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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生82巻1号

2018年01月発行

雑誌目次

特集 感染症に関するサーベイランス

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著者: 砂川富正

ページ範囲:P.5 - P.5

 感染症サーベイランスは,公衆衛生の重要な事業です.わが国では,国内の感染症に関する「情報の収集」「公表」「発生状況および動向の把握」を目的として,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)の第12〜16条に基づいて実施されています.具体的には,診断医から届出がされた患者情報の内容を保健所が確認したうえ,感染症サーベイランスシステム(NESID)へオンライン上で入力し,自治体内における地方感染症情報センターがデータを精査・確認し,国レベルでは国立感染症研究所内の感染症疫学センターで情報を精査・分析しています.
 病原体情報に関しては,2016年4月1日に施行された改正感染症法の中で法的に明文化され,強化されました.具体的には,全ての感染症の病原体について都道府県知事が患者などに対して,検体の採取などに応じるよう要請できるようになり,また,医療機関などに対しても保有する検体の提出を要請できるようになりました.季節性インフルエンザの定量的な病原体情報を得られる体制が整い始めています.

感染症サーベイランスの基本概念と,国際的な対策の目標を有するサーベイランス

著者: 砂川富正

ページ範囲:P.6 - P.12

感染症サーベイランスの基本概念
1.サーベイランスの歴史
 サーベイランス(surveillance)の歴史についてひもとくと,教科書には,1348年のヴェネツィア共和国において,渡航者からペストを疑わせる症状を有する者を監視したという記載があるようである1).サーベイランス”という言葉自体は,イギリスへはナポレオン戦争時代(1803〜1815年)に導入された.しかし,公衆衛生上の言葉としては,第二次世界大戦後の1949年までサーベイランスの対象は重症な伝染性の疾患に限定されていたとのことで1),現在の考え方や定義とは随分異なる.

日本における感染症サーベイランスの黎明

著者: 谷口清州

ページ範囲:P.14 - P.20

はじめに
 今回,わが国における感染症サーベイランスの黎明という執筆テーマをいただいた.「広辞苑」(第五版:岩波書店,1998年)によれば,「黎明」とは,明け方,夜明けで,比喩的に「新しい時代・文化・芸術など物事の始まり」と記載されており,これから考えれば,サーベイランスという,ものの考え方の始まりということであろう.このような視点から日本のサーベイランスをみれば,明治初期から「Information for Action」の考え方は培われていたと考える.
 しかしながら,経済の発達とともに衛生状態が改善して以来,世界的に広がっていた「感染症は終わった」という考え方もあって,保健所では感染症対策機能が縮小され,サーベイランスは機能不全に陥っていた.いったん登った太陽は途中で再び沈んでしまったようであり,新興・再興感染症の多発により世界が考えを改め始めた以降も,サーベイランスは,わが国ではなかなか日の目をみなかったのである.1999年の感染症法改正によって現在,わが国のサーベイランスは徐々に体制が整いつつあるが,現在は,既存の感染症のみならず新たな感染症の時代となっており,これに合わせてさらに考え方を変えていく必要がある.
 本稿では,わが国のサーベイランスの歴史を振り返り,温故知新という点から,わが国のサーベイランスの現状と課題を考える.

病原体サーベイランスの現状と今後の方向性

著者: 高橋琢理

ページ範囲:P.22 - P.27

病原体サーベイランスの重要性
 近年,病原体サーベイランスの重要性が高まってきている.海外においては鳥インフルエンザや中東呼吸器症候群(middle east respiratory syndrome:MERS)などの新興・再興感染症が発生している.これらの感染症の動向を把握し,リスク評価と対策を行うためには,しっかりとした病原体サーベイランスが重要である.さらに,ある感染症がより拡がりやすくなる,あるいは,感染症にかかった患者がより重症になるなどの特性変化を把握するには,細菌・ウイルスに対する解析と評価が欠かせない.病原体サーベイランスで収集された情報はリスク評価などで活用され,感染拡大防止などの対策立案に用いられる.さらには,感染症の治療方法やワクチンなどの開発などにおいても,病原体サーベイランスによって収集される情報は重要な役割を担っている.
 近年,感染症対策においては薬剤耐性が課題となっている.耐性を持った病原体による感染症は,抗菌薬などが十分に機能せず,治療が困難となる可能性がある.そのため,耐性菌の出現を把握し,拡散させないことが重要である.薬剤耐性を持った病原体による感染症の発生について把握する方法として,病原体サーベイランスによって各医療機関院内の患者の保菌状況や,院内の流し,トイレなどの環境中の病原体検出状況を監視することが挙げられる.その結果から,病原体の広がりを把握し,伝播の原因を見つけ出し,対策に結び付ける.

結核菌サーベイランスシステムの構築

著者: 御手洗聡

ページ範囲:P.28 - P.33

はじめに
 結核は結核菌(Mycobacterium tuberculosis)がエアロゾル感染する疾病であり,感染者は一般に潜在感染状態(latent tuberculosis infection:LTBI)を経て一定の確率で発病する.現在のわが国の結核患者の主体は,過去の結核高まん延期にLTBIとなった高齢者であるが,青壮年層にもアクティブな感染伝搬が存在しており,新規感染・発病と思われる症例が発生する.結核発病者(排菌患者)は“一定の条件”下で他者への結核感染を惹起し,新たなLTBIや活動性結核患者を再生産する.
 “一定の条件”は,過去においては家庭・職場などでの感染であったが,現在ではコミュニティー内での無作為接触であり,さまざまな伝搬経路が考えられるため,実地疫学調査だけでは感染ルートを特定できない場合も多い.また,耐性結核高まん延地域からの輸入感染症として耐性結核も増加しており,その浸淫ルートの解明が必要である.
 本稿では,上記の点と,時間横断的あるいは縦断的な利用を考慮した結核菌サーベイランスの構築に当たっての課題,また,その構想について述べる.

国際保健規則を中心とするイベント・ベース・サーベイランス(EBS)の現状と課題

著者: 中島一敏

ページ範囲:P.34 - P.40

はじめに
 サーベイランスとは,データの収集,分析,解釈,還元を継続的,組織的,かつ,タイムリーに行うことをいう.サーベイランスの目的は,アウトブレイクの探知,トレンドの把握,発生のベースラインの把握,将来予測,対策の評価などさまざまであるが,1つのサーベイランスで全ての目的をカバーすることはできない.感染症危機管理のためのサーベイランスには,想定外の感染症危機事例やアウトブレイクを早期に探知することが求められるが,インディケーター・ベース・サーベイランス(indicator-based surveillance:IBS)といわれる従来型のサーベイランスには限界がある.近年,国際的には,イベント・ベース・サーベイランス(event-based surveillance:EBS)が広く活用されるようになっている.
 本稿では,EBSの現状と課題について,国際的な法的枠組みである国際保健規則(International Health Regulations:IHR)と併せて述べる.

東京都の蚊媒介感染症に対する総合的なサーベイランスの現状

著者: 貞升健志

ページ範囲:P.42 - P.49

蚊媒介感染症
 蚊が媒介する主な感染症には,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)で四類感染症(全数報告)のデング熱,チクングニア熱,ジカウイルス感染症,日本脳炎,黄熱,ウエストナイル熱,マラリアが知られている.2013〜2016年のわが国および東京都におけるこれらの疾患の患者数を表1に示す.わが国においてこの4年間で患者報告がないのは黄熱とウエストナイル熱であり,それ以外の疾患は毎年,患者の発生が報告されている(ジカウイルス感染症を除く).近年,最も患者報告数が多いのはデング熱であり,全国で249〜341例(年ごと:以下,同じく),都内では67〜162例であった.次にマラリアで,全国で37〜57例,都内では12〜27例が報告されている.
 上記の疾患のうち,日本脳炎と2014年のデング熱を除いて,デング熱,チクングニア熱,ジカウイルス感染症およびマラリアは全て海外感染症の輸入例である.すなわち,海外に渡航した人が現地で病原体を有する蚊に刺され,渡航中または帰国後に発症し,国内で医療機関を受診したことになる.

