icon fsr

文献詳細

雑誌文献

公衆衛生81巻12号

2017年12月発行

特集 地球温暖化対策—2020年以降の新たな国際枠組み

気候変動と水災害

著者: 風間聡1

所属機関: 1東北大学大学院工学研究科土木工学専攻

ページ範囲:P.982 - P.987

文献概要

はじめに
 2016年は台風の当たり年であり,気象庁が統計を開始して以来,2番目に多い6個が日本に上陸した.特に7・9・10・11号は8月に集中して東日本に上陸した.北海道では3個の台風によって特に道東地域が被害を受け,4名の犠牲者と2名の行方不明者が出た.台風10号では岩手県で20名の犠牲者と3名の行方不明者を出した.認知症高齢者グループホーム「楽ん楽ん」(らんらん:岩手県岩泉町)で9名の高齢者が亡くなった小本川(おもとがわ)は特に大きな被害を受けた.
 この前年の2015年9月には関東と東北地方で線状降水帯により大きな被害が生じ,8名の犠牲を出した.関東地方では鬼怒川が破堤し,広範囲で浸水して常総市役所が水没した.2014年8月には西日本で豪雨が発生し,広島市の広い範囲で斜面災害が生じ,74名が亡くなっている.2017年7月の本稿の執筆時にも九州北部豪雨によって35名の犠牲者,6名の行方不明者が生じた.
 上記のように,近年,豪雨による多くの被害が発生し,水災害が増えたと感じる人も多くなっている.これらの豪雨と気候変動の関係は明らかになっていないが,海面水温が上昇すると,台風はより高緯度まで勢力を保つことができ,また,多くの水蒸気を日本の内陸部に供給することも可能となるため,温暖化によって水災害が増えるといわれている.気象庁がコンピューターシミュレーション(general circulation model:GCM)によって示した将来展望では,豪雨の発生回数が増加するとともに渇水も増えることが示されている1)
 温暖化を防ぐために温室効果ガスを減らす緩和策については広く論じられてきたが,Intergovernmental Panel on Climate Change(IPCC)は,緩和策だけではもはや対応することができないため,適応策も並行して施策するべきであると述べている.適応策とは,気候変動によるさまざまな変化に対して対応する政策のことをいう.水災害の適応策は従来からとられてきた防災政策となんら変わりはないが,将来への防御レベルの低下をどのように考えるかが問題となっている.適応策は大きく①撤退,②受容,③防御の3つに区分されるとされる2).リスクの高い地域の生活を諦めて移転することを撤退,水災害を受け入れつつ生活することを受容,構造物によって洪水や斜面災害を完全に防ぐことを防御という.堤防やダムの建設といった過去の日本政府の政策は防御であったが,近年の霞堤やハザードマップの導入などは受容に相当する.上記のような政策・意思決定を行うためには,適応策の投資効果を知り,また,経済損失がどの程度となるのかを把握する必要がある.
 本稿では,水災害について推定被害額を示し,増加する水災害についてどのように適応するかを考察する.

参考文献

1)気象庁:地球温暖化予測情報 第9巻(2017年).http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/GWP/
2)Klein RJT, et al:Coastal Adaptation to Climate Change:Can the IPCC Technical Guidelines be applied? Mitigation and Adaptation Strategies for Global Change, Splinger, pp413-414, 1999
3)手塚翔也,他:極値降雨と極値流出の関係に基づいた洪水被害分布推定.土木学会論文集 B1(水工学)69:Ⅰ_1603-Ⅰ_1608, 2013
4)Kazama S, et al:Evaluating the cost of flood damage based on changes in extreme rainfall in Japan. Sustainability Science 4:61-69, 2009
5)国立研究開発法人国立環境研究所:環境省環境研究総合推進費S-8温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究.http://www.nies.go.jp/s8_project/
6)Kawagoe S, et al:Probabilistic modelling of rainfall induced landslide hazard assessment. Hydrology and Earth System Sciences 14:1047-1061, 2010
7)秋間将宏,他:年最小気圧を用いた複合災害潜在被害額の将来推定.土木学会論文集 B1(水工学)73:Ⅰ_139-Ⅰ_144, 2017

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら