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公衆衛生81巻7号

2017年07月発行

雑誌目次

特集 予防接種政策

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ページ範囲:P.537 - P.537

 WHOが現在推進しているThe Global Vaccine Action Planでは,2020年までの目標を,世界中のすべての人々がワクチンで予防できる疾患VPD(vaccine-preventable diseases)に罹患することなく生活を楽しめる社会の実現を目指すとしています.これは,2020年までに予防接種による最大限の恩恵を(発展途上国を含めた)世界中の人々にもたらすことを使命とする計画です.わが国は先進工業国であるにもかかわらず,予防接種法に基づく定期接種の対象疾患数や使用できるワクチンの種類が欧米諸国よりも少なく,いわゆる“ワクチンギャップ”が指摘されていました.
 最近の予防接種法等の改正によって,ワクチンギャップはかなり解消されてきていますが,一方で,最近は新しいワクチンの開発・承認が相次ぎ,VPDは増加しています.乳幼児期の予防接種のスケジュールや接種方法の工夫(例:複数ワクチンの同時接種),接種後の副反応や有害事象に対する相談体制の強化などが求められています.また,VPDに対する予防接種の普及による効果(対象疾患の流行阻止)や,副次的な影響(病原体流行株の遺伝子型等の変化)の評価なども今後の予防接種政策を検討するうえで重要な課題となっています.加えて,新興感染症(エボラ出血熱,ジカウイルス感染症など)や再興感染症(結核,マラリアなど)に対するワクチン政策,根絶に向けた最終段階でのポリオ予防接種戦略,および海外渡航者の増加に伴うトラベラーズワクチンなどへの関心も高まっています.

最近における国内の予防接種制度の変遷とこれからの課題

著者: 齋藤昭彦

ページ範囲:P.538 - P.543

はじめに
 日本の予防接種制度の遅れは,“vaccine gap(ワクチンギャップ)”という言葉に例えられ,以前から多くの問題点が指摘されてきた1).インフルエンザ菌b型〔Haemophilus influenzae type b;Hib(ヒブ)〕ワクチンの導入が米国に比べて約20年遅れたことがその代表例である.効果と安全性が海外で確認されているワクチンが,国内にさまざまな理由から導入されず,その結果,子どもたちがそれらのワクチンで予防できる病気(Vaccine Preventable Diseases;VPDs)から守られず,その疾患と後遺症に苦しむ状況が続いていた.また,すでに導入されているワクチンの中には,費用負担のある任意接種ワクチンのため接種率が向上せず,疾患が社会にまん延し,子どもたちがその合併症に苦しめられてきたものもある.いまだに解決していないムンプス(おたふくかぜ)による合併症の1つである難聴などはこの例である2)
 しかしながら,この数年,海外で製造されたワクチンを中心に,新しいワクチンが次々に国内に導入された(表1)3).2013年にはヒブワクチンや肺炎球菌結合型ワクチンなどが定期接種化され,それらのVPDsを減少させることに成功した3).さらには,任意接種ワクチンであった水痘ワクチン,B型肝炎ワクチンも2014年,2016年にそれぞれ相次いで定期接種化された.このように接種できるワクチンとその費用面での負担に関しては,ワクチンギャップはこの数年で解消の方向にあるが,一方で,いまだに幾つかの重要な問題が存在する.
 本稿では,最近の国内の予防接種制度の変遷とこれからの課題(表2)について述べることとする.

VPDに対する予防接種の効果の評価と課題

著者: 大石和徳

ページ範囲:P.544 - P.549

はじめに
 ワクチンで予防できる疾患(vaccine-preventable disease:VPD),とりわけ定期接種に導入されたVPDに対する効果の評価が求められている.定期接種ワクチンのVPDに対する効果の評価を目的として,感染症法の下に実施されている感染症発生動向調査や,VPDに関する血清抗体調査(感染症流行予測事業による)などが行われている.しかしながら,それぞれのVPDとワクチンの特殊性もあり,定期接種ワクチンの効果の評価はしばしば困難である.
 本稿では,VPDとしての麻疹と肺炎球菌感染症を取り上げる.

