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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生81巻9号

2017年09月発行

文献概要

特集 アルコール健康障害対策の推進

アルコール依存症の基礎理解と家族支援のアプローチ

著者: 田辺等1

所属機関: 1北星学園大学社会福祉学部

ページ範囲:P.712 - P.716

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はじめに—アルコール依存症の回復支援の基本的理解
 アルコールや薬物の依存症とは,ヒトが自ら求めて物質を摂取しているうちに,自らの意志では摂取量や摂取行為を適正に制御できなくなった病的状態である.この病態には,強烈な摂取欲求が出現しやすいという特徴がある.ヒトのアルコール依存症でいえば,酒を飲むことにおいて,その“飲酒量や飲酒機会・飲酒行動をコントロールできない”(loss of control)ことと,些細な契機で“強烈な飲酒欲求”(craving)が反復出現することが病態の中核症状である.これはアルコール・薬物の継続的使用が招いた病的変化と考えられており,依存は,依存性のある薬物を使用したオペラント条件付けの動物実験でも行動薬理学的に実証されてきた1).ICD(International Classification of Diseases)分類にしろ,DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)分類にしろ,依存症の診断基準の諸項目は,その時代の理論の趨勢によって変化するが,依存症の病態における中核的病理は本質的に変わらない.
 アルコールの急性中毒は飲酒後の短時間でも成立し得るが,アルコール依存症の病理は年単位で大量・多量の飲酒を継続しないと成立しない.依存が成立するほどにまで飲み続けてきたのは,エチルアルコールの薬理効果,すなわち“酔い”が本人の感情状態や生活遂行に陽性の報酬効果を持っていたからである.アルコール依存症者は誰しも酒との“蜜月期間”を持っており,しばしば「酒を取り上げたら,自分の人生には何も残らない」とか「酒が唯一の友」などという.彼・彼女らの人生の遂行に必要不可欠の存在となったアルコールから真に長期に離脱するには,酔いを必要とした自分の人生の振り返り,内省,自己洞察などが必要になる.それゆえ,回復のためには,それらが得られる心理療法的なプロセスの提供が不可欠である.

参考文献

1)栗原久,他:薬物乱用の行動薬理学.衛化31:227-236, 1985
2)辻本士郎:自助グループ.齋藤利和(編):最新医学別冊 新しい診断と治療のABC83/精神9 アルコール依存症.pp126-134,最新医学社,2014
3)吉本尚,他:アルコール使用障害 アルコール問題に対する早期介入 アルコール使用障害へのSBIRT.精神科治療28:100-104,2013
4)田辺等:嗜癖の理解と治療的アプローチの基本.和田清(編):精神科臨床エキスパート 依存と嗜癖—どう理解し,どう対処するか.pp140-146,医学書院,2013
5)廣尚典,他:問題飲酒指標AUDIT日本語版の有用性に関する検討.日アルコール・薬物医会誌31:437-450,1996
6)融道男,他(監訳):ICD-10精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版).医学書院,2005
7)吉田精次,他:CRAFT(クラフト)—アルコール・薬物・ギャンブルで悩む家族のための7つの対処法.アスク・ヒューマン・ケア,2014

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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