食品由来感染症のアクティブサーベイランスの試み

著者: 窪田邦宏 ,   田村克 ,   天沼宏

ページ範囲:P.50 - P.57

はじめに
 近年,テレビ,新聞,インターネットニュースなどで食品の微生物汚染による食中毒のニュースが毎日のように報道されている.中でも,①2014年に花火大会において露天で販売された冷やしきゅうりの喫食によって500人以上が感染した腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)O157のアウトブレイク1),②同年に,学校給食で提供された食パンで1,300人近くが感染したノロウイルスのアウトブレイク2),③2012年に高齢者施設において浅漬けの喫食によって169人が感染し8人が亡くなったEHEC O157のアウトブレイク3)など,大規模食中毒事例が毎年のように発生している.さらに特に記憶に残るものとして,2011年に,汚染された牛肉をユッケとして生で喫食することによってEHEC O111に181人が感染し,小児を含む5人が亡くなるというアウトブレイク4)が発生し,その結果,厚生労働省による牛肉の生食(ユッケなど)の基準設定や牛レバーの生食の規制へとつながった事例が挙げられる.
 海外でも,①2011年に欧州各国で4,000人以上の感染者と46人の死亡者を出したエジプト産スプラウト種子を原因食品とする大腸菌O104:H4のアウトブレイク5),②2011年に米国で146人が罹患し,うち30人が死亡,1人が流産したカンタロープメロンによるリステリアのアウトブレイク6),③2008年にカナダで23人が死亡した“そのまま喫食可能な”(ready-to-eat:RTE)食肉製品によるリステリアのアウトブレイク7)などが発生している.
 患者数の拡大を防ぐには,まず,患者発生の迅速な把握と,被害実態の把握が重要となる.わが国をはじめ,世界各国では各種感染症サーベイランスシステムによって患者の発生を迅速に探知することで対応速度を速め,さらなる患者の発生を防ぐような努力を行っている.それらは医師などからの報告を待つかたちとなる「パッシブ(受動的)サーベイランスシステム」(passive surveillance system)であり,アウトブレイクなどの大規模事例探知には大変,効果的であるが,平常時における,散発事例を含めた被害実態の全体把握には最適とはいえない部分がある.それを補うために,各国では既存のパッシブサーベイランスシステムの不得意な部分を補完することが可能な「アクティブ(積極的)サーベイランスシステム」(active surveillance system)を活用し,これらを組み合わせることで,より精度の高い被害実態把握を試みている.
 本稿では,食中毒被害の実態把握のために各国で行われているアクティブサーベイランスについて概要を紹介するとともに,筆者らの日本における同様の試み8)9)について紹介する.

感染症サーベイランス分野における新しいツールの導入と応用

著者: 加納和彦

ページ範囲:P.58 - P.63

はじめに
 わが国の感染症サーベイランスはNational Epidemiological Surveillance of Infectious Disease(NESID)と呼ばれる電子システムを介して行われている.「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づいて,感染症を診断した医療機関は所定の届出様式1)にしたがって保健所へ感染症の発生報告を行う.保健所は届出データをNESIDシステムに登録し,中央および地方の感染症情報センターは登録データの確認と集計,および情報の還元を行っている.1999年以降,感染症法に基づいて報告された全数把握対象疾患の症例報告数は,2016年までで51万件以上に達している(図1)2)
 症例報告の個票データにはさまざまな項目があり,年齢・性別などの患者に関する情報や,診断した医療機関,診断日,推定感染地域のように全疾患に共通した項目の他,後天性免疫不全症候群の届出におけるAIDS診断の指標疾患や,麻しん・風しんにおける予防接種歴の情報など疾患固有の項目が含まれる.また,データ形式には選択肢から選ぶものや,推定感染源欄や備考欄のように自由にテキストを入力するものがある.これらの膨大で多様なデータが一元的にデータベースに登録されていることと,さらに近年はコンピューターによるデータ処理技術が向上していることから,収集されたデータを機械的に分析し,公衆衛生の向上に役立つ情報へと変換する手法・ツールの開発の必要性が増してきている.
 本稿では,①届出の自由記述テキストデータを活用した解析の試み,②現在,開発中の感染症サーベイランスのための新しいツール,さらに③海外の進んだサーベイランスシステムや関連ツールについて述べる.

感染症サーベイランス情報の還元と,地域における活用の取り組み

著者: 三﨑貴子

ページ範囲:P.64 - P.69

はじめに
 わが国における感染症サーベイランスは,感染症発生動向調査事業として1981年(昭和56年)に開始された1).当初は18疾患であった対象疾患は,オンラインシステムの導入や「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,感染症法)の施行に伴う施策としての位置付けなどを経て,2017年(平成29年)7月現在,110疾患を超えるまでに拡大している.これらの疾患は,診察した医師や医療機関から届出疾患として保健所に報告され,地方感染症情報センターで集約して国に報告した後,地域の感染症発生動向として地方感染症情報センターが解析を行っている.
 感染症サーベイランスの目的は,「感染症の発生情報の正確な把握と分析,その結果の国民や医療機関への迅速な提供・公開により,感染症に対する有効かつ的確な予防・診断・治療に係る対策を図り,多様な感染症の発生及びまん延を防止することにある」とされている.この中で,感染症情報センターは中央と地方のいずれにおいても迅速かつ正確に感染症の発生情報を収集・分析・還元する役割を担っている.そもそも必要な情報が関係機関で迅速に共有されなければ,対策にもつなげることはできない.いかに効率的かつ効果的に情報還元を行うかは,各地方感染症情報センターがそれぞれ工夫しているところである.
 上記の一つとして,川崎市(以下,本市)ではインターネット上に感染症情報発信システムを立ち上げ,その中にさまざまな機能を盛り込んで医療機関との連携を図っている.本稿では,本システムの内容と取り組み,今後の活用について紹介する.

視点

浜松医科大学における公衆衛生分野の人材育成

著者: 尾島俊之

ページ範囲:P.2 - P.3

 大学が関わる可能性がある公衆衛生の人材育成は,表1に示すように,学部,大学院,現任,社会の4種類に整理することができよう.人材育成はなかなかうまくいかないことも多いが,そのあり方の議論のために,当講座のおける取り組みを紹介する.

連載 衛生行政キーワード・123

感染症発生動向調査の概要と今後の取り組み

著者: 吉井史歩

ページ範囲:P.70 - P.73

はじめに
 感染症発生動向調査は1981年に開始された.1999年4月に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(1998年法律第114号.以下,感染症法)が施行されたことに伴い,同法に基づく施策として位置付けられた調査である.
 本稿では,感染症発生動向調査の概要を述べる.また,今後,サーベイランスの強化が予定されている百日咳および風疹の調査についても解説する.

いま,世界では!? 公衆衛生の新しい流れ

WHOによる感染症サーベイランスシステムの構築と実践

著者: 西野恭平 ,   進藤奈邦子

ページ範囲:P.75 - P.79

はじめに
 感染症コントロールは世界保健機関(World Health Organization:WHO)の主要な役割の一つであり,感染症サーベイランスはその核といえる.現在,感染症のリスクは,衛生環境,経済状況,人口構造などによって差はあるものの,依然として,世界中で年間約1,200万人もの命を奪っていると推定されている(周産期異常と栄養障害も含む)1).過去40年の間に全ての大陸で新興感染症が確認されており2),また,進行するグローバリゼーションは人だけでなく,2003年に発生した重症急性呼吸器症候群に代表されるように,病原体にもボーダーレス化をもたらした.
 国際社会を感染症の拡大の脅威から防ぐべく,WHOは加盟国およびパートナーと協力し,世界規模の感染症サーベイランスシステムの構築と実践に取り組んでいる.

Coda de Musica 心に響く音楽療法・1【新連載】

人に寄り添う音楽療法,そして終末期医療とは?

著者: 三道ひかり

ページ範囲:P.80 - P.83

ふとした瞬間
 ロウソクの炎をじっと見ていると,何層もの色が見えてくる.青,オレンジ,赤…….ロウソクに支えられた炎は,微妙な色合いの違いを見せながら燃え続ける.しばらく経つと,支えのロウソクは小さくなり,炎も勢いを徐々に失い,やがて,ふと消える.
 「ふとした瞬間」という表現は日常的に使われる.それはこの炎の「ふとした瞬間」からきているのではないか.ふとした瞬間に私たちはさまざまなことを感じ,思い出す.そして,ふとした瞬間に人の命が終わりを告げることもある.患者さんの最後の看取りに立ち会った時,私はそんな「瞬間」に対面してきた.
 『あなたはどのような「ふとした瞬間」を迎えたいですか?』

リレー連載・列島ランナー・106

公衆衛生は面白い!—私のキャリアパスから

著者: 坂田清美

ページ範囲:P.85 - P.88

大学卒業と臨床医時代
 私は1981年に自治医科大学を卒業した.いわゆるバブルが弾ける前である.当時,ほとんどの医師は卒後直ちに臨床各科を学ぶストレート型の初期研修を受けていた.私は自治医科大学を卒業したため,初期臨床研修の2年間を青森県立中央病院で多科ローテート研修として実施した.内科(循環器内科,消化器内科,呼吸器内科等),外科,小児科,産婦人科,麻酔科,整形外科,皮膚科,眼科,泌尿器科,放射線科などを回った.各科の期間は長い科で3カ月,短い科では1カ月であった.産婦人科では毎日のように当直し,70例の出産に立ち会った.最後には希望する科をまとめて3カ月履修することができた.青森県では医師不足のため,初期臨床研修医は歓迎されていたように記憶している.
 私は学生時代から柳川洋 公衆衛生学教授(現 自治医科大学名誉教授)のご指導をいただいていた.自治医科大学では各講座が主催する学生用のゼミナールが盛んに行われており,私も複数のゼミを選択していた.疫学ゼミもその一つであった.公衆衛生学講座には研究費が潤沢にあり,毎週水曜日のゼミの後には色々な人生訓を聞けるとともに,飲みたいだけお酒を飲める環境があり,貧乏学生にとってとても魅力的であった.

予防と臨床のはざまで

働き方改革—その極意と各企業の良好実践

著者: 福田洋

ページ範囲:P.90 - P.90

 2017年10月31日(火)に東京・文京シビックセンターにおいて,働き方改革のシンポジウムを開催しました.健診に携わるスタッフの勉強会として始まった同友会主催の文天ゼミですが,年に1回,「朝まで生テレビ」風シンポジウムと題して,円卓にシンポジストが座り,その周辺を聴衆が取り囲んで激論を交わすというスタイルで,100分まるまる議論に充てる文天シンポジウムを開催しています.議論を中心に行うため,ファシリテーターには田原総一朗氏ばりの難しい采配が要求されます.3回目の今年は「働き方改革〜その極意と各企業の良好実践」をテーマとし,100名以上の方が参加しました.円卓に召集されたのは,働き方改革や健康経営に積極的に取り組む企業の人事労務担当者,産業医,健保組合の常務理事などです.また,中小企業の現状を知る立場ということで,中小企業の産業保健を受託する労働衛生機関や嘱託産業医にも加わっていただきました.
 この日のために,付け焼き刃で大量の関連書籍を読み漁り(笑),まずはファシリテーターの私から議論の要旨について説明しました.急激な生産年齢人口の減少を背景にして働き方改革が叫ばれていること,さらに,長時間労働の解消,非正規と正社員の格差是正(同一労働同一賃金),生産性向上,女性や高齢者就労支援など,職域での具体的対策の例などについてお話しました.

映画の時間

—フランスの文豪,モーパッサンの不朽の名作の映画化—女の一生

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.91 - P.91

 今月はモーパッサンの小説を映画化したフランス映画,「女の一生」をご紹介します.古典文学を映像にする場合,読者には,作品のイメージと違うと感じられるリスクがある一方,小説を読んでない観客には時代のずれを感じさせる危険があります.そのうえ,古典作品の多くはすでに何度か映画化されていることが多く,過去の作品と比較されて評価されることもあります.モーパッサンの「女の一生」も過去に何度か映画化されています.本国フランスでは1958年に名優マリア・シェルが主演した作品だけですが,わが国では,舞台を日本に移して翻案した作品が,1928年(監督:池田義信,主演:栗島すみ子:松竹キネマ),1953年(監督:新藤兼人,主演:乙羽信子:新東宝),1967年(監督:野村芳太郎,主演:岩下志麻:松竹)と3回,映画化されています.
 19世紀初頭のフランス,ノルマンディー.主人公のジャンヌは裕福な男爵家の一人娘として何不自由なく幸せに育ちました.両親から子爵のジュリアンを紹介され,互いに惹かれあって結婚し,幸せな生活が始まります…….

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.93 - P.93

あとがき/投稿申し込み書/著作財産権譲渡同意書 フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.94 - P.94

 本誌では,読者に最新の話題提供をするため,特集企画の立案に各方面の方々に参画していただくことを進めています.今回は国立感染症研究所の砂川富正先生にご企画いただきました.コレラが公衆衛生の母と言われているように,感染症と公衆衛生の間には深い関係があります.
 長與專齋は日本に公衆衛生を導入した人物として有名です.1879年に約16万人の患者,約10万人の死亡者を出した明治最大のコレラ流行の折には伝染病予防規則は成立しておらず,未完成の「虎列刺病予防仮規則」で急場を凌ぎました.1897年に伝染病予防法が制定された時にはすでに流行は落ち着いてしまっていました.コレラの流行が終息したことが,わが国の伝染病対策の進展を遅らせてしまったようです.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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