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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生81巻1号

2017年01月発行

文献概要

特集 歯科口腔保健の推進

歯科疾患における健康格差とは?

著者: 相田潤1

所属機関: 1東北大学大学院歯学研究科 国際歯科保健学分野

ページ範囲:P.47 - P.53

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 歯科疾患は改善していることが強調されることが多いが,これには2つの問題が存在する.1つは,歯科疾患が世界で最も多い疾患であり,減少してもなお人々や社会への負担が非常に大きいことへの注目を妨げてしまうことである.WHO(世界保健機関)などの「2010年世界の疾病負担研究(The Global Burden of Disease 2010 Study)」では全291疾患中最も有病率が高かったのが永久歯の未処置う蝕,6位が歯周病,10位が乳歯の未処置う蝕であった1,2).日本においても学校保健統計調査で最も多い疾患であるなど有病率は高く,歯科疾患の高い有病率は,例えば65歳以下の国民医療費では歯科医療費が癌や高血圧や糖尿病の医療費よりも多いことにつながるといった,社会への大きな負担になっている.そして個人への負担として,歯科疾患自体の痛みや不快感といったことの他,歯を喪失することは高齢者の会話を通した社会活動の低下を招き,全身的な健康も悪化させるなど影響は決して小さくはない.2つ目の問題は,平均的な歯科疾患の減少にだけ注目してしまうと,歯科疾患の健康格差の存在とその対策に目が向かなくなることである.歯科疾患は有病率が高い疾患であるため,格差も大きく,格差の存在自体が有病率の減少にブレーキをかけてしまう.
 2011年に施行された「歯科口腔保健の推進に関する法律」に伴う「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の1番目は「口腔の健康の保持・増進に関する健康格差の縮小」である.2013年からの国の健康施策である「健康日本21(第二次)」の基本的な方向の1番目は「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」であり,健康格差への取り組みの必要性が認識されつつある.ここでは,歯科疾患の健康格差とその対策について解説をする.

参考文献

1)Marcenes W, et al:Global burden of oral conditions in 1990-2010:a systematic analysis. J Dent Res 92(7):592-597, 2013
2)相田潤,小坂健:歯科口腔保健の重要性:疾病の公衆衛生上の重要性の4基準からの考察.ヘルスサイエンス・ヘルスケア14(1):3-12, 2014
3)相田潤,他:ライフステージによる日本人の口腔の健康格差の実態:歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査から.口腔衛生学会雑誌66(5):458-464, 2016
4)相田潤,他:口腔の健康格差と社会的決定要因.深井穫博(編):健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデンス2015.公益社団法人日本歯科医師会,2015, pp.215-228
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6)Ito K, Aida J, et al:Individual-and community-level social gradients of edentulousness. BMC Oral Health 15(1):34, 2015
7)ニコラス・A・クリスタキス,ジェームズ・H・ファウラー(著),鬼澤忍(訳):つながり 社会的ネットワークの驚くべき力.講談社,2010
8)Solar O, Irwin A:A conceptual framework for action on the social determinants of health. Discussion paper for the Commission on Social Determinants of Health. Geneva, WHO, 2007
9)Schou L, Wight C:Does dental health education affect inequalities in dental health? Community Dent Health 11(2):97-100, 1994
10)ジェフリー・ローズ(著),水嶋春朔(訳):予防医学のストラテジー:生活習慣病対策と健康推進.医学書院,1998
11)Matsuyama Y, et al:School-Based Fluoride Mouth-Rinse Program Dissemination Associated With Decreasing Dental Caries Inequalities Between Japanese Prefectures:An Ecological Study. J Epidemiol 2016 doi:10.2188/JE20150255
12)Watt RG:From victim blaming to upstream action:tackling the social determinants of oral health inequalities. Community Dent Oral Epidemiol 35(1):1-11, 2007

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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