有害事象・副反応報告制度の変化と課題

著者: 岡部信彦

ページ範囲:P.550 - P.557

はじめに
 わが国で制度としての予防接種が確立されたのは,1948年の予防接種法の制定によってである.当時の感染症(伝染病)の流行状況に対して強力な社会防衛を行うという観点から予防接種は国民への義務となり,個人の費用負担はないが,予防接種の会場を設定しての集団接種を行い,違反者には罰則を課するという強制のもとでの接種としてスタートした.その後,ワクチンの進歩,疾病構造の変遷,副反応の発生状況,社会情勢などによって,対象疾病,対象年齢,接種方法,ワクチンの種類(内容)などについても多くの見直しや改正が行われてきた.
 1994年には,“予防接種の努力義務化”(受けなければならないという表現から,受けるように努めなければならないという表現への変化:勧奨接種),集団接種から個別接種への移行,予防接種による健康被害に対する救済制度の充実などの予防接種法の大きな改正が行われた.副反応の把握については,それまでは健康被害救済の認定件数や予防接種副反応研究班による調査などによっており,全国的なモニタリングは行われていなかった.正常範囲にとどまる副反応を含めた予防接種後の副反応の発生状況をより幅広く把握するため,1996年から「予防接種後副反応報告」と「予防接種後健康状況調査」の2事業が行われている.
 2013年にも大きな改正が行われた.予防接種基本計画の策定,いわゆる“ワクチンギャップ”の解消を目指して,Hibワクチン・小児用肺炎球菌ワクチン・ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの定期接種化,予防接種に関する評価・検討組織の設立,サーベイランスの強化などがなされた.そして,副反応(疑い)報告については,予防接種法に基づいた医療機関・医師による報告を法定化し,さらに,その評価を厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会において年に数回程度行うこととされた.また,従来の副反応報告制度は定期接種対象ワクチンに限られていたが,医薬品医療機器等法による任意接種ワクチンの届け出と一本化したため,定期・任意にかかわらず同一のシステムでモニタリングが行われるようになり,評価されるようになった.
 2016年8月には名称が「予防接種等による副反応の報告」から「予防接種等による副反応疑いの報告」に改められ,副反応と確定したものの報告ではなく,その疑いを含めた幅広い報告〔有害事象(adverse events)報告:日本薬学会による薬学用語の解説では“薬物との因果関係がはっきりしないものを含め,薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない,あるいは意図しない徴候,症状,または病気”を有害事象(adverse event)という.有害反応(adverse reaction)は,病気の予防,診断,治療に通常用いられる用量で起こる好ましくない反応であり,薬物との因果関係があるものを指す.〕を求めるものであることが明確にされた1)

予防接種政策の変化に対応したサーベイランス

著者: 多屋馨子

ページ範囲:P.558 - P.565

はじめに
 “ワクチンギャップ”が指摘されていた2012年当時と比較すると,日本で接種可能なワクチンが増加している.また,定期の予防接種(以下,定期接種)制度に導入されたワクチンも増加している.これらの予防接種政策の変化に伴って,感染症の疫学は変わりつつある.この変化をさまざまなサーベイランスで監視し,次の対策につなげることが期待されている.

新興ウイルス感染症に対するワクチン開発の現状

著者: 西條政幸

ページ範囲:P.566 - P.573

はじめに
 近年,動物由来ウイルスによるヒトにおける感染症(新興ウイルス感染症)が発生し,それらに対する国際的に連携した対策が求められている.2013年12月〜2015年にかけて,西アフリカ(リベリア,ギニア,シエラレオネ,マリ,ナイジェリア)でエボラウイルス病(Ebola Virus Disease;EVD:これまではエボラ出血熱と呼ばれていたが,国際的にEVDと呼ばれるようになった)の大規模流行が発生した1).また2003年に中国および世界各地で流行が確認された重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome;SARS)2),2013年に報告された中近東で流行が確認されている中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome;MERS)3),トリインフルエンザウイルスによるヒトでの感染症(高病原性トリインフルエンザウイルスH5N1やトリインフルエンザウイルスH7N9による感染症)流行4)5),2011年に中国で発見された新規ブニヤウイルスによる感染症〔重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome;SFTS)〕等々,致死率が高い新興ウイルス感染症流行が発生している.
 世界保健機関(World Health Organization;WHO)は新興ウイルス感染症の中でも,EVD,マールブルグ病(Marburg Disease;MD),ラッサ熱(Lassa Fever),リフトバレー熱,クリミア・コンゴ出血熱(Crimean-Congo Hemorrhagic Fever;CCHF),ニパウイルス脳炎,MERS,SARSに対して対策が必要な感染症と位置付けている6)
 SFTSは日本でも流行していることが明らかにされた7).新興ウイルス感染症対策(ワクチン開発を含む)は,日本国内でもなされるべき課題である.2014〜2015年の西アフリカにおける大規模EVD流行を踏まえて,改めて致死率の高い新興ウイルス感染症に対してもワクチン開発が必要であることが再認識された.
 本稿では新興ウイルス感染症の流行状況とこれらのウイルス感染症に対するワクチン開発の現状について解説したい.

トラベラーズワクチンの現状と課題

著者: 金川修造

ページ範囲:P.575 - P.582

はじめに
 統計によると,2000年代になって日本人の海外渡航者数は毎年,約1,700万人となっている.一方,海外からの来日者の数は近年急増しつつあり,2015年には邦人の海外渡航者数を上回る約1,900万人となっている.2015年には約3,600万人が海外から日本へ出入国したことになる(図1)1).このような現象は,経済のグローバル化による企業の海外進出や教育研究機関の国際交流のための留学などの社会的な事情,また,交通手段の発達などによって,ますます強まることが予想される.
 国際的な移動によって懸念される重要な課題の一つに健康問題が挙げられる.それぞれの地域では,その環境や経済状況,さらには保健医療対策の違いによって医療事情が異なっている.そのため,異なる地域へ移動する場合には,移動先の状況にあった対策をとる必要がある.特に感染症に関しては,麻疹や結核などの旧来から地域で流行が起こっている感染症や,SARS(Severe acute respiratory syndrome)やエボラウイルス感染症のような新興感染症がヒトやモノの移動に伴って世界に広がることを予防することが公衆衛生的に非常に重要なこと認識されている.
 本稿では,国立研究開発法人国立国際医療研究センター(以下,当センター)のトラベルクリニックで行っている感染症対策として最も重要,かつ効果的であるトラベラーズワクチン接種の現状と今後の課題について述べる.

世界ポリオ根絶に向けた最終段階計画

著者: 清水博之

ページ範囲:P.584 - P.590

はじめに
 世界保健機関(World Health Organization;WHO)を中心に進められている世界ポリオ根絶計画の進捗によって,野生株ポリオウイルス流行国は3カ国に減少し,2016年のポリオ確定症例数は,これまでで最も少ないレベルにまで減少した.WHOは近い将来の世界からのポリオ根絶を見据え,ワクチン戦略の見直しや,ポリオウイルス病原体管理の厳格化等を含む,「WHO Polio Eradication and Endgame Strategic Plan 2013-2018」1)(WHOポリオ根絶最終段階戦略計画2013-2018:ポリオ根絶最終段階計画)を進めている.
 本稿では,ポリオ根絶最終段階計画について概説するとともに,ポリオ根絶最終段階における国内外の諸課題について述べる.

BCG接種の課題と展望

著者: 加藤誠也

ページ範囲:P.592 - P.596

はじめに
 わが国の結核患者数は減少傾向が続いており,一般の臨床医が目にする機会はかなり少なくなった.それに伴って,BCG(Bacille de Calmette et Guérin)接種の選択的実施や中止もささやかれるようになっている.
 本稿では,小児結核およびBCG接種に関する状況を述べ,また,今後の検討の考え方を考察する.

