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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生81巻1号

2017年01月発行

雑誌目次

特集 歯科口腔保健の推進

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ページ範囲:P.5 - P.5

 2011年8月に「歯科口腔保健の推進に関する法律」が公布・施行され,翌2012年7月には「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」が大臣告示されました.そのなかで,健康日本21(第二次)と整合性が保たれた10年後の目標値等が示され,各都道府県や市町村において,歯科口腔保健に関する条例の制定や歯科保健計画の策定等の取り組みが進められています.
 基本的事項における基本的な方針の第一は「口腔の健康の保持・増進に関する健康格差の縮小」であり,これを実現するために,①歯科疾患の予防,②生活の質の向上に向けた口腔機能の維持・向上,③障害者等に対する歯科口腔保健,④歯科口腔保健を推進するために必要な社会環境の整備の4つの基本的な方針の目標・計画をライフステージごとに掲げています.

歯科口腔保健の推進に関する「基本的事項」の取組状況と今後の課題

著者: 深井穫博

ページ範囲:P.6 - P.13

 21世紀に入り,国民の口腔保健状態は著しく改善されてきた.2000年から2012年まで取り組まれた「健康日本21」における最終評価をみても,「歯の健康」に関する目標全13項目中,「目標値に達した」あるいは「改善傾向にあった」項目は12項目を占めた.この成果は,他の分野と比較しても改善度が高い.「健康日本21」全59項目(再掲を除く)の目標で,「目標に達した」項目は10項目に過ぎなかったが,その半数の5項目は「歯の健康」に関する目標であった.また,「目標に達していないが改善傾向にある」と評価された25項目中でも7項目を占めた1)
 このような成果は,歯・口腔の健康を保持するための効果的な予防法があることと,疾患を抱える当事者として国民自らが取り組みやすい分野であることによる.

健康寿命延伸のための歯科口腔保健—WHOの戦略

著者: 小川祐司

ページ範囲:P.15 - P.20

WHO国際口腔保健
 う蝕や歯周病などに代表される口腔疾患は,先進国・開発途上国を問わず人々のQOLを損ねることから,大きな社会問題であることは言うまでもありません.2007年の第60回WHO総会では,21世紀における口腔保健への取り組みとして,以下が採決されています(日本語訳).
1.健康的な食習慣と栄養摂取の確立により低栄養を改善
2.若年者の禁煙を推進して口腔や全身の健康を増進
3.安全な水の確保や衛生状態の改善により口腔衛生の推進
4.適切なフッ化物の有効利用に関する政策の普及
5.口腔癌予防のリスクコントロールや早期発見ができる保健従事者の養成
6.HIV/AIDSに関連する口腔疾患の早期発見や予防からHIV/AIDS罹患者の口腔健康の増進とQOLの確保
7.予防から早期発見,治療,予後までの一貫した口腔保健体系の整備
8.健康的な生活習慣確立のための学校歯科保健の推進
9.高齢者のQOL向上に対する口腔保健の推進
10.エビデンスべースに基づいた口腔保健情報の再整備
11.口腔保健に関する学術研究の推進

東京都における歯科口腔保健法の動きと今後の展望

著者: 山本秀樹 ,   権田昭二 ,   山崎一男 ,   髙橋哲夫

ページ範囲:P.21 - P.26

歯科口腔保健法制定の経緯
 平成23(2011)年8月10日,生涯を通じた歯科・口腔保健対策を推進するために「歯科口腔保健の推進に関する法律」(歯科口腔保健法)が公布された.この法律の制定に至っては,2008年7月の新潟県歯科保健推進条例の制定から各地域で制定されていった歯科・口腔保健の推進に関する条例制定の動きが大きく関与していた.さらに,2008年8月に日本歯科医師会の「これからの口腔保健のあり方に関する考え方」が示され,法整備の必要性の提言がなされた.こうした動きから,歯科関係の国会議員による議員立法法案成立に至った1,2)
 歯科口腔保健法は,基本法的な性格であるため,それぞれの地域で各地域の特性に基づいた歯科口腔保健推進条例が制定されることにより,口腔保健対策がより一層進むことが期待されてきた.そのため,法案成立から5年を経て,多くの自治体で歯科口腔保健推進条例が制定されてきている.

「オーラルフレイル」の予防—医科・歯科連携の必要性

著者: 飯島勝矢

ページ範囲:P.27 - P.33

高齢者の「食力」向上から健康長寿を再考する
 国民,特に高齢者の食事摂取に対する認識はどこにあるのか.どの高齢者に生活習慣病を厳格に管理するためにカロリー制限や塩分制限をやるのか,一方で,どの高齢者のどの時期から従来のメタボリック症候群(以下,メタボ)の概念(言い換えればカロリー制限の意味にもなる)からどう切り替えてもらうべきなのか.このスイッチング(考え方のギアチェンジ)は,今後フレイル対策を進める中で非常に重要な鍵になる.すなわち地域ごとの従来の介護予防事業を今まで以上に底上げし,さらに専門職の支援活動(栄養,口腔,服薬,等)に加え,国民目線での活動(自助・共助・互助)を軸とするまちづくりの中で,「しっかり噛んでしっかり食べる」という原点をいかに各国民が改めて自分事化し,大きな国民運動にまで発展させ,最終的には包括的な介護予防等の施策改善に資する流れにつなげたい.
 高齢者の食の安定性,すなわち「食力(しょくりき)」がどのような要素によって下支えされているのかを再考してみよう.図1に示すように1),残存歯数や咀嚼力,嚥下機能,咬合支持も含めた歯科口腔機能は一番重要であると同時に,複数の基礎疾患(多病)による多剤併用(polypharmacy)は知らないうちに食欲減退につながる危険性も高い.また,口腔を含む全身のサルコペニア(筋肉減弱症)の問題,さらには栄養(栄養摂取・バランスの偏り等の食事摂取状態だけではなく,食に対する誤認識も含まれる)などの要素も関与は大きい.そして,それら以上に重要な要素が「社会・人とのつながり,生活の広がりに代表されるような社会性・生活・ライフイベントやうつ等の精神心理面・認知機能,経済的問題」等の要素である.当然,その中には孤食か共食かなどの食環境の変化も含まれる.以上のように,高齢者の食を考え直してみると,高齢者が低栄養に傾いてしまう原因は多岐にわたる.

地域における摂食嚥下リハビリテーションの取り組みと課題

著者: 須佐千明 ,   戸原玄

ページ範囲:P.35 - P.40

 超高齢社会を迎えている本邦において,高齢者の摂食嚥下・栄養に関する問題への対応は喫緊の課題である.厚生労働省が発表した平成26年人口動態統計では,日本人の死因の第3位が肺炎(9.4%)であり,摂食嚥下障害による誤嚥が重大視されている.さらに,経口摂取できる量や食形態が限られてしまうことによって生じる脱水や低栄養,食べる楽しみの喪失も大きな問題となる.
 本稿では,訪問診療での摂食嚥下障害への対応,病院および地域での多職種連携の必要性と取り組み,地域における摂食嚥下機能向上への取り組みについて論じていきたい.

乳幼児の口腔機能の獲得

著者: 向井美惠

ページ範囲:P.41 - P.45

 心身発達の著しい乳幼児期の摂食に関わる口腔機能は,哺乳から離乳を経て固形食の摂取機能が発達する時期である.この時期は口腔・咽頭領域の形態成長と摂食嚥下を中心にした口腔機能発達が密接に関わっており,成長変化と機能発達とが密接に相互に影響を及ぼしながら発育がなされている1)
 摂食に関わる口腔機能の獲得は,舌,顎,口唇などの動きが協調して嚥下機能が獲得されると,順次,捕食(口唇による口腔内への食物摂取)機能→押しつぶし(舌で食物を口蓋前方部に押しつけてつぶす)機能,→すりつぶし(臼歯や臼歯相当部歯槽堤での臼磨運動によるつぶす動き,狭義の咀嚼運動にあたる)機能の順で獲得がなされ,それに続く乳児期から幼児期前半は,摂食機能の基本となる咀嚼機能が獲得される2)

歯科疾患における健康格差とは?

著者: 相田潤

ページ範囲:P.47 - P.53

 歯科疾患は改善していることが強調されることが多いが,これには2つの問題が存在する.1つは,歯科疾患が世界で最も多い疾患であり,減少してもなお人々や社会への負担が非常に大きいことへの注目を妨げてしまうことである.WHO(世界保健機関)などの「2010年世界の疾病負担研究(The Global Burden of Disease 2010 Study)」では全291疾患中最も有病率が高かったのが永久歯の未処置う蝕,6位が歯周病,10位が乳歯の未処置う蝕であった1,2).日本においても学校保健統計調査で最も多い疾患であるなど有病率は高く,歯科疾患の高い有病率は,例えば65歳以下の国民医療費では歯科医療費が癌や高血圧や糖尿病の医療費よりも多いことにつながるといった,社会への大きな負担になっている.そして個人への負担として,歯科疾患自体の痛みや不快感といったことの他,歯を喪失することは高齢者の会話を通した社会活動の低下を招き,全身的な健康も悪化させるなど影響は決して小さくはない.2つ目の問題は,平均的な歯科疾患の減少にだけ注目してしまうと,歯科疾患の健康格差の存在とその対策に目が向かなくなることである.歯科疾患は有病率が高い疾患であるため,格差も大きく,格差の存在自体が有病率の減少にブレーキをかけてしまう.
 2011年に施行された「歯科口腔保健の推進に関する法律」に伴う「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の1番目は「口腔の健康の保持・増進に関する健康格差の縮小」である.2013年からの国の健康施策である「健康日本21(第二次)」の基本的な方向の1番目は「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」であり,健康格差への取り組みの必要性が認識されつつある.ここでは,歯科疾患の健康格差とその対策について解説をする.

秋田県における歯科口腔保健の取り組み

著者: 小畑充彦

ページ範囲:P.55 - P.62

 2011年8月に「歯科口腔保健の推進に関する法律」が公布・施行され,翌2012年7月には「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」が厚生労働大臣告示として公表された.法の趣旨に則り,本県においても2012年10月に「秋田県歯と口腔の健康づくり推進条例」(以下,条例)が公布・施行され,2014年3月には「秋田県歯と口腔の健康づくりに関する基本計画」1)(以下,基本計画)が策定されたことにより,歯科に特化された法令と基本計画の下で歯科口腔保健に係る施策を講じることとなった(図1).本稿では,基本計画策定までの流れやこれまでの健康づくりに関する施策との関係,基本方針について触れる.また,基本計画等に記載されている具体的指標とその現状値について主な事業内容とともに紹介する.

視点

健康な「まちづくり」と「まちおこし」—政令市型保健所の可能性

著者: 前田秀雄

ページ範囲:P.2 - P.3

不易流行の街
 芭蕉は,俳諧の理念として「不易」は時代の新古を超越して不変なるもの,「流行」はそのときどきに応じて変化してゆくものを意味するが,両者は本質的に対立するものではなく,「流行」という新しみを求めて変化していくことが,実は「不易」の本質であるとしている.
 政令市型保健所が設置されている都市部の自治体は不易流行の街ではないかと感じる.時代の推移と共に文化流行といったソフト面も建築物や景観などのハード面も目まぐるしく変化している一方で,世代を超えて定住している一族や長く暖簾を守って営まれている商家,さらには連帯感を維持した地域団体や町会組織などが確固とした存在感を示しているからだ.このため,行政を進めるうえで,地域コミュニティの維持育成を継続的に図る施策を進めていくことが求められると同時に,常に最新の社会経済的状況に迅速的確に対応した方策を打ち出していかなければならない.地域保健対策においても,まちづくり,地域づくりの視点からのソーシャルキャピタルを支援する「不易」の保健活動が必要である一方で,少子高齢化に伴うニーズの変化,グローバルな経済理念に基づいた保健医療福祉サービス産業の発達,そして住民自身の健康意識の変容など,様々な「流行」に対応していかなければならない.

投稿・原著

地理情報システムを用いた周産期医療に係る1km2メッシュ単位の需給指標の開発

著者: 石川雅俊

ページ範囲:P.67 - P.73

要旨
 従来の二次医療圏単位の需給分析では,ある医療圏で供給が不足し,周辺の二次医療圏がそれを十分にカバーしている場合,広域でどのように評価してよいかという課題があった.
 そこで,地理情報システムを用いて,妊婦の住所地から分娩医療機関への受診アクセスを考慮した,周産期医療の需給状況を評価する新指標「周産期医療密度指数」を開発した.
 周産期医療密度指数は,出生住所地の1km2メッシュ単位の需要(出生数)と,時間距離を踏まえた供給(分娩数)が同じ値であった場合に,需給バランスが取れていると解釈される1km2メッシュ単位の需給指標である.
 周産期医療密度指数の二次医療圏単位の平均値(±標準偏差)は0.94(±0.23),中央値0.97,最大値は気仙(岩手県)の1.48,最小値は南檜山(北海道)の0.05であった.分娩件数がゼロの二次医療圏であっても,受診アクセスのよい周辺二次医療圏の影響を受けて周産期医療密度指数は一定水準に達していた.
 本研究では分娩医療機関からの運転時間について,60分圏内の出生数について短い順に15分単位で重み付けを行ったが,時間距離と医療機関選択の関係の検証は今後の課題である.
 周産期医療密度指数は,居住地の近くで安心・安全なお産を受けたいという妊婦の需要と,それに対する周産期医療の供給状況をより正確に反映した指標であると考えられる.また,本手法は,周産期医療にとどまらず各種疾病や医療資源の需給分析への応用も可能と考えられる.

連載 衛生行政キーワード・113

歯科口腔保健の推進に関する法律

著者: 高田淳子

ページ範囲:P.63 - P.65

法律の背景等
 歯科保健活動は,大正時代から啓蒙活動として行われており,昭和3(1928)年に6月4日を「ムシ歯予防デー」,昭和33(1958)年に6月4日から10日までを「歯の衛生週間」として,普及活動が行われてきた.
 当初,むし歯予防を中心とした母子歯科保健活動が行われていたが,次第に,成人を対象とした歯周病予防等と対象も内容も広がりをみせてきた.これらの成果もあり,小児のむし歯は減少し(図1),8020の達成者は増加するなど(図2),歯・口腔の健康状態は着実に向上している.20歳以上で過去1年間に歯科検診を受けた者の割合は,国民健康・栄養調査によれば,2004年・32.2%,2009年・34.1%,2012年・47.8%と増加し,歯科診療所を受診する高齢者は増加している.一方で,歯が多く残っている高齢者の増加に伴い,歯周病の罹患率が増加している(図3).

リレー連載・列島ランナー・94

新任期の保健師活動を振り返って

著者: 日野出悦子

ページ範囲:P.75 - P.77

 長崎県上五島保健所の宗陽子所長から,この列島ランナーのたすきを受け取りました.たすきを受け取る際,少し迷いがありました.列島ランナーの企画主旨が「公衆衛生の現場の活動,声を広く紹介する」ということですが,私は現在,公衆衛生という現場ではなく,障害者の福祉を主とした職場で仕事をしているからです.
 実際,私は公衆衛生の現場である保健所を離れて既に10年経っていますが,保健所保健師として周囲の力をお借りしながら,ここまで仕事を続けられたのは,貴重な新任期の保健師活動があり,それを糧とし,人としての成長が少なからず感じられたという自負があるからです.せっかくの機会をいただいたので,本稿を借りて,私の体験談を紹介しながら,私が今お伝えしたいことを述べたいと思います.

