icon fsr

文献詳細

雑誌文献

公衆衛生81巻12号

2017年12月発行

文献概要

特集 地球温暖化対策—2020年以降の新たな国際枠組み

新興国・途上国の地球温暖化対策—クリーン開発メカニズムから二国間クレジット制度とカーボンプライシングへ

著者: 有村俊秀12

所属機関: 1早稲田大学政治経済学術院 2早稲田大学環境経済経営研究所

ページ範囲:P.1008 - P.1013

文献購入ページに移動
はじめに
 2015年に第21回気候変動枠組条約締約国会議〔COP21. COP:conference of the parties〕で締結されたパリ協定は気候変動政策のメルクマールである.気候変動による深刻な危機を回避するために,温度上昇を摂氏2℃に抑制する目標が掲げられた.また,京都議定書(1997年)から離脱した米国はもとより,京都議定書のもとでは削減義務を持たなかった中国をはじめとする新興国,ならびにその他の発展途上国が,自国の温室効果ガス排出の削減あるいは抑制を約束した.このパリ協定を契機として,新興国・途上国も排出削減目標,あるいは抑制目標を掲げることとなった.
 パリ協定までの地球温暖化対策は,先進国が温室効果ガスの排出を削減することであった.国際的な気候変動政策の最初の本格的な取り組みである京都議定書では「共通だが差異ある責任」という考えに基づいて,それまでの温室効果ガス排出に責任がある先進国が削減義務を負った.わが国は2008年〜2012年の第一約束期間に1990年比で6%削減することとなった.欧州も削減義務を負ったが,発展途上国に義務はなかった.
 しかし,京都議定書の下でも,途上国での排出削減が行われてこなかったわけではない.同議定書のもとでは,クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism:CDM)という制度が設けられた.排出削減の義務を持つ先進国が,義務を持たない発展途上国での排出削減に投資することによって「削減クレジット」を得ることができた.実際,多くのプロジェクトが実施され,排出削減に貢献した.しかし,CDMについては,後述するような問題点が指摘された.そのため,日本政府は「二国間クレジット制度」を提唱してきた.
 上記のような先進国中心での排出削減は,パリ協定を境に変わった.途上国でも排出の削減,あるいは抑制目標を掲げることになったからである.この削減目標にいかに実効性を持たせるかが課題となっている.その一つの手段として耳目を集めているのが「カーボンプライシング」(carbon pricing)である.これは,市場メカニズムを用いた排出削減の方法である.経済学的には削減目標を低い費用で達成できることが知られており,パリ協定の前後から,先進国も含め世界的に注目を浴びている.
 本稿では,新興国,途上国それぞれにおける排出削減に向けた取り組みを紹介する.まず,途上国で実施されてきたCDMを紹介する.そして,CDMの問題を改善するために日本政府が提案した二国間クレジット制度を紹介する.次に,新興国での排出目標に実効性を持たせる政策手段としてのカーボンプライシングについて,その導入状況を含めて紹介する.

参考文献

1)IGES:IGES CDM Project Database. https://pub.iges.or.jp/pub/iges-cdm-project-database
2)有村俊秀,他:日本企業と排出量取引の実態:クリーン開発メカニズムを中心に.有村俊秀,他(編):排出量取引と省エネルギーの経済分析—日本企業と家計の状況—,pp101-120,日本評論社,2012
3)縫部敦子:クリーン開発メカニズムの課題と二国間クレジット制度の展望.月刊エネルギーフォーラム 2011年8月号,2011 http://www.sc.mufg.jp/company/sustainability/cef/article-09.html
4)Institute for Global Environmental Strategies(IGES), Alexis ROCAMORA:IGES CDM Project Database. https://pub.iges.or.jp/pub/iges-cdm-project-database
5)新メカニズム情報プラットフォーム.http://www.mmechanisms.org/initiatives/jcm_history.html
6)有村俊秀(編著):早稲田大学現代政治経済研究所研究叢書41 温暖化対策の新しい排出削減メカニズム—二国間クレジット制度を中心とした経済分析と展望.pp1-175,日本評論社,2015
7)Sugino M, et al:Multiplier impacts and emission reduction effects of Joint Crediting Mechanism:analysis with a Japanese and international disaggregated input-output table. Environmental Economic and Policy Studies 19:635-657, 2017
8)日引聡,他:入門 環境経済学—環境問題解決へのアプローチ.中央公論新社,2002
9)金振:中国排出権(量)取引制度の最新動向と展望.早稲田大学・環境経済・経営研究所ワークショップ「各国排出量取引制度の現状と展望」,2016 http://www.waseda.jp/prj-rieem/_src/374/Zhen_RIEEM_ETS_web.pdf
10)カーボンプライシングの在り方検討会:第2回検討会(平成29年7月10日)資料 価格アプローチについて.http://www.env.go.jp/press/conf_cp02/mat06.pdf

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら