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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生81巻10号

2017年10月発行

文献概要

特集 薬剤耐性(AMR)対策

獣医療分野における抗菌薬の慎重使用の推進

著者: 浅井鉄夫1

所属機関: 1岐阜大学大学院連合獣医学研究科

ページ範囲:P.822 - P.826

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はじめに
 抗菌性物質は動物の健康を守り,安全な畜産物を安定供給することを目的として,ペット医療や畜水産分野で長い間,利用されている.動物に分布する薬剤耐性菌の状況は,動物で使用される抗菌性物質と深く関係しているが,薬剤耐性菌の分布にはさまざまな要素が関与する.個体に対する耐性菌の定着能,飼育場所における残存性,動物種によって異なる治療方法などがそれを大変,複雑なものにしている1)
 動物で使用される抗菌性物質は,①動物の細菌感染症の治療を目的とする動物用医薬品と,②牛,豚および鶏などの家畜の飼料中の栄養成分の有効利用(海外では成長促進)を目的とした抗菌性飼料添加物に区分される.治療目的に使用される抗菌薬は動物専用の成分も使用されるが,医療現場でヒトに使用されるものと系統としてはおおむね共通である.抗菌性飼料添加物にはテトラサイクリン系の抗生物質やコリスチンなども含まれるが,コクシジウム(原虫)症に有効なポリエーテル系抗性物質(サリノマイシン,モネンシンなど)が大部分である.
 畜産分野における薬剤耐性対策は,抗菌薬のリスクアナリシスと慎重使用を中心に取り組まれている.リスクアナリシスは不確かな危害に対して意思決定する方法であり,①リスクアセスメント,②リスクマネジメント,③リスクコミュニケーションの3要素で構成される.家畜に使用される抗菌薬については食品安全委員会によってリスクアセスメント(食品健康影響評価)が行われ,農林水産省と厚生労働省によってリスクマネジメントが実施されながら適正に使用されている.抗菌薬の慎重使用とは,抗菌薬を使用すべきかどうかを十分に検討したうえで,抗菌薬の“適正使用”によって最大限の効果を上げ,薬剤耐性菌の選択を最小限に抑えるように使用することとされている.
 本稿では,動物用抗菌薬の使用状況,法的規制,抗菌薬の慎重使用と今後の課題について概説する.

参考文献

1)Harada K, et al:Role of antimicrobial selective pressure and secondary factors on antimicrobial resistance prevalence in Escherichia coli from food-producing animals in Japan. J Biomed Biotechnol. 2010:180682, 2010
2)厚生労働省健康局結核感染症課:薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン.https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/kikikanri/H28/12-2.pdf
3)平山紀夫,他:わが国における抗菌性物質の使用量の推移.動物用抗菌剤研究会報30:10-18, 2008
4)農林水産省動物医薬品検査所:動物用医薬品,医薬部外品及び医療機器製造販売高年報(別冊)各種抗生物質・合成抗菌剤・駆虫剤・抗原虫剤の販売高と販売量.http://www.maff.go.jp/nval/iyakutou/hanbaidaka/index.html
5)沖田賢治:薬剤耐性と飼料添加物.畜産技術4月号:35-41, 2017
6)Kimura Y, et al:Analysis of IMP-1 type metallo-β-lactamase-producing Acinetobacter radioresistens isolated from companion animals. J Infect Chemother. doi:10.1016/j.jiac.2017.(Epub ahead of print)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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