[講座]子どもを取り巻く環境と健康・23

社会経済要因の影響—(2) 認知/行動発達

著者: 喜多歳子 ,   岸玲子

ページ範囲:P.79 - P.84

 近年,幼少期の社会経済要因が成人期の保健行動や健康状態に長期的に影響することが明らかになるに従い,乳児期からの成長発達過程で何が起きているのかに関心が向けられてきている.しかし,日本では子どもの貧困が社会問題化している中で,その関心は学童期の子どもに向けられ,就学前の子どもに対する関心は今のところ十分ではない.生涯を通した疾病予防を考えるうえで,社会経済要因が乳幼児期の発達に与える影響を明らかにすることは重要であるが,日本では有効な対策を考えるためのエビデンスがほとんどない.そこで本稿では,筆者らが追跡している「環境と子どもの健康に関する北海道スタディ(以下,北海道スタディ)」および海外の報告を紹介し,乳幼児期を中心とした認知/行動発達への影響を概観するとともに今後の研究の方向性を検討したい.

ポジデビを探せ!・3 ケース2:院内感染コントロール

小さな波から始まるポジデビ

著者: 前田ひとみ ,   河村洋子 ,   上野洋子 ,   南家貴美代

ページ範囲:P.85 - P.90

ポジデビ・アプローチによる医療関連感染予防対策
 2000年初め,米国では,医療関連感染で死亡する人の数は1日平均275人もいた.これは,国際線のジャンボジェット機が墜落した場合の死者数に相当する.医療関連感染の中で,一般的に問題となるのが,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)感染である.MRSAはpenicillin系抗生物質methicillinに対する耐性を獲得した黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus(S. aureus)であり,健常な人には問題を起こさない.しかし,抗がん剤の使用や高齢などにより免疫が低下すると,感染が死につながる可能性がある.死に至らないまでも,入院期間の延長や医療費の追加により患者への負担が増す.本来必要のない医療資源を投下することになり,医療現場における潜在的コストも大きくなる.
 米国モンタナ州にあるBillings Clinicでは,MRSAをはじめとする医療機関内の院内感染の問題を真剣に捉え対策を講じ,2001年に38件発生したMRSA感染を2005年には6件にまで抑えた.なんと,5年間で感染率を84%減少させるという快挙を成し遂げたのである.

予防と臨床のはざまで

ヘルスリテラシーを高める保健事業

著者: 福田洋

ページ範囲:P.91 - P.91

 健康診断に携わるスタッフの勉強会として始まった文天ゼミも74回を数え,2016年10月25日には,年に1回行われる朝まで生テレビ方式の文天シンポジウムが開催されました.朝まで生テレビ方式とは,円卓に議論をするメンバーが座り,その周辺を聴衆が取り囲み激論を交わすというスタイルで,昨年の重症化予防に続き2回目の今年は,「ヘルスリテラシーを高める保健事業」をテーマに行いました.
 円卓に召集されたのは,今をときめく健康経営企業を始め,保健事業や職域ヘルスプロモーションに積極的な企業の人事や保健師,健康保険組合の役員,また,中小企業の現状を知る協会けんぽの保健師にもご登壇頂きました.まず最初に私から,国際学会(IUHPE)の話題から,広がる健康格差と人の健康がもっと大きなものに支配されているということ,さらに組織のヘルスリテラシー向上が注目されているという点について話題提供を15分間行い,残り100分以上をすべてディスカッションに当てました.

映画の時間

—名声より,わが命よりも大事なもの—うさぎ追いし 山極勝三郎物語

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.93 - P.93

 最近は,帝都医科大学病院の海老名教授役などで人気を博している遠藤憲一ですが,今月ご紹介する「うさぎ追いし」では,東京帝国大学教授の山際勝三郎役で出演しています.山極勝三郎と言えば,ウサギの耳にタールを塗って,世界初となる人工癌を発生させたことで有名です.「うさぎ追いし 山極勝三郎物語」は山極の生涯を描いた作品です.
 1863年,明治維新の5年前に,山極勝三郎は信州上田城下(現在の長野県上田市)に下級藩士山本政策の三男として生まれています.江戸期から明治期に至る転換期のなかで,幼少期を過ごした山極の様子が,美しい信州の風景を背景にテンポよく描かれていきます.明治になり,寺子屋を開いていた下級藩士の実家から,東京都で医院を開業していた山極家の養子となり,医院を継ぐべく,養子先の長女(水野真紀)と結婚して東京帝国大学医科に進学しますが,学業優秀な山極は,結局医院を継がずに病理学教室に入局します.そして当時,世界のだれもが為しえなかった人工癌の発生の研究に取り組むことになります.

「公衆衛生」書評

—印南 一路 編著—削るための政策から,守るための政策へ—医療費の増加要因ならびに医療費適正化政策のあり方を再考—『再考・医療費適正化—実証分析と理念に基づく政策案』 フリーアクセス

著者: 中村好一

ページ範囲:P.46 - P.46

 今や国民医療費は総額41兆円,国民一人当たりでは約32万円に達し,高所得者になれば年間100万円以上もの保険料を公的医療保険に支払っている.にもかかわらず,保険財政は危機的状況で,医療費全体の40%弱の税金を投入し,将来世代に負担を先送りしている状況にある.このままの仕組みが永続すると思う者は少数だろうが,抜本改革に伴う利害調整の困難さは誰もが予想でき,その故か医療費適正化を正面から論じた書はなかった.この点で本書は挑戦的である.
 本書のタイトルは,「再考・医療費適正化」だが,再考している点は,次の2つにあると思われる.

—多田羅浩三 著—「医学」「公衆衛生」「看護」とは何かへの深い理解—『医学清話—健康を支える知恵と制度の歩み』 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.54 - P.54

 明治期に導入された西洋医学はわが国の日常の医学となっている.明治維新から150年になり,この間に国民皆保険を達成し,長寿社会を実現し,医学研究の領域においてノーベル医学生理学賞の受賞者を出すまでになっている.
 本書は,西洋医学の起源から始まり,日本の医療や公衆衛生などについて,著者が50年にわたり,教育者,研究者として,各方面で報告されてきたことを網羅した書籍である.医学とは,どのように生まれ,歩んできたのか,公衆衛生とは何か,歴史的な流れから,鳥瞰的に,一冊にまとめられた,皆さんに身近な座右の書としていただきたい著作である.内容は,第1章「西洋医学の歩み」,第2章「公衆衛生の歩み」,第3章「大学の誕生」,第4章「イギリスの社会体制」,第5章「イギリスの医療制度」,第6章「わが国の医療・公衆衛生の制度」,第7章「健康日本21の歴史的意義」,第8章「特定健診・保健指導の発足」,第9章「国際共生に向けた健康への挑戦」,補章「洪庵の学問を育んだ心」からなっている.

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.95 - P.95

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 石原美千代

ページ範囲:P.96 - P.96

 今回は「歯科口腔保健の推進」をテーマに,特集を企画しました.深井穫博氏からは日本の歯科疾患予防は歯科関係者等を中心に行われ,国民の意識と保健行動の向上と相まって大きな成果を収めてきたが,健康格差の課題が残っており,公衆衛生施策としての環境へのアプローチが必要であるとの指摘をいただきました.山本秀樹氏らには東京都歯科医師会の立場から,歯科口腔保健法制定の経緯と東京都の各地域における取り組み状況,そして地域格差の課題について示していただきました.相田潤氏には「WHOは健康格差の最大の原因は,健康の社会的決定要因であるとしている」こと,さらに「逆転する予防・ケアの法則」「予防医学のパラドックス」について改めて教えていただきました.小畑充彦氏には行政の立場から,近年素晴らしい効果を上げている秋田県の取り組み状況をご紹介いただきました.学校等での集団フッ化物洗口も取り組みに含まれており,これは相田氏が「地域格差縮小の効果が証明されている」としている「比例的全体アプローチ」になります.
 小川祐司氏にはWHOの戦略を解説していただき,口腔保健が生活の質の向上を図る重要な役割を担うとの意見をいただきました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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