にわたる.1995年の阪神・淡路大震災以後は,「こころのケア」という言葉によって,さまざまな問題が包括して議論されることが多かった.しかし実際は,災害からの時期,被災状況,もともとの精神科医療資源の量や質,そして社会的関心の方向などによって,提供されるサービスは大きく異なる.本稿では,過去の大災害と最近の熊本地震の経緯を振り返り,主に災害早期の活動状況と課題を考える.

災害時の保健師の健康支援活動の発展と現在の課題

著者: 奥田博子

ページ範囲:P.658 - P.663

 全国初の被災地外の自治体保健師による派遣支援が行われた1995年の阪神・淡路大震災から20年以上の月日が経過した.その後も,各地で頻発する災害時において,保健師による健康支援活動は定着したものとなってきている.しかし,2011年に発災した東日本震災は複数の県下に及ぶ広域災害であり,被災自治体の中には機能不全となったところもあった.また,福島県の原発事故の影響という未経験の対応に迫られ,5年が経過した今もなお,長期派遣を含めた支援が続けられている.
 さらに,本年4月14日に発生したマグニチュード(M)6.5の熊本地震は,九州地域では初めての最大震度7の地震であった.初動対応を開始した2日後に,M7.3の本震に見舞われ,より深刻な被害の拡大をもたらし,熊本県,熊本市から国への保健師派遣の要請に基づいて1日当たり最大69チームの派遣保健師チームが,避難所対応をはじめ,要支援者調査や戸別訪問,役場の本庁や保健所の支援等,被災自治体のニーズに応じて活動を継続中である(5月末時点).

大分県におけるDHEATの創設と試行的派遣の経験から

著者: 藤内修二

ページ範囲:P.664 - P.669

 東日本大震災では,保健所をはじめとする行政機関も被災したことにより,保健医療チームの調整がスムーズに行かなかったり,避難所等の生活環境の改善が遅れたりと,災害時の公衆衛生の機能不全がクローズアップされた.こうしたなか,災害時に公衆衛生活動を行う支援組織(災害時健康危機管理支援チーム,以下,DHEAT)の必要性が指摘され1),その制度化が進められてきた.
 2016年度には国立保健医療科学院においてDHEAT養成研修が本格的に開始され,国の制度としてのスタートが間近となった4月14日に「平成28年(2016年)熊本地震」(以下,熊本地震)が発生した.制度化を前に,全国の保健所から保健所長を含む公衆衛生チームが被災地の保健所に派遣され,DHEATの活動が試行的に展開されることになった.

岩手県沿岸被災地・応急仮設住宅の現状と今後の街づくりの課題

著者: 久保慶祐

ページ範囲:P.670 - P.676

仮設住宅:依然として大きな被災地の課題
 今年の4月に発生した熊本地震は地域の家屋に大きなダメージを残し,応急仮設住宅の建設が急がれている.5年前の2011年に発生した東日本大震災津波の爪あとは依然として地域で大きく,2016年5月末現在,岩手県全体で21,973人の方が仮設住宅で生活しており,なかでも大槌町(人口12,395人)では2,596人,陸前高田市(人口20,199人)では2,875人もの被災者が,想定された使用期間(2年間)を大幅に超えて仮設住宅で生活している(2016年1月1日現在の住民基本台帳人口,2016年5月31日現在,岩手県復興局調べ).災害公営住宅や高台移転への転居も始まっているが,例えば陸前高田市は2018年度末までに現在の47の仮設団地を19か所に集約すると表明しており,今後さらに3年以上仮設住宅住まいを余儀なくされる人々がいることになる.
 多くの仮設住宅は医療アクセスが悪く,生活面でも利便性の悪い地区に立地している.長期化した仮設住宅での生活が住民の身体的・精神的・社会的な健康状態にどういう影響を与えているのかを明らかにするために,岩手県釜石保健所および大船渡保健所において仮設住宅住民の聞き取り調査とアンケート調査を行った.

原子力災害時の被災者の健康支援と保健医療活動

著者: 明石真言 ,   相良雅史

ページ範囲:P.677 - P.683

 事故や災害はどれ一つとっても同じものはない,と言われる.しかしながら頻度が比較的高い事故や災害からは,その共通点からある程度の類型化は可能であり,そうされてきた.もちろん先人が言うように,災害は時代や文明と共に変わる.放射線や原子力の事故や災害は,その典型的なものであるが頻度は低い.もっと言えば重大な事故は起こらない,という安全神話に守られ,事故も決して様々なパターンが想定さていたものではなかった.放射線は,五感で感じとることができない.そのため,放射線事故対応は測定・計測機器に依存するが,2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所事故(以下,東電原発事故)は,地震,津波,放射性物質の環境への放出という複合災害であったため,その対応には様々な問題が提起された.本稿では,この事故対応での問題点と見直された原子力災害医療体制を,被災者の健康支援と保健医療活動という視点で考えたい.

2015年9月関東・東北豪雨の被災者健康支援活動

著者: 本多めぐみ

ページ範囲:P.684 - P.688

 昨年(2015年)9月の常総市の水害の際には多方面からご協力・ご支援をいただいたことに心から感謝申し上げる.われわれが経験したのは局所激甚災害であったが,皆様のお力添えのおかげで常総市は着実に復旧に向かっている.
 今回,標記のテーマについて報告する.

特別寄稿

熊本地震における公衆衛生活動—DHEAT先行事例報告と今後の課題—佐賀県による阿蘇保健所への支援活動とその後の議論を通して

著者: 中里栄介

ページ範囲:P.689 - P.693

 佐賀県は,熊本県の職員派遣追加要望をもとに全国知事会からの派遣要請を受け,災害時健康危機管理支援チーム(Disaster Health Emergency Assistance Team;DHEAT)先行事例を阿蘇保健所に派遣した.チームは医師1人,保健師1人の小規模編成であり,2016年4月23日〜30日の間に2チームを派遣した.主な活動場所は阿蘇保健所であり,その活動は保健所長に寄り添い,所長のマネジメント活動を補佐するものであった.活動概要と成果について報告するとともに,その後の全国保健所長会等での議論を通して見えてきたDHEAT構想普及への課題についても私見を交え付記する.

視点

社会状況の変化のなかで期待される公衆衛生行政の役割

著者: 野原勝

ページ範囲:P.626 - P.627

 わが国は人口減少と少子高齢化が進展し,それに伴う社会保障制度改革も進められている.こうした社会状況の変化のなかで,今後の公衆衛生行政に求められる役割について,地方行政の公衆衛生医師の立場から述べてみたい.

連載 衛生行政キーワード・109

避難所での高齢者・要介護者へのケア,支援

著者: 福本怜

ページ範囲:P.694 - P.696

 2016(平成28)年熊本県熊本地方を震源とする地震(以下,熊本地震)を踏まえ,避難所での高齢者・要介護者へのケア,支援についてのこれまでの取り組みと,熊本地震の現状,今後に向けた課題について概説する.

リレー連載・列島ランナー・90

若者よ,公衆衛生を目指せ!!

著者: 武智浩之

ページ範囲:P.697 - P.700

公衆衛生医師の不足に気付いたきっかけ
 全国保健所長会の宇田英典会長にお誘いいただき,2013(平成25)年度より地域保健総合推進事業・全国保健所長会協力事業「公衆衛生に係る人材の確保・育成に関する調査および実践活動」に事業協力者として参加する機会に恵まれました.事業に参加する中で,様々な立場の公衆衛生医師,医学生,公衆衛生医師に興味のある臨床医・研修医と交流してきました.現在もその交流は,広く深く進化しています.
 公衆衛生医師の不足をはっきりと知ったのは,三重県の島田晃秀先生と一緒に担当した,本事業のWebサイト調査1)がきっかけです.この調査で,県型保健所を持つ都道府県の約75%が,ホームページで公衆衛生医師を募集しており,あらかたの自治体で公衆衛生医師が不足していることがわかったのです.みなさんはどう思われますか? 公衆衛生の世界で長く経験を積まれている方には当たり前のことなのかもしれません.しかし2010年度に臨床医(泌尿器科)から転向してまだ日の浅かった自分は,ただ驚くばかりでした.こんなにも多くの自治体で募集しているのに,臨床医にはその情報がまったく届いていないからです.公衆衛生医師の不足は「古くて新しい問題である」と,日本公衆衛生協会の篠崎英夫理事長からもお聞きして,最近に限ったことではないことに驚くと同時に,公衆衛生への意識の高い先生方がずっと悩んでこられた問題であることを知りました.

[講座]子どもを取り巻く環境と健康・19

妊娠中のカフェイン摂取の母児への影響

著者: 佐田文宏 ,   佐々木成子 ,   岸玲子

ページ範囲:P.701 - P.707

 カフェインは,嗜好品であるコーヒー,紅茶,緑茶,ココア,チョコレート,ソフトドリンク等に含まれ,経口的に摂取される.コーヒーの効用(効能)に関する情報が流布していることから,コーヒー(特に,含有するカフェイン)摂取は,健康によいと思いがちであるが,必ずしもそうではない.特に妊娠可能な若い女性には,流産や胎児発育遅延のリスクを高める可能性があるので注意を要する.妊娠中の女性は,日々の飲食中のカフェイン摂取量に関心を持ち,過度に摂取しないように心掛けることが必要と思われる.今後,カフェイン摂取に関連する遺伝的な体質と摂取制限に関する有効な方法を明らかにする研究がさらに進歩すれば,妊婦の栄養指導に,体質の把握とともにカフェイン摂取制限を含めることを考慮すべきと考えられる.

予防と臨床のはざまで

ヘルスリテラシー関連演題目立つ—第22回IUHPEダイジェストその2

著者: 福田洋

ページ範囲:P.708 - P.708

 健康格差への処方箋としてのヘルスリテラシー(健康情報力)は,前回のIUHPE(パタヤ)に引き続き,今回のクリチバでも多く取り上げられていました.月〜木曜のメインプログラムは,朝9時〜基調講演,11時〜パラレルセッション,午後1時半〜準基調講演,午後3時半〜パラレルセッション,午後5時すぎからビジネスミーティングやインタラクティブセッション,学会総会など.パラレルセッションの形式にはシンポジウム,ワークショップ,一般口演,座談会(カンバセーションサークル),ポスター形式にも通常のポスター発表に加えて,e-ポスター,ダイナミックe-ポスター,発表のあるポスターウォークなど,多彩な発表形式がありました.ヘルスリテラシーは,複数の準基調講演やパラレルセッションでテーマに採用されていました(http://www.iuhpeconference2016.com/).
 日本では漸くその概念や尺度が紹介され,学会等でも疫学的な調査が始まってきたところですが,欧米では国別の比較やヘルスリテラシーを向上させる介入に関心が高まっています.例えば2日目の“Interventions to improve health literacy”のセッションでは,Andrew Pleasant氏(米国)が,小中学生の親子学級での介入によりヘルスリテラシーが約10%向上し,親に最大-15kgの減量と平均40mg/dl血糖値の低下が,子供の53%に健康知識の向上と75%に家族の幸福感の向上を観察したと報告されました.同発表は翌日のセッションでも取り上げられました.

映画の時間

—フランスで大ヒットの社会派ドラマ—ティエリー・トグルドーの憂鬱

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.709 - P.709

 日本でいえばハローワークでしょうか,職業紹介機関の窓口で,相談者がカウンセラーに苦情を申し立てる場面から映画が始まります.相談しているのは邦題にもなっている主人公のティエリー・トグルドーです.失業して1年半になる彼は,再就職を目指してクレーン操縦士の研修を受けたのに,いざ採用試験を受けると,建築現場の経験がない者は採用されないと言われ,せっかく受けた研修が,まったく就職に役立たなかったことを,カウンセラーに文句をつけています.お役所仕事はどこの国にもあるようですが,この冒頭のシーンから,本作品は全体にわたって,ドキュメンタリー映画を見ているような感覚を覚えます.監督のステファヌ・ブリゼは,作品に現実感を与えるために,撮影監督にドキュメンタリー映画出身のエリック・デュモンを指名し,また出演者の多くも,主人公を除いて,多くはプロの俳優ではなく,ノンプロを起用したとのことです.ドキュメンタリー感覚に満ちた映像に観客は知らず知らずのうちに引き込まれていきます.
 カウンセラーに苦情を言いながらも,彼は再就職活動に励むしかありません.受給している失業保険の給付期限も迫ってきます.家のローンはまだ残っており,愛する妻と,障害をもつ息子の生活も守らなければなりません.邦題にもある「憂鬱」な気分は,ドキュメンタリータッチの映像からも十分に伝わってきます.しかし「憂鬱」の種は,再就職先が見つからないというだけではありません.

書籍紹介

『米軍医が見た占領下京都の600日』—二至村菁 著 藤原書店 2015年 フリーアクセス

ページ範囲:P.683 - P.683

 1947年秋,アメリカからインターンを終えた若きジョン・D・グリスマン軍医は,GHQ占領下の日本にやってきた.赴任先は,京都府庁衛生部.彼は61通の私信で日本占領の理不尽な内情を両親に書き送り,当時高価だったコダックのカラーフィルムで100枚をこえる写真を撮影した.本書は,後にグリスマン氏やその家族からそれらの手紙や写真を入手した著者(1947年京都生れ)が,丹念に資料にあたり,関係者らに取材したノンフィクション.アメリカ人軍医の私信を軸として,GHQ未発表の資料を含む多数の資料や証言をおりこみ,米軍占領下京都における日米の人間群像を鮮やかに描いている.
 紹介されるエピソードは生き生きとしていて物語としても面白く,同時に貴重な歴史記録でもある.例えばジフテリア・ワクチン事故の責任転嫁問題,ソ連占領地域からの引揚げ女性の組織的妊娠中絶などの知られざる事実も明かされ,また,日野原重明氏(聖路加国際病院名誉院長)のすすめもあって,関係者への配慮で割愛するか迷った731部隊に関する話も残したという.

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.711 - P.711

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.712 - P.712

 阪神・淡路大震災発災の数日後に,徒歩で神戸市に入った時に目にした三ノ宮の街並みの惨状は信じられないものでした.その後2カ月余り神戸市中央保健所に滞在し,集まってくる避難者や医療救護チームの情報を整理するお手伝いをさせていただきました.当時の公衆衛生活動は,顕在化してきたニーズに突き動かされて行われるようになったものでした.保健所に精神科救護所を設置,全国規模の応援・派遣保健師の投入,災害関連死や孤独死防止の巡回活動,福祉避難所の設置などです.災害時の公衆衛生活動として体系化,マニュアル化されたのはその後のことです.
 阪神・淡路大震災の後に構築された公衆衛生活動は東日本大震災には十分に対応できなかったことが厚労科研の研究班の報告書の中で指摘されています.そのため,公衆衛生関係者の有志からなる「災害支援パブリックフォーラム」が立ち上げられました.フォーラムで議論されたことが,災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)の創設として結実に至っています.災害は一つとして同じものはありません.そのため被災地の状況にあわせ,臨機応変に,現実的に対応する公衆衛生活動が求められます.これは本来の公衆衛生活動に近いものです.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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