視点

神戸市における保健所の役割と課題

著者: 伊地智昭浩

ページ範囲:P.534 - P.535

 本稿を書かせていただくのが,ちょうど年度替わりの時期に重なりました.神戸市保健所では平成29年度に少し大きい組織改正がありましたので,その変化も踏まえて保健所の役割や課題を述べます.
 まず,組織的な事項です.神戸市は人口約150万人で,9行政区からなり,局部制をとっています.保健所は「保健福祉局」の一つの部として市役所内にありますが,組織上は第1類事業所であり,本庁機能は「保健福祉局健康部」が担っています.そして,保健所の下部組織として,9区役所内に保健センターと全市で5カ所の衛生監視事務所が設置されています.健康増進計画の策定やがん検診,その他の疾病対策は本庁機能として「健康部」が所管していましたが,今年度から計画策定を除いて健康増進関連事業は保健所が所管することになりました.介護保険や特定健診特定保健指導の所管部署は「高齢福祉部」ですが,今年度からは認知症対策や介護予防の一部を保健所が受け持ちます.「障害福祉部」に属していた精神保健福祉センターや精神障害者対策も今年度から保健所所管となりました.母子保健は児童福祉施策とともに,異なる局である「こども家庭局」が所管しています.独立行政法人である市民病院群や救急医療体制,地域医療構想等,市の医療体制に関する事項は「健康部」の所管です.

連載 衛生行政キーワード・119

予防接種施策—第二次提言から現在まで

著者: 芳川修久

ページ範囲:P.598 - P.601

はじめに
 2012年5月の厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会でとりまとめられた「予防接種制度の見直しについて」1)(以下,第二次提言)では,他の先進諸国と比べて公的に接種するワクチンの種類が少ない,いわゆる“ワクチン・ギャップ”の解消や,予防接種施策を総合的かつ継続的に評価・検討する仕組みの構築の必要性等が示された.これらを踏まえ,2013年4月に予防接種法が改正された.2014年4月には,同法の改正によって策定されることとされた予防接種に関する基本的な計画(平成26年厚生労働省告示第121号.以下,予防接種基本計画)2)が適用された.現在,それらに基づいて予防接種施策が進められている.
 本稿では,第二次提言以降の予防接種にかかわる取組によってワクチン・ギャップが徐々に解消されつつある現状や,予防接種法上の位置付けに関する検討プロセスが明確化されてきた過程を振り返りながら,予防接種施策の今後の展望について概説する.

リレー連載・列島ランナー・100

多胎育児支援のネットワークづくり

著者: 落合世津子

ページ範囲:P.603 - P.606

はじめに
 ふたご,みつご等の多胎児出生は,急速な少子化傾向の中にあっても2004年までは増加していましたが,2005年以降は減少傾向にあります.多胎の母は母親の100人に1人の割合です.多胎児のお揃いの笑顔と互いに世話を焼く姿をご想像ください.多胎児のかわいさは格別です.しかし,その育児は同じ年齢の複数の子どもを同時に24時間毎日世話するという困難を極めることでもあります.そのため,予防的視点から考えると,多胎家族に対して特化した育児サポート(特に妊娠中から育児期にかけて)を切れ目なく,病院や保健福祉行政,地域から行う必要性があります.
 筆者は,保健所保健師として未熟児訪問先におけるふたごの母の「育児に自信が持てない,ほかの母はどうしているのか」の声と,自身のふたご育児の反省を重ねて,多胎サークルを立ち上げました.自主サークルの継続は当事者だけでは難しいものがあります.このサークルの支援者としての想いと自身のふたご育児の反省から,現在,おおさか多胎ネットと日本多胎支援協会で,多胎育児のネットワーク活動に携わっています.
 本稿では,読者の皆さまに多胎育児のより一層のご理解とご支援を賜わりますよう,また,民間組織とのコラボを視野に入れていただきたく,多胎育児の現状と地域のピアサポート構築を目指している民間組織活動をご紹介いたします.

予防と臨床のはざまで

組織のヘルスリテラシーを高める健康経営

著者: 福田洋

ページ範囲:P.608 - P.608

 2017年5月11日〜13日に,柳澤裕之学会長(東京慈恵会医科大学環境保健医学講座教授)のもと,第90回日本産業衛生学会(東京,http://procomu.jp/sanei2017/)が盛会に開催されました.産業医科大学の森晃爾先生,大神明先生の健康経営のシンポジウムはメインの第1会場で立ち見が出るほどの盛況で,健康経営や職域ヘルスプロモーションについての機運の高まりを感じました.そのような中,今回で第37回を迎える健康教育・ヘルスプロモーション研究会では,5月11日に「組織のヘルスリテラシーを高めるヘルスプロモーション」と題したミニシンポジウムを開催しました.
 昨年秋に文天シンポジウムで行なった「ヘルスリテラシーを高める保健事業」〔本連載の第153回(81巻1号)を参照〕の議論を引き継ぎ,健康経営や職域ヘルスプロモーションに先進的な各企業・健康保険組合の健康管理・保健事業実践者をシンポジストに迎え,様々な取り組みが社員や被保険者のヘルスリテラシーに与えるインパクトや評価方法,また,ヘルスプロモーション推進のためのブレイクスルーの手法について,実態を踏まえた本音のディスカッションを行いました.

映画の時間

—振り返れば,いつも彼らとともにいた.—ローマ法王になる日まで

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.609 - P.609

 ローマ法王を描いた映画では,「栄光の座」(1968年,米国)が記憶に残ります.コンクラーヴェ(法王選挙)で,400年振りにイタリア出身でない法王が選ばれるという設定は,後のヨハネ・パウロ2世の法王就任を予想していたかのような展開でした.また「ダ・ヴィンチ・コード」の続編でもある「天使と悪魔」(2009年,米国)は,コンクラーヴェのシーンから始まりました.いずれもヴァチカンの内部を垣間見たような気分にさせる作品でした.
 今回ご紹介する「ローマ法王になる日まで」は,コンクラーヴェに出席する枢機卿たちがヴァチカンに到着する場面から始まりますが,本作は2013年にベネディクト16世の後を受けて就任したフランシスコ法王の足跡を事実に基づいて描いています.

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.611 - P.611

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

ページ範囲:P.612 - P.612

 「公衆衛生」誌の予防接種やワクチンの特集企画では,最近の新しいワクチンの紹介や接種スケジュールの解説などに焦点を当てたものが多かったと思いますが,本号では「予防接種政策」をテーマとしました.米国のACIPに相当する機関がなかったことや,重大な副反応事例を繰り返し経験したことなどを背景にして,わが国の予防接種政策が保守的・消極的になっていることは以前から指摘されていました.本特集の中にも,わが国の予防接種政策に感染症やワクチンなどの専門家よりも行政や法曹界の意見が強く反映される傾向があったことを示唆する解説がありました.ワクチンギャップの多くが解消され,また,副反応(疑いを含む)のモニタリングと迅速な公表制度が開始され,VPDのサーベイランス体制も充実してきたことなどを踏まえると,わが国の予防接種政策は着実に改善していると思います.しかし,厚生労働省の審議会に予防接種・ワクチン分科会が設置された後も,予防接種の専門家の意見は十分に反映されていないという意見もあり,政策形成プロセスには,さらなる改善が求められているようです.
 本号の制作作業が進められている時期に,山形県は,インドネシア旅行からの帰国者を発端とした麻疹のアウトブレイク対策に追われていました.国内では麻疹排除レベルに達していても,輸入例が多いことを踏まえた啓発や早期診断体制の確保が重要であることを再認識しました.麻疹排除レベルの状態が続くと,社会全体として麻疹の免疫力を保持するための“復習”が困難となり,麻疹ワクチン接種歴が1回のみでは免疫の不十分な人が多くなるため,ワクチン2回接種の徹底や医療従事者の感染防止対策(抗体検査,ワクチン接種)などの重要性を実感した次第